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体育祭準備①
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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
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体育祭準備①
—— 2時間目、体育館 ——
2時間目は全学年の顔合わせが行われるらしく、1年生から3年生までの全生徒と教師陣が体育館に集合していた。その数、約400名。
赤組と白組に分かれているとはいえ、この人数ではどんな人達がいるのかさっぱりわからない。
「……」
堀北さんがキョロキョロ辺りを見回している。お兄さんを探しているのだろうか。
その時、1人の3年生が立ち上がって手を叩き、赤組の生徒達の注目を集めた。
「え〜、こほん。俺は3年Aクラスの藤巻という。今回の体育祭で赤組の総指揮を執ることになった」
(総指揮か……生徒会長が仕切るんじゃないんだ)
横目でチラリと堀北さんを見ると、どこかホッとしているように見えた。
「1年生、ひとつだけアドバイスをしておくぞ。分かっている者もいるだろうが、体育祭は非常に重要なものだということを肝に銘じろ。体育祭での経験は必ずこれからの試験で活かされる。これから受けていく試験の中には一見遊びのようなものも多数あるだろうが、その全てが生き残りを懸けた大切な戦いになるからな」
……とにかく、全てに試験には全力で望まないとダメってことだよね。
「今の話がよく分からなかった者もいるかも知れない。だが、やる以上は勝ちに行く。その気持ちを強く持つんだ。それだけは全員共通の認識として持っておかねばならん!」
「……それはそうね」
堀北さんは藤巻先輩の言葉を頷きながら聞いていた。
「俺達は同じ赤組ではあるが、全学年が関わる種目は最後の1,200メートルリレーだけだ。それ以外は学年別種目ばかり。なので、今から各学年毎に体育祭について好きに話し合ってくれ」
藤巻先輩の話はここで終わりらしく、3年生と2年生はそれぞれ学年毎に分かれ始める。
俺達1年生は、すこし遅れて1箇所に集合した。
「……」
「……」
今回は味方だと言うのに、お互いに相手を警戒せずにいられい。1年生の周囲にはそんな雰囲気が漂ってくる。
(普段は敵同士だし、いきなり味方と言われてもぎこちなくなって当然か)
そんな膠着した場を動かしたのは、Aクラスの葛城君だった。
「思わぬ形で共闘することになったが、よろしく頼むぞ。出来れば揉め事を起こさずに互いの力を合わせられればと思っている」
「こちらこそよろしく葛城くん。僕達としてもそうしたいと考えているよ」
葛城君と平田君は握手を交わし、協力しあう意思を示しあった。
『……』
葛城君の後ろに控えているAクラスの生徒達の中には、すごく不服そうな顔をしている人達もいた。格下のDクラスとは協力したくないと思っているのかもしれないけど、リーダーの葛城君が協力するつもりだから渋々付いて行ってるといった所だろうか。
あれ? そういえば、Aクラスには葛城君の他にもう1人リーダーがいるって聞いてたよな。
そのもう1人のリーダーは何も言わないのだろうか?
