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体育祭当日⑤ 〜2つのピース〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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体育祭当日⑤ 〜2つのピース〜

 

 —— 堀北鈴音side ——

 

「須藤君、あなたが私や沢田君の為に怒ってくれているのは嬉しい。でも。それはクラスの為にはならないのよ。1学期の事件を忘れたわけじゃないでしょう?」

「ああ覚えてるよ。でもよ、毒には毒を持って制さねぇといけねぇだろ?」

「そんな事はないわ。それ以外の方法だってあるはずよ」

「俺にはわかんねぇんだよ!」

「! ……須藤君」

 

 いきなり怒りが爆発したのか、須藤君は拳を握りしめながら叫んだ。

 

 そして、叫んだ事で気持ちがオープンになったのか、ポロポロと本音を吐露し始めた。

 

「俺は昔から、気にいらねぇ事は拳で何とかしてきたからよ。それ以外の方法なんてわかんねぇんだわ。それにずっと一匹狼でやってたしな」

「……でも、貴方はバスケの才能があるはずよ。スポーツをやっている以上、チームプレイはきちんと出来るのではないかしら?」

「残念、中学まではほとんど俺の1人プレーで勝って来てたんだよ」

「……そう」

 

 1人の突出した才能でチームを強くしてきたのね。そこにチームワークなどなくて、だから仲間と協力する経験がほとんどないと。

 

(……須藤君、あなたは私とよく似ているわね)

 

 私も1人で生きて来た人間だ。兄さんに認められたい。兄さんに追いつきたい。それが人生の目標であって、それ以外は不必要だと思っていた。

 

 念願の同じ高校に入学できたけど、私は全然兄さんに追いつけてはいなかった。むしろ埋まらない差を学校からまざまざと突きつけられた。

 

 お前は優秀ではない、兄に近づく権利もないと。

 

「……それなら、あなたはどうして体育祭でのリーダーを引き受けたの?」

 

 私の質問に、須藤君は頭を掻きながら答える。

 

「……体育祭は運動ができりゃあ、楽勝だと思ったんだよ。それと……注目を浴びて、尊敬っつーの? そういうものを集めてみたかったって気持ちがあったんだよ。今まで俺をバカにしてた連中を見返したかったし……」  

 

 

 気持ちを吐露した事で、自分の気持ちと実際の自分の行動を照らし合わせた時の違いように気がついたのだろうか。須藤君はバツが悪そうな顔になっている、

 

「これで俺も完全に孤立するだろうな。まぁいいけどな、元々1人だったし」

「……」

 

 

 強がってはいるが、本当は辛いのだろう。最近の須藤君は沢田君を始め池君達とよく一緒にいた。一度友達と過ごす学生生活を味わった以上、それを失うのは辛いはずだ。

 

(……須藤君、あなたは良くも悪くも素直なのよ。だから差し伸べられた手を掴む事ができる)

 

 私は今だに友達と呼べる人はいない。沢田君や綾小路君が友達なのかもしれないけれど、私にとっては友達というか仲間って感覚なのだ。

 

 でも……でもね須藤君。あなたが孤立する事なんて絶対にないわ。

 だって、あなたには親友がいるじゃない。

 

「須藤君、あなたは孤立なんてしないわ。それは断言できる」

「はぁ? 何でそんな事を言い切れんだよ」

「Dクラスには沢田君がいるもの」

「! ツナか……」

 

 須藤君にとっても、沢田君は特別な存在のはず。自分の事を認めてくれて、なおかつどこまでも対等に接してくれる人だもの。

 

「沢田君があなたを見限るとでも思っているの?」

「……ここまで醜態をさらしゃあ、見限るんじゃねぇか」

「だったら、どうしてあなたを説得しようとしたのよ」

「……」

「須藤君、さっき沢田君に言われた事を思い出すのよ。沢田君はあなたに何て言ったかしら?」

「……俺の力が必要だ、って言ってたな」

「それが答えよ。あなたは沢田君に必要とされている。私もあなたの力が必要だと思っているわ」

「堀北……」

 

 須藤君の気持ちが動いてるのだろうか。須藤君の目が優しくなって来た気がする。

 

