ソードアート・オンライン 夢の軌跡
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合同温泉旅行開始
先日誕生日を迎えて十歳になり、一昨日のクリスマスと一緒に祝ってもった。
誕生日自体は二十日なのだが、毎年クリスマスと一緒に盛大に祝うことが定例になっているからだ。
パーティーには春野家も参加するので、毎年本当に楽しいものとなる。
なお今年の両親からのプレゼントは、新しいハーモニカだった。
もらったあと試しに少し吹いてみると、澄んでいて綺麗な音を出した。いいハーモニカだ。
それから『星の在り処』を演奏すると、皆が拍手をくれた。
僕は六歳の時にもらったハーモニカも含めて、大切に使おうと決めた。
それと春野家からは木刀をもらった。
こちらも今まで使っていたものより丈夫で、大きさや重みも増している。
玲音が時間を掛けて選んでくれたらしく、とても手に馴染んだ。
今まで使っていた木刀は三年前のプレゼントなのだが、体が成長して最近小さく感じていたから、素直に嬉しかった。
因みに伯父さんの妻で、僕が伯母さんと呼んでいる春野シェラザードさんは、細かいことは気にしない大雑把な性格であり、容姿は名前の通り『空の軌跡』のシェラザードそっくりだ。
このことからお爺さんが『空の軌跡』も好きだったのではないかと疑っているのだが、強ちこの予想は外れてはいないだろう。
よってこれからも多分『空の軌跡』のキャラクターにそっくりな人に出会うと思うが、ここまで来ると誰に似ていても驚かない気がする。
話が少々脱線したが、このように皆によくしてもらっていて、僕は転生してからとても幸せだ。
だからこの前、ひさしぶりにお寺に行って爺さんにお礼をしてきた。感謝の心を忘れないようにしたいからだ。
更に、約束もきちんと守るから、と再び宣言もした。
それと、この前の夏休みに性能が一世代上のOSを売り始めたのだが、結構有名だったところに一世代も性能が上のOSを作ったということで、預金金額の桁が百億の大台を突破し、色々な会社などからスカウトを受けることになった。
でも僕の目的は飽くまで《ナーヴギア》や《ソードアート・オンライン》の製作に関わることなので、今のところは全て断っている。
それはさておき、現在は伯父さんの運転する車に乗っている。なぜなら羽月家と春野家の一泊二日の合同温泉旅行のためだ。
昨年は玲音の高校受験が大変で殆ど何もできなかったから、その分も含めて楽しもう、というような趣旨でこの旅行が発案されたので、僕も全力で楽しむことにしている。
それに最近僕は誰にも話していない、秘密の特訓をしているから少し疲れが溜まっているのだ。そんな時に温泉に行くということだったので、純粋に嬉しくもあった。
まあ特訓の話は次の機会にでも語ることにして、今はこの旅行で日頃の疲れを癒すことに専念させてもらおう。
なお伯父さんの車は八人乗りなので、六人で乗っても余裕がある。
二列目には父さんと母さん、三列目は僕と玲音が座っている。助手席にはもちろん伯母さんだ。
因みに伯父さんは母さんと同じように、外国人の血が目立たないハーフである。
そして今は外の景色を見ながら会話をしている。
「温泉楽しみだね。玲音」
「そうだな。最近は疲れが溜まることが多かったから、早く温泉に入って安らぎたいものだ」
玲音は本当に嬉しそうに微笑んだ。
「あら? 翔夜だけじゃなく、玲音君も疲れているんですか?」
「はい。高校生になってから毎日の登下校に掛かる時間が延びたり、帰ってくる時間が遅くなったりしていますから。それに勉強も難しいですし。まあ思ってたよりもすぐに慣れましたけど、やっぱり疲れは以前よりも溜まりやすいです」
表には出していないが、毎日の電車通学は大変なのだろう。やはり玲音にもたまには息抜きが必要だ。
「そうか。高校生にもなると、結構以前とは違う生活習慣になるからね」
父さんが納得したように頷いた。
「まあそんなことを言いつつも、やることはちゃんとやってくれてるから大丈夫よ」
「俺も同じ意見だな。玲音はしっかりしているから、安心できる」
「義姉さん、兄さん。それをいうなら翔夜だって十分しっかりしていますよ?」
「そうだよ。翔夜は毎日家事を手伝っているし、月に一度は一人で料理だって作るんだからね」
気がつくと、子どもの自慢話を始めていた。恥ずかしいから僕たちのいないところでやってほしい。
「まあぶっちゃけると、二人ともあまり手が掛からない子で、親としては本当に助かるわー」
「ああ。シェラの言う通りだな。玲音も翔夜君も偉いよ」
僕も伯父さんに誉められて驚いたが、玲音は普段面と向かって伯父さんに誉めたりはしないみたいだから僕以上に驚き、焦ったように声を上げた。
「ちょっと待ってくれ。親父までそんなことを言うのか」
「玲音君。兄さんはたまにしか誉めてくれないんですから、喜んで受け取った方がいいですよ」
「叔母さんまで……」
母さんがこんなことを言うとは思っていなかったのか、玲音は困り顔を浮かべた。
