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イベリス

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第百十話 咲が気に入った服装その三

「冬の方も」
「そうよね、それで帝国海軍の軍服が」
 クラスメイトは今度は黒でボタンではなくホックで前を止める詰襟を指差して話した。
「これよ」
「それも恰好いいわね」
「それで予科練がね」
 今度は七つボタンの濃紺の詰襟を指差した、詰襟の丈は短くかつ前の部分がアルファベットのブイの字の形になっている。
「これよ」
「それもいいわね、いや海自さんや海軍さんの方が」
 咲はここまで制服を見てしみじみとして言った。
「ヤクザ屋さんとかドキュンとかよりもね」
「恰好いいわね」
「そう思ったわ、ぴしっと決まった」
 そうしたというのだ。
「恰好よさがね」
「あるでしょ」
「ええ、最高に格好いいわ」
「よくね」
 クラスメイトはここでこう言った。
「ドイツ軍とかナチスとか」
「ナチスってあの黒い軍服ね」
「スーツで赤いネクタイのね」
「あの軍服ね」
「あっちの方が人気あるけれど」
「いや、私こっちの方が好きだから」
 咲は白い詰襟の制服を見つつクラスメイトに話した。
「断然ね」
「そうなのね」
「ドイツ軍って灰色の詰襟よね」
「ジャーマングレーっていうらしいわね」
 その灰色はとだ、クラスメイトは答えた。
「あの灰色は」
「それで詰襟ね」
「あれとね、ナチスはね」
「その黒のスーツね」
「そうよ」
 尚一九三五年辺りからナチスここでは親衛隊の軍服もドイツ軍の様なものに変わっていった。ドイツ軍への憧れがあってだったという。
「あれよ」
「そういうよりね」
「咲っちは海自さんなのね」
「それで帝国海軍よ」
「そっち派なのね」
「最高に恰好いいでしょ」
 その白の詰襟を見て言うのだった。
「これも黒の詰襟も七つボタンも」
「海自さんの服の制服も」
「どれもね、それで最高は」 
 それはというと。
「何といってもね」
「白の詰襟ね」
「最高よ」
 こうまでだ、咲は言った。
「本当に」102
「そこまで好きになったのね」
「少なくともヤクザ屋さんよりも」
 遥かにというのだ。
「恰好いいでしょ」
「それはね」
 クラスメイトも否定しなかった。
「その通りね」
「そうでしょ」
「断然ね」
「格好良さの次元が違うわ」
 咲は確信して言った。
「もうね」
「というかヤクザ屋さん達ってね」
「半グレの人達もね」
「正直柄悪いだけでね」
「恰好悪いわよね」
「その実はね」
 クラスメイト達も言ってきた。
「はっきり言って」
「あれもあれでファッションにしても」
「もう近寄りたくない」
「そんなのよね」
「そうよね、恰好いいっていうのは」
 咲はクラスメイト達にも確かな顔と声で話した。 
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