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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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2学期の終焉



2学期の終焉

 

「GAOOOO!」

『!?』

 

 どこかから猛獣の鳴き声が聞こえてきた。

 

「な、なんだよ今の鳴き声!?」

「だ、誰かのペットだろ?」

「いやいや、あんな猛獣みたいな声を出すペットを飼っている奴なんているか!?」

 

 ……確かに。あんな声を出すペットを飼っている人がいるとは思えない。

 

 それなら今の鳴き声は何の鳴き声なのか。そんな私達の疑問に答えるかのように、鳴き声とは別の音が聞こえてきた。

 

 ——タンタン、タン、タン。

 ——ダダダダダ。

 

(……これは、階段を駆け上がっている音? いや、それよりも足音が二重に聞こえる?)

 

「おい、誰かが屋上に上がってきてんぞ」

「誰だよ? 沢田か!?」

 

 Cクラスの男子達が聞こえてくる足音に慌て出す。しかし、何か行動に移す前に足音の正体は屋上の扉にたどり着いたようだ。

 

 ——ガチャ……ギィィ。

 

 屋上の重い扉が音を立てて開いていく。

 

「おい! 鍵かけてねぇのか!?」

「しょうがねぇだろ!? 外からする鍵はねぇし、バリケードにできるもんもねぇんだからよ!」

「何かあるだろよ!」

「だからねぇんだって……ん?」

「ん?」

 

 男子達の責任の擦りつけ合いが始まるが、それは屋上の扉から小さい何かが入り込んできた事で中断された。

 

 ——トコトコトコ。

 

「!? 猫!?」

「なんだよ、猫かよ!」

「驚かせやがって!」

 

 入り込んできた小さい何かは猫だった。なんとなくライオンのような見た目に見えなくもないけど、飼い主の趣味なのかしら。

 

(あの猫は……!)

 

 猫を見ていると、数日前に綱吉君から猫を飼ったと言う話を聞いた事を思い出した。

 

 そして、その猫は何となくライオンっぽいっていう話だったはずだ。

 

 でも、この猫が綱吉君の猫だとしたら……。

 

「がううう〜」

「!」

 

 屋上に入り込んできた猫は、辺りを見回すと私の事を見た。そして私を見た途端にこちらに向かって走り寄ってきたのだ。

 

「くんくん。がうぅぅ〜♪」

「? なんで髪飾りを?」

 

 猫は私に近づくと、私ではなく近くにある髪飾りに興味を示した。

 

 くんくんと匂いを嗅ぎ、気に入ったのか尻尾を振りながらじっと見つめている。

 

「はっ! 残念だったなぁ堀北。せっかく助けが来たと思ったのによぉ!」

「来たのは迷子の子猫ちゃんだけだったとはなぁw」

(……さっきの咆哮みたいな鳴き声はこの子のなの?)

 

 助けが来ていない事に安堵したのか男子達は元気を取り戻していた。

 

 ……いや、それはおかしい。だって足音は確実に2つ聞こえていたのだから。

 それに猫1匹であんな足音を立てられるとも思えないわ。

 

(だとすればもう一つの足音の正体はどこに……!)

 

 もう一つの足音の正体を探そうと扉の方に視線を向けると、Cクラスの男子達の後ろに見知った顔が見えた。

 

(! 綱吉君!)

 

 そう、綱吉君が立っていたのだ。

 

 Cクラスの男子達は私の方を見ているので、後ろの綱吉君の正体には気づいていないらしい。

 

「……」

「おいどうした? こっちをじっと見て?」

「だから助けは来ていな……がっ!?」

 

 ——バタン。

 

「!?」

 

 男子の1人がいきなり呻き声を上げて倒れた。

 

 理由は単純で、綱吉君が手刀を首元に叩き込んだのだ。

 

「何だ!? ……あっ!」

「……ふん」

「ぐあっ!」

 

 クラスメイトが倒れた事で後ろに誰かがいると気づいたもう1人の男子。しかし、振り向くよりも早く綱吉君に手刀を打ちこまれてしまった。

 

「……」

 

 2人を気絶させた綱吉君は、私の元まで歩いてくる。

 

「ナッツ。ちょっと退いてくれ」

「がうっ!」

(……ナッツ?)

