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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第155話:靄が掛かった記憶の果てに

 誰もが、動けずにいた。

 限界時間が来てシンフォギアが解除されたマリア達を守らなければならないガルドは勿論だが、つい先程まで彼らと対峙していたカリオストロとプレラーティも相手の出方を伺う様に汗を一筋流しながら佇んでいる。

 その両者の視線は一か所、互いの間に降り立ったその存在に向けられていた。

「エキサイティング…………エーキサイティングッ!! ここは素晴らしい、こんなにも素晴らしい者達が揃っているなんてッ!!」

 その異形、レギオンファントムは何かに歓喜するかのように身を震わせていた。ガルド達は初めて見るレギオンファントムが何を言っているのか理解できず、困惑しつつも警戒だけは怠らない。

 だがカリオストロ達の方はそうではなかった。彼女達はレギオンファントムを明確に敵と認識し、ガルド達などそっちのけで攻撃を仕掛けたのだ。

「コイツはッ!?」
「レギオン……!? あの男、この怪物の封印を解き放ったワケダ……!?」

 プレラーティが錬金術による攻撃を仕掛けるが、レギオンファントムはそれを手にした薙刀『ハルメギド』で切り払った。そしてゆっくりと視線を2人の方へと向け、ゆらりと近付きながら2人に問い掛けた。

「カリオストロ……それにプレラーティ……だったか? 久しいな。サンジェルマンは元気か?」
「えぇ、元気よ。ただアンタが会う事は絶対にありえないけどね……!!」

「ッ!? あの術式は……!?」

 カリオストロが翳した手の上に構築された術式、それはヨナルデパズトーリを召喚する為の術式に他ならない。先程まで必死にガルド達が構築させまいとしていた術式を、彼女はこの場で組み立て召喚するつもりなのだ。

 それも恐らくは、この目の前に現れたファントム1体を始末する為だけに。お互いを知っているらしき両者のやり取りを鑑みて、ガルドはこのレギオンファントムがそれほど危険な相手であると言う事を嫌でも理解した。

「マリア、2人も。ここは下がるんだ!」
「ガルドはッ!?」
「俺はこの場を離れる訳にはいかない。何、安心しろ。どうせすぐに援軍が来てくれるさ」

 これから起こる戦いは、生身のマリア達が居ては巻き込まれる危険が高い。ガルドは3人を下がらせ、颯人達が到着するまでの時間稼ぎをしようと身構えた。

 そうしている間に、怪物同士の戦いが幕を開けた。

 出現したヨナルデパズトーリが、実体を持ちレギオンファントムに襲い掛かる。レギオンファントムはそれを迎え撃ち、敢えて口の中に入るとそこで薙刀をしっちゃかめっちゃかに振り回した。ヨナルデパズトーリが口を閉じレギオンファントムを飲み込むよりも先に、巨大な口の中をズタズタに切り裂くレギオンファントム。

「無駄無駄♪」
「……む?」

 だが案の定、強烈なダメージは無力化され無傷の状態に戻ってしまった。その事に唸り声を上げるも、うかうかしていては今度こそ飲み込まれてしまうとレギオンファントムはそこから飛び降りた。直後ヨナルデパズトーリの口が閉じられ、レギオンファントムは間一髪のところで難を逃れる。

「ふむ……なるほど」

 自分の攻撃が無効化されていると察したレギオンファントムは、僅かに思案した様子を見せると即座に薙刀を構えた。

 そして次の瞬間、ガルド達は思いもよらぬ光景を目の当たりにする。

 再び襲い掛かって来たヨナルデパズトーリに対し、レギオンファントムがハルメギドを薙ぐとその巨体毎空間に赤い亀裂が走る。するとどうした事か、ヨナルデパズトーリの動きがそこに縫い付けられたように止まったのだ。

「何ッ!?」

 ガルドが言葉を失っている前で、レギオンファントムはヨナルデパズトーリを細切れにするように次々と切り裂き、その度に赤い亀裂がその巨体をその空間に縫い留めていく。あっという間にヨナルデパズトーリは、全身を赤い亀裂で空間に縫い留められ動けなくなってしまった。

「嘘でしょッ!? こんなやり方で……!?」
「いや、徐々にだが亀裂が小さくなっている。何時までも止まったままでは無いワケダ」

 プレラーティが観察した通り、レギオンファントムが作り出した亀裂は時間が経つにつれゆっくりとだが小さくなっている。あの状態は長くは続かないらしい。
 問題はヨナルデパズトーリが再び動けるようになる前に、レギオンファントムが自分達に攻撃を仕掛けてしまう事だった。