「なぁなぁ、あの子さ……」
その時。俺の近くで池君が誰かを指差しながら、小さくそう呟いた。
池君が指している方向を見てみると、そこには椅子に座っている小柄な女の子がいた。
綺麗な銀髪で、椅子の横には杖が立てかけられている。
足が不自由なのだろう。
「……それでだが」
——ざわざわ。
『!』
葛城君達が話を進めようとした瞬間、急に体育館の中が騒がしくなった。
何かあったのかと白組の方へ視線を向けると、一ノ瀬さんと龍園君が何かを話している所だった。
「話し合うつもりはないってことかな?」
「当然だ。たとえ俺が協力を申し出たとしても、お前らが信じるとは思えないしな。結局お互い腹の探り合いになるだけで、話し合う意味はない」
「ふ〜ん。私達にとってもその方がいいと?」
「そういうことだな。むしろ感謝してくれよ」
そして、龍園君は笑いながらCクラスの生徒全員を連れて歩き出した。
「……独裁政権だな」
俺の後では、綾小路君が的を得たコメントを呟いていた。
「でもさ、龍園君。協力なしで体育祭で勝てる自信でもあるの?」
歩きだした龍園君に一之瀬さんは食い下がったが、龍園君は足を止めようとはしない。
「……さぁな」
そう言い、龍園君はCクラスの生徒全員と共に体育館から出て行ってしまう。
俺達赤組の1年生は、去っていくCクラスの背中を目で追いかけていた。
「……早くも動き出したということでしょうか」
Cクラスの背中が見えなくなると、1人の生徒がポツリと呟いた。
声の主は、池君がさっき指差していた銀髪の小柄な女の子だった。
Dクラス全員の視線が女の子に集中すると、葛城君が女の子の事を紹介してくれた。
「彼女は坂柳有栖。体が不自由なために椅子に座ってもらっているんだ」
(! あの子が坂柳さんか……)
一ノ瀬さんから聞いた、Aクラスのもう1人のリーダーだ。
(なるほど、だからバカンスは欠席したのか)
坂柳さんにとっては、無人島試験には命の危険もあるからという学校側の配慮だろう。
葛城君の紹介を受けて、坂柳さんは微笑んだ。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「私は残念ながら戦力としてお役に立てません。全ての競技において不戦敗となります。AクラスにもDクラスにもご迷惑をおかけするでしょう。そのことについて、まず最初に謝らせて下さい」
「謝る必要なんてないよ。誰もその点を追及するつもりはないから」
頭を下げる坂柳さんに、平田君が優しく微笑みながらそう言った。
平田君の言う通り、誰1人不満を漏らす者はいなかった。
「学校も容赦ねぇなぁ。身体が不自由な奴はペナルティーを免除してくれたっていいのによ」
「坂柳さん、気にしないでいいからね」
「皆さん、ありがとうございます」
坂柳さんの印象は、礼儀正しいお嬢様って感じだ。
一ノ瀬さんは革新的だと言っていたけど、今のところそんな感じはしてこないな……いや、ちょっと待て?
よくよくAクラスを見てみると、葛城君と坂柳さんで完全に二分する様に分かれている。
両者の間には幅2メートルくらいの見えない壁があるみたいだ。
これがAクラス内にある2大派閥か。
そして葛城君の方が人数が少ない。Aクラスの3分の2が坂柳派という所だろうか。バカンス中のAクラスの失敗が影響しているのかもしれないけど、坂柳さんはバカンスに参加していないはず。それなのに大多数を従えているという事は、それだけのカリスマ性でもあるのかもしれない。
皆が坂柳さんに注目している中、平田君と葛城君はリーダー同士の話し合いを続けていた。
「AとDの協力関係についてだが、俺は互いの邪魔をしないという契約を結ぶだけでいいと思っている。Dクラスとしては俺の考えに賛同してもらえるか?」
「うん。Dクラスとしてもそれで構わないよ」
「よし。とはいえ、一部の団体競技は協力が必要なものもあるだろう。そういう競技に関してのみ、後日打ち合わせをしようと思うのだが、それもかまわないか?」
「もちろん。棒倒しとかは配置決めも必要だろうしね」
ふむ。仲間とはいえ、学年別の優劣も付けるからお互いに手の内を明かし合いたくはないか。
「皆もそれでいいかな?」
