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イベリス

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第九十七話 東京のお盆その七

「本当にね」
「そうした気持ちになるから」
「だからね」
 それでというのだ。
「咲もね」
「自殺はしないことね」
「そして自殺しそうな人にはね」
「自殺しない様になの」
「お父さんの言う通り逃げることも」
 このこともというのだ。
「大事なのよ」
「大切な決断ね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「生きてこそだから」
「人間は」
「それで何でも出来るから」
「助かることも」
「自殺して助かる筈ないでしょ」
「むしろ助からずに」
「最悪の結果よ」
 それになっているというのだ。
「だからね」
「まずはなのね」
「生きてこそだから」
「自殺だけはしないことね」
「咲もね、生きているとどうしても辛いこと苦しいことがあるわよ」
「そう言われてるわね」
「悲しいことだってね、鬱になったりもするけれど」
 それでもというのだ。
「生きていてこそだから」
「自殺しないで生きる」
「そうよ、絶望しても一時で」
 その時のことでというのだ。
「またね」
「立ち直れるのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「生きることが一番大事よ」
「ベートーベンは耳が聞こえなくなったな」
 父はここでこの偉大な音楽家の名前を出した、彼の耳のことはよく知られているが梅毒が原因だったという。
「それで自殺も考えたがな」
「自殺しなくて」
「それで数多くの名作を残せたな」
「そうよね」
「色々あった人だが」
 その人生の中でだ、失恋もあれば父との確執もあり養子に迎えた甥に過剰に介入したりもしている。
「それでも生きてな」
「沢山の名曲を残せたわね」
「この人も自殺していたら」
 当初考えた様にだ。
「あれだけの名作をな」
「残せなかったわね」
「そうだった」 
 絶対にというのだ。
「もうな」
「ベートーベンも生きてこそだったのね」
「そうだったんだ」
「じゃあ私も自殺はしないわ、何があっても」
 咲は強い声で両親にも自分にも誓った。
「それでね」
「やっていくな」
「生きていくわ」
「そうしてくれ」
「お母さんもそう言うわ」
 二人で娘に言った、そしてだった。
 咲は父の実家で行われる法事に行った、そこでは父方の親戚が集まっていて愛もいたがその顔触れを見てだ。
 咲は愛にだ、笑って話した。
「皆東京ばかりね」
「うちの親戚皆東京暮らしなのよね」
 愛も笑って応えた。 
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