魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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AXZ編
第153話:戒めから解放される狂気
パヴァリア光明結社の追手を何とか撒いたガルド達は無事、港に停泊している本部潜水艦に帰還していた。
その発令所、戦闘態勢が解かれ明るさを取り戻したブリッジでは、あおいと朔也による報告が行われていた。
「観測任務より帰還しました」
「ご苦労だった」
「はぁ~、やっぱり本部が一番だ。安心できる」
「さっきは何度死ぬかと思ったか分からないからな」
「あ……その、悪い。さっきは……」
「気にするな、冗談だ」
未だ先程のミスを引き摺っている朔也をガルドが宥め、それをみた弦十郎は小さく息を吐いた。そこに多分の安堵が混じっているのは、きっと気のせいではないだろうと後ろから見ていたマリアは思った。
「だが今夜はまだ眠れそうにないぞ?」
「えぇ、死ぬ思いをして手に入れたデータサンプルもありますしね。さっきの汚名を返上しないと」
何より緊急時になれば寝てもいられない状況など既に慣れっこだ。例え戦闘に出ずとも、彼ら銃後の者達も体力勝負である事に変わりはない。大体にして丸々一晩戦闘が続くようなことがあれば、それをサポートする彼らだって寝ずの番を迫られるのだ。この位で音を上げてなどいられなかった。
「それにつけても、無敵の怪物の出現か……。パヴァリア光明結社を表に引きずり出せたものの、一筋縄ではいかないようだ」
先程ガルド達に襲い掛かった不死身の怪物・ヨナルデパズトーリに関しては、現在その不死身のメカニズムがアルドの手に寄り解析されている。彼女曰く、不死身にも必ず絡繰りはあるとの事で何かしらの抜け道はきっとある筈と言っていたが、今のところどうなるかは分からなかった。
しかし装者達の間に悲壮感は漂っていなかった。
「心配ない……」
「そうデス! ”次”があれば必ず……」
再戦に向けて意気込み新たにする切歌だったが、彼女が口にした”次”という単語に表情を険しくした者が居た。それに気付いたマリアがとがめるような視線を切歌に向けると、切歌も自分の失言に気付いたのか慌てて口を噤んだ。
「ぁ……」
1人沈んだ表情を浮かべたのは了子だった。彼女は未だLiNKERの正式な改良が上手くいっていない事に対して、彼女なりに負い目を感じていた。なまじっか今まで天才だ何だと持て囃されてきただけに、足踏みしている自分の現状が許せないのだろう。言葉に出来ない、やり場のない暗鬱とした思いがタールの様に心の壁に張り付く。
「……ごめんなさいね。まだLiNKERの改良が上手くいかなくて……。また次も、あなた達には大変な思いをさせてしまうけれども」
現在使用しているMODEL.Kの改良型は、改良とは名ばかりに実質殆ど変わっていない。故に長く使い続けてきた奏や成人して体も出来上がっているマリアはともかく、子供の切歌と調には使用後の体調に悪影響をどうしても残してしまう。
その事を了子が悔いると、切歌と調は慌てて彼女を宥めた。
「そ、そんな、大丈夫デスよ! こう見えて頑丈デスし、そんな気にするほどの事は……!」
了子を元気づけようと言葉を紡ぐ切歌であったが、子供に気を遣われていると言う現状が逆に了子を追い詰めていた。何を言っても言い訳にしか思えず、ただ辛そうな目で身を削って戦う少女達を見るしか出来なかった。
そんな彼女に、エルフナインが声を掛けた。
「それは違います、了子さん」
「え?」
「エルフナイン?」
意外な人物が声を上げたと全員の視線がエルフナインに集中する中、彼女は向けられる視線を物ともせず思う事を口に出した。
「了子さんが頑張っている事、僕達皆知ってます! 了子さんが頑張ってくれてるから、皆さんもこうして帰ってこられたんです! だから、えっと……その…………」