平田君が振り返ってDクラスの面々に確認を取る。異議を唱える者はいなく、全員が頷き返している。
「よし、じゃあよろしく頼む」
「うん。こちらこそ」
AとD両方の合意が取れたところで、赤組1年生の話し合いは終了となった。
これで解散らしく、Dクラスの教室に戻ろうとした所、池君が声をかけてきた。
「なぁなぁ。沢田、綾小路」
「ん?」
「どうした?」
「あの子……お前達の事じっと見てるぜ」
「えっ?」
池君が指差している方を見てみると、そこには坂柳さんがいた。そして、そんな坂柳さんに寄り添う様に見知らぬ女子が1人立っている。
そして、池君の言うように確かに俺と綾小路君の事をジッと見つめているような気がした。
「……」
「……(ニコっ)」
俺達も見つめ返していたら、視線に気づいたのか坂柳さんはニコリと微笑んだ。
気まずかったので、こちらもぎこちない笑みを返しておこう。
「……沢田。坂柳と面識はあるか?」
「ううん、話したこともないよ」
「そうか……俺もだ」
「なんでこっちを見てたんだろ」
「こっちの勘違いかもしれないな」
「ん〜、まぁそうかもね」
こっちの自意識過剰ということにしておくことになったのだが、俺は坂柳さんの他に2人から視線を向けられているような気がしていた。
1人は小狼くん。そしてもう1人は、坂柳さんに寄り添っているポニーテールの女の子だ。
(……小狼君は単純な怒りで睨んでると思うんだけど、女の子の方はなんだ? なんか変な感じがするんだよなぁ。なんというか……優しい感じがするというか)
——ポンっ。
「!」
「……沢田、教室に戻ろう」
「あ、うん……」
綾小路君に肩を叩かれ我に帰る。ここで考えていても答えは出ないだろうし、俺は綾小路君と共にDクラスの教室へと帰った。
—— ツナ達が体育館を出た後、坂柳は山村と共にゆっくりとAクラスへと帰り始める。
そして、歩きながら2人はこんな会話をしていた。
「……ついに、あなたと沢田君が接触することになりますね」
「はい。そして有栖さんもね」
「ええ。これからが楽しみですよ」
—— 休み時間、廊下 ——
教室に帰った後、すぐに休み時間になった。
喉が渇いたので廊下の自販機に向かおうとした所、綾小路君と堀北さんも付いて行くと言い出した。
自販機で飲み物を買い、教室に帰るべく歩き始める。その最中、堀北さんが口を開いた。
「ねぇ、沢田君、綾小路君。体育祭……いえ、今回の特別試験で勝つにはどうすればいいと思う?」
「……今回は正攻法じゃないとダメだろうな」
「ん〜、そうかもね。裏工作とかも難しいだろうし、茶柱先生も『体育祭はあくまで生徒の体力と運動能力を測るものだ』って言ってたしね」
「……そうよね」
堀北さんなら聞かずとも分かっていたことだろうに、堀北さんは少しだけ何かに期待していたように見えた。
「……堀北、お前は切り札を持っておきたいんだろ?」
「! ええ。その通りよ」
「切り札?」
「純粋な運動勝負をしたとして、Dクラスの分が悪い場合に少しでもDクラスを有利にする手段が欲しいってことさ」
「あ〜、そういう事か」
なるほど、抜け道のようなものが欲しいって事か。
だけど、今回の体育祭においてはそれは難しいと思う。もちろん何かを仕掛けたりすることはできるし、やる意味がないわけじゃないが、戦況がひっくり返るような効果は得られないと思う。
そこまで大きな効果を得る為には、多分相手チームに裏切り者を作らないと無理だ。
例えば、白組の各競技の参加選手名簿を白組の誰かに流してもらい、確実に勝てる相手をぶつけるとか。
でも、情報を渡してから参加選手を総入れ替えをされる。なんて可能性もあるから、この作戦は簡単に実行できる事じゃない。
俺的にも、基本スタンスは勝てる可能性のある選手を出場させるのが無難だと思う。
かといって全員が運動が得意なわけじゃないし、皆の希望の問題もある。ベストな組み合わせにする為には、クラスがまとまる事が必要不可欠だ。
きっと今まで以上にクラスのまとまりが試されるだろう。
現在のDクラスは決して上手くまとまっているとは言えない。
だから、体育祭に向けて俺達Dクラスが一番やるべきことは……
(よし。この体育祭を通して、俺はクラスの皆と仲良くなるぞ!)