 

 綱吉君にナッツと呼ばれたその猫は、先程まで興味津々だった髪飾りからすんなりと離れて行った。

 

(綱吉君の言う事を聞いた。ってことはやっぱり、このナッツという子猫は彼のペットって事か)

 

 しかし、人質を救出するのにどうしてペットを?

 

 気になってしまった私は、手足を縛っているロープを解いてくれている綱吉君に質問する事にした。

 

「あの、綱吉君。その猫は前に言ってたペット?」

「ああ。ナッツって名前なんだ」

「……くすっ。そう」

 

 ツナとナッツか。何だか可愛らしい名前だと思えて小さく笑ってしまった。

 

「……これでよし。鈴音、体は大丈夫か?」

「ええ。おかげさまで無事よ」

「そうか。それならよかった」

「助けに来てくれてありがとう」

「いいんだ。俺達はパートナーだからな」

「! ……ふふっ、そうね」

 

 綱吉君はロープを解き終わると、私の手を掴んで立ち上がらせてくれた。

 

「がうぅぅ〜」

「!」

 

 立ち上がった私の足元にナッツが擦り寄ってくる。その口には私の髪飾りを咥えていた。

 

「あ、ありがとう」

「がうう〜♪」

 

 私がナッツの口元に手を持っていくと、その手にポトリと髪飾りを落としてくれた。

 

「ナッツは賢いのね」

「ありがとう」

「でも、どうしてもこの子も連れてきたの?」

「いや、連れてきてはない。君を助けにこのデパートに来たら、なぜかナッツがいたんだよ。マンションから脱走してきたんだろうな。でも部屋に戻してる時間はないから、連れてくるしかなかったんだ」

「そうだったの」

(ゴロゴロ〜)

 

 髪飾りを渡してくれたお礼にナッツの頭を撫でると、気持ちよさそうに喉を鳴らした。

 

「階段降りれるか?」

「ええ、大丈夫」

「そうか、辛かったら抱えて降りてやるからすぐに言ってくれ」

「い、言わないわよ///」

 

 そんな恥ずかしい事できるか、と思わず強がってしまった。

 

(でも他の子達は皆抱えてもらっていたみたいだから、私もしてもらえばよかった)

 

 ——そう思ったのは内緒の話だ。

 

『はぁ、甘いわね。そんな事では想い人は手に入らない。……私のように』

「えっ!?」

「え?」

 

 階段を降りている途中、耳元で何かを囁かれた気がした。思わず辺りを見回すが隣には綱吉君とナッツ以外には誰もいない。

 

「鈴音、どうした?」

「……い、いえ。なんでもないわ、ごめんなさい」

「そうか? 無理はするなよ」

「え、ええ……」

 

 今日は変な事なかりだ。誘拐されるし、髪飾りが光って見えるし、誰もいないのに頭の中に声が聞こえるし。

 

 きっと疲れているんだろう。そう無理やり納得して私は綱吉君達と共にデパートの入り口へと向かった。

 

 

 

 〜デパート入り口〜

 

 

「鈴音ェ!」

「! 須藤君」

 

 デパートの入り口に着くと、そこには須藤君がいた。

 

「だ、大丈夫か!?」

「え、ええ。問題ないわ」

「本当か!? いや、心配だから医者に見てもらわねぇと!」

 

 須藤君は心配そうな顔で私の肩を掴んでそう言ってくる。

 

 すると、そんな彼の肩を綱吉君が掴んだ。

 

「須藤、鈴音を病院に連れて行ってくれ。君を呼んだのはその為だ」

「! お、おうよ! ツナ、俺を呼んでくれてサンキューな!」

 

 どうやら綱吉君が須藤君の事を呼んでいたようだ。

 

「綱吉君はどうするの?」

「俺はこれから軽井沢を助けにいく。そこに龍園もいるはずだ」

「おいツナ、1人で大丈夫かよ!」

「大丈夫だ。鈴音の事は君に任せられるからな、安心して龍園に対処できる」

「! おう! 鈴音は俺が守る!」

「ああ。頼んだぞ」

 

 綱吉君に鼓舞されて須藤君はさらに元気になったようだ。私の肩を掴む力が強くなってちょっと痛い。

 

「……綱吉君、気をつけてね」

 

 いくら綱吉君といえど、龍園君は狡猾だ。何かしら手を打っている可能性が高い。そう思っての言葉だったのが、不要な心配だったわね。

 

「ああ、けりを付けてくる。病院で待っていてくれ」

 