玲音は親などから誉められ慣れていないからか、本当に恥ずかしそうだ。
***
ついに旅館に到着した。
周りを自然に囲まれた、落ち着けそうないい旅館だ。
今は降っていないが、雪が積もっている。夜は冷えそうだ。
伯父さんがロビーで手続きを済ませると、僕たちは荷物を部屋に置いて、早速温泉に向かった。
「温泉、楽しみだなあ」
「翔夜。ひさしぶりに背中を流してあげるよ」
父さんに言われたことで、最近お風呂に一緒に入ることもしなくなっている点に気づいた。
「それじゃあ僕も父さんの背中を流すね」
「あら、面白そうね。美香さん。私たちも背中の流し合いをしましょうよ」
「はい。たまにはそういうこともいいですね」
母さんと伯母さんも乗り気で話している。
「なら俺も玲音の背中を流してやろう」
「いや、別に。自分でできる」
「もう何年も一緒に風呂に入ったりもしていないんだし、それくらいはいいじゃないか」
「やりたくない」
玲音がにべもなく断ったから、伯父さんが肩を落とした。
僕は言葉を掛けてみることにした。
「玲音も背中を流してもらえばいいのに」
「それだけじゃなくて、玲音君は健太さんの背中を流してあげないのかい?」
「そうよ。こんな機会は何度もあるものじゃあないんだから、背中の流し合いくらいやってあげなさいよ。玲音」
思わぬところからの援護だ。父さんと伯母さんも伯父さんのことを気遣っているのだろう。
「そう言われても……」
「やってあげたらどうですか? 玲音君」
「叔母さんまで。……わかった。やるよ」
皆から言われたことで、玲音もやることを決めたようだ。
「よし! なら早く温泉に行くか」
伯父さんは凄く嬉しそうに笑みを浮かべて、少し歩く速度が早くなった。
僕たちは一名を除き、微笑んで伯父さんについていった。
そして温泉に着き、男湯と女湯に別れて背中の流し合いをした。
最後には面倒臭そうにしていた玲音も僅かに笑みを浮かべていた。
体が洗い終わると、皆で温泉に浸かって寛ぎ始めた。
「そうだ。翔夜。好きな子とかできた?」
「えっ?」
出し抜けにそんな質問をされて、思わず声を出してしまった。
「おお、そういえば玲音にこの手の話を聞いたことはなかったな」
「親父もかよ……」
玲音も同じように聞かれて、うんざりしている。
「それで、どうなの? 翔夜、玲音君」
「別にいないよ」
「俺もいません」
僕と玲音はきっぱりと答えた。
「そうか……。玲音はともかくとしても、翔夜君なら彼女の一人くらいはいても不思議ではないと思っていたのだがなあ」
伯父さんは残念そうにため息を吐き、父さんは腕を組んで何かを考えているようだ。
「僕は学校では目立たないように過ごしていますからね」
「翔夜は普段からこんな感じで、勉強も運動も平均の少し上くらいの力しか出さないんだよね」
父さんはどうしようもない、といった感じで手を上げた。
「だって、あまり注目されたくないんだもん」
「うーん。翔夜君は勉強も運動もできて、その上明るく優しいから凄くモテると思ってたんだがなあ。家の玲音と違って」
「悪かったな。無愛想で」
玲音は口をへの字に結んだ。こういう表情をするから無愛想に見えるというだけで、玲音は本当に優しくて面倒見があると思うけどなあ。
「いや。僕は玲音君が無愛想な訳ではなく、人付き合いが苦手なだけだと感じたよ」
「悠人さん。それはあまり変わらないのではないか?」
伯父さんは疑わしそうに父さんを見た。
「そうかな? 僕は全然違うと思うけど。だって人付き合いが苦手だということは、ちゃんと相手のことを考えてはいるけどそれが表面に出にくい、というだけだと思うんだ」
「……なるほど」
「玲音君は本当は優しいからね。だから無愛想なんかじゃないと思うよ」
「そうだよ。玲音は無愛想なんかじゃないよ。ただちょっと不器用なだけだよ」
「それは……喜んでいいのかわからないのだが」
僕も同意すると、玲音は複雑な表情を浮かべた。
「まあ、喜んでもいいんじゃないか? 少なくとも翔夜君は玲音のことを尊敬しているのだし」
「伯父さん。尊敬してるだけじゃあなくて、絶対に追い付きたい目標でもあるんですよ」
「そうだね。翔夜は家で何度か、玲音君にいつか勝つって言ってたよ」
父さんの言うように、僕は家でも宣言しています。
「そうか。よかったな、玲音。ここまで慕ってくれる人は中々いないぞ」
「ああ。……翔夜、本当に俺に勝つつもりなんだよな?」
「もちろん」
玲音の真剣な問いかけに、僕は目を見つめて答えた。
数秒目線を交わらせていると、突然玲音が優しい表情になった。
「なら俺は、絶対に負けないくらい強くならなくてはな」
「うん。もっと強くなってね。それくらいじゃあないと、越えた時の喜びも大きくならないからさ」
「言うじゃないか。まあそう簡単に越えさせる訳がないし、それ以前に越えさせるつもりだって全くないがな」
「そうこなくっちゃ」
僕と玲音は互いに微笑んで、拳同士を当てた。
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