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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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忘れ去られた過去

夢を見ました……
とても悲しい夢を……
どうしようもなく、救いの無い話。小さな子供には――いえ、優しければ優しいほど悲惨な終わり。
どこかの宗教には、このような文句がありました。
「神は人が乗り越えられない試練は出さない」
確かに、正しいのかもしれません。乗り越えられない試練は災害に豹変する。
……あれは、掛け値無しの、地獄だった。
私が見たのは、少年が自分を助けた方と島を出るところまで。その後、彼がどうなったかは判らない。しかし、何故か夢に出てきた男の子と目の前の人物が重なる。
恐らく、この男の目が余りにも似通っているからだろう。しかし、足りない。
若し、あの男が「衛宮切嗣」だとするならば、足りない。最後に見た彼の目は何も写さないガラスだったが、この人の眼は灰色に濁り、まるで世界の不条理に泣き疲れた子供のものだった。
……ああ、成る程。これは、諦めたのでは無い。絶望した者の目だ。

――――――――――――――――――――――――
セシリアと一夏の闘いから一夜が過ぎた翌日
「セシリア!もう大丈夫なのか?」
一夏の目の前には金髪の女性、セシリア・オルコットが立っていた。
「ええ、体の方は問題ありませんわよ。……心配をお掛けしてしまったようですね」
今までの高圧的な態度が嘘のようにセシリアは優しく笑いかけた。
「でも、銃で撃たれたんだぞ。せめて一日位……」
目の前で気丈そうに振る舞うセシリアに一抹の不安を覚える一夏。それと同時に、セシリアを傷付けた人物の顔が思い浮かび顔を曇らせる。
「大丈夫ですわよ……それより、衛宮さんは未だいらっしゃらないのですか?」
教室をぐるっと一望してみたが、探していた人物はいなかった。
昨日の夕方、セシリアの疑問をはぐらかすように切嗣はその場を後にした。

――「悲しい……か。それも間違ってはないかな」――

「私、あの方に謝らないと……酷い誤解をしていました」
心の底から後悔するように、その場に居た人物に告げた。
「……切嗣は未だ来てないぞ」
しか全員の顔色は暗い。ここにいる全員が切嗣への接し方に迷っていた。彼等は見てしまったからだ。無表情に、何の躊躇いもなく、知り合いに引き金を引く衛宮切嗣の姿を……
あまり、彼とは関わりたくは無いというのが大多数の意見だろう。
魔術を知らない彼等からすれば、切嗣の行為は理解できなかった。それは、人として正常な判断。誰だって、いつ自分を裏切るか分からない人と一緒に居たくはない。しかし、
「……本当に、衛宮さんはあれが本来のあり方何でしょうか」
疑問を投げ掛ける人物が居た。
「セシリア……だが、あいつは」
お前を、仲間に銃を向けたんだ……
そう、箒が口の中で言葉を濁らせた。
「分かっています……あの方が何をしたかは、覚えています」
しかし、と言葉を続ける。
「理屈よりも、思い出して下さい。彼と……衛宮さんと過ごした日々を。あのような態度をとっていた私が言っても説得力は無いでしょうが、一夏さん達が一緒に過ごした衛宮さんを……」
「解っている!俺の知っている衛宮切嗣という男は、本当に良いやつだって!だから納得出来ないんだよ……何で事情も話さずに」
セシリアも一夏の言いたい事は良くわかっていた。実際に普段なら彼女も切嗣を理解しようとは思わなかっただろう。だが、彼女は――否、彼女だけは見てしまった。切嗣の夢を、ほんの一部だが夢の続きを……
――この手に担う残酷が、ヒトの極みにあるならば。きっと地上の全ての涙をかき集め、拭い取ることも叶うはず――
故に、信じることにした。彼の在り方を、セシリアとの去り際に流した一筋の涙(嘆き)を。
「それに、一番重要な事を忘れていませんか?」
「重要?」
おうむ返しに答える一夏。
「覚えていませんの?私達を襲ったあの泥ですわよ」
「あ!?」
「泥が、どうかしたのか?」
ここにいる大半がその存在を失念していた。いや、気にも止めていなかった。
……無理もない。離れて見ただけでは唯の泥にしか見えない。しかし、実際に間近で感じた一夏とセシリアなら分かる。あれは唯の土くれなんがではない。もっと別の、この世に在ってはならないものだ。
この際、切嗣の人格など些末な問題だ。あれは一体何なのか?その問題点に全て終着する。
(いずれにせよ、衛宮さんは何か知っているようですし改めて訊いてみますか)