 綱吉君はそう言って微笑むと、デパートから走り去って行った。

 

「……頑張って」

 

 私の小さな呟きは、聞こえる事なくデパートの空調の音にかき消されてしまっただろう。

 

「よし鈴音、病院に行くぞ!」

「……ええ」

 

 そして、私は須藤君に付き添われて病院に向ったのだった。

 

 

 

 —— 現在、病院 ——

 

「……と、こんな感じよ」

「そっか〜、堀北さんはお姫様抱っこしてもらわなかったんだね〜♪」

「何かしら、その含みのある言い方は」

「べっつに〜♪」

 

 堀北の話が終わると、櫛田が嬉しそうに堀北を煽った。堀北はいつも通りにあしらうが、どこか悔しそうにも見える。

 

 とりあえずこれで全員の話を聞き終わったわけだが、佐藤が口を開いた事で次の話題へと移った。

 

 その話題は……助けられた時のツナの雰囲気についてだった。

 

「そ、それにしてもさ。ツナ君ってずるいよね」

『ずるい?』

 

 佐藤のその言葉に全員が同じように反応した。

 

「だってさ。普段からかっこいいのに、今日はさらにカッコいい感じになってるし。しかもいつもはちゃん付けなのに、今日は呼び捨てだったもん。あれはずるいよぉ〜///」

 

 佐藤は数時間前の事を思い出して顔を赤くしている。

 

「……確かに、私も呼び捨てだったな」

 

 佐藤の言葉に今度は全員が同調する。

 

 そしてそれと同時に薄らと理解する。ここにいる者達は全員、少なからずツナに大して友情以上の感情を持っていると。

 

『……』

 

 そのせいでお互いに顔を見合って場が沈黙してしまった。そして、そんな沈黙を破るのはツナのサポートをした男子達だった。

 

「なんか空気暗くなってねぇか?」

「だなぁ、おい健。お前元気付けてやれよ」

「お? そうだな。じゃあ俺が」

「……須藤君、今は黙ってて頂戴」

「お、おう……」

「寛治君も、少し静かにしててくれるかな?」

「! 分かった!」

 

 須藤と池が何か余計な事をしそうになるが、それぞれの想い人がそれを制した。

 

『……』

 

 再び場を沈黙が支配する。……が、今度は軽井沢がその沈黙を破った。

 

「……私、名前で呼んでもらってないわ」

『え?』

「あ、私も……」

 

 木下が軽井沢の発言に同意し、他の者は視線を2人に向けた。

 

 そして俯き気味な軽井沢に美雨が声をかけた。

 

「名前で呼んでもらってないって?」

「うん、私は苗字で呼ばれてるから」

「あ、そう言う意味か……」

「私も……」

 

 確かに軽井沢と木下はツナから名字で呼ばれているが、他の8名は全員名前で呼ばれていた。

 

「今日も名字の呼び捨てだったわ」

「あ、私も」

「そうなんだ。……2人は名前で呼んで欲しいの?」

 

 今度は一之瀬が2人に声をかけた。2人は無言で頷いている。

 

「……というか、皆は何で名前で呼ばれるようになったわけ?」

 

 軽井沢が顔を上げて皆を見回しながらそう聞くと、全員が同じ答えを口にした。

 

「私は名前で呼んでほしいってお願いしたよ♪」

「私もそうね。自分から名前で呼んでと伝えたわ」

「私もだよ」

「私もだなぁ〜」

「私とひよりちゃんは3人で名前で呼び合おうって決めたよ。ね、ひよりちゃん」

「そうですね。そうでした」

「私と愛里は、グループメンバーは名前かあだ名呼びってルールにしたからね」

「う、うん。そうだった」

 

 全員が自分から名前で呼ぶように頼んでいたらしい。

 

「木下さん、ツナ君はお願いしたら受け入れてくれると思いますよ?」

「そ、そうかなぁ」

「はい。彼は優しいですから」

「軽井沢さんもお願いしなよ。すぐに受け入れてくれるよ」

「……そっかぁ」

 

(……よし、今度お願いしてみよう。できればクリスマスイブに遊ぶ前には名前で呼ばれたいもん)

(お願いしても……いいよね。クラスメイトになるわけだし)

 

 2人が内心で決意をしていると、今度は一之瀬が新しい話題を切り出した。

 