「私、気づいたんだけど、須藤君と私はよく似ているわ。目標の為なら全力を尽くせるけど、周りの事を考えられない所がね」

「……そんな事はねぇよ。お前は全然すげぇよ」

「いいえ、私はすごくなんてないわ。自分では優秀だと思っていたけど、そんな事はなかったのよ。その事を今までの高校生活で痛感したわ」

 

 そう。私はこれまでに、何ひとつ満足な結果を残せていない。

 

「私がこの学校に入学したのは、兄さんに自分の成長を認めてもらう為だった。それは今も変わらない。でもそれは、私1人では成し遂げる事はできない。私はやり方をずっと間違えていたのよ。1人でじゃなく、仲間を持つことで初めてその頂への挑戦権を得る事が出来るんだと理解したわ」

「……」

 

 須藤君は、私の言葉を目を見開いて聞いてくれている。

 似ているからこそ、私が感じた事が心に響くのだろう。

 

「……お前は強ぇな」

「え?」

「そんな風に自分を客観的に見れてよ。そして反省までしてる。それはお前が強ぇ証だ」

「……そんな事はないわ。この考えだって、私が自分で見つけ出した訳じゃないもの」

「……じゃあ誰のおかげなんだよ」

「沢田君よ」

「!」

 

 私がこんな考え方を出来るようになったのは沢田君のおかげだ。

 

 入学当初、兄さんに拒絶されて絶望しかけていた私に言ってくれた沢田君の言葉は、今でも心に残っている。

 

『俺は信じてるよ! 堀北さんなら他人を信じられる強い人になれるって!』

 

『それに、堀北さんはDクラスで収まっていい人じゃない! 本当はAクラスにいるべき人だって事も信じてる!』

 

 そして須藤君の事件の審議の時に、兄さんの前で発言する事に臆している私に掛けてくれたあの言葉も。

 

『ついでにお兄さんに見せてやろうよ! 堀北鈴音は優秀だって所をさ。前にも言ったけど、俺は堀北さんを信じてる。だから、堀北さんも自分の力を信じてあげて? 君は頭が良くて優秀な人なんだから』

 

 私は何度も沢田君の言葉や優しさに救われてきた。

 それは須藤君だって同じだろう。

 

「私は沢田君に何度も助けてもらったわ。それは須藤君、あなたも同じよね」

「……まあな」

「だから私は絶対に諦めないわ。兄さんに認めてもらう為に、恥ずかしくない人間になる為に努力する。隣で応援してくれる沢田君の気持ちに答える為にも」

「それは……きっとすげぇ苦しい道になるぜ?」

「そうね。簡単ではないわ。でも、今の私は仲間の力を借りる事を厭わない」

 

 最近の私は、沢田君のようになりたいとも思うようになっている。

 彼のように誰かの支えになったり、導いていけるような人間になりたいと。

 

 そして、今の須藤君はあの時の私と同じ。理想と現実の食い違いに押しつぶされそうになっている。

 

 だから……私が沢田君に差し伸べてもらったように、私も須藤君に手を差し伸べよう。

 

 仲間がいる事がどれほど心強いのか、私は沢田君に教えてもらったから。

 

「須藤君、私にはあなたの助けが必要なの」

「……俺なんかじゃ、堀北に迷惑かけるだけだ」

「あなたがまた道を間違えそうになったら、その時は私が必ず連れ戻す。だから……卒業するまでの間、あなたの力を私に貸して。私も全力で力を貸すことを約束するわ。そして、最後まであなたの事を仲間として信じ続ける!」

「……堀北」

 

 私は一歩前に出て、須藤君に片手を差し出した。

 

「もう一度言うわね、須藤健君。あなたの力を私に貸して欲しいの。私も沢田君もあなたの事を信じているわ。自分を卑下するのはもう終わりにして、あなた自身も自分の事を信じてあげて」

「……」

「そして午後からの推薦競技で、須藤健はすごい男なんだって事を全校生徒に知らしめてやりましょう」  

「……そうだな!」

 

 須藤君は両手で力強く自分の頬を叩いた。

 

「ありがとよ堀北、おかげで目が覚めたぜ!」  

 

 そして須藤君も一歩前に出ると、私の差し出していた手を取った。

 

「協力するぜ堀北! 俺はツナ以外で初めて自分の存在意義を認めてもらえた気がする。そして、俺を信じてくれているお前とツナの気持ちに答えたい!」  

「ええ。お願いするわ」

 