「ん〜、とりあえずはさ。Dクラスを一番いい人選で各競技に割り振る事を考えようよ!」
「……そうね」
「ああ……だが、お前達に一つ忠告しておくぞ」
『忠告?』
綾小路君の忠告という言葉に俺達は足を止めた。
「船上試験の後、次はお前達を狙い撃ちにすると言っていた奴がいるだろ」
「龍園君ね」
「そうだ」
「体育祭で何かを仕掛けてくる可能性が高いと?」
「ああ、体育祭は絶好の機会だろ」
体育祭で龍園君が何かを仕掛けてくる……
その可能性は高いと俺も思う。
堀北さんに牙が向けられるなら、何としても俺が守らないといけない。
「うん。十分に気をつけるよ」
「分かってるならいいんだ」
それから、俺達はDクラスの教室へと帰った。
—— 翌日のホームルーム ——
体育祭が終わるまでは、週に一度は2時間のホームルームが行われるらしい。
そして、その時間は生徒達の自由にしていいそうだ。
俺達Dクラスは、今回のホームルームでは各競技のメンバーの選び方を話し合うことになった。
「さて。これから体育祭に向けての話し合いを始めようと思う。まず初めに決めるべきなのは、競技の参加順と推薦競技の出場者。この2つの決定方法だと思うんだ」
平田君の提案に誰も反応しない。まぁ無言の肯定なんだろうけども。
体育祭を通じてクラスメイトとの距離を縮めようと決めた俺は、いつもより積極的に話し合いに参加しようと思った。
「平田君は何か考えがあるの?」
「うん。例えばさ……」
平田君は黒板にチョークで2つの言葉を書き記す。
『挙手』と『能力』だ。
「選手選びの指標となるのはこの2つだと思う。競技毎に希望の順番を聞いていく挙手制。個々の能力を見極めて効率化を図る能力制。このどちらかじゃないかな」
挙手制になれば、それぞれ希望通りの順番が通りやすい。複数人の希望が被ったら場合は希望が叶わない事もあるだろうが、能力制よりも穏便に決められる。でも、いい結果を残せるかは分からないから運の要素もある。
一方で能力制にすれば、個々人の能力に沿って機械的に決める事ができるし、勝率を高くする事ができる。でも、運動が苦手な人達に取っては得点を得るチャンスがもらえないわけだから、不平不満が出やすいだろう。
どちらも一長一短な気もするけど、俺的には能力制がいいんじゃないかなと思う。それで選ばれた人が得点を受け取れたら、ポイントをクラスで分け合う事もできるし。
……テストの点数については分け合えないけど、そこはまた皆で勉強会をすればいいと思うんだ。
それに、今のDクラスが一番にするべきことは仲間として団結する事だと思うから。
例え言い争いになったとしても、そこから生まれる仲間意識だってある。
——ガタッ!
平田君の説明が終わると、須藤君が立ち上がった。
「どう考えても能力で決めるべきだろ! 自分の能力は自分が一番分かっているしな!」
須藤君は自信満々にそう言い切った。須藤君の運動能力は誰しもが知る所だから、須藤君の意見を批判できる人は少ないだろう。
「俺とツナは全ての競技に参加するぜ! 俺達が勝てばクラスが勝つ可能性が上がる。それで万々歳ってヤツだ!」
「ムカつくけど、否定はできないわね」
体育祭では必要不可欠な戦力になるだろう須藤君。そんな彼の言う言葉には説得力もあるのか、女子達が賛同し始めた。
「俺は運動があまり得意じゃない。推薦競技を須藤と沢田が一手に引き受けてるという案には賛成だ」
幸村君も須藤君の意見に賛同してくれた。1人が賛同すると、連鎖するように続々と賛同者が増え始める。
「なら決まりだろ。俺達は推薦競技に全部参加するぜ」
「異議な〜し!」
高らかに宣言する須藤君と、それに賛同するクラスメイト達。
クラスメイト達を一気に取り込めたみたいだけど、こんなにあっさり決まっていいのか?
