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体育祭当日④ 〜エースを取り戻せ!〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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前回の須藤離脱の部分ですが、頂いた感想を元に読み直した所、確かに理不尽すぎる気がしたので幸村のセリフなどに少し変更を加えました。

須藤がクラスメイトから賛同を得られないのは、龍園と同じく暴力などの反則行為でやり返そうとしていて、その姿に怖がっているクラスメイトがいたり、1学期の事件を経てもクラスメイトにかかる迷惑を考慮していないからという事にします。

 昼休みの須藤と堀北のやり取りはどうしても入れたいので、自分の話ならこういう理由の方が合うかなって思う設定にしました。

 それでは本編をお楽しみ下さい!

体育祭当日④ 〜エースを取り戻せ!〜

 

「先生、どんな状態でしょうか」  

「……捻挫ね。悔しいだろうけど、これ以上足を酷使するのは養護教諭としては勧められないわ」

「そうですか……」

 

 昼休みになって、俺と堀北さんは保健室にやって来ていた。

 

 堀北さんの右足は捻挫しているようで、安静にしていないといけないらしい。

 

「とりあえずこれで大丈夫。安静にしてれば2〜3日で治るわ」

「はい。ありがとうございます」

 

 先生に湿布を貼られ、さらに包帯を巻いてもらうと少しは楽になったようだ。

 

 堀北さんが巻き上げていたジャージの裾を戻していると、保健室の電話が鳴った。

 

——プルルルル。

 

「あら? ちょっとごめんね」

 

 先生は俺達にことわりを入れてから電話を取った。

 

(ピッ)

「はい、保健室です。はい……ああ、分かりました。すぐ向かいます」

 

 受話器を戻すと、先生は机の上に置かれていた水や保冷剤などが入れられたカバンを持って立ち上がった。

 

「ごめんね、熱中症気味の子がテントにいるらしくて行かないといけないの。私はもう行くけど、ここで休憩しても構わないわ。あ、でも奥のベットで1人寝てるから騒がないようにね」

「はい、分かりました」

 

 そう言うと、先生は奥のカーテンで隠されたベッドを覗いてから保健室を出て行った。

 

「……はぁ」

 

 先生がいなくなると、堀北さんはため息を吐いた。

 

「やっぱり午後も不参加だね」

「ええ……二人三脚と1,200mリレーには出たかったのだけれど」

「そうだったんだ。楽しみだったとか?」

「いいえ。リレーにはきっと私の兄がアンカーとして出るから」

「あ、そっか」

 

 堀北さんの兄、生徒会長の堀北学先輩。

 文武両道の完璧超人だったっけ。

 

 そうか。堀北さんはお兄さんに認めてもらいたくて、お兄さんに追いつきたくてこの学校に来たんだもんね。全学年合同の試験は一緒に走れるチャンスか。

 

 あれ? そうなると、本当はアンカーで出たかったんじゃ?

 

「あの、ごめん。もしかしてアンカーで出たかった?」

「最初はね。でも練習をしていて、アンカーは沢田君しかいないと思ったわ。だからそこに不満はないの」

「そうなの? それなら良かったけど。……あ、二人三脚はどうして?」

 

 話題を二人三脚に移すと、堀北さんは少しいい辛そうにこう言った。

 

「……その、せっかく練習も頑張ったのだし、本番で沢田君と一緒に1位が取りたかったのよ……」

「! そっか……」

 

 理由を言い終えた堀北さんは俺から顔を背けてしまった。

 

 若干耳が赤いのは気のせいか?

 

 ……でも、二人三脚なら今の堀北さんも参加できる方法がある。

 堀北さんがその方法を受け入れてくれれば、だけどね。

 

「堀北さん、二人三脚なら足を酷使せずに参加する方法があるよ」

「! 嘘、そんな方法が?」

「あるんだよ。男女別二人三脚で須藤君がやってたんだけどさ」

「……ちょっと待ちなさい。まさかよね」

 

 俺が考えている事が分かったのか、堀北さんは俺の言葉を遮って来た。

 

「多分そのまさか。俺が堀北さんを抱えて走るんだ」

「……それはちょっと」

 

 やっぱり恥ずかしいらしい。でも、これなら堀北さんも参加できるし、1位も狙いやすいはずだ。

 

「やっぱり恥ずかしいよね」

「そうね……抱えられて走られるのはちょっと」

「無理は言わないよ。代わりのペアを探すから気にしないで」

「……いいえ、やっぱりそれで行きましょう」

「え?」

 

 いきなり心変わりした様子の堀北さん。急にどうして気持ちが変わったんだ?