 私の手を握って来た須藤君の大きな手を握り返す。

 

 そしてその時、自然と私は微笑んでいた。

 

 これは、須藤君を説得できたことへの喜びか。あるいは、沢田君のように他人を受け入れられた事への興奮か。

 

 いいえ、そうじゃない。きっと、須藤君は私が初めて自分から手に入れた仲間だから。

 そして、自らの殻を破る大きな一歩を踏み出せた事への喜びなんだ。

 

(沢田君……あなたの欲していたピース。こちらは集められたわよ)

 

 その後、私達はすぐにグラウンドへと向かった……

 

 

 —— 同時刻、特別棟裏 ——

 

「……くそっ!」

 

 体育館を出た後、ツナは人気のない特別棟の裏に向かっていた。

 

 そして、自力で死ぬ気モードになろうと奮闘中である。

 

(何で死ぬ気モードになれないんだ? どうしよう、時間ももうないのに……)

 

 昼休み終了まであと15分を切った。

 ツナが死ぬ気モードになろうとし始めてから、すでに20分以上が経過している。

 

「もう時間がないってのに!」

 

 焦りばかり募り、集中力が乱れる。

 

「もっと集中するんだ! そうすればきっと!」

 

 焦りなのか、龍園に対して怒りなのか。どうも集中力が散漫なツナ。

 

 そんなツナの事を、生徒棟の屋上から見ている者がいる。……リボーンだ。

 

(……ツナ、そんな精神状態じゃだめだぞ)

 

 ——バタン。

 

(!)

 

 その時。屋上の扉が開き、校舎から3人の男女が出て来た。

 

「ありゃ? リボーン君じゃないか♪」

「結構いい眺めだな」

「ここからならよく見えるはずですよ」

「白蘭にγ。それとひよりか」

 

 現れたのは、今は商店街の八百屋のスタッフとして敷地内にいる白蘭とγ。そして、Cクラスの生徒にしてチェッカーフェイスの一人娘。椎名ひよりだった。

 

「君も綱吉君の観察かい?」

「まあな。お前達はどうしたんだ?」

「俺達はひより嬢に誘われて来たんだよ」

「そうなんです。夏休みに白蘭さんの占いで、二学期になったらツナ君が良いものを見せてくれるって言われてたんですけど、それはきっと今日なんじゃないかって思ったんです。だから沢田君の様子を遠巻きに見ているんですよ」

「ほお。なるほどな」

 

 それから、ひより達もリボーンの隣からツナの様子を見始める。

 

 しかし、見えるのは焦っているツナだけだ。

 

「……ツナ君、焦っているようですね」

「昼休みもうすぐ終わるし、お腹すいちゃったんじゃないかな♪」

「そんなわけないだろうが」

 

 3人の会話にリボーンは加わらず、ただじっとツナを見ている。

 

 その姿に何かを感じたのか、白蘭はリボーンに問いかけた。

 

「ねぇリボーン君。そんなに綱吉君はピンチなのかい?」

「……まあな。少しハラハラしてるところだ」

「だったら導いてやったら? 綱吉君は生徒だろう?」

 

 家庭教師として当然の事を言う白蘭だが、リボーンは首を横に振った。

 

「いや、これはツナに課した特別課題だ。課題中はもちろん、基本的に俺は何も指導はしねぇ。それはツナにも言ってある」

「え〜? でもこのままじゃ、綱吉君は悩み続ける事になるんじゃない?」

「……」

 

 白蘭の現実的な言葉にリボーンは言い返さない。

 別にツナの事を信じていないからじゃない。大丈夫だと確信しているからだ。

 

「……! 来たようだな」

「? 誰がですか?」

 

 ひよりの「誰?」という質問に、リボーンはニヤッと笑って返した。

 

「アルコバレーノのボスだぞ」

「! ユニさんですか」

 

 

 全員がツナの方に視線を向けると、ツナの背後に近寄る女の子の姿があった。

 その女の子は長い髪をポニーテールで結っている。

 

「あれがユニちゃん? 顔が全然違うね〜♪」

「あれは霧の匣による変装だ。この前姫に言われただろ!」

「あ〜! そういえばそうだったね♪」

 