言葉を探すエルフナインだったが、半ば勢いで口に出した為か後半は失速し勢いを失った言葉は尻すぼみになって消えてしまった。
勢い良く否定して了子を励ますつもりだったのに、肝心の具体的な部分があやふやになってしまった事が恥ずかしくて顔を赤くして俯いてしまう。最後にはちょっぴり涙を浮かべて上目遣いに了子の顔を見上げると言う形になってしまい、エルフナインは恥ずかしさで死にそうになった。
だが良くも悪くも、エルフナインの発言が場の雰囲気を変えた。マリアはフッと息を吐くと、上目遣いになるエルフナインに近付き彼女の頭を優しく撫でた。
「ふぇ?」
「そうね、エルフナインの言う通りよ。私達はまだ、負けたとは思っていない。誰も悪くないんだから、了子……貴方を責める人は誰も居ないわ」
「マリアちゃん……」
「そうです。私達はまだ、諦めていません」
「ごめんなさいよりも応援が欲しい年頃なのデス!」
マリアに続き、調と切歌も了子の励ましに加わった。自分と比べて大きく歳の離れた子供からまで励まされる事に、先程同様恥ずかしさを覚えたがしかし感じた恥ずかしさは先程とは違っていた。少なくとも、自分の情けなさを責めようと言う気にはなれず、逆にこそばゆさを感じずにはいられない。
「あなた達…………フフッ」
若者を諭す立場に居る筈の自分が逆に諭されているような感覚に、了子は決して悪い気はせず小さく笑みを浮かべるのだった。
***
バルベルデでS.O.N.G.がパヴァリア光明結社と衝突していた頃、何処とも知れぬ城の中では黒衣の魔法使いワイズマンが椅子に座り肘掛けを指先で突きながらメデューサからの報告を聞いていた。
「ご報告します。バルベルデ共和国にて、遂にパヴァリア光明結社が表立った動きを見せ始めました。S.O.N.G.と戦闘に突入し、両者現在は様子を見合っているようです」
「ふ~ん……」
メデューサからの報告を、ワイズマンは特に興味もなさそうに聞いていた。実際、彼はパヴァリア光明結社に対してそこまで大した関心を向けていなかった。
パヴァリア光明結社とジェネシス……一方は錬金術師の組織であり、もう一方は魔法使いの組織。歴史的軋轢が存在する両者は、長い事互いを忌み嫌う様に牽制し合っていた過去がある。
それがここ最近は大きく事情が変わっていた。パヴァリア光明結社はその存在を可能な限りひた隠しにし、世間の裏での暗躍に努めていた。対してジェネシスは、裏で暗躍してきた点は同じだがパヴァリアに比べるとその動きはハッキリとしている。人々を誘拐し、サバトに掛け、そして仲間を増やしてきた。
敵対する組織が大人しい内に、ジェネシスはその勢力を広げようとしていたのだ。
だがフロンティア事変でそれも頓挫する。颯人達魔法使いと奏達装者の活躍により、戦力とする筈だった魔法使いの大半が失われた。そして先の魔法少女事変において、その穴を補填する計画をメデューサが中心となって進めていたにもかかわらずそれも防がれ、ジェネシスはその組織力を大きく削ぎ落されていた。
パヴァリア光明結社の台頭は、そんなジェネシスの現状を鑑みての事なのだろう。それがメデューサの見解であった。
このままだと今度は錬金術師に世界の裏の覇権を握られる事になる。危機感を感じたメデューサは、今後の方針を決めるべく首魁であるワイズマンの元を訪れたのであった。
「ワイズマン様、如何いたしましょう?」
跪いて意見を伺ってくるメデューサに対し、ワイズマンは何も言わず立ち上がった。そしてそのまま無言でメデューサの横を通り過ぎて何処かへと向かう。
何も言わない主に、メデューサは不思議に思いつつその後に続く。階段をどんどん降りて城の地下へと向かい始めた辺りで、彼女は嫌な予感を感じた。
「み、ミスター・ワイズマン? この先は、まさか……」
「クククッ……」
腹心が自分の考えを察した事に気付き、ワイズマンの口から笑い声が零れる。その笑いからメデューサは自分の予想が正しい事を察して、慌ててワイズマンを止めようとした。
