イベリス
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第百話 夏の終わりその十一
「そういうことよ」
「そうなの、欲も必要なのね」
「まあ欲に溺れたら」
その場合もだ、母は話した。
「よくないけれどね」
「持ってもいいけれど欲は駄目ね」
「そうよ」
それはというのだ。
「あくまでね」
「そうなのね」
「お金儲けでも何でもね」
「溺れたら駄目なのね」
「金色夜叉っていうでしょ」
咲に尾崎紅葉の代表作の名前を出して述べた。
「あれどういう意味か咲は知ってるかしら」
「確かお金の亡者って意味よね」
咲はすぐに答えた。
「そうよね」
「そう、それはね」
「そうした意味よね」
「そうよ、あの主人公は色々あってね」
この辺りのことは銅像にもなっている。
「お金の亡者になるけれど」
「亡者っていうからには溺れているかもね」
「そうなったらもうね」
「駄目なのね」
「どうしてお金が必要なのか」
咲に真顔で話した。
「このこともちゃんとわかっておかないと」
「溺れて」
「間違えるのよ」
「そうなるの」
「そう、お金はね」
あくまでというのだ。
「必要なだけよ」
「あればいいのね」
「財産があっても」
それでもというのだ。
「子孫に残すなら兎も角もうひたすら貯め込む様な」
「どう考えても何代も使いきれない様な」
「そこまでのお金を貯め込んで」
そうしてというのだ。
「使わないでどんどん貯め込むとなるとね」
「お金儲けに溺れてるのね」
「そうなったらお金儲けは何の為か」
「もうお金儲け自体が目的ね」
「そうなったら何かおかしいでしょ」
「ええ」
咲は母のその言葉に頷いた。
「確かにね」
「他にも溺れるってことは」
「もう目的を忘れて」
「それに血眼になって囚われているってことよ」
「金色夜叉と同じで」
「そう、そうなったらね」
「欲はあるけれど」
人はどうしてもとだ、咲は述べた。
「もう欲に心が支配されている様な」
「そんな風になってよ」
「その欲のまま生きるだけね」
「そうなるわ、これは国家も文明も同じね」
「発展には欲は必要でも」
「それに溺れるとね」
心を囚われると、というのだ。
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