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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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Ⅹ世、目標を見据える。



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Ⅹ世、目標を見据える。

 

「はあっ、はあっ……」

「ほれ、もっとキビキビ走れ!」

「っ、わかってるよ……」

 

 俺は今、リボーンにムチで叩かれながらロードワークに励んでいる。

 なぜそんな事をしているのか。その理由は、1時間前に遡る。

 

 —— 1時間前 ——

 

「……ただいま〜」

「おうツナ。どうした? 萎びたナスみたいな顔しやがって」

 

 茶柱先生によるCPの説明があった後、1日中クラス内の雰囲気は重いままだった。お調子者の池君や山内君さえも全くふざける事が無かったくらいだ。

 

 1日そんな空気で過ごしたからか、放課後にはすっかり疲れ果ててしまっていたのだ。

 

「……実はさ、PPの振り込みが0だった事についての説明があったんだけど」

「ほう」

 

 リボーンに茶柱先生に言われた事を説明すると、なぜかリボーンは嬉しそうな顔になっていた。

 

「おい、なんで嬉しそうなんだよ」

「ふっ、ここからだぞ、ツナ」

「えっ?」

「高度育成高等学校での本当の高校生活は、ここからがスタートだって言ってんだ」

 

 そう言った途端、リボーンの表情が真剣なものに変わった。

 

「……ごくり」

 

 なんだか鬼気迫る迫力があり、思わず唾を飲み込んでしまう。

 

「……ツナ、お前をこの高校に入れたのはな。ここでしか経験できない事が沢山あるからだ」

「ここでしか……経験できない事?」

 

 おうむ返しをしてしまう俺に、リボーンはただ頷く。

 

「そうだ。詳しくは言わないが、これからお前は様々な困難に直面するだろう。普通の高校生活ではまず起こり得ない困難にな」

「う、うん」

「そしてだ。マフィアのボスってのは、ファミリーに訪れる全ての出来事に対して、適切な判断や決断を素早くしなきゃならねぇ。時にはファミリーの生死を左右する決断をすぐにしなきゃいけない時もある。そんな時、誰かに相談とかしてる様ではボス失格だ」

「……」

「だからな? これからの3年間で、お前には俺が手助けせずとも、お前の考えでファミリーを導いていける男になってもらわねぇといけねぇ」

「……うん」

「その為に……明日から高校を卒業するまで。もう俺の方から指示や助言はしないことにする」

「ええっ!?」

 

 え? それってどういう事? もうアドバイスとかしてもらえないってことなの?

 

「……家庭教師かてきょーもやめるって事?」

 

 俺の質問にリボーンは首を横に振る。

 

「いや。お前が俺に指導を求めること、もしくはアドバイスを求めることは認める。ただし、俺の指導や助言が必要な理由をお前がきちんと説明できたらだけどな。ただ教えて欲しい……とかだったら俺は拒否するぞ」 

 

 リボーンの真剣な表情が、これは全て本気で言っていることが伝わってくる。

 ということは、もう他に選べる選択肢はないってことだ。

 

 俺に許されるのは、受け入れる事だけだ。

 

「……そっか。わかったよ。実力至上主義のこの学校で、俺の実力、俺の考えでAクラストップまで登り詰めてみろ……って事なんだな?」

 

 そう聞くと、リボーンがニィっと笑った。そして、指を2本立てて俺に突きつけた。

 

「覚悟は決めたな? なら、卒業までの3年間の間に成し遂げねばならない課題を2つ与えるぞ」

「……課題? DクラスをAクラスに昇格させる事?」

「そう、それが1つだ。もう1つはAクラスに上がってからじゃないとできねぇだろう」

「……どんな課題?」

 

 少しの間を開け、満を時した感じでリボーンの口が開かれる。

 

「Aクラスだけでなく、他の3クラス全てをまとめ上げろ。そして学年全体のリーダー……いや、ボスになれ」

「……は?」

 

 リボーンに課された課題はとんでもないものだった。最終的に全クラスをまとめ上げて、更に全クラスのボスになれ?