五分後、教室に真耶と千冬が入ってきた。
「みなさ〜ん、そろそろ授業が始まりますので席に着いて下さい」
沈んだ空気に、真耶の明るい声が響いた。教室の時計を見上げれば、もう短針が9に差し掛かろうとしていた。しかし、この時間になっても先程話題に挙がっていた人物は現れなかった。
「あの、山田先生。衛宮君は……?」
クラスの誰かが気になって真耶に聞いてみた。
「あ、その〜、衛宮君は……」
「あいつは今、イギリスだ」
はっきりしない真耶に代わり、千冬が切嗣の所在を告げた。
「イギリスって……どういう事だよ、千冬姉!?」
「織斑先生だ……まぁ、いい。衛宮は何らかの事情が有ったとはいえ、イギリスの代表候補生に銃を向け引き金を引いた。昨日の夜、8.00にイギリス政府に召喚された」
「う、嘘だろ……」
言外の意味するところは、切嗣とはもう会えないかもしれないということだ。
「そんな!あの泥の事は教えたのですか!?少なくとも、私はあの中から助けて頂きました!!幾らなんでも問答無用で……」
思わず語気を荒げるセシリア。イギリス政府だって、彼女を襲った物質の危険性を確認すれば多少は弁論の余地を与える筈だ。しかし、
「残念だが、あの泥はもう無い」
「な!?」
「衛宮がお前を引き摺り出した後、アレは勝手に消滅した。明確な証拠が無い以上、どうすることもできん」
「で、ですが……」
「それにだ」
尚も言いすがろうとするセシリアに、被せるように言葉を続けた。
「遠方から観測した限りだが、あの泥からは人体に有害な物質は確認出来なかった」
「う、嘘ですわよ……だって、あんな……」
あり得ない。あんな醜悪なモノが、人体に有害で無いわけがない。しかし、
「オルコット、お前は今体調に不具合は無いな?」
「それは、衛宮さんが助けてくれたからで」
「だが、事実としてお前は健康体だ。少なくともイギリス政府はそう認識している」
ここに来て、切嗣の治療が裏目にでた。若しセシリアに何らかの後遺症が認められれば、彼らも泥の危険性を過小評価しなかっただろう。だが、切嗣の治療は完璧だった。セシリアに一切の傷はない……彼が魔術的な治療を行う際に付けた腹の傷を除いては。
結果的にイギリス政府は曲解した。唯の泥からセシリアを出した後、彼女を傷付ける凶行に及んだ、と。

状況を理解した一夏や箒、本音やセシリアまで青ざめている。その余りの狼狽ぶりに見かねて、千冬はフォローをいれた。
「……まぁ、あまり気にするな。お前達が考えているよりは、事態は深刻ではない」