これだと人任せに見えるというか……俺の考える団結とは違うんだよなぁ。
このまま決まってしまうようならば、俺が一石投じてみた方がいいのかも……
「もし皆がその方針でいいなら、推薦競技に関しては能力重視と……」
「待って」
(!)
須藤君の提案が可決されようとしたその時。堀北さんが口を開いた。
「堀北さん、何かな?」
「補足提案があるわ」
いつもはクラスの話し合いに参加なんてしない堀北さんが、自分から話の中に割って入ったので俺は驚いた。
船の上でもクラスメイトとの協力が必要と分かったとは言っていたけど、堀北さんは確実に俺達に歩み寄ってくれているようだ。
そして、クラスメイト達の注目を集めた堀北さんは自分の意見を伝え始めた。
「2つの案の中で選ぶなら、須藤くんの言うように能力制にすべきよ。そこに異論はない。でもそれだけじゃ確実に他クラスに勝てる保証はないわ」
「うん、もちろんそうだね」
平田君が堀北さんの意見に頷いて肯定する。
それはもちろんそう。俺と須藤君で絶対に勝てる保証なんてないもんな。
「であるなら、運動神経が良い人には優先的に好きな推薦競技に参加させるべきなのはもちろんだけど、全員参加競技も同様に勝つ為の最善の組み合わせで戦うべきよ。簡単に言えば、速い人と遅い人を組み合わせるべきね」
なるほど。足の速い人と遅い人を組み合わせる事で、同じ組み合わせに速い人が被らなくなる。それでなるべく沢山の勝ちを拾えるようにしようというわけか。
確かにそれなら勝つ確率は上がる。でも、これだと反対意見も出やすいと思う。堀北さんの提案は運動が苦手な人にとっては非情な考えに思えるだろうから。
せっかくまとまりかけていた場を崩すような堀北さんの発言。
でも、俺はこういう意見が大事だと思う。今後のDクラスの為にも、全員で意見をぶつけ合う事が必要だと思うんだ。
「ちょっと待って。その作戦ってさ、運動苦手な子達が勝つ可能性を下げるって事でしょ?」
最初に異論を唱えたのは、篠原さんという女子だった。
「堀北さん、私は納得できないんだけど? 運動が苦手なのに強い人と勝負したら絶対に勝てないよ。特典だって欲しいし」
「仕方がないわね。それがクラスの為なんだもの」
おおう。そこまでストレートに言わなくても。
しかし、篠原さんも負けてはいない。
「クラスの為なのは分かるよ。でも成績が悪いとPPだって引かれちゃうのよ?」
「クラスとして勝てば、その分大きく返って来る。それが不満なのかしら」
「入賞したら貰えるテストの点数は大きいし、一部のクラスメイトにだけ特典を諦めさせるのは不公平じゃない?」
「そう考えたい気持ちは分かるわ。けれど、それもおかしな話なのよ。最初からそんな特典の点数に頼らなくてもいいように、普段からきちんと勉強しておけばいいだけのこと。それに3位まで可能性があるのなら入賞が無くなっても問題ないはずよ。というか元々あなたの運動能力で入賞出来るほど簡単な競技は無いんじゃない?」
(堀北さ〜ん。意見をぶつけ合うとは言っても、喧嘩腰である必要はないですよ〜)
どちらも譲らない言い合いが続く。
「誰もが堀北さんみたいに頭がいいわけじゃないんだよ? 一括りにまとめようとしないでよ」
「勉強は日々の積み重ね。それを疎かにしておいて、言い訳しないでほしいわね」
他のクラスメイトは、堀北派と篠原派で分かれて野次を飛ばしあっている。
なんかすごい仲悪い感じだけど、これが今のDクラスの現状なんだ。
「いい加減にしろよ篠原。おまえらのせいで負けたら責任とれんのかよ。あ?」
「……それは……っ」
