俺屍からネギま
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
俺の屍を越えてゆけ
かつて平安の頃京の都は「朱点童子」を頭目とする鬼の襲撃により、京の都は衰退の一途を辿っていた。
都は荒れた…多くの家屋が倒され、潰され、消えていった…。
都は荒れた…多くの人が殺され、穢されて、亡くなっていった…。
しかし、人々はただ攻撃を受ける訳では無い…。
京の都は…時の帝は…軍を動かした。
人々は安堵した「これでもう大丈夫だ」、「もう安心だ」…当時、帝の軍といえば精鋭揃い言われていて盗賊風情は勿論、他国の軍ですら圧倒していた。
しかし、
誰一人として帰って来る者は居なかった。
誰もが朱点童子打倒を願うなか、朱点童子の居城・朱点閣に辿り着いた一組の男女がいた。
源太とお輪
朱点童子に戦いを挑んだ2人だが、源太は朱点の卑劣な罠の前に倒れ、お輪は人質に取られた子供の命と引き替えに囚われの身になってしまう。
この時、朱点童子に種絶の呪いと短命の呪いを子供に刻んで解放した…。
この時の子供に先程には無かった額に痣の様なものが出現していた。
種絶の呪い
それは人との間に子供を儲ける事が出来なくなる。
短命の呪い
それは異常な成長により生後僅かに2年間しか生きる事が出来なくなる。
一方で、地上の様子を見て神々は憂いていた。何故ならこの赤子こそ朱点童子討伐の為に、神が産ませたのだ。神が産ませたとは、可笑しな話しと思うかも知れない。赤子は源太とお輪の子だ、それは間違いない。だが源太は武家の家系ではあるが、しかしお輪は違う。世間的には、巫女として知られているがその正体は、朱点童子の母は神が一席を担っていた“片羽のお業”の双子の妹である。朱点童子は片羽のお業と人間との間に出来た子であったのだ。
古来より…人間と神との間に出来た子は、異端にして強大な力を持つとされ禁忌とされていた。朱点童子も例外では無く、強大な力を持って産まれてしまった。
神の子が鬼の王になったのは幾つかの理由があるが、大きなものを言えば《神と人間への絶望》その一言に尽きる。
悪鬼羅刹の道を歩き続けるの止める為に片羽のお業の妹・お輪が叔母として責任を果たす為に討伐を志願したのだ。神の一席でもあったお輪でも、朱点童子を倒すのは困難とみた神々は朱点童子と同じく人との間に子を儲ける事で、莫大な力を持たせ朱点童子を討伐させようと考えたのだ。
しかしお輪は母として、自身の子供を争いに巻き込む事が出来ず、夫・源太と共に自分達で朱点童子を討伐しようと決めたのだった。
その思いも無になってしまったが…………。
一方神々は呪いをかけられた源太とお輪の子供に力を貸すことを決めていた。
人との間に子供が儲けられないならばと神々との間に子を儲ける交神の儀により、血を残す事を許したのだ。
その後の一族の生き様・死に様はまさに壮絶の一言に過ぎるであろう。
初代当主だけでは朱点童子との闘いを終える事が出来なかった。
何代もの一族郎党が、神々との交神の儀を行ってきた。
見目麗しい神だけでは無い…時には、獣の様な神と交わる事も有った…。
それでも一族の者は闘い続けた…
何代もの当主が…
幾多もの一族郎党が…
闘った…鬼とだけでは無い。自分達の血と宿命にだ…。
幾度も交神の儀を行い…
幾度も当主が代わり…
闘いは壮絶を極め…
多くの血が流れた…
闘いの中…凄絶に死んだ者もいた…
朱点童子を倒せなかった無念を抱えて死んだ者もいた…
皆に後を託し安らかに死んでいった者いた…
愛の為に…一族を去った者もいた…
一度朱点童子を討ったものの…それは更に凶悪な朱点童子の封印を解いただけに過ぎず
更なる闘いが待ち受けていた…
しかし、彼らは怯える事なく……諦める事なく……
一族の者は新たな朱点童子に挑み続けた!!