「お待ちください、ワイズマン様ッ! ”あれ”を解き放つのは非常に危険ですッ!? ワイズマン様にすら牙をむきかねないのですよッ!?」
メデューサが幾ら言ってもワイズマンは聞き入れる様子を見せず、城の地下のさらに奥のところまで向かって行った。次第に整備されていない岩肌剥き出しの洞窟の中を、壁に点々と存在する松明の灯りだけを頼りに進んでいく。
そうして2人が辿り着いた先に居たのは、壁から伸びた鎖で両手を繋がれた1人の男だった。顔には布が被せられており顔は見えず、来ている衣服もボロボロでみすぼらしい。囚人と言う言葉を使う事すら躊躇われる様な囚われた男を前に、ワイズマンは静かに右手の指輪を着け替えハンドオーサーに翳した。
もうメデューサはそれを見ているしかしなかった。
〈リリース、ナーウ〉
ワイズマンの魔法が発動すると、即座に男を縛り付けている鎖が消え去った。自由を手にした男は、布を被ったまま束縛を外された自分の両手を見て歓喜する様に身を震わせ…………
「お……おぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
その姿を鳥か蜥蜴の様な姿の怪人・レギオンファントムへと変じさせると、その手に双刃の薙刀を持ちワイズマンに襲い掛かった。
勿論それを黙って見過ごすメデューサではない。
「ワイズマン様ッ!!」
〈チェンジ、ナーウ〉
メデューサはメイジに変身すると、杖を取り出しレギオンファントムの攻撃を正面から受け止めた。だが力比べではファントムの方に分があるのか、メデューサは目に見えて押されていた。
「ぐ、くぅ……!?」
「邪魔だ」
「ぐあっ!?」
それでも何とか堪えていたメデューサだったが、レギオンファントムは攻撃を受け止めるのに必死の彼女を腕の一振りで吹き飛ばし壁に叩き付けてしまった。
その一撃で動けなくなったメデューサを一瞥したレギオンファントムは、彼女から興味を無くすと狙いをワイズマンに切り替え薙刀を振り上げる。
「よ、止せ……!?」
メデューサの声も届かず、レギオンファントムの薙刀はワイズマンに振り下ろされ…………
「ん……?」
刃がワイズマンに触れそうになる直前、レギオンファントムは薙刀を振り下ろすのを止めた。そして何かを伺う様にワイズマンを観察し、そして唐突に薙刀をそのまま下ろした。
「お前は…………」
「おはよう、レギオン。長い地下生活にも飽きただろう? 偶には外に出て散歩でもしてきたらどうだ?」
そう言うとワイズマンは懐から1枚の写真を取り出した。レギオンファントムは人間の姿に戻ると、見せられた写真を手に取りそれに写った人物をまじまじと眺めた。
「コイツは…………」
「お前は確か、美しいものを破壊するのが好きだったよな? 私の見立てではこいつはお前が満足するに足りるものだと思うのだが……どうかね?」
「むぅ…………」
「それと、例のパヴァリア光明結社が再び動き出した」
「ほぉ?」
見せられた写真と、パヴァリア光明結社の活動活性化にレギオンファントムだった男はあからさまな興味を示した。写真から顔を上げワイズマンを見る目には、狂気と好奇が入り乱れた光を宿している。
レギオンファントムは渡された写真を懐に仕舞う。その目には暗く淀んだ光が宿っている。それを常人が見れば足が竦み腰が抜けそうなほど危険な雰囲気を身に纏っているが、ワイズマンは全く気にした様子を見せない。
「それで? 俺を解き放って、お前に何のメリットがある?」
それはメデューサも気になっていた事だ。魔法使いの中にはファントムと化してからもワイズマンに忠誠を誓う者が居るが、このレギオンは誰の言う事も聞かず力の赴くままに暴れる狂犬でしかなかった。本来であれば役立たずと始末されるのだが、コイツはその力の強さから封印するだけで精一杯だった。メデューサはそう認識している。
言う事を聞かず暴れるだけの厄介者を何故ワイズマンは自由にするのか? その理由が分からず首を傾げるメデューサとレギオンファントムに対し、ワイズマンが口にした答えは酷く単純なモノであった。