体育祭において大事なのは運動能力。だから運動が得意な人の意見は強い。
Dクラス一の運動能力を誇る須藤君にそう言われては、反論なんてできないだろう。
篠原さんが劣勢になった事で、クラスの雰囲気はどんよりとし始める。
その空気に、堀北さんがトドメの一言を放った。
「全く面倒ね、頭の悪い人と話すのは」
「っ、堀北さん!」
「!」
堀北さんの言いように思わず口を挟んでしまった俺。
堀北さんも篠原さんもいきなり割り込まれてキョトンとしている。
「……沢田君、何かしら?」
「……あの、堀北さん。今のは良くないよ」
「どうして? 本当の事じゃない」
「……」
悪びれない堀北さんにキツイ視線を向ける篠原さん。
堀北さんがコミュニケーションが苦手なのは分かってたけど、あそこまでストレートなのは止めざるを得ないよ。
「堀北さん。今回の体育祭、クラスメイトと険悪になっていてはだめだよ」
「? どうして? 今回の試験で大事なのは各自の運動能力でしょう」
「それは大前提だけどさ……一番大事なのは団結力だと思うんだよ」
「……団結力?」
クラス中からの視線を受けながら、俺は自分の思いを堀北さんに告げる。
「そう。今回の体育祭、勝ちに行く為にはどうしたって誰かに我慢を強いらないといけないと思う。でもさ、だからこそ全員の気持ちを一つにするべきじゃないのかな」
「……」
「『クラスの勝利の為に、全員で今回の体育祭に勝ちに行く』。そういう考え方をしないと、クラスとしてまとまる事ができずに、大事なところで空中分解しちゃうよ」
「……そう、ね」
堀北さんは少し悲しそうな顔をしながら、俺の言葉に頷いてくれた。
「分かってくれてありがとう。でもさっきまでの意見のぶつけ合いは大事な事だと思う。そうする事で、全員が納得して勝つ為の最善を選択する事ができるんじゃないかな」
「うん、僕も沢田君に賛成だよ」
平田君が俺に賛同してくれた。
「クラスメイト同士で貶し合うんじゃなくてさ。純粋に体育祭における自分の考えを言い合おうよ」
「ええ。分かったわ」
「うん。じゃあ〜……あ、軽井沢さん!」
「え!? 私!?」
急に声をかけられて、慌てる軽井沢さん。
(いきなりごめん、でも、今こそ君の力を貸してくれ!)
「軽井沢さんはさっきの2人の意見をどう思う?」
「私が? ……ん〜、そうね。私は堀北さんの意見に賛成かな……」
「それはどうして?」
「クラスで勝てれば結局後でポイントとして帰ってくるし、試験に関しては、前みたいに皆で勉強会すればいいかなって……」
ほっぺをカリカリと掻きながら意見を述べた軽井沢さん。
「……私も軽井沢さんと同じ意見かな〜」
「私も! 軽井沢さんと同じ気持ち〜」
俺の予想通り、軽井沢さんが意見を出したら彼女を慕っているクラスメイト達からも意見が出た。
「……俺は篠原の意見に賛成だなぁ〜」
「! 池……」
そして、今度は池君が篠原さんの意見に賛同し始めた。
これでいい。沢山の意見が集まる事が大事なんだ。
これらを皮切りに、沢山の意見が飛び交い始めた。
そして、このままでは決まりそうもないという事で、平田君の提案で堀北さんの複合案に篠原さん達も納得できる条件を付与することになった。
「それじゃあ……全競技の選手の選抜は能力重視で行う。各競技で得たPPはクラスで集計し、後で全員で振り分ける。そして、定期試験前には希望者で再び勉強会を開く……って事でいいかな?」
全体の意見をまとめて決められたクラスの方針に、今度はクラス全員が頷いたのだった。
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