姥か火
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第四章
「侍女さんとか」
「そうした人なのね」
「お袋さんに仕えていた」
淀殿と俗に言われる彼女にというのだ。
「そうじゃないでしょうか」
「じゃあ戦いで死んだから」
「怨み飲んでるから」
「近寄らない方がいいわね」
「そうですね、鎮める人呼びましょう」
「ああ、そういうのじゃないわよ」
ここでその火に顔がある老婆が言ってきた。
「安心しなさいね」
「そうなんですか」
楓はその老婆に応えた。
「何かって思ったら」
「私は戦いとは関係がないから」
「そういえば口調が現代ですね」
「私は大正生まれだから」
「って結構近いですね」
大坂の陣があった江戸時代初期から見ればとだ、楓は応えた。
「大正って」
「戦争が終わってここでずっと旦那と一緒にたこ焼き屋やってたのよ」
「そうだったんですか」
「今は孫夫婦が上本町でやってるわよ」
そのたこ焼き屋をというのだ。
「屋台じゃなくてお店でね」
「そうですか」
「お家を兼ねてね」
「よくあるお店の形ね」
グレースは大阪に住んでいるのですぐに実感した。
「お家の前がね」
「たこ焼き屋になってますね」
「そうしたお店あるからね」
「大阪には」
「いや、私が旦那とやっていた時は」
老婆は二人に楽しそうに話した。
「ここでやっててね」
「あっ、思い出の場所ですか」
「ここは」
「そう、大阪城を見ながら」
老婆は温かい笑顔で話した。
「毎日頑張っていたのよ」
「それでお亡くなりになっても」
楓はそれでとだ、老婆に言った。何時しか老婆は火ごと二人の前に来ていて世間話の様に話している。
「ここにですか」
「来てるのよ、お墓から出てね」
「そうなんですね」
「いや、しかしね」
「しかし?」
「皆私を見て人魂と呼ばないで」
老婆は今度はこんなことを言った。
「姥か火って呼ぶわ」
「ああ、そうね」
グレースもそれはと応えた。
「そう言えばね」
「今の私は人魂じゃないって」
「今のお婆さんはね」
「はい、姥か火ですね」
楓も言った。
「まさに」
「そうよね」
「妖怪になりますね」
「言うとね」
「私妖怪には詳しくないから」
それでとだ、老婆はまた言った。
「そう言われて変に感じていたけれど」
「変じゃないですよ」
楓は即座に答えた。
「まあ幽霊と妖怪は違いますけれど」
「私は幽霊よね」
「はい、ですがそう呼ばれてもです」
姥か火ともというのだ。
「別に悪い呼び名でもないし」
「そうね、別にね」
老婆もそれはと応えた。
「そうじゃないわね」
「ですから」
「納得することね」
「姥じゃなくて婆だったらね」
グレースは笑って言った。
「お婆さんにしてもね」
「怒っていたわよ」
老婆もそれはと答えた。
「婆火なんてね」
「酷い名前ね」
「姥と婆じゃ全然違うのよ」
「同じ意味でもね」
「日本語はそうだから」
同じ意味でも受ける印象が違うというのだ。
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