「面白いじゃないか」
「……は?」
「え?」
面白い……たったそれだけの理由でワイズマンは厄介な狂犬であるレギオンファントムの戒めを解き放ち、野に放とうとしているのだ。傍から聞いていたメデューサのみならず、当の本人であるレギオンファントムですら一瞬理解が及ばなかったのか口をポカンと開けている。
だがそれも一瞬の事で、次の瞬間には大口を開けて笑い声をあげていた。
「ハッ母ハハハハハハハハハッ!!」
笑いながらレギオンファントムは怪人の姿になると、そのまま走って洞窟から出て行ってしまった。その後ろ姿をワイズマンは黙って見送る。
「ワイズマン様ッ!?」
漸く回復したメデューサは、ワイズマンの身に傷などが無い事を確認して安堵しつつ何故こんな事をしたのかと彼を問い詰めた。
「本当に宜しかったのですか? 奴を外に出せば、見境なく暴れて……」
「それが良いんじゃないか。そうすれば、S.O.N.G.の連中も嫌でも動く。それに、理想を追い求めるだけの甘ちゃんのパヴァリアの幹部も放ってはおかないだろうよ」
そうするとどうなるか? 答えは単純、レギオンファントムとS.O.N.G.、そしてパヴァリア光明結社による三つ巴の戦いの始まりだ。
その戦いの中で、どれか一つは必ず倒れてくれる。出来れば勝者が一つになってくれた方が面倒がないが、仮に二つ生き残ったとしてもどちらか片方はきっと大きく消耗している筈。
そこを横から突っつき、残った一つを全力で始末してしまえば…………
「なるほど、一気に邪魔者を始末できると言う訳ですね」
敵対してきたS.O.N.G.に因縁のあるパヴァリア光明結社は勿論、言う事を聞かず暴れるだけのレギオンファントムもジェネシスと言う組織からすれば邪魔な存在だ。邪魔者が互いに潰し合い、消耗し合ってくれるのであれば、これ以上いい事は無い。
そう結論付けたメデューサは、改めてワイズマンに畏怖と敬意を払い頭を下げた。対するワイズマンは、腹心からの敬意に応える事無く踵を返した。
ジェネシスが拠点としている名も無き城から出たレギオンファントムは、その姿を人間に戻すと改めてワイズマンから渡された写真を眺めそして歪んだ笑みを浮かべた。
「フフフッ……見せてくれ、お前の美しさを……!」
その写真に写っているのは、難民の子供達に手品を見せて楽しませている颯人の姿だった。
それを見てレギオンファントムは、狂気を含んだ笑みを更に深めるのだった。
***
捕縛した軍人達の移送を緒川他現地のスタッフに任せた颯人達は、本部へと帰還すべく軽トラックに乗って移動していた。
魔法を使えば一瞬ではあるが、まだ完全に予断を許さない状況である以上無暗に魔力を消耗するのは避けたい。その為多少時間は掛かっても、こうして車で移動しているのである。
運転しているのは颯人で、その助手席に座るのは奏。残りの面子は全員荷台に乗っていた。
その移動する軽トラックの雰囲気は、ハッキリ言って重い。誰も何も言わず、エンジンの音と車輪が道の砂利を踏みしめる音だけが響いていた。
そんな中で、口を開いたのは運転している颯人だった。
「なぁ奏……ちょっと愚痴っても良いか?」
「え~?…………と言いたいところだけど、良いよ」
とは言え颯人が言おうとしている内容には大体察しが付く。聞くまでも無い事だったが、吐き出す事で楽になる事もあると奏は颯人の愚痴を聞く事にした。
何よりこの問題に関しては、ちょっと真剣に話し合う必要性を感じていたのだ。
「うちの組織ってのは、あれか? 何かデカい事件が起こる度に人間関係でトラブルを起こさずにはいられないっつう呪いにでも掛かってるのか?」
「え~っと……ルナアタックの響と未来、フロンティアのアタシと颯人に響、未来、切歌、調。そんでこの間の魔法少女事変の時の響の親子関係に加えて切歌と調にクリス…………ホントだ、事ある毎に身内でトラブル起こってるね」