 

「今からペアを変えれば、沢田君も大変だろうし。よく考えれば、もうおんぶされているのを不特定多数の人に見られてるもの。抱えられてるのを見られてもそんなに変わらないわ」

「そっか! ありがとう、嬉しいよ」

 

 提案を受け入れてくれた事にお礼を言うと、堀北さんはゆっくりと椅子から立ち上がった。

 

「もう戻りましょうか」

「あ、戻る前にやっておかないといけない事が……」

 

 ——ガララ。

 

『!』

 

 歩き出そうとする堀北さんを止めようと立ち上がると、勢いよく保健室の扉が開かれた。

 

 そして、廊下から何人かが保健室に入って来た。

 

「よお、鈴音。パシリ。探したぜ?」

「龍園君……」

「あ、よかった! ここにいたんだね〜」

「どうやら、当事者全員が揃ったようだな」

「桔梗ちゃん! 茶柱先生まで!」

 

 入って来たのは龍園君、桔梗ちゃん、茶柱先生。

 そして、最後に入って来たのは……

 

「くくく……」

「……小狼君」

 

 Aクラスの王小狼君だった。

 

「……先生まで連れて、何の用かしら?」

「おいおい、何の用はないだろうが。お前達が一番よく分かっているはずだろ?」

「何を言っているの?」

 

 俺達が状況を飲み込めずにいると、龍園君は奥のベットを隠していたカーテンを開いた。

 

 ——シャッ!

 

「……コイツの事さ」

「! あなた、確かCクラスの……」

「うちのクラスの木下だ。お前達のせいでこんな事になってんだぜ?」

 

 ベットに寝ている木下さんは、被り布団を目元まで被っている。そして若干震えているようだ。

 

「木下さんとの接触の事を言っているのかしら?」

「そうだ。お前と接触したせいで木下はなぁ……」

 

 言葉を途中で止めると、龍園君は木下さんが被っている被り布団を乱暴に引き剥がした。

 

「ヒッ……」

「……見てみろよ。木下の足を」

「? ……っ!?」

 

 よく見てみると、さっきまで被り布団で隠れていた木下さんの片足は……痛々しく包帯をグルグルに巻かれた状態だった。

 

「こりゃひでぇなぁ。よくもまぁ、こんなことが出来るぜ」

「どう言う意味かしら?」

「あ? 木下の怪我はお前達の故意的なものだって言ってんだよ」

「なっ!?」

「……」

 

 意味の分からない龍園君の訴え。

 どうして木下さんの怪我が、俺達が故意的にさせた事になるんだ。

 

 また無実の罪を被して退学に追い込むつもりなのか?

 

「そんなわけないだろ。あの時の2人を見ていたら、堀北さんが故意的にやった接触事故だと思うわけがないじゃないか」

「うっせぇよパシリ。それに勘違いすんなよ? 俺は〝鈴音とお前が木下を怪我させた〟って言ってんだよ」

「……それも意味が分からないよ。接触事故は女子の障害物競争で起きたんだぞ? どうやって俺が怪我させるって言うんだ」

「はっ、お前が鈴音に命じたってだけだろうが。簡単な話だ」

 

 薄ら笑いを浮かべながら堂々と言いがかりをぶつけてくる龍園君。

 

「……とりあえず落ち着け、お前達」

 

 その時、今まで無言だった茶柱先生が話に加わって来た。

 

「まずは事実確認だ。堀北、木下と接触したのは覚えているな?」

「もちろんです、その時に私も足を捻挫しました」

「そうか。お前同様に木下も足を怪我したそうなんだが、木下はお前がぶつかって来たって言っているんだ」

「! それは違います。彼女が私の名前を何度も呼ぶので、それが気になって私の走るスピード落ちました。そしてそのタイミングで彼女から突っ込んできたんです!」

 