ーーーーーーーー
そして時は過ぎ………
場所は
魔の巣窟 “地獄巡り”
ここに、長きに渡る一族の因縁を断ち切る為に…最後の闘いに赴いた一族における歴代最高峰とも言われる4人の兵(つわもの)達……
対するは……
「全く厄介な力をつけてきたもんだよ。君たちのご先祖様の頃には信じられない。こんな事になるんだったら赤子の時に素直に殺しておくんだった。」
力が尽きかけながらも、軽口を叩く異形の怪物
この者は……
初代当主の母にして、朱点童子に囚われの身囚われの身となった“お輪”をその身に宿し…
時には一族の案内人にして…
最高神 太照天昼子の弟にして…
一族の宿敵……
朱点童子…いや、“阿修羅”だった。
傷付き息を切らして片膝をついた異形の怪物と4人の兵(つわもの)が相対している。
4人の兵も傷付き…血を流していた。
五体満足の者は居ない、しかし…その目は沈んではいない。
あの宿敵、朱点いや…阿修羅が目の前 にいるのである。
しかもあと一手で倒せる所まで追い詰めているのだ、先達の思い考えれば此処で倒れる様な事は出来るわけが無い。
それでも、ここまでの激戦でほぼ全ての体力・精神力は底を尽きかけていた。
「ハアハア、当主様…今です。」
ボロボロの薙刀を持って息を切らしながら男は声を出す。
「こっちは無理だ決めてくれ、当主」
矢がなくなり、弓の弦も切れては戦えないと疲労困憊の中、苦笑いを浮かべながら男は言った。
「お父様…… 」
まだ少女の面影を残しては居るが、強い意志を目に宿し、刃こぼれした刀を弱々しく握りながら祈る様に最愛の父呼ぶ。
3人の兵は、
思い思いに一人の男を見る。
その中、皆が注目する中で壮年の男が前に出て来た。
その壮年の男こそ、当代の当主である。
「長かった…本当に長かった…。此処に来るまで、多くの者が死んでいった。朱点童子…お前を倒す為にだ。…………お前の身に何が有ったか…お前が何を見てきたか…それは今までお前が先祖たちに語って来た事で聞いて知っている。
お前に同情的な者もいたよ。朱点童子は、神と人の愛情と憎悪で産まれたのだと……。道が違ったら我ら一族が朱点童子となっていたとな…。
しかし、それでも俺はお前を斬る。一族の為に…死んでいった人たちの為にな。
さらばだ………黄川人(きつと)…………。
今度会ったら…皆で酒でものもう。
いつか…きっと…… 」
黄川人………それはかつて朱点童子になる前に名乗っていた名前だった。
産んでくれた母が…
育ててくれた人間が…
助けてくれた神が…
大好きだった姉が…
呼んでくれた名前だった。
(ふふっ…そうだね、約束だ。…いつかきっと……
また会えるよね…。姉さん…。)
満足そうな微笑みを浮かべながら、了承したかの様に相手を見つめる阿修羅……
両手で刀をしっかりと握り、頭上まで振り上げ…阿修羅を見つめる…
「ここで一族と朱点童子の因縁を………断ち切る!!」
多くの者達の思いを受け…振り下ろされた刀は……
阿修羅を叩き切った。
ここに、一族の宿願は果たされた。
しかし此れからも一族は闘い続ける。
確かに短命の呪いは消えた、此れからは普通の人と同じ様に成長する事が出来る。
確かに種絶の呪いは消えた、此れからは人間との間に子を儲ける事が出来る様になった。
だが、
朱点童子は居なくなっても鬼や妖が居なくなった訳ではない。
荒れた京の都も一族の尽力により復興してきてはいるが、以前程の栄華ではない。
魔を払い、街を復興させる。
そこに魔が有る限り、魔より悲しむ人がいる限り……彼らは闘い続ける。
鬼の子、呪われし一族、鬼の一族と云われ畏れられた一族
その名は “御陵(みささぎ)一族”
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は遡り、
一族の館にて、
いつもは賑やかさのある館も今日は、静けさが漂っていた。
寝室よりもやや広いある部屋に、館お住人は集まっていた。
その部屋の主人である男は、顔色が悪く布団の上で横になっている。その男の周りには、その男の面影を持つ三人の男女が…少し離れた所にの格好をしている女性がいた。四人は目に涙を浮かべながら一人の男を見つめる。
この男こそ、源太とお輪の子にして朱点童子に種絶の呪いと短命の呪いを受けた赤子にして、御陵一族 初代当主である。
すでに二代目当主の任命はすんでいる…しかし、まだ死ぬ訳にはいかなかった。
朱点童子討伐への強い意志を託さなければ死ぬ事が出来ない。
自身から始まった呪いと宿命を……当主を決めるだけではすませられない。
強い意志を………次代に残せなければ、死ぬには死ねない。
男は四人の顔を見渡し、振り絞る力も無いなか…ただ…執念だけで声を出そうとしていた。
「俺の死を悲しむ暇があるなら、
一歩でも前へ行け…
決して振り向くな …
子供達よ………俺の屍を越えてゆけっ!!」
言い切った男は、心残りは無いといった様なすっきりした顔で……亡くなった。
此れが初代・御陵 陣の遺言であり、この言葉があったからこそ御陵一族は最後まで諦める事なく朱点童子に挑み続ける事が出来たのだと、後に一族を陰日向に支えた女性“イツ花”は語っている。
ページ上へ戻る