 

「いや、この学校の評価はクラス毎で決まるんだぞ! 俺がAクラスになったら、他の3クラスは全て追い落とされる事になる訳で……自分のクラスを追い落としたのがドベのDクラスってなれば、不満こそ溜まっても協力なんてしてくれるかよ!」

「別に協力してもらえなんて言ってねぇぞ。とにかく全クラスを、お前というボスの元にまとめ上げろって言ってんだ」

「はぁ!? 同じだろ?」

「同じじゃねぇよ。それにだ、お前はイタリア最大のマフィアで10,000の傘下ファミリーを従えるボンゴレファミリーのボスになるんだぞ? 高校の同級生くらいまとめ上げられなくてどうすんだ」

 

 そう言うと、戸惑ったままの俺を置き去りに、リボーンは居抜き空間に入っていった。

 

(なんて無茶な課題だよ。……ん?)

 

 引っ込んだと思っていたら、リボーンはアタッシュケースを持って居抜き空間から出てきた。

 

「よっと」

 

 リボーンは勉強デスクにアタッシュケースを置くと、開いて中を見せてきた。中にはリボーンのスーツ、そして何やらキャンディのような玉が詰められた容器、そして小さめの箱が入っている。

 

 キャンディのような物には見覚えがあった。

 

(……死ぬ気丸、だよな)

 

 リボーンは今着ているスーツを脱ぎ、ケースの中のスーツに着替える。

 

 全く同じスーツじゃん。と思っていたら、リボーンがスーツを着用し終えた途端に異変が起きた。

 

「! 消えた!?」

 

 そう、リボーンが消えたのである!

 

「消えてねぇぞ」

「わっ!?」

 

 リボーンの声が聞こえた途端、急にハットを外したリボーンが現れた。

 

「このスーツは特殊なレンズを通さないと着用した者の姿を見えなくしてしまう、いわゆるスニーキングスーツなんだ」

「……なんでそんなもんを?」

「ふっ、俺も街を出歩きたくてな」

 

 そう言うと、リボーンはアタッシュケースの中の小さめの箱を取り出して俺に手渡した。

 

 受け取った箱を開いてみると、中にはコンタクトレンズが入っていた。

 

「……コンタクト?」

「そうだ。スパナに作ってもらった新型でな。それを付けるとスニーキングスーツを着た者も視認する事ができる」

「へぇ。スパナが?」

「ああ、今付けてみろ」

「う、うん」

 

 ケースからコンタクトレンズを取り出して両眼に装着する。未来で初めて付けて以降、何度も付けているから手慣れたものである。

 

「付けたな? ほら、今度は見えるだろ?」

「! うん、はっきり見えるよ」

「そのコンタクトレンズはいつも付けとけ。毎日手入れするのを忘れんなよ」

 

 なんだか眼科医みたいな事をリボーンに言われたけど、コンタクトレンズの手入れについても手慣れたものだから大丈夫だろう。

 

 その後、リボーンは残っていたキャンディケースを取り出した。

 

「さすがに、これが何かは分かるよな?」

「うん、死ぬ気丸だろ?」

「そうだ。だが、これは今までの死ぬ気丸とは別物だがな」

「別物?」

 

 リボーンは死ぬ気丸を一粒取り出し、説明を始めた。

 

「これは『小言丸こごとがん』という。死ぬ気丸は錠剤の死ぬ気弾だが、小言丸は錠剤の小言弾だ。よって、一錠で超ハイパー死ぬ気モードになれるわけだ」

 

 リボーンはそこで説明を区切り、俺に一錠飲む様に促した。

 

 ——ごくん。

 

 小言丸を飲み込み、超ハイパー死ぬ気モードに突入する。

 

「……どうだ?」

「? どうだとは?」

 

 質問の意味が分からずに思わず聞き返してしまう。

 

「今までの超ハイパー死ぬ気モードと比べて、どうだ?」

「……普段と変わらない。いや、どこか違う気もするが」

 

 そう返すと、リボーンに鏡をみる様に言われた為、洗面器に設置された鏡を見に行った。

 

