おっちょこちょいのかよちゃん
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前書き
《前回》
すみ子達は嘗て文化祭の時に倒したフビライの三人の息子・チンキム、マンガラ、ノムガンの襲撃を受け、迎撃に苦労する。天界や地界の能力を駆使し、己を霊体に変えて攻撃を交わす彼らに対し、ジャンヌの剣と秤で対応し、エレーヌが舞で山口達の道具を強化させる。形勢逆転なるか!?
山口、川村、ヤス太郎、ジャンヌやその衛兵、そしてエレーヌの総攻撃でフビライの息子達への留めが刺される。
(頑張って、通じて・・・!!)
すみ子は切実に願った。
「おおおお!!」
「ああああ!!」
「す、すみませぬ、父上・・・」
(こ、この声・・・、もしかして、やったの・・・?)
その時、すみ子の激しい胸騒ぎが弱まって行くのも見えた。
「あ・・・!!」
そしてその場にはチンキム、マンガラ、ノムガンはいなくなっていた。
「み、皆、やったんだね・・・!!よかった・・・!!」
すみ子はふと泣きたくなってしまうくらいの嬉しさだった。
「すみ子、お前も頑張ってたな!」
山口が労った。
「いや、私は何もしてないよ・・・」
「そんな事ねえよ。お前も結界を張ってあいつらの動きを止めてたじゃねえか」
「う、うん、ありがとう・・・」
「皆様、遅い夜に戦ってかなり疲れているでしょう。お休みになさってください」
「ああ」
皆は疲れた。そしてその場で休息するのだった。
朝になった。かよ子はこの日はかなり早く目覚めた。
「・・・、結構早く起きたんだ・・・」
かよ子は藤木を取り返そうとしてようやく彼がいるとされた紂王の屋敷での事を思い出す。
《僕はどうせ帰ったって皆から遠いところへ逃げた卑怯者だって言われるだけなんだ!それに僕なんか帰ったって誰が喜ぶんだい!?》
(藤木君は何としても帰りたくないって覚悟だった・・・)
そして前に聞こえたレーニンの声が思い出された。
《貴様ら藤木茂とかいう少年を奪還を目的としているようだが、仮に成功したとしても少年は喜ぶかな?》
《ああ、我が世界の人間が連れて行った。だが、連れた者の話によるとここの世界の生活を満喫しているとの事だ。果たして連れ帰っても逆に追い返されるだけだろう》
認めたくないがレーニンの言った事は本当だった。
(確かに藤木君は嫌がった・・・。でも・・・)
かよ子は簡単に納得するわけにはいかない。
(ここまで来て藤木君の言う通りにして帰るなんてできないよ・・・!!)
レーニンかつ杉山は杖および護符を奪取し、それらの能力を自身の能力として吸収する計画に入ろうとしていた。
「よいか、小僧」
レーニンが呼びかける。
「何だ?」
「今私の身体には杯と剣の能力が吸収されている。赤軍の理想では全ての道具を此方のものにするのが好ましい。だが、仮に今は奪取に手こずっているとしても私の所にあと杖と護符の能力を吸い取る事ができれば全ての人間を蹴散らし、『平和を正義とする世界』を排除する事ができるのだ」
「なら、杖と護符の持ち主を俺達の所に呼び寄せるかこっちから対面するって考えがいいんじゃねえか?」
「ああ、そして私の恨みも増した。私が前線に出て懲らしめたい所だ」
その時、トランシーバーが鳴った。
「此方レーニン」
『此方妲己でございます。今私達は煬帝様の屋敷に避難させて貰って体制を立て直しています』
「そうか、貴様にまた頼みたい事があってな、スターリンやトロツキー、赤軍の連中もそちらに向かって戦力を整えているとは思うが、そこで杖と護符の所有者を襲撃し、私に献上させるのだ。できなければ私も赴く」
『はい、仰る通りに致します。私の配下の者も使わしましょう、それからですが・・・』
「何だ?」
『実は前に紂王様の屋敷の付近で藤木茂坊のかつての恋人だったというおなごが坊やを連れ返そうと来ておりまして。その時は追い返しましたが、まだ殺しきれていない状態です。その小娘の討伐の許可を求めたいのですが・・・』
「何だ、その藤木茂の元恋人だと?まあよい、貴様に任せよう。但し邪魔が入る可能性に気をつけよ」
『了解』
通信は終了した。杉山は後半の通話内容が気になった。
(藤木の元恋人・・・?って事はまさか笹山がこの世界に来てんのか?)