改めて考えてみると、目の前で対処しなければ問題が山積みと言う状況にも関わらず身内での厄介事まで抱えて事件を解決してきたのだと思うと、思わず乾いた笑いを零さずにはいられない。
しかし笑ってばかりもいられない。このままクリスと透が不仲になってしまっては困るのだ。連携が崩れるだけでなく、周りの雰囲気も悪くなる。そして雰囲気が悪くなると、それに引きずられる形で他の者達も普段のポテンシャルが発揮できなくなってしまう。それがさらに負の連鎖を巻き起こし、目の前の事件すら解決できなくなってしまう可能性があった。
故にこの問題は早急に解決し、2人の不仲を解消させなければならないのだが…………
「颯人~、何とかならない?」
「俺が手品見せて2人を楽しませてなんとかなるなら幾らでも見せてやるんだがねぇ。こればっかりは……」
今回の件で何よりも予想外だったのは、透の誰に対しても向けられている優しさが仇となってしまった事だ。クリスにとっては憎い相手でも、透は必死に守ろうとした。それが納得できず信じられず、結果2人の間に大きな溝を作ってしまったのである。
この関係を修復するのは容易ではないと、颯人はハンドルを握りながら大きく溜め息を吐かずにはいられなかった。その溜め息で運転席の空気はさらに重くなる。
だが運転席の空気の重さはまだマシな方だ。荷台に乗っている響と翼は、その異常なまでの居心地の悪さに息をする事も躊躇われた。
「(翼さん……どうします?)」
「(私に聞かないでよ……どうしようったって、どうしようもないでしょう)」
軽トラックが走る音にかき消されそうになりながらも小声で話す2人の前には、透とクリスの2人が座っている。だが普段であれば寄り添い合って座っている筈の2人の間には、2人を知る者達からすればあり得ない程大きな隙間が空いていた。
その内の片方、クリスの方を見れば、目元にはまだ泣き腫らした涙の痕が残っており目も少し赤い。クリスはその顔を透に見せないように……或いは透の顔を見ないようにしているかのようにそっぽを向いている。
透はそんな彼女に、躊躇いながらもを手を伸ばそうとしては引っ込めるを繰り返している。時折首に手を当てて口を開けているのは、もしかすると声を出そうとしているのかもしれない。
そんな時、軽トラックが大きめの石を踏むかしたのか荷台が大きく揺れた。振り落とされるほどの大きな揺れではなかったが、僅かにバランスを崩し手を荷台の床についてバランスを取ろうとしてしまうくらいには揺れた。
クリスも例外ではなく、倒れそうになる体を支える為手を伸ばした。そのお陰でクリスの手が透に近付いた。
「……」
今なら手を取れるかもしれない。そう思ったのか、透は手を伸ばしてクリスに触れようとした。
だが彼の手が届く寸前、クリスは逃げるようにサッと手を引っ込め、彼からさらに距離を取ろうと荷台の端に移動してしまった。
「!?…………」
離れていくクリスの姿に、透は息を呑み捨てられた子犬の様な顔をして俯いてしまう。
その光景に響と翼は顔を見合わせると、胃が痛んだような気がして胸の下に手を当てた。
軽トラックは重い空気を乗せてそのまま走り続け、そしてその途中弦十郎からの通信に寄りパヴァリア光明結社が新たな騒動を起こした事を知るのだった。
後書き
という訳で第153話でした。
遂に原作ウィザードでも厄介者だったレギオンが解放されてしまいました。本作のレギオンはほぼほぼ原作と変わらない存在なので、この後何をやらかすかも恐らく簡単に想像できると思います。
颯人達は未だ重い空気のまま。倒すべき敵・解決すべき問題が目の前にあるのに、身内で問題を抱えずにはいられないのは最早物語の主人公の宿命みたいな感じとなってますね。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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