 堀北さんは事実しか言っていないんだろうが、茶柱先生はそれだけでは信用しないようだ。

 

「……なるほど。しかし、今の話が本当だとしても問題は大きいぞ。木下はお前に脛を強く蹴られたと言っていてな。先ほど木下の怪我の状態を養護教諭に診てもらったが、とても酷い状態だったそうだ。それも、作為的なものを感じるような傷のつき方だとも言っていた」

「そんなバカな……」

 

 当事者の片方が捻挫なのに、そこまで酷い怪我を負うなんて事あるか? いや、あったとしても酷すぎるだろう。

 

「それでだ。Cクラスとしてはお前と沢田の事を学校に訴えるつもりのようだ」

「なっ!」

「……」

 

 茶柱先生の言葉を楽しそうに聞いている龍園君。

 

 また須藤君の時みたいな方法を取ってきたのか? 無実の罪を着せて、今度は俺達を退学に追い込むつもりなんだろうか。

 

「……また同じ事を繰り返すの?」

「ああ?」

 

 龍園君の目を見ながらそう言うと、龍園君はこちらを睨んできた。

 

「須藤君の時と同じようなやり方だよね。今度は上手くいくとでも思っているの?」

「はっ、意味の分からない事を言うな。俺は正義感でお前達を断罪しようとしているだけだ」

 

 何が正義感だ。あったとしても歪んだ正義感だろうが。

 

「1学期の争いの結末を忘れた? また君達の方から訴えを取り下げる事になるだけだよ」

「はっ! あれは石崎達が勝手にやった事だ。俺にもCクラスにも関係ない」

「……息を吐くように嘘を吐くんだね」

「嘘なんかついてねぇ。俺達はちゃんと証拠を持ってんだからなぁ」

「は? 証拠?」

 

 やってもいないのに、どんな証拠があると言うのか。

 すると、龍園君は近くにいた小狼君の肩を叩いた。

 

「こいつが証拠を掴んでくれたんだよ。お前達が怪我させる計画をしている証拠をなぁ。おい、聞かせてやれよ」

「ああ」

 

 龍園君に促され、小狼君は学生証端末を取り出していやらしい笑みを浮かべた。

 

「俺がDクラスのテント近くを通った時に、偶然聞こえて来たんだ。沢田がその女に「木下を怪我させろ」と命令しているのをな!」

「! はぁ?」

「だから俺は急いで録音したんだ! それがこれだ!」

 

 自信満々にそう言った小狼君は、録音した音声を流し始めた。そして、聞こえて来たのは間違いなく俺達の会話だった。

 

「……わざとぶつかって怪我をさせるだなんて」

「そういうやり方を選ぶしかない……だろ。普通にやったら勝てない……んだよ」

 

『!』

 

 聞こえて来たその音声は、テント内で交わした俺と堀北さんの会話だった。

 

 悪意を持って編集してあるせいで、俺が堀北さんに木下さんを怪我させるように仕向けたと思われても仕方ない内容だ。

 

「確かに私達の声だけど……」

「明らかに編集してあるし、それにこの会話をしたのは2人が接触した後だから」

 

 中身が編集されていて、なおかつ時間がおかしい。こんなものが証拠になるはずがない。

 

 しかし、それを指摘しても龍園君は余裕の笑みを崩さなかった。

 

「それを証明する証拠はあんのか?」

「今の音声を調べれば、編集した形跡とか分かるでしょう?」

「はっ、したかったらすればいいけどよぉ。それをするには、今回の件を大事にする必要があるぞ? 学校に報告しないといけねぇな。そうなったら……生徒会にもこの件がバレるなぁ?」

「!」

 

 なるほど、堀北さんが生徒会長の妹だって知って、それが弱みになることも分かっていてやっているわけか。

 

 俺が石崎君達にやった事をやり返してるつもりなのか?