その言葉に一夏達のみならず、真耶も目を丸くする。
「あの、織斑先生……どういうことですの?」
「まぁ、席に着け。手短に説明してやる」




――――――――――――――――――――――――
イギリスの首都、ロンドンにて
「…………は?」
使い古したダークスーツに、着古したビジネスコートを身に纏った東洋人の男がいた。美形とは言えないが、落ち着いた顔立ちと渋さとモノ珍しさが手伝って、割りと注目を集めていた。
その男が、近くの公衆電話で話をしていた。
「驚くのも無理は無いが、そういうことだ。もう一度言うぞ、オルコットの件は不問になった。さっさと帰ってこい」
電話の相手は織斑千冬。ロンドンに着いたは良いが、政府関係の出迎えが一切無く、切嗣は近くの公衆電話からIS学園に連絡をとっていた。……とってみたら、在る意味想定外の事態に困惑していた。
「……事情を聞いても?」
その反応は仕方がない。殆ど死を覚悟してロンドンに行き、いざ着いてみたら全て解決してました……どこの笑い話他だ?という話だ。
「……篠ノ之束、と言えば解るか?」
「……?……はぁ……成る程。厄介なのに目をつけられていたということか」
「そういう事だ」
学園に入る前、切嗣はかの女性と会っていた。その時のやり取りは……
――――――――――――――――――――――――
「へ〜、君が二人目か?君のIS見せて」
「……何これ、プロテクトが複雑過ぎてバラすどころか解析すら出来ない」

「君とそのコア凄く面白いね。うん、お姉さん興味持っちゃった」

――――――――――――――――――――――――
……正直長すぎるので非常に簡単に書くと上記のような感じだった。
「結局、束がお前の保証人になり、日本政府が多額の保証金と賠償金を積んで解決した」
……まぁ今回はその「厄介」な相手に目をつけられていて助かったのだが、束といい、麻婆といい何故厄介な奴に目をつけられるのか……
「そういう訳だ、さっさと帰ってこ……待て」
帰ってこいと言おうとした瞬間、一夏の顔が浮かんだ。果たして、今弟と会わせるのは吉なのか?いや、セシリアやクラスの友人達と。その事を察したのか、切嗣も黙り込む。
「……予定変更だ。衛宮、2週間程フランスに行ってこい。丁度、フランスからも編入生が来る予定だ。話は此方の方で着けておく。学業を怠るなよ」
そういうと千冬は一方的に電話を切った。
あれの勉強の進捗状況は悪くない。2週間程度なら、自主さえやっていたら問題ないだろう。
……どちらにせよ、子供には時間が必要だ。自分の在り方を見つめ直す時間が。こればかりは学校で勉強したからといってどうこうなる話では無い。学業を疎かにしろとは言わないが、その他の事を蔑ろにしろとも言わない。嘗て、仕方が無かったとはいえ、流れで自分の在り方を疑問を挟む余地無く決定してしまった千冬だからこそ、切実に思う。
「私も甘くなったものだ」
……気付かないのか?甘くなったのではない。自分の優しさを自覚していなかっただけだということを。優しく無ければ、教師など続けていられないということを。

side 切嗣
一方的にきられた電話を、返す。
(厳しい……か。それも間違いじゃない。厳しさと優しさは決して別物では無い)
彼女と出会った最初を思い出す。
厳しいのでは無い。優しいからこそ、厳しいのだ。切嗣とは出発点が同じでも、たどり着いた所が違う。
優しいからこそ残酷になった。
「……フランスか」
前の世界でも行った事は殆ど無い。
観光に興じるつもりは無いが興味が一切無いわけでは無い。ただ、
(……アイリと行きたかったな)
心残りが在るとすれば、そのくらいだ。
身を翻すと、切嗣は公衆電話を後にした。
………近い未来、彼は出会うだろう。理想に破れた正義の味方の理解者(味方)に。邂逅の時は近い。

――――――――――――――――――――――――
以下おまけ
「ねぇ、オリムー」
「ん?どうしたんだ、のほほんさん?」
「セシリアに負けたからクラスのみんなにパフェ奢って〜」
「……え゛?」
(よく解らない人は「彼女が信じたもの」を読んでね)
教訓、口は災いのもと。


――――
「織斑。再発行してやった参考書の方は憶え終わっただろうな」
「……あ゛」
教訓、日々の積み重ねがry 
 

 
後書き
すいません。何とか話の整合性をただそうとしたら、何かこじんまりしたモノになってしまいました。今回の出来は余り良くは無いと思うので、ダメな点が有れば指摘して下さい。
自作は、少し切嗣とシャルル(シャルロット?)視点を中心に書く予定なので、学園から中心軸がずれます。 
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