 白蘭とγの言い合いが終わる頃、ユニ……もといAクラスの山村美紀はツナのすぐ後ろまで近づいていた。

 

 

 —— ツナside ——

 

「……くそっ!」

「……それではダメですね」

「えっ!?」

 

 背後からいきなり声を掛けられて思わず驚いてしまった。

 

「え、えっと君は確か……Aクラスの子だよね? 坂柳さんと一緒にいた……」

「はい……山村美紀と言います」

「山村さんね。えっと……それではダメってどう言う意味? 俺はただ精神統一を」

「今の心持ちでは死ぬ気になれない、そう言ったんです」

「!」

 

 見知らぬ女子に見られた事で慌ててごまかそうとしたのに、まさかその相手が「死ぬ気」と発言するとは思わなかった。

 

「え? 今、死ぬ気って言った?」

「はい。言いましたよ、沢田さん」

「! 沢田さんって……も、もしかして君は!」

 

 山村さんはニコリと笑うと、ジャージにポケットから藍色の匣を取り出した。

 

「え! それは匣!?」

「はい。ヴェルデに作ってもらった変装用の匣です」

「ヴェルデって……君はやっぱり!」

 

 そう言うと、山村さんは筐にオレンジ色の炎を注入した。すると、匣から藍色の煙が出現して山村さんを包み込んだ。

 

 そして煙が匣の中へと戻ると、後には頬に花弁の紋章がある女の子が立っていた。

 

「やっぱり、君がユニだったのか!」

「はい! お久しぶりですね、沢田さん」

「う、うん! 久しぶりだね。……で、今日はなんでここに? というか何で今正体を明かしたの?」

「沢田さんが間違った方法を取ろうとしているので。そしてそれを伝える為には本来の姿でないといけないからです」

「え?」

 

 俺が間違ったやり方をしているって?

 一体どこが間違っているのだろうか。

 

「どこが間違ってるのさ」

「心の中が怒りで満ちている所です」

「!」

 

 冷静にやってたつもりだったけど、端から見たら怒っているように見えたのか?

 そもそも、怒りは死ぬ気に対してプラスに働くはずじゃないの?

 

 実際、怒りで炎のパワーだって上がるし。

 

「なんでそれがダメなの? 未来で白蘭を倒した時は怒りで満ち溢れてたと思うよ?」

「あれと今では根本が違います。あの時の沢田さんを突き動かしていたのは、白蘭に対する怒りではありません」

 

 根本が違う? どういう事だ?

 

「……よく分からないよ」

 

 理解に苦しむ俺に対し、ユニは微笑みながら俺の手を握った。

 

「思い出してください沢田さん、あの時の事を。未来での最終決戦の際、私達は死ぬ気で戦っていましたよね?」

「うん……」

 

 それはもちろんだ。ユニなんて自分の命を捨てて俺達を現代に返そうとしてくれてたよね。

 ……結局白蘭を止めきれずに死なせてしまったけど。

 

「私は自分の命を犠牲にして、アルコバレーノを復活させようとしていました。それが私の運命で、世界の為だからと」

「……うん」

「でも、沢田さんはそんな事しなくていいと必死に止めようとしてくれました。一度白蘭に打ちのめされ、ハイパー死ぬ気モードが解けた後も、もう一度ハイパー死ぬ気モードになって私を助ける為に白蘭に立ち向かってくれました」

「うん……あっ!」

 

 ある事に気づいた俺に、ユニは優しく笑いかけた。

 

「思い出しました? 沢田さんはあの時に、一度自力で死ぬ気モードになっていたんですよ」

「そういえばそうだった……」

 

 すっかり忘れていたけど、確かに俺は一度自力で死ぬ気状態になっていた。

 

「思い出したところで考えましょう。あの時、もう一度立ち上がった時に沢田さんが考えていた事はなんですか?」

「……あの時は」

 

 あの時は、ただただ皆を白蘭から守りたかった。もちろんユニの事も助けたかった。白蘭の身勝手で、これ以上皆が傷つかないようにしたかった。

 

「……あの時は、白蘭から大切な皆を守りたかった。そして俺達を過去に返す為にユニを死なせたくなかった」

「はい、そうです。沢田さんは誰よりも仲間思いで優しい人。だから他人が傷つくのを見過ごせないんです」

 

 ここで、ユニが片手の指を一本立てた。

 