 

「……それは」

「安心しろよ鈴音。俺は慈悲深いからなぁ。DクラスもCクラスも救える方法を教えてやるぜ?」

 

 それも俺が石崎君達に言った事だな。龍園君はあの時の事を相当根に持ってるのかもしれない。

 

「何……かしら」

「簡単だ。実行犯のお前は100万ポイント、首謀者のパシリは200万ポイントを支払え。Cクラスに対する慰謝料ってわけだ。なぁ木下ぁ。お前もそれだけ貰えたら納得するよな?」

「……」

「おい。納得するよな?」

「! は、はい……」

 

 龍園君の提案に賛同する木下さんだが、明らかに龍園君に怯えているようだ。

 

 おそらく、木下さんの足の怪我が酷いのは龍園君のせいだ。石崎君達の時同様、被害者っぽく見せるために暴行でもしたに違いない。

 

(……本当に分からない。どうしてクラスメイトにそんな事できるんだよ)

 

 龍園君言いがかりよりも、木下さんの事が不憫に思えて来た俺は、木下さんのベッドに近づいて頭を下げた。

 

「! な、何よ……」

「ごめんね、木下さん」

「! さ、沢田君!?」

「あ? それは木下をわざと怪我させたって認めるって事か?」

「違う。今は木下さんと話してるんだ。龍園君は黙っててくれ」

「……ああ?」

 

 額に青筋を浮かべる龍園君を無視して、俺はもう一度木下さんに謝った。

 

「ごめんなさい。君がそんな怪我をしないといけなくなったのは、俺達が龍園君のターゲットになったせいだ」

「……え? え?」

「木下さんは陸上部なんだよね? それなのに、その怪我じゃしばらく練習もできないよね。本当にごめんなさい」

「……」

 

 驚いた顔をしながら固まる木下さん。

 

「きっとその怪我も、龍園君の指示で後からさせられたんだよね」

「! い、いや、違います!」

「……まぁ、龍園君の前で本当の事は言えないよね。ごめん」

「……そ、その……実は」

「……おいテメェ」

「ひっ!」

 

 ——ガシッ。

 

 いつのまにか近づいていた龍園君に胸ぐらを掴まれ、凄まれる。

 

 龍園君も強面だが、XANXUSに比べたら可愛いものだ。

 

「テメェ、いつまでもふざけた事言ってんじゃねぇぞ?」

「ふざけてないよ。本当の事を言ってるんだ」

「証拠もないくせに、いきがってんじゃねぇよ、このパシリが!」

「証拠はあるよ」

「あ? 嘘つくんじゃねぇよ」

「嘘じゃない、本当だ」

「テメェ……」

「そこまでにしろ、龍園」

 

 俺が凄んでも怯まないうえに、茶柱先生に注意されてしまった事で、掴んでいた俺の胸ぐらを離した。

 

「……やっぱり条件変更だ。慰謝料に加えて土下座もしてもらう」

「龍園、それはやりすぎだぞ」

「教師は引っ込んでろ」

 

 相当ムカついたのか、茶柱先生が制止するも龍園君は怯まない。

 

「どうする? 慰謝料に土下座で示談にするか、学校や生徒会を巻き込んで白黒はっきりつけるか。それ以外の解決はねぇぞ」

「……分かっ」

「ち、ちょっと待って!」

『!』

 

 お兄さんに自分の失態を知られたくないんだろう。堀北さんが示談を受け入れようとしたその時、桔梗ちゃんが話に加わって来た。

 

「何だよ、桔梗」

「あ、あのね? 少し時間をあげて欲しいの!」

「あ? 時間だ?」

「そう! 今は2人とも困惑しているんだろうし、しばらく時間をあげて、きちんと考えさせてあげて欲しいの! それで示談を選ぶなら私もポイントをカンパするから!」

 

 桔梗ちゃんのその提案を聞き、龍園君は少し怒りが治ったようだ。

 

「……いいだろう。お前ら、クラスメイト思いの桔梗と、慈悲深い俺に感謝しろよ? 決断は放課後まで待ってやる。桔梗、お前がこいつらをきちんと連れてこい」

「うん! もちろんだよ!」

 

 そう言うと、龍園君は保健室から出て行ってしまった……

 

「……うう」

「! 大丈夫か?」

 

 龍園君がいなくなると、木下さんが呻き声を上げた。怪我が痛むのだろう。

 

 木下さんに被り布団を被せると、茶柱先生は俺達を話しかけた。

 