「あ、ねぇ皆。助けてもらったお礼はどうする?」

「え? お礼?」

「うん。何かお礼をするべきだとは思うんだけど、全員でするか、個人的にするか決めたいなぁと思って」

 

 一之瀬の提案を聞いて全員が考え込む。全員の連盟でするか、個別にするか。それによってはツナに与える印象が全然変わってくるだろう。……まぁツナはお礼をされるつもりはないだろうが。

 

「ん〜、個別がいいかなぁ」

「あ、やっぱり? 私もその方がいいかなって思ってた。皆はどう? お礼は個人の自由でって事でいい?」

 

 一之瀬の質問に全員が頷く。これでお礼は個人の自由って事になったわけだが……その決定はすぐに覆った。波瑠加と愛里の何気ない会話によって。

 

「は、波瑠加ちゃん。お礼どうしよう」

「ん〜、するならクリスマスがいいんじゃない〜」

「えっ? クリスマス!?」

「うん、その方が距離が縮まるかも〜なんて」

『っ!』

 

 波瑠加の最後の一言によって、再び場が凍りつく。

 

(クリスマス……)

(イブは皆でナッツちゃんと遊ぶから……)

(イブの夜とクリスマスは1日予定はない……)

(……でも、もし私の他にもツナ君とクリスマスに会う約束をしたい人がいたら)

 

『……』 

 

 10人がお互いに顔を見回す。

 

 おそらく考えていることは同じ。だが、そうなると早い者勝ちになってしまう。

 

 全員龍園に人質とされて、ツナによって助けられたのは同じ。そして綱吉の大事な仲間であることも同じ。

 

『どうしよう……』

 

 そんな膠着状態に陥ってしまった場を動かしたのは……櫛田桔梗だった。

 

「ねぇねぇ皆! 私に提案したいことがあるんだけど♪」

『え?』

 

 ——櫛田は自らの考えを皆に話した。

 

「なるほど、それいいね」

「うん、全員がお礼できるし」

「でしょでしょ♪」

「あ、でも順番はどうするの?」

「それはじゃんけんでいいんじゃないかな? 勝ち抜けした人から時間を決めれるって事で!」

「それでいいね!」

 

 櫛田の提案が皆に受け入れられて、細かい話し合いが行われる。そして、全員文句なしの決定がなされた。

 

「じゃあ、後でツナ君が来たら皆で言おうか」

「そうだね〜」

 

 問題が解決した事で、病室の中は再びわいわいとした雰囲気に戻ったのだった。

 

 

 

 —— その頃、学校の勝手口にて ——

 

 〜綾小路side〜

 

 

「龍園達は保健室だぞ」

「そっか。じゃあ行こう」

「ああ」

 

 職員室から戻ってきた綱吉と合流した俺は、元生徒会長と共に龍園達を運び込んておいた保健室へと向かった。

 

「堀北先輩は?」

「人質を誘拐していた場所の後始末だ」

「そっか。それは助かるね」

 

 そんな会話をしながら保健室に向かうが、目の前を歩く綱吉の背中がなぜかいつもと違う気がしていた。

 

(……今回の事件で、綱吉の中で何かが変わったのか?)

 

 まぁ悪い変化ではないだろう。そう思いながら綱吉と共に保健室にたどり着いた。

 

 

 —— 保健室 ——

 

 

 ——ガラララ。

 

 保健室のドアを開けて中に入る。

 

 中では龍園達含む今回の事件に参加したCクラスの面々が、手当てをされた状態でベットや椅子に腰掛けていた。

 

「あれ、保健の先生は?」

「会議があるとかでな。手当てが終わったら出て行ったらしい」

「そっか。それは好都合だ」

(……好都合?)

 

 綱吉は保健室の中を歩み進め、龍園達に近づいた。

 

「! ……」

 

 包帯をいろんな所に巻かれた龍園が綱吉を一瞥する。しかしすぐに俯いてしまった。

 

「……何しにきた」

「……話をしにだよ」

 

 龍園は俯きながらも綱吉に話しかけた。

 

「はっ、話すことなんてあるか? Cクラスの受ける罰はすでに坂上から聞いたぜ」

「別に君達の罰について話したいわけじゃない」

「あ? じゃあなんだよ」

「これからについてさ」

「!」

 

 これからについて……か。Cクラスを自分の傘下に収めるつもりか?