朝食どきとなり、かよ子達はいつもの如く寝坊しているまる子を起こし、食事をするのだった。
「そういえば前にレーニンの声が聞こえた時に藤木君は連れ帰せたとしても喜ぶかって言われた事があったよね・・・」
「え?ああ、そうだったな」
大野も思い出した。
「あの屋敷で会った時藤木君は帰るのをとても嫌がってたんだ・・・。本当にそうだったよ」
「そうか、それじゃあ、あの世界は楽しそうなんじゃな。温泉もあるし、御馳走も食べられるし・・・」
友蔵はあまりにも外れた方向で考えていた。
「爺さん、そういう問題じゃありませんよ」
関根は呆れた。
「ああ、そうじゃった・・・。やっぱり藤木君はそのままにしておいた方がいいのかのう?」
「そう言うわけにはいかないよ!」
かよ子が反論した。
「そうだったなブー!」
「ああ、そうだ、かよちゃん。確か藤木君はあの屋敷で戦った人と一緒に行ったんだよね?」
椎名が聞いた。
「はい」
「確か本部守備班の友達。何て名前だったっけ?」
「な、長山君です・・・!!」
「そうか、後で長山君に聞いてみるといいよ。その人達が今どこで何をしているのか解るかもしれないからね」
「はい!」
かよ子は食後、長山に連絡をするのだった。
かよ子の父は妻や娘の無事および勝利を祈るべく御穂神社にて参拝していた。
(どうか妻と娘が向こうの世界で負ける事なく戻って来れますように・・・。そしてまた戦争への道など嫌です・・・!!)
かよ子の父はそう祈願した。
「貴方が杖の所有者の御父上でございますか」
声が聞こえた。
「だ、誰だ!?」
その場に神のような人物がいた。
「私はこの神社に祀られている三穂津姫です。今の『向こうの世界』での戦局が気になるのですか?」
「はい、それで妻や娘が無事にやっていけているのかと思うと心配でして・・・」
「それでしたら今の状況をお教えしておきましょう。今貴方の娘さん・山田かよ子さんは行方不明となっている友達の藤木茂という少年の捜索を続けている模様です。そして先代の杖の所有者・山田まき子さんは今平和を正義とする世界の本部にてそれぞれの皆さんの動向を確認されており、必要とあらば先代の護符の所有者や杯の所有者と共に指示を出されております。今、戦局ではこちらが有利となっていますが、山田かよ子さんは藤木茂少年の奪還に多少手こずっているようです」
「そうか」
「ですが、杖の所有者の御父上ならこの世界からでも存分に貢献できる方法をお教えいたしましょう。久能山東照宮に行き、徳川家康公に祈願するのです。その力が娘さんに伝わるでしょう」
「よし、行ってみよう」
かよ子の父は三穂津姫に礼をし、静岡の久能山東照宮へと向かった。
久能山東照宮。徳川家康を祀る神社である。かよ子の父は長い石段を登り、息を切らしながらも本殿に辿り着いた。そこで祈願する。
(どうか、母さんやかよ子が無事で勝ってきますように・・・)
そして天から光が見えた気がした。
[そなたの願い、叶えようぞ。ただし、時間がかかるのですぐには無理だが、きっと勝利に導くようにしよう]
声が聞こえた。かよ子の父は我に返ったが、光は太陽の日差し以外になく、謎の声もそれ以上は聞こえなかった。
(今のは・・・、もしかしてあの徳川家康の声、なのか・・・?)
かよ子の父はそう思いながらも東照宮を去った。
(祈るだけでもかよ子達の為になるといいが・・・)
かよ子達は長山と通信機で連絡を取り、藤木を攫った人間が今どこで何をしているのか探知して貰うことにした。
(北の方は間違いないけど・・・)
藤木救出班は長山の連絡を待つ。そして返答が来た。
『皆、藤木君は北の方にいるのは間違いないよ。それからその藤木君と一緒にいた人達はまた別の人と一緒にいるよ!』
「別の人?!」
『うん、その人もまた中国の皇帝のような人だったよ』
かよ子は以前戦った時、紂王という人間とも対面したのだが、他の敵に身を寄せているとなると厄介な感じがしてならなかった。
「ありがとう、長山君、気を付けて行ってくるよ」
かよ子は若干恐怖がでておっちょこちょいしてしまうのではないかといつもの不安に駆られた。だが、どうであれ藤木を取り返す為には行く以外に選択肢はない。
「山田かよ子、覚悟を決めようとしているのか?」
次郎長が尋ねた。
「・・・うん、おっちょこちょいしちゃうかもしれないけど、何としても勝たなきゃって思ってるよ!」
かよ子は羽根を北の方へと飛ばした。目的は無論、藤木の奪還の為である事は言うまでもない。
多くの者が北東へと集う中、次の激戦が始まろうとしている。
後書き
次回は・・・
「ここに来るまでの事」
少年は考える。全ては何が始まりだったのか。なぜ皆から褒められようとして空回りし、全てが予想と真逆の結果で終わってしまうのか。そして卑怯じゃなくなる方法はあるのか。藤木の元に妲己やある事を伝える。そしてかよ子は藤木を追う為に北へと進み見続けていた・・・!!
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