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イベリス

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第百八話 残暑が終わりその九

「お子さん達には」
「水練と馬術ね」
 咲は戦国時代風に言った。
「その二つね」
「そうだ、どちらも逃げる為だ」
「逃げるが勝ちね」
「危なくなったら逃げないと駄目だからな」
 極限状態ではというのだ。
「それでなんだ」
「家康さんはその二つに励めって言ったのね」
「剣術は言わなかったんだ」
 家康はこちらもかなり秀でていたという。
「いざとなったら逃げるしかなくてな」
「その時は自分で逃げるしかないのね」
「そうなるからな」
 だからだというのだ。
「本当にいざとなったらな」
「自分の身は自分で護る」
「護身道具を使っても逃げてもな」
「自分がどうかなのね」
「そうだ、お前も愛ちゃんもな」
 二人共というのだ。
「しっかりとな」
「一人になっても」
「自分の身は自分で護る様にな」
「だから気を付けることね」
「ああ、ただわかってるな」 
 父は飲みながらも真面目な顔で言った。
「愛ちゃんが危なくなってな」
「見捨てることはよね」
「したら駄目だぞ」 
 絶対に、そうした言葉だった。
「逃げるなら一緒だ」
「二人で」
「そうだ、二人一緒ならな」
 その時はというのだ。
「絶対にな」
「一緒に逃げるのね」
「厄介な状況を避けるんだ」
「そうすることね」
「そうだ、いいな」
「わかったわ」
「それも人間よ」
 母も言ってきた。
「いざという時見捨てない」
「そうすることも」
「難しいけれどそれが出来たらね」
「やっぱりいいわよね」
「そうよ」
 こう娘に言うのだった。
「立派な人はね」
「困っている人大切な人を見捨てないわね」
「平気で人を見捨てる人なんて信用出来ないでしょ」
「絶対にね」
 咲もそれはと答えた。
「私だってね」
「それは誰でもよ」
 それこそとだ、母は言うのだった。
「そんな人になったら駄目よ」
「平気で人を見捨てる人にはならない」
「逆にね」
「助ける人になることね」
「そうよ」 
 まさにというのだ。
「そうなることよ」
「人を見捨てない」
「あんたもそう思うでしょ」
「神戸の本校でそんなお話あったそうね」
 咲は母にこの話をした。
「自分達が告白する様に言って」
「ああ、それでその告白が断られただな」 
 父が応えた。
「お父さんも知っているぞ」
「有名な話なの」
「八条グループの中でもな」
「そんな酷い奴がいるって」
「今の高等部にな」
「そんな有名なお話なのね」
「悪事千里を走るだ」
 あっという間に広く伝わるというのだ。
「それでな」
「お父さんも知ってるのね」
「まだ高校生だけれどな」
 その者達はというのだ。
「最低な連中としてな」
「グループでも有名なのね」
「多分どの会社も採用しないな」
 八条グループのというのだ。
「その連中はな」
「そうなるの」
「人を平気で裏切る連中を信頼出来るか」
 父はクールな声で言った。 
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