 

 いや、綱吉に限ってそんな事はしないだろう。

 

「……これからってなんだよ」

「俺達のこれからの関係についてだよ。これからは少しは友好的になりたいと思ってる」

「……はっ、ありえねえだろ」

「どうして?」

「俺はもうこの学校生活を放棄するからよ」

『っ!?』

「……」

 

 龍園の放棄すると言う発言に、石崎とアルベルトが驚いた表情で龍園に視線を向けた。伊吹はどこか冷め目で龍園を見ている。

 

「放棄?」

「ああ。お前のせいで1年の内は退学できねぇけどよ。2年に上がったら速攻で退学してやる。それまでは学校にも行かずに好き勝手に過ごすぜ」

 

 綱吉が坂上に認めさせた和解条件の1つ、今年度の内は龍園を退学させない。

 

 これには自主退学はもちろん、試験での退学等も含まれる。だから龍園がわざと試験で赤点を取っても1年の間は退学できない。坂上がどうにか工作して退学を阻止するだろうから。

 

 だから龍園は2年に上がるまでは好き勝手にするつもりなのだろう。

 

「……それでいいの?」

「あ?」

「Cクラスをどうにかしようとは思わないの?」

「はっ、自分以外の事なんてどうでもいいんだよ。それに、今回の失態で俺はもうクラスのリーダーからは降板だ」

 

 今回の失態の責任を取って、もう暴君はやめると言う事か。まぁ確かに、暴君が認められるのはその恩恵をクラスメイトに与えられている間だけか。

 

「そっか。……はぁ、がっかりだなぁ」

「……あ?」

 

 綱吉がため息を吐いてそう言うと、龍園はギロリと睨みつけた。

 

「せっかく君の事を少しは見直したところだったんだけど、そんな事言うなら俺の見込み違いかな」

「……何が言いてぇんだ」

「……これさ」

「!」

 

 綱吉はブレザーの内ポケットから学生証端末を取り出した。

 

(あれは……龍園のものか?)

 

「それは俺のか?」

「そう、少しの間借りたんだ」

「……さっさと返せ」

「もちろん。でもその前に……」

「! おい、何触ってやがる」

 

 綱吉は龍園の学生証端末を操作し始めた。そして、とある画面を龍園に向けて見せつけた。

 

(……あれは、メモアプリか?)

 

 液晶に映し出されているのは、学生証端末にインストールされているメモアプリだった。

 

 綱吉はその画面を龍園に見せつけながら話を続けた。

 

「8億ポイント」

「! ……」

 

 メモ帳には『8億ポイントを貯める』と書かれたタイトルと、文字が小さすぎて読めないが細かい作戦なんかが記載されているようだ。

 

「8億ポイント、こんな大量のポイントを貯めようとするの理由はただ1つ。クラス全員でAクラスに上がる為、そうだろ?」

「……それはただのお遊びで書いただけだ」

「……そっか。それは残念だ。これが事実なら俺達は協力し合えると思ったのにな」

「ふざけんな。てめぇと協力なんかできっかよ。それにてめぇだって本当に協力し合えるなんて思ってねぇだろうが」

「……まぁ、すんなり協力してもらえるとは思ってないけどさ」

 

 弱気な発言をした綱吉に、龍園は鼻で笑った。

 

「はっ! それみろ。どうせ俺の考えを馬鹿の戯言だと笑い者ににしたかったなんだろ?」

「……はぁ。馬鹿にはしてないよ。馬鹿にはね?」

「あ? なんだその含みのある言い方は」

「……馬鹿にはしてないけど、意外と欲がないんだな……とは思った」

「……あ?」

 

 ……欲がない?

 

 綱吉、お前は8億ポイントを貯めるという馬鹿げた目標を立てている龍園の事を欲がないと思うのか?

 

 いや、どう考えても欲深いだろう。

 

 そもそも8億ポイントなんて貯められるわけがない、非現実的すぎる。

 

 今回の事件で龍園は全てのPPを失ったが、今だに無人島試験でのAクラスとの契約が続いている。1人2万で1ヶ月に80万ポイントが入ってくると考えても、卒業まで25ヶ月。龍園1人か数名をAクラスに上げるポイントしか貯まらない。

 

 8億ポイントなんて無理だ。……それなのに、綱吉はそんな龍園でさえも欲がないと言うのか?

 

 だとすれば……綱吉はもっと無謀な目標でも持っているのか?