「もう一つ思い出して見ましょう。代理戦争で、沢田さんがバミューダを倒した時の事です」

「あの時は……死ぬ気の到達点に達した事で勝てたんだ」

「はい。そしてあの時、沢田さんはバミューダにこんな事を言っていましたよ。『自分の死ぬ気は希望から生まれる』……と」

「! ……希望?」

「そうです。私もそう思います。沢田さんは皆の大空でもあり、皆の希望でもあるんです。沢田さんが灯している希望の炎に、周りは希望を与えられてきた事でしょう。それは私達アルコバレーノもそうです。未来では白蘭に果敢に立ち向かうあなたに希望をもらい、代理戦争ではアルコバレーノを死ぬ気で救おうとしてくれたあなたに希望をもらいました」

「……ユニ」

 

 そして、ユニはニッコリと笑いながら話を続ける。

 

「私、リボーンおじさまから聞いた事があります」

「え、リボーンから? 何を?」

「本当の死ぬ気とは、迷わない事、悔いない事。そして自分を信じる事なんだって」

「!」

 

 本当の死ぬ気……

 

 そういえば、代理戦争で父さんと戦った時に、リボーンの友人さんからこんな事を言われた。

 

『本当の死ぬ気ってのは、体がぶっこわれようと食らいつく覚悟』だって。

 

 

 食らいつく覚悟、それは迷わない事って意味なんだろうか。

 

 そして悔いない事は、死んだとしても未練などないように全力を出す事。

 

 最後は自分を信じる事。リボーンがずっと俺を見捨てなかったように、俺も自分自身を信じる事が必要だと。自分自身に希望を持つ事が必要だって事か。

 

 今の俺は龍園君に対する怒りのせいで、死ぬ覚悟も皆を守る覚悟もできていなかったのかもしれない。そして自分自身を信じる事も。

 

「……ありがとう、ユニ」

「気にしないでください、これは私の恩返しです。さぁ。沢田さん! こんな所で止まっている場合ではないでしょう? 今の沢田さんの大切な人達は、あなたという希望を待っていますよ!」

「うん!」

 

 ユニに背中を押され、俺は目を閉じた。

 

 浮かんでくるのは体育祭に向けて一緒に頑張って来たクラスメイト達の姿だ。

 

 ……そんなクラスメイト達の努力を、くだらない悪意で邪魔しようとする龍園君。

 

 俺は彼から皆を守りたい。

 

 そして……

 

(皆と一緒に……勝ちたいんだ!)

 

 ——ボウっ。

 

 頭の奥で小さな炎が灯る音が響くと、違う場所の映像が頭の中で流れ始める。

 

(! これは……ブラットオブボンゴレが目覚めた時と同じ?)

 

 

 最初に流れたのは、グラウンドの芝生の映像だった。そして、そこで3人の男女が昼ごはんを食べている。

 

(これは……綾小路君と軽井沢さん。あと平田君か?)

 

 映像では、サンドイッチを食べている綾小路君に軽井沢さんが話しかけている。

 

 

 〜 グラウンド、芝生 〜

 

 

『ねぇ綾小路君。ツっ君どこに行ったのかしら?』

「……あいつはあいつにしかできない事をやってるんだ」

「何それ? 私達は手伝わなくていいの?」

「なんだ、軽井沢は沢田を信じてないのか?」

「いや、もちろん信じているわよ?」

「だったら信じて待っておけばいい」

「僕も綾小路君の言う通りだと思うよ。沢田君を信じよう」

「ん〜洋介君もそう言うなら……」

 

 そして、ここからは3人の心の声のようなものが聞こえて来た。

 

 

(……沢田、必要ない心配をしてる奴がいる。早く戻って来て、杞憂な心配だったって分からせてやれ)

( ……そうだよね。うん、待ってて、すぐに戻るよ!)

 

 

(……ツっ君。私、信じて待ってるから!)