「お前達、とりあえず保健室から出ろ。木下を落ち着かせないといけないからな」

「あの、保健の先生を呼んできましょうか?」

 

 桔梗ちゃんが気を利かせようとするが、茶柱先生は首を横に振った。

 

「いや、今忙しいだろうから、しばらく私が見ていよう」

「そうですか〜。分かりました。じゃあ2人共、行こっか」

「うん……」

 

 桔梗ちゃんに続いて、保健室から出ようとすると……

 

「……あ、あの。沢田君、堀北さん」

 

 顔だけ布団から出した木下さんに声をかけられた。

 

「どうしたの?」

「……ごめんなさい」

「! いいんだ。君は悪くないよ。ね、堀北さん」

「……そうね。さっきまでの様子を見ていればわかるわ」

「……ありがとう」

 

 木下さんは布団を頭まで被った。そして、その様子を見た茶柱先生がカーテンでベットを隠した。

 

 カーテンを閉めた茶柱先生は、俺達の顔を見て来た。

 

「お前達、どうするつもりだ?」

「……それは」

「大丈夫です。放課後になったらすぐに解決させるので」

「えっ?」

「……わかった。沢田を信じよう。頼んだぞ」

「はい」

 

 そして、俺達は保健室から出た。

 

 

 

 —— 廊下 ——

 

 

 廊下に出ると、桔梗ちゃんが質問して来た。

 

「ねぇツナ君。さっき解決させるって言ってたでしょ? どうするつもりなの?」

「ん〜。それは秘密かな?」

「え〜! 教えてよぉ〜♪」

「放課後になったら教えるよ」

「そっか〜。じゃあ楽しみにしてるね♪」

 

 そう言うと、桔梗ちゃんは学生証端末を見て「あっ」と呟いた。

 

「私、友達とランチする約束してるからもう行くね?」

「あ、うん。また後で」

 

 そして、桔梗ちゃんは手を振りながら去って行った。

 

「……堀北さん。この後なんだけど、協力して欲しい事があるんだ」

「協力?」

「そう。赤組が勝つ為に、Dクラスの為に」

「! 何か手でもあるの?」

「うん。幸村君に計算してもらったんだけど、Dクラスが最下位を抜け出すには午後の全種目で1位を取らないといけないみたいなんだ」

「……そうね。私もそう思うわ。でも……」

 

 堀北さんは複雑そうな表情になっている。

 

 最後の1,200mリレーには堀北さんのお兄さんも出てくる。

 

 堀北さんにとってお兄さんは完璧な人だから、そんな人に勝てるのか不安なのだろう。

 いや、お兄さんの負けるところを見たくないって気持ちもあるのかもしれない。

 

 だからってDクラスが負けていいとは思っていないだろうけど。

 

「大丈夫、絶対勝つよ。堀北さんの予想ならアンカーは生徒会長なんだろ? だったら俺と当たる事になるから、俺が勝ってみせるよ」

「……沢田君」

「でも、俺1人では勝てない。推薦競技メンバーの協力が必要なんだ。もちろん須藤君もそう。須藤君は体育祭のリーダーでエースだ。彼がいないと始まらないよ」

「そうね……でもどうするの? 説得できるの?」

「俺ではできないと思う。でも堀北さん、君なら須藤君の心を動かせるはずだよ。いや、君にしか須藤君は呼び戻せない」

「! 私に説得しろって言うの?」

「そうだよ。午後の部で全部1位を取るため、俺は俺でやらないといけない事がある。赤組が、Dクラスが勝つ為に足りない2つのピース。それを俺達で集めるんだよ」

「……沢田君の集めるピースは何?」

「えっと、体のコンディションを整えるんだよ」

 

 昼休み中に死ぬ気モードにならないといけないとは言えないからな。

 

「……そう。まぁ沢田君が必要な事だと思うなら、きっと必要なのでしょうね」

 

 なんとか堀北さんは納得してくれたらしい。

 

「……わかったわ。私が須藤君を説得して連れ戻してみせる。それがDクラスの為だもの」

「ありがとう。須藤君はきっとバスケ部用の体育館にいると思うんだ。そこまではおんぶして行くよ」

「ええ、お願い」

 

 もう一度堀北さんをおんぶし、俺はバスケ部用体育館に歩き出した……

 