 

「ククク……この俺が、欲がない?」

「ああ。全然俺の方が欲深いね」

「ほぉ? 具体的にどう欲深いんだよ?」

『……』

 

 いつのまにか周りのCクラスの奴らも綱吉に視線を向けている。

 

 それも仕方ないか。暴君である自分達のリーダーよりも欲深い奴がいたら気になって当然だ。

 

 全員からの視線を受けながら、綱吉が語った内容は……衝撃的なものだった。

 

「俺の目標は……君の3倍だ」

「あ? 3倍?」

「そう。俺の目標は……『Aクラスに上がって、卒業までに24億ポイントを貯めて、学年全員をAクラスで卒業させる』ことだ」

『!』

「……正気か?」

「……こいつ、俺より狂ってやがる」

 

 24億ポイントを貯めるなどという無謀すぎる目標を掲げる綱吉。そんな綱吉に、龍園でさえも大声で嘲笑った。

 

「はははっ! 24億ポイントなんて貯められるわけねぇだろ?」

「そんなのわからないだろ?」

「分かるんだよ! 正直8億ポイントでもギリギリなんだぜ? その3倍なんて無理に決まってんだろ?」

「……そっか。やっぱり8億ポイントを貯める方法はあるんだね?」

「あ? ……っ!」

 

 龍園はしまったという表情になっていた。綱吉の無謀な考えを聞いて、思わず口にしてしまったという感じだろうか。

 

 そして逆に綱吉は、希望が見えたとでも言いたげに微笑んでいた。

 

「よかった。8億貯める方法があるなら、きっと24億だって貯められる」

「……はっ、無理だ」

「無理じゃないよ。俺1人じゃなく、君達の協力があれば……ね」

(……協力?)

 

 綱吉は何を言っているのだろうか。龍園と力を合わせれば24億ポイントを貯められるとでも思ってるのか?

 

 ……いや、違うな。綱吉は〝君達と〟と言ったんだ。

 

 ——それはつまり。

 

「協力だぁ? 俺はお前と協力し合う気はないって言ってんだろうが」

「君だけじゃない。俺が協力を取り付けたいのは、龍園翔・一之瀬帆波・坂柳有栖の3人だ」

「っ!?」

 

 ……なるほど。各クラスのリーダー同士で協力し合えばと思っているのか。

 だが、いくら協力したと言っても成し遂げられる目標とも思えないが。

 

「なぜその2人なんだよ?」

「俺にはないものを君達は沢山持っているからね。坂柳さんの圧倒的な頭脳やカリスマ性、帆波ちゃんの圧倒的な信頼性と包容力。そして君の狡猾さや圧倒的な勝利への執念。どれも俺には足りないものだ。それに俺1人では目標を達成する事はできないんだ。だから君達の力を借りたいんだよ」

「……各クラスのリーダー格と仲良しこよしになろうって魂胆かよ」

「いや、別に仲良しこよしになる必要はない。ただ同じ目標を持って協力して欲しいだけだよ。だから龍園君。別に君に嫌われてようが構わない。ただ同じ所を見て欲しいだけだ」

「はっ、そうするには結局仲良しこよしになる必要があんだろうが」

「そんな事はないさ。別に普段いがみ合ってようが敵対していようが、同じ場所を見ていれば協力し合える。仲間にだってなれる。俺はそれを知ってるんだ」

「……」

 

 綱吉の力強い言葉に龍園も何も言えなくなってしまう。

 

 ……俺はいろいろな可能性を考えても不可能だとしか思えないが。

 

 それに、なぜ各クラスのリーダ格を仲間に引き込もうとするのか。

 

「……清隆君」

「!」

 

 俺がじっと見ているのが気になったのか、綱吉が俺に話しかけてきた。

 

「……なんだ?」

「俺の目標を達成するためには、学年全員を仲間に引き入れないといけない。そのためには各クラスのリーダーの協力が必要不可欠なんだよ」

「……そうか」

 

 別に何も言っていないのに、俺が思っていた事を的確に言い当てて回答までしてくる。本当にこいつの洞察力というか直感には恐れ入る。

 

 まぁリーダーを仲間にする事で、クラスメイト達も仲間に引き入れやすくするってわけだな。

 

「……確証はあんのか?」

「え?」

「……24億ポイント貯められる確証はあんのかって言ってんだ」

 

 龍園の最もな質問に、綱吉は……首を横に振った。

 

「……ないよ」

「は?」

「確証はない。そして実際に24億ポイント貯める方法すら分からない」

「……ふざけてんのか」

「ふざけてないよ。今はないだけで、これから考えるんだから」

 

 綱吉の返答に龍園はまた鼻で笑った。

 

「……はっ、そんなんで俺を味方に付けようとか考えてたのかよ」

「いや、今すぐに味方になってもらえるとは考えてなかったさ。だからすぐに協力してとは言わない。その返事をもらうのは……そうだなぁ。あ、君の退学が可能になる次年度になったら……ってことでどう?

