姥か火
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第五章
「それでよ」
「お婆さんは姥か火なら納得するのね」
「それならね」
まさにというのだ。
「いいわ」
「そうなのね」
「じゃあね」
老婆はあらためて言った。
「これからは姥か火とね」
「呼んでいいですか」
「妖怪じゃなくて幽霊と言いたいけれど」
それでもというのだ。
「それならね」
「いいのね」
「ええ、じゃあ私は姥か火ね」
楓に笑顔で言った、そうしてだった。
老婆は二人に別れの言葉を告げてからこう言った。
「今から豊国神社の方に行くわ」
「あっちにですか」
「ここに来たらいつもあちらに顔を出してるのよ」
こう楓に話した。
「いつもね」
「そうなんですか」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「太閤様にね」
「お会いしていますか」
「あの方に挨拶をしないとね」
「礼儀ですね」
「このお城に来たならよ」
「幽霊や妖怪ならですか」
「そうよ、あの方は今は神様になられていて」
豊国神社に祀られてというのだ、日本では人も祀られると神になるのだ。だから神が増える国であるのだ。
「大阪の神様、幽霊、妖怪のね」
「偉いさんですね」
「晴明神社の晴明さんや住吉さんやビリケンさんと並んでなのよ」
そうしてというのだ。
「とても偉い神様だから」
「神様や幽霊や妖怪の人達は、ですか」
「そうしているのよ」
実際にというのだ。
「それで私もね」
「太閤さんのところに行かれるんですね」
「今からね。それじゃあまたね」
笑顔で言ってだった。
老婆は二人に別れの挨拶を告げて豊国神社の方に行った、青白い火がそちらの方に消えて見えなくなるとだった。
グレースは楓にこう言った。
「いや、何かと思ったら」
「妖怪でしたね」
「日本にはああした妖怪もいるのね」
「幽霊と言っていいかも知れないですが」
「まあ妖怪と言ってもね」
「いいですね」
「そうね、しかしここに何か出ても」
大阪城にとだ、グレースは考える顔で述べた。
「大坂の陣とは限らないのね」
「考えてみればそれからも四百年以上の歴史ありますしね」
「大坂の陣からね」
「その間も歴史はありましたし」
大阪城はというのだ。
「天守閣も三代目ですし」
「昭和の最初の頃に建てられたわね」
「その天守閣にも歴史がありますし」
その時に建てられてからというのだ。
「昭和、平成、令和とあった」
「そしてこのお城も四百年の歴史があるから」
「その分人も行き来して暮らしてもきたんで」
「それだけの人の心もあるわね」
「大坂の陣だけじゃないですね」
「そうね、お城の幽霊というとすぐに戦いのことを思い浮かべるけれど」
それでもとだ、グレースは楓に話した。
「それだけじゃないわね」
「他にも色々ありますね」
「そのことも頭に入れて考えないと駄目ね」
「そうですよね」
二人でこんな話をした、そしてだった。
二人はそれぞれの家に帰った、そして次の日は試合があったので試合終了まで球場で働いた。二人は球場を後にした時大阪城の方を見た、そうしてあの老婆のことを思った。
姥か火 完
2023・5・28
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