 

 —— 堀北鈴音side ——

 

 沢田君に背負われて、廊下を進む。

 

 須藤君を説得するなんて、私に出来るのかは分からないけど。

 

 沢田君が私になら出来ると思ってくれてるなら、その期待にはパートナーとして答えたい。

 

 そんな事を考えながら廊下の先を見ていると、少し先から2人の男女が歩いて来ているのが見えた。

 

(! に、兄さん)

 

 その人物は兄さんと橘書記だった。沢田君は廊下の隅に寄り、すれ違い様にお辞儀をしていた。

 

 でも私は、兄さん達の顔をまともに見る事もできなかった。

 

 そしてすれ違ってから数歩歩くと、兄さんの足音が急に止まった。

 

 止まったまま振り返る事もなく、兄さんは口を開く。

 

「鈴音。今回の体育祭において、Dクラスがどんな状況にあるか理解しているのか?」  

 

 驚いた。まさか、兄さんが私を名指しで質問して来るなんて。

 

「……ちょうど今、痛感しているところです」  

 

 完全に龍園君の狙い通りの状況になってしまっている。きっと、元々私達からポイントを搾り取り、土下座までさせる気だったのだろう。

 

 彼の取った方法はおそらく、参加表の漏洩。おそらく櫛田さんから参加表のコピーでも渡されたはずだ。参加表を先生に提出したのは櫛田さんだし、その可能性が高い。

 

 沢田君もその事には気づいていたはず。なのにどうして対策しなかったのか? そこには何かしらの彼なりの理由があるのだろう。別にそこを追求するつもりはない。

 

 私だってただ漫然と日々を過ごしていたから。

 

 だから、この状況は私達が招いたものだ。その責任を取るためにも、沢田君は午後の競技で1位を取りたいのだろう。

 

「……安心して下さい。兄さんや先輩方にご迷惑はおかけしません」

「ほう。何か策でもあるのか?」

 

 私の言葉に、兄さんは振り返って鋭い目線をぶつけてきた。

 

「……あります」

 

 これは強がりじゃない。赤組やDクラスが勝つのに必要な2つのピース、その1つを私は任されたのだから。

 

「……そうか。なら、その策が上手く行く確証もあるのだろうな?」

「そ、それは……」

 

 確証なんてない。沢田君がもう1つのピースを集めたとしても、私が最後のピースを集められる根拠も保証もない。

 

 あるのは、沢田君に言われた「君にしかできない」という言葉だけ。

 

 それを確証にできないのは、きっと私の中に迷いがあるから。体育祭でクラスの足を引っ張ってしまったという事実。それが私から自信を奪っているのだろうか。

 

 私が口籠っていると、沢田君が会話に加わってきた。

 

「……生徒会長。俺からも言わせてください」

「沢田、なんだ? 言ってみろ」

 

 兄さんに許可を取り、沢田君は回れ右をして佇んでいる兄さんと向き合った。

 

「赤組が負けているのは、きっと1年の影響が大きいです。それは本当にすみません。ですが、午後の種目で取り返しますので、必ず赤組を優勝にしてみせます」

「……沢田。前にも言ったが、俺は根拠のない理想は信じない。そう言い切るなら明確な根拠を示せ」

「そうですね……俺が死ぬ気で推薦競技の全種目で1位を取るからです」

「全競技……だと?」

「そうです、全競技です」

「……フッ」

 

 その時兄さんは、滅多に見れない嬉しそうな顔になっていた。

 

「そうか。ではお前は、1,200mリレーでも1位を取ると。そう言う事だな?」

「はい」

『……』

 

 兄さんと沢田君は睨み合うが、その目には敵意は無い。楽しそうな事にわくわくしている少年のような目だ。

 

(兄さんがこんな顔をするなんて……沢田君、あなたって本当にすごいわね)

 

「……」

 

 橘書記も兄さんの顔を見て驚いているようだ。きっと彼女も初めて見たのだろう。

 

「沢田、お前は何番目だ?」

「アンカーです」

「フッ、なら俺と勝負する事になるな」

「ええ。望むところですよ」

「俺もだ」

 

 そう言うと、兄さんは再び廊下を進み始めた。

 

「あっ、会長!」

 

 橘書記が慌てて追いかける。そして彼女が追いつくと、なぜかまた歩くのを止めてしまった。

 

(……兄さん?)