 

 今年度は龍園は退学できない。だからそのうちに龍園に協力させられるだけの確証を見つけるってことか。

 

「……」

「今年度終了時、もう一度君に聞くよ。その時に答えてくれ。もしも俺の考えに乗れないのなら、協力を断って退学でもなんでもすればいい。もちろん退学せずに協力を断ってもかまわない。全ては君の自由だ。だから……今年度の内は俺に力を貸してもらうよ」

『……は?』

 

 綱吉の最後の一言で、場にいる全員が呆気にとられてしまった。

 

「……いや、すぐに協力してもらおうとは思わなかったんじゃねぇのかよ」

「そうだよ?」

「あ? じゃあなんで力を貸さないといけねぇんだよ」

「それは今回の事件の落としまえさ」

「落としまえだと?」

「そう、落としまえ」

 

 さも当然と言いたげな綱吉に龍園が吠えた。

 

「ふざけんな! 落としまえならお前の和解条件をのんだ事で付けただろ!」

「あれは坂上先生とCクラス全体の落としまえだ。そしてこれは首謀者の君への落としまえだよ」

「ふっ、ふざけんな!」

「……ふざけるな?」

「……!」

(?)

 

 急に声のトーンが変わったかと思えば、綱吉は龍園へとゆっくりと近づいていく。

 

 こちらからは綱吉の表情は見えないが、龍園の表情は見える。

 

 龍園は綱吉が近づくほどに顔を青ざめさせていく。綱吉は表情こそ見えないが、どことなく雰囲気に迫力が出ているように見えた。

 

「……ふざけてるのはお前だろ。おい龍園」

「……な、なんだよ」

「お前……俺が屋上で持ちかけた勝負覚えてるか?」

「! ……」

「……その勝負、やっぱりやるか?」

「……い、いや」

 

 すでに綱吉の顔は龍園の眼前へと迫っている。

 龍園は視線を逸らしながらおずおずとそう答えた。

 

「そうか……じゃあ、お前への落としまえ。受け入れるよな?」

「っ……ああ」

「……そうか。それはよかった!」

「……」

 ……いつのまにか綱吉の雰囲気はいつものように戻っていた。

 

「まぁそう構えないでいいよ。別に悪いようにはしないし、俺が協力を求めた時に協力して欲しいだけだよ。その協力で君のクラスに不利益が生じないことも約束する」

「……」

 

 龍園は俯いて何も答えなくなってしまった。

 

「……じゃあ、行こうか清隆君」

「あ、ああ」

 

 そして、俺は綱吉と共に静けさの増した保健室を後にしたのだった。

 

 

 

 —— 廊下 ——

 

 

 誰もいない廊下を、綱吉→俺の順で進んでいく。

 

「……なぁ」

「ん?」

「……お前、本当に24億ポイント貯められると思ってるのか?」

「うん。きっとできる」

「……根拠もないのに、よくそう言い切れるよな」

「あはは、俺は1人じゃないしね! クラスメイトや他クラスの友達。そしてパートナーの鈴音さんと、相棒の清隆君もいる」

「……」

 

 そう言うと綱吉は立ち止まり、俺の方に振り返った。

 

「俺の目標を達成する為には、君達の力が一番必要なんだ。だから……」

 

 俺に向かって拳を突き出してくる綱吉。

 

「……綱吉」

「これからも頼むね、相棒」

「……おう」

 

 ——ゴツン。

 

 俺も拳を突き出して、拳と拳がぶつかり合った音が鳴った。

 

 ……そうだな。俺は、俺達はお前のサポートをするのみだ。

 

 だからお前らしく突き進め。お前が行きたい場所にたどり着くまで、全力で支えてやるから。

 

 

 

 ——その頃、ツナ達ががいなくなった保健室では ——

 