 自力でこの化け物を相手にしなければならない事に、カリオストロとプレラーティが身構える。

 そこに、空から1人の少女の雄叫びが聞こえてきた。

「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ!!」

「ん?」

「この声はッ!」

 突如聞こえてきた雄叫びにレギオンファントムが上空を見上げ、ガルド達は聞き覚えのある声に希望を抱く。

 空から降って来たのは、やっと到着したガングニールを纏った響であった。響は落下のエネルギーを合わせて、その拳をまずは巨体のヨナルデパズトーリに叩き付ける。

「おりゃぁぁぁっ!!」

 響の拳がヨナルデパズトーリを殴りつける。本来であれば、その程度の事で無敵の怪物として作られたヨナルデパズトーリがどうにかなったりはしない。

 だがカリオストロ達にとっては信じられない事に、響の拳が直撃した部位からヨナルデパズトーリの体は大きく抉り取られ、そしてダメージが無かった事にされる事無く消滅してしまった。

「なぁっ!?」
「何でッ!? 無敵は何処に行ったのよぉッ!?」

 レギオンファントムに動きを止められ事実上無力化されただけであれば、驚きはすれどまだ理解できる。まさかあんなやり方でこの怪物を攻略するとは思っていなかったが、対処や次にすべき行動は直ぐに選択できた。

 だが何度でも復活する不死身の能力が無力化された事は、彼女らの理解の範疇を超えていた。考えられるとすれば、術式に何らかの不具合があると言う事だけになるが……

「ガルドさん、マリアさん! お待たせしました!」
「ここからは、アタシらも参加だ!」
「さ~て、ショーの本番はここからだぜ!」

 次々とやってくる仲間達に、マリア達の顔にも安堵が浮かぶ。

 だがその安堵も、突如響き渡った笑い声にかき消された。

「フハハハハハハハハハハッ!!」

「な、何だ何だ? つかあれ、ファントムだぞ颯人ッ!?」
「おいガルド! あれ元はどんな奴だ? 新しい幹部か?」
「知らない。ここに来た時には既にファントムだった」

 困惑する颯人達を他所に、レギオンファントムはカリオストロ達からは興味を失ったように背を向け颯人達の方に歩いていく。表情と言うものが存在しない為顔色を窺うと言う事は出来ないが、それでもその佇まいからは喜びを抑えきれずにいるのが手に取るように分かった。

「あぁ~、待っていた。待っていたぞ、お前に会えるこの時を……!」
「は? え、俺? 何処かで会ったか?」

 生憎とファントムの知り合いは居ないので、会いたかったなどと言われても今一ピンとこない。そんな颯人の困惑も知った事ではないと言わんばかりに、レギオンファントムは喜びに震える声で言葉を紡いだ。

「こうして直に見て分かった。お前は美しい……美しい心の持ち主だ!」
「は? 何言ってんだこいつ?」

 ますます訳が分からないが、少なくとも危険な奴であると言う事だけは分かった。颯人は意識せず前に出て、奏達を守る様に立ち塞がった。
 その行動が更にレギオンファントムの琴線に触れた。

「お前のその美しい心……壊させてくれぇッ!!」
「チッ!?」

 突然駆け寄り薙刀を振り下ろしてくるレギオンファントムに対し、颯人はウィザーソードガンを構え振り下ろされた薙刀を受け止めた。レギオンファントムのパワーはウィザードとなった颯人を大きく上回るのか、颯人はそのまま押さえつけられるように膝を折り地面に跪く。

 それを奏達が黙って見ている訳もなく、颯人への攻撃に夢中になっているレギオンファントムを横から攻撃して引き剥がした。

「コイツッ!」
「オォッ!」

 奏と響、2人のガングニールが唸りを上げてレギオンファントムを捉え颯人から引き剥がす。そして大きく距離をとったレギオンファントムに、間髪入れずクリスのライフルに変形させたイチイバルの一撃が叩き込まれた。

「ブチ抜けッ!!」
[RED HOT BLAZE]

 狙撃中による強烈な一撃がレギオンファントムに命中する。だが直撃した筈の弾丸は、あろうことか表皮に弾かれ小さく傷付ける程度の威力しか発揮できなかった。

「嘘だろっ!? 直撃だぞッ!?」
「ならばッ!」

 クリスの一撃が不発に終わったと見て、翼が大きく跳躍するとアームドギアをレギオンファントムに向け投げつける。投擲されたアームドギアは変形して見上げるほどの巨大な剣となり、それを翼が上空から蹴り落とした。