 

 そして兄さんは、背中を向けたまま沢田君に話かけた。

 

「沢田、放課後に生徒会室に来い」

「え? 生徒会室にですか?」

「そうだ。夏休みに借りを作っただろう? その借りを返してもらう方法が決まったのでな」

「はぁ、わかりました」

 

(……? 借りを返す? 何か2人の間にあったのかしら)

 

 言いたいことは言い終えたのか、兄さん達は再び廊下を進み始めた。

 

「……堀北さん、行こうか」

「ええ」

 

 それから、残された私達もバスケ部用体育館へと歩き始めたのだった。

 

 

 —— バスケ部用体育館 ——

 

 

 タンタンタン……

 

 シュッ!

 

 バコーン! 

 

 ポン、ポン……

 

「……くそっ!」

 

 

 バスケ部用の体育館に入ってみると、沢田君の予想通りに須藤君はいた。

 

 どうやらシュート練習をしているようだけど、全然ゴールに入っていない。

 

 イライラの解消で好きなバスケをしようと思ったのだろうけど、そのせいで余計にイライラが溜まっているようだ。

 

 沢田君は私を背中から下ろすと、バスケットボールを地面に強く叩きつける須藤君に声をかける。

 

「須藤君!」

「! ……なんだよ、ツナと堀北か。こんなとこに何しに来たんだよ」

「もちろん、君を呼びに来たんだ」

「は? 俺はもう体育祭から抜けたんだよ。戻るわけねぇだろ?」

 

 須藤君は、あからさまに嫌そうな顔をして手をシッシッと振った。

 

 沢田君が私に目配せをして来たので、私も説得を開始する。

 

「須藤君、あなたが抜けてしまったら、Dクラスに勝ち目はないわ」

「はっ、そうだろうな。現にヤバイんじゃねえか?」

「そうね。現時点で最下位であることは間違いなさそうだし、逆転するには全推薦競技でDクラスが1位を取り続ける必要がある」

「そんなの俺が戻った所で不可能だろ? どうせ龍園の野郎に卑怯な手で邪魔されるんだからよ」

「……」

 

 須藤君の言うことは最もだ。そう思ってしまう人が大多数だろう。

 

 ……でもね、1人だけ諦めていない人がいるのよ。

 

(そうよね? 沢田君)

 

「須藤君、君の力が必要なんだ。Dクラスが、赤組が勝つ為に!」

「! は? ツナ、お前正気か? どうやって勝つって言うんだ?」

「普通に全競技で1位を取る。それだけさ」

「バカが! そんなこと出来るわけね……」

「できる!」

『!』

 

 大きな声で出来ると宣言する沢田君に、須藤君はもちろん私までびっくりしてしまった。

 

「……何をもって出来るとか言ってんだよ」

「俺と君が力を合わせれば勝てる。俺はそう信じてるんだ」

「根拠になってねぇぞ」

「そうかもね。でも、俺はそう信じてるし、君が戻ってくれるとも信じてる。だから、須藤君の説得は堀北さんに任せてあるんだ」

「は? お前は?」

 

 いきなり他の人に任せると言われて呆気に取られる須藤君。

 

 まぁ、そうよね。こんな時に人任せにするなんて普通しないもの。

 でも、沢田君は普通じゃないから仕方ないわね。

 

「俺は俺でやることがあるんだ。Dクラスと赤組が勝つ為にね。それに、須藤君を説得できるのは俺じゃない。堀北さんにしか君を説得できないと思うんだ。だから君の事は堀北さんに託した」

「……」

「じゃあ、俺行くね? 昼休み終わりにテントで会おう」

 

 そう言うと、沢田君は体育館から出てどこかに行ってしまった。

 

 そしてここから、残された私の……

 

「……」

「……須藤君」

「……なんだよ」

「少しでいい。私の話を聞いてほしいの」

 

 須藤君の説得が始まる。

 

 大丈夫。やり遂げてみせるわ。

 私を信じてくれている沢田君の……

 

 パートナーの為に!



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