 

「り、龍園さん」

「……」

「……BOSS」

 

 俯き続ける龍園に話しかける石崎とアルベルト。しかし、龍園は返事をしなかった。

 

「あの……」

「HEY」

「……今はそっとしておきなよ」

 

 それでも2人は声をかけ続けようとするが、伊吹はそれを制止する。

 

「伊吹、でもよ」

「全力で潰しに行った相手に叩きのめされたのよ? 少しくらい落ち込ませてやれよ」

「落ち込ませてどうするんだよ!」

「知らないわよ。それは龍園が考えることでしょ?」

 

 自分達のリーダーがやられ、クラスメイトを2人も失い、なおかつクラスとしても個人としても大きな痛手を負ったのに平然としている伊吹。

 

 石崎は伊吹に対して呆れたように話を続ける。

 

「お前……もしも沢田のクラスに俺達のクラスが取り込まれることになったらどうするんだよ」

「……それはそれでいいじゃん」

「はぁ!?」

「だって沢田の目標が達成されれば全員Aクラスで卒業できんのよ? これ以上ない最高の結果だよ」

「いやいや、お前あんな夢物語信じてんのかよ!」

「完全に信じてはいないわよ。……だけど、気絶させられる前にあいつは言ったんだ。『お前達の事も助けるから』ってね」

「!……」

「そして、その中には龍園のことだって含まれるはずだよ。だったら、龍園にとっても私達にとっても悪い話じゃないだろ」

「……」

 

 伊吹のその言葉に、保健室の中には言いようのない空気が満ちて行ったのだった。

 

 

 

 —— 病院 ツナside ——

 

 

 学校を後にした俺と清隆君は、人質だった皆のお見舞いをするべく病院へとやってきていた。

 

「! 沢田、綾小路。こっちだ」

「あ、茶柱先生!」

 

 病院に入ると、茶柱先生が俺達に気づいて呼びかけてくれた。

 

「全て終わったか?」

「はい、一応片はつきました。ありがとうございます」

「そうか。堀北学からも後処理は終わったと連絡があった」

「あ、そうなんですね。後でお礼の連絡しておきます」

「ああ。さて、あいつらの病室はこっちだ」

 

 俺達は茶柱先生に付いて皆のいる病室へと向かった。

 

 その道すがら、茶柱先生は皆の容態を教えてくれた。

 

「大きな怪我をした者はいなかった。全員今日帰れるそうだ」

「そうですか〜。よかったぁ〜」

「お前の迅速な救出のおかげだな」

「あはは、手伝ってくれた皆さんのおかげですよ」

 

 そんな会話をしていたら、病室へと着いたようだ。

 

 

 —— 病室 ——

 

「お前達、沢田達が来たぞ」

『!』

「皆、無事でよかった……わわっ!?」

 

 無事だった皆の顔を見ようとしたら、いつのまにか10人の被害者達に周りを取り囲まれてしまった。

 

『……』

「……み、皆? どうしたの?」

 

 囲んでいるのに何も話さない皆におずおずと声をかけると、俺の目の前に立っている軽井沢さんがゆっくりと口を開いた。

 

「あ、あの……ツっ君」

「うん?」

「助けてくれて本当にありがとう」

「!」

 

 あ、なるほど。皆お礼の言葉を言おうとしてくれていたのか。

 

 そんなの別に良いのにね。

 

「あの、それでなんだけど」

「え? あ、うん」

「……」

 

 どうやらまだ言いたいことがあるらしく、何を言われるかなと思って待っていたら……思ってもみなかった事を言われることになった。

 

「今週の日曜、クリスマスイブに皆で遊ぶじゃない?」

「うん。ペットを遊ばせられる施設だよね」

「うん……で、ね。それは夕方までじゃない?」

「だろうね。確か17時閉館だったし」

「それでね。その後とクリスマスの1日……私達に付き合ってくれない?」

「……え?」

 

 ん? 一体どう言うことだ?

 

 意味が分からず戸惑っていると、軽井沢さんの言葉の意味を10人全員で説明してくれた。

 

『クリスマスイブの夜と!』

『クリスマスの1日!』

『その時間を……』

 

『私達に、2時間ずつ下さい!』

 

「……え?」

 

 そして、この一言で今年のクリスマスは予定が埋まることになったのであった。

 

 

 ……いや、え? どういうこと?

 

 

 



 
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