リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第二十三楽章「一部の方々はチケット代を前払いで支払ってる」
(グランバニア王国:芸術高等学校・音楽講堂)
ピエッサSIDE
この一ヶ月間、一日たりとも練習を休まなかった。
この一ヶ月間、幸か不幸かマリーちゃんが練習に来たのは一日だけだった。
この一ヶ月間、格好良くは無いが名曲『夜に駆ける』を私はマスターした!
芸高校音楽科の4年生が卒業するまで残り七ヶ月を切り、その卒業生の中からMGとMBの教師となる者を育てて、そして来年度からは両科目を正式科目として新入生に教え広めていかせなければならない。
今日、この音楽講堂で約半年後に卒業予定の4年生だけを集めて、私達は課題曲をお披露目する。
そして、その教師になりたい者を募集し、残りの半年弱で育てるのが目的だ。
育てると言っても、その講師は陛下であり、私とアイリはサポートでしかない。
私に緊張は無い。
正確には先刻まではあった……
でも陛下と王妃陛下等の会話で綺麗に消え去ったのだ。
『何で芸高校生……しかも4年生をメインで集めたってのに、一番目の前の席に君達が陣取ってんの?』
『え、だって……リュカの格好いい姿が見れるんでしょ? そりゃぁ来るわよ!』
解る!
『主賓は生徒達なんだけど』
『なによぅ……私達は毎晩チケット代を支払ってるでしょ! 特等席で見せなさいよぅ!』
ウケる。
この講堂は芸高校生が全員入れるくらいの収容キャパはある。
大体5000人くらいのキャパだ。
毎年変動するが全校生徒数が約4000人居て、約半数が音楽科。
だから4年生は500人弱。
収容キャパの十分の一も居ないが、その最前列中央にビアンカ王妃陛下が座っていて、右にピエール大将閣下、左にスノウ教授。
その周囲を警護の兵で囲む……ワケでも無く、お三方以外の周囲は全員芸高校生!
そんな状態での陛下等の会話を聞いて、4年生等も苦笑いしている。
因みに、今日陛下が新しい楽器をお披露目すると言うことは4年生にしかアナウンスされてない。と言うよりも4年生は相当重要な用件が無い限り参加は必須になっている。
まぁ国王陛下自らのお披露目なのだから『その日はバイトがあるからパスぅ~』なんて言えるわけ無いわね。告知から開催までに3週間近く時間があったのだから、バイト如きだったら事前に変わってもらえって事よ。
だから別にこの講堂を使用しなくても大丈夫なんだけど、観覧したい人が居れば自由に観に来て構わないって事で、この講堂は満員になっている。
芸高校生の音楽科生徒が多いが、新楽器開発に携わったリューナちゃんに聞いたのか魔技高校生も何人か居るし、その彼氏のラッセル君に聞いたと思われる美術科の生徒も結構な人数居る様子だ。
きっとあの二人も何処かに居るんだろうと思い舞台上から見渡して探す。
そんな私に気付いた陛下は、舞台上を下から照らしてる照明器具のスポットライトを一つ左手で持ち上げると、客席奥の方を照らしながら右手に持ったマイクで聞こえる様に『そこのカップル。イチャつくんだったら家でやれぃ! この時間は音楽鑑賞だぞぅ』と言ってあの二人の位置を知らせてくれた。
『陛下達ほどイチャイチャしてないッスよぉ!』
ってラッセル君が応えたのが笑えたわ。
そんな感じで緊張も消え、私は心身共に準備万端……いよいよ時間だわ!
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無事に演奏も終わり、陛下もアイリも当然の様に格好良くフィニッシュをキメる。
私も……私なりにスタイリッシュさを醸し出したと思っているが、それでもやっぱり主役であるMGとMBの演奏には憧れを感じている。
講堂内がスタンディングオベーションで湧きまくる中、程よいタイミングで観客等を両手で制する様に落ち着かせ、陛下は今回の目的を進める。
勿論それは、教える立場になる者を育成する為の生徒募集だ。
本年度を以て芸高校の音楽科を卒業する予定の4年生の中から、MG5名・MB5名の計10名を選ぶ。
その10名は陛下直々に教わることとなり、約半年後にある卒業式を終わらせれば晴れて芸高校の教諭として正式に雇ってもらえるのだ。
明言はしてないが、従来のギター・ベース……今後はAG・ABと呼ぶが……それらを専攻している者から各3人を、AG・ABを一切習ってない者から各2人を選出するらしい。
勿論それには理由があって、純然たるギタリスト・ベーシストを育成するのであれば、当然だが多少なりともAG・ABに触れてきた者の方が適正値が高い……
だが、今回育成したいのはギター・ベースのスペシャリストでは無く、ギター・ベースのスペシャリストを育成する指導者を育成することであり、寧ろゼロから学んだ方が自身の経験として指導することを学べると陛下はお考えだからだ。
では何故、AG・ABを専行してる者も選出するのかというと、『教師からだけの教えで学べることは少ない』と陛下は仰ってました。
つまり一緒に切磋琢磨する同期が居てこそ、各人の技量が向上するのであって、上から言われた事のみを反芻してるだけでは一定以上の技量向上には繋がらない……
それが陛下のお考えである。
勿論、専攻者に更なる育成を施す事によって、純然たるスペシャリストの育成も視野に入れての事。
技術を教える事は出来なくても、技術を披露する事は出来る……
つまりプロのギタリスト及びプロのベーシストを誕生させる。
音楽表現に関しての天才(この表現は気に入らないが)のアイリが言ってたけど、『私はMBに限らず全ての楽器を超絶テクニックで演奏できるが、そのテクニックを教えろと言われても具体的な教え方が思い付かない。なんかこう指を早く動かすとかリズムに乗って弾けるとか出来る人間の教え方しか出来ないわ』との事。
それを聞いて陛下が、『天才はその者が生きてる一時の期間しか世に貢献できないが、努力家は努力の仕方を後世に伝え残す事で、永劫に近い時間で世に貢献できる』だそうです!
陛下が仰ると言葉の重みが違います。
と、まぁ……
そんな訳で、諸々の裏事情は明言せず、MG・MB各5名を半年間習う事を目的とする募集が開始した。
如何様な授業になるのかは判らないけど、公務員である芸高校講師としての進路が開ける機会だ。
純粋な音楽好きから打算での希望者まで、かなりの人数が応募してくるだろう。
応募締め切りは丁度一週間後の金曜日……芸高校が終わるまでの間だ。(終わると言っても永遠の終了では無く、その週の学校営業が終わると言う意味だ)
その応募者の中から、陛下の基準で選ばれる。
私やアイリは選出に影響を与える事は出来ない。
芸高校講師としての将来を得る為だけに擦り寄って来る者が居ても、お力添えは出来ない旨を伝える事が出来ます。
変な輩に絡まれずに済みますね。
ピエッサSIDE END
後書き
当然ですが今回の演奏会、
チケット代は無料です。
だけど一部の女性三人は、
ほぼ毎晩チケット代を支払ってます。
だからセルフな優先的に特等席を陣取ってます。
今晩も支払うはずです。
追伸:
グランバニアのトップアイドルである美少女には、
今回の催し事は秘密にされてます。
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