 すると……

 

「! 死ぬ気の炎が出ていない?」

「そうだ。それが小言丸の特殊効果だ」

「……特殊効果?」

 

 リビングに戻り、リボーンに説明をしてもらう。

 

「小言丸は、一錠で超ハイパー死ぬ気モードになれるわけだが……厳密には今までの様な超ハイパー死ぬ気モードになれてるわけじゃねぇんだ」

「……どういう意味だ?」

「小言丸は小言弾と同じく、静かなる闘志を引き出して内側から全身のリミッターを解除してくれる。しかし、この小言丸は死ぬ気丸の成分も少量含まれていてな? 静かなる闘志の逆である、激しい闘志も同時に呼び起こすんだ。そしてそれがお互いに作用し合う事で、摂取した者の死ぬ気度を減少させてしまう。結果、外されるリミッターが50%程までに限定される。その影響で、死ぬ気の炎が脳天から噴出することを防いでしまうんだ」

「……つまり、今の俺は普段の50%程度の超ハイパー死ぬ気モードってことだな?」

「厳密にはな。名付けるなら、激スーパー死ぬ気モードってとこだな」

 

 激スーパー死ぬ気モードか。体の感覚や頭の冴え方は特に違いは感じないが……どうしてわざわざこんな改良をしたんだ?

 

「改良した理由はなんだ?」

「死ぬ気の炎や特殊弾はボンゴレの秘匿事項。この学校がボンゴレと繋がってる事を知っているマフィアやヤクザがいる事も分かっているからな。万一に備えて隠せる事は隠したいってわけだ」

「……というか、小言丸を使う機会もないんじゃないか?」

 

 俺の疑問に、リボーンは首を横に振る。

 

「いや。春の子分達の調べでは、暴力でクラスメイトを従える奴もいるらしい。戦いを避けて通れない事も起きるだろう。それに少しは鍛えたと言っても、通常のお前では喧嘩慣れしている一般人に超直感の恩恵で辛うじて勝てる程度だろ。この学校には喧嘩だけじゃなく、武道に精通してる奴もいるらしいからな。そんな奴らに勝つためには激スーパー死ぬ気モードになる必要がある」

「なるほどな」

 

 リボーンは少しの間を開けてから話を続けた。

 

「後、他の奴らの為でもある」

「どういう事だ?」

「お前がいつもの様に超ハイパー死ぬ気モードになって戦いをすれば、相手は怪我を免れないだろうからな」

「……そうか」

 

 

 

 

 その後。死ぬ気状態を抜け出した俺を、リボーンは強制的に外へと連れ出した。

 

 

 

 —— マンション前 ——

 

「……なんで外に出たの?」

「俺からツナにしてやる、最後の強制指導だ」

「……何が始まるんだ?」

「もちろん! ロードワークだ!」

「ロードワーク!?」

「そうだ。最後に、俺が考えたツナの肉体強化プログラムを伝授してやるぞ」

「に、肉体強化プログラム!?」

「そうだ。これをやれば、1ヶ月で相当なフィジカルアップが望めるぞ」

「1ヶ月で!? どんだけハードメニューなんだ!?」

「ほれ! まずは敷地内を一周ランニングだ! 走れツナ!」

「敷地内!? 街一つ分ってこと!?」

「そうだ! さっさと走れや!」

「ひぃぃぃぃ〜」

 

 ……てな訳で、冒頭に戻る訳です。

 

 結局。その日は夜遅くまでトレーニングに励んだおかげで、暗い気持ちなんて何処かへ飛んでいってしまった。

 

 これもリボーンからの最後のサポートだったのかもしれないな……

 

 

 

 次の日。トレーニングの疲れで見事に遅刻ギリギリに目覚めてしまった俺。

 

 リボーンが自分から干渉してこない以上、中学時代の様に俺を叩き起こす事もしないようだ。

 

 しかし、ミスや怠慢で起きた失敗に対する制裁は辞めないそうで、起きた途端に蹴り飛ばされてしまったのだった……

 



読んでいただきありがとうございます♪

 
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