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星河の覇皇

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第八十四部第二章 交渉の用意その三十九

「そうなる」
「それは恋愛においてはですね」
「許されないことだ」
「恋愛にルールはないといっても」
「それは二人の間だけだ」
 愛し合うその者達の間でのことだというのだ。
「略奪なぞはな」
「あってはならないですね」
「実際に行ってみるのだ、創作の世界ならともかく」 
 ギルフォードはシニカルな顔で述べた、そうしつつ紅茶を飲むが今はそこにある甘さを感じてはいない。
「他人の相手を奪う様な輩はな」
「信用されないですね」
「そうした輩は他人のどんなものでも奪う」
「そうなりますね」
「そして何時かはだ」
 ギルフォードはさらに言った。
「自分もだ」
「報いを受けますね」
「また簡単に相手を鞍替えする様な輩はだ」
「男女問わずですね」
「そうだ、性別に関係なくだ」
 まさにというのだ。
「どうということはない輩だ」
「こだわっても何ともないですね」
「そうした輩だ、恋愛小説でもだ」
 実はギルフォードは恋愛小説も読んでいる、古典でもそうした作品を結構読み込んできているのだ。
「地位や名誉、財産もある相手に言い寄られてだ」
「断ってこそですね」
「真の愛がある」
 こう言い切った。
「そうしたものだ」
「左様ですね」
「もっとも全てがそうだとも言えないが」
「真の愛は、ですか」
「ワーグナーの様な例もある」
 リヒャルト=ワーグナー、ドイツの音楽家だ。多くの楽劇の作品を残したことでこの時代でも名前が残っており作品も全てが上演されている。
「彼も略奪婚だったがな」
「それも弟子の奥さんを」
「その当時から批判されていた」
「当然のことですね」
「ワーグナーはとかく問題のある人物だったが」
 浪費家であり尊大で自己中心的でしかも反ユダヤ主義も指摘されている、とかく批判材料に事欠かない人物だった。
「しかしな」
「その結婚は、ですね」
「不倫からの略奪婚だったが」 
 そうした明らかなルール違反のものであったがというのだ。
「それでもな」
「幸福なものになりましたね」
「あれでな」
「左様でしたね」
「そうした例もあるにはある」
 こう言うのだった。
「中にはな」
「そこはわからないですね」
「それもまた世界というものか」
「不倫は許されないことでもですね」
「幸せになる例もある」
「その中には」
「だがおおよそはだ」
 大抵の事例はとだ、ギルフォードは一般的なことを話した。
「やはりな」
「許されないものですね」
「そうだ、また言うが恋愛にルールはないというのはな」
「あくまで二人だけのことですね」
「恋愛の駆け引きのことだ」
「そこではルールはない」
「そうだ、私はそうした意味だと考えている」
 こう言うのだった。 
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