「ハァァァァッ!!」
[天ノ逆鱗]

 自分に向け蹴り落とされてきた巨大な剣。それを前にレギオンファントムが選んだのは、回避でも防御でもなかった。

「フン……」

 迫る巨大剣に向け、薙刀を一閃させる。その際に発生した赤い亀裂と剣が重なると、何かに受け止められたかのように翼の天ノ逆鱗が止められてしまった。

「何ッ!?」
「気を付けろッ! そいつの薙刀、切り裂いた相手を空間に固定する力があるみたいだ!」

 先程レギオンとヨナルデパズトーリの戦いの一部始終を見ていたガルドは、大まかにだがレギオンファントムの能力を理解していた。

 尤も、それは《《奴の本来の能力と言う訳では無い》》のだが…………

 とは言え少なくとも只者ではないと言う事はこの場の全員に理解できた。颯人達は気合を入れ直し、このファントムと同時にその後ろに居る錬金術師2人を何とかしようと身構える。

 その時、翼の一撃を不発に終わらせたレギオンファントムにあらぬ方向から無数の光弾が降り注いだ。全員がそちらに目を向けると、そこには顔に嫌悪を滲ませたサンジェルマンの姿があった。
 レギオンファントムは彼女の姿を見ると、両手を広げて親し気に話し掛けた。

「あぁ、やっと会えたね。元気そうで何よりだよ、サンジェルマン」
「まだ生きていたとはね。封印されたまま枯れ果ててしまえば良かったのに……」
「まだ君の美しい心を壊せていないのに、死ぬ訳にはいかないさ。それに、他にも壊したい物がわんさかあるし……」

 それが楽しみで仕方ないと言うレギオンファントムを、サンジェルマンはゴミを見るような…………だが同時に、どこか悲し気な目で見つめていた。

 そしてそんなサンジェルマンに対し、言葉では上手く言い表せない目を向ける者が居た。颯人である。

「あれ、は……」

 サンジェルマンの姿に、颯人は既視感の様な物を感じずにはいられなかった。具体的にどう、と言う事はこの場では出来ないが、しかし初対面と断言できない何かを感じていた。

 そのサンジェルマンと颯人の視線がぶつかり合った。彼女の方も、自分に視線が向いている事に気付いたのだろう。颯人とサンジェルマンが目を合わせた。するとその瞬間、サンジェルマンは確かに笑みを浮かべた。それも、何処か懐かしみ、慈しむ様な優しい笑みだ。

「ふっ……」
「え?」

 何故笑みを向けられるのかが分からず首を傾げた颯人だったが、それを問う前にサンジェルマンはレギオンファントムを睨み付けるとその足元に転移結晶を投げつけた。

「何ッ!? これは――」
「あの子に、手出しはさせない」

 サンジェルマンが投げつけた転移結晶により、レギオンファントムはその場から強制的に転移させられ姿を消した。それを見てカリオストロは呆れたように声を上げた。

「入れ込み過ぎじゃない、サンジェルマン?」
「放っておいて。それよりカリオストロ、プレラーティ。ここは退くわよ」
「ま、それは賛成。ヨナルデパズトーリがやられたしね」
「態勢を立て直すワケダ」

 新たに転移結晶を取り出し、何処かへと転移しようとするサンジェルマン達。訳が分からないと、颯人はそれを引き留めようと手を伸ばした。

「おい、ちょっと待てって! アンタ達一体……」
「何れ、また会いましょう。その時は、《《久し振りに》》じっくり話しましょう」

 その言葉を最後にサンジェルマン達は姿を消してしまった。

 後に残されたのは、破壊された飛行場と颯人達のみ。

 その中で颯人は、先程までサンジェルマンが居た場所に向け伸ばした手をそのまま自分の顎へと持って行った。

「久し振り? また会おう? ん~……」

 何かを思い出せそうで思い出せないもどかしさ。まるで何かが喉奥に引っ掛かったような気持ち悪さを抱えつつ、一先ず事態が収束した事を弦十郎に伝えるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第155話でした。

実はこの話で、レギオンは早速颯人のアンダーワールドに潜り込んで暴れてもらったりしようかとも思っていたのですが、まだ序盤も序盤にそれは展開を飛ばし過ぎかと思い急遽取り止めにしました。AXZ編もまだまだ先が長いですからね。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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