(……ありがとう軽井沢さん。大丈夫、すぐに戻るよ)

 

(……沢田君、君にばかり負担を掛けて申し訳ない)

(……いいんだよ平田君。俺だって君を頼りにしてるんだ)

 

 

 場面は切り替わり、Dクラスの教室へ。

 そこにはみーちゃんと佐倉さんと桔梗ちゃんがいた。

 

 俺の席の横に立っている佐倉さんに、みーちゃんが話しかけようとしているようだ。

 桔梗ちゃんは友達と談笑している。

 

 

 〜 Dクラス教室 〜

 

「佐倉さん? どうかしたの?」

「えっ!」

「そこ、ツナ君の席だよ」

「あ、は、はい……」

「何か用事があったの?」

 

 みーちゃんにそう聞かれ、佐倉さんは後ろ手に抱えていたお弁当箱を取り出した。

 

「そ、その……沢田君にお弁当を作ってきたから、渡したかったんだけど……」

「え! そ。そうなの? 実は私もなんだ……」

「え?」

 

 みーちゃんもお弁当箱を取り出してみせた。

 

『……』

 

 しばらく無言になった後、2人は気まずそうに笑い合っていた。

 

「あ、あははは……」

「あ、後で一緒に渡そうか?」

「そ、そうですね」

 

 

 そして、またも心の声が聞こえてくる。

 

(……沢田君、どこにもいないけど大丈夫かな。体調悪かったりしないかな?)

(……大丈夫だよ佐倉さん。お弁当も戻ったらいただくね)

 

(ツナ君、どこにもいないなぁ……推薦競技前にエネルギーを補給して欲しかったんだけど)

(ありがとうみーちゃん。後でいただくよ)

 

(……ねぇツナ君? 私、ツナ君と一緒にAクラスを目指したいよ♪)

(……桔梗ちゃん、いつか君の悩みを解決してみせるから。まだ悩みの内容も分からないけど、絶対助けるから。だから、君も俺に助けを求めてくれないかな……)

 

 

 場面が変わり、次は……どこかの屋上か?

 

 そこにいるのは……リボーンに白蘭とγ……それにひよりちゃん?

 

 ……なんだこのメンツ。

 

 

 〜 生徒棟屋上 〜

 

「綱吉君、目を瞑ったまま動かないね〜♪」

「大丈夫なのか?」

「当たり前だ。ツナは俺の生徒なんだからな」

「……」

 

 そして、またも心の声が聞こえてくる。

 

(ん〜、後でマシマロを差し入れしようかな♪)

(……ありがたいけど、遠慮します)

 

(あいつ、姫とイチャイチャしやがって……)

(いや、それは気のせいでしょ)

 

(……ツナ君、頑張ってください)

(ひよりちゃん……うん、自力で死ぬ気になってみせるからね!)

 

(……コーヒー飲みてぇな)

(少しは俺の心配してくれよ!)

 

 

 また場面が変わると、そこは体育館からグラウンドに繋がる通要路だ。

 

 そこを堀北さんと須藤君が歩いている。

 

 さすがはパートナー。見事に須藤君を説得してくれたらしい。

 

 

 〜 通要路 〜

 

「……ツナ、俺の事怒ってるよな」

「そんなわけないでしょ。沢田君はあなたの親友でしょう?」

「それはそうだけどよ……」

「大丈夫、沢田君はあのくらいで態度を変えたりしないわ」

 

(……ツナ、迷惑かけてごめんな。俺、午後から頑張っから!)

(須藤君、いいんだよ。それに俺は戻ってくれるって信じてたから!)

 

(沢田君、勝つ為に必要なピースは集めたわよ。後はあなたに託す。Dクラスの事をお願い)

(……ありがとう堀北さん。十分力になってくれたよ。後は俺に任せて! 絶対に勝つから!)

 

 

 仲間達の様々な思いが俺の力になる。

 皆ありがとう。後は俺に任せてくれ。

 

 俺が……俺が絶対に勝ちを掴んで見せるから!

 

 ——ボウウッ!

 

「! 沢田さん!」

「……」

 

 ——ツナの額に死ぬ気の炎が灯った。無事に自力でのハイパー化に成功したようだ。

 

 その様子を見てリボーンはニヤリと笑ったのだが、すぐに真剣な表情に戻った。

 

(ツナ、これではまだ不十分なのは分かってるな? 体育祭に戻る為には、激スーパー死ぬ気モードにダウングレードしなきゃなんねぇからな)

 

 リボーンが心の中でそう呟いた瞬間、ツナの額の炎がノッキングのように明滅を始めた。

 

「ふっ、そうだツナ。それでこそ俺の生徒だぞ」

 



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