イベリス
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第九十七話 東京のお盆その六
「絶対に」
「誰だってな、そんな状況を前にしたらどうだ」
「逃げるしかないのね」
「自分ではどうにもならない状況はな」
「逃げることね」
「いじめでも同じだ、仕事や家庭で悩んでも」
そうした状況でもというのだ。
「逃げることもな」
「大事ね」
「どうしようもないならな」
自分一人でというのだ。
「それならな」
「逃げて」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「まずはやり過ごすことだ、やり過ごしてな」
「どうにかなる時を待つの」
「死ぬよりましだろ」
自殺よりもというのだ。
「それならな」
「逃げることね」
「そうだ、兎に角自殺はな」
これはというのだ。
「しないことだ」
「何があっても」
「残された人がどれだけ無念に思って残念に思ってな」
苦い顔で言うのだった。
「悲しくもな」
「思うから」
「生きることだ、本当に逃げてもいいんだ」
またこう言うのだった。
「それは恥じゃない、逃げることも決断だ」
「いい決断?」
「自殺するよりずっといいからな、それに決断を下すにもな」
それにもというのだ。
「勇気が必要だな」
「そうね、ゲームでも新しい装備にしようと思ったら」
「それまでの装備を捨てたり売る決断だな」
「それが必要だしね」
「勇気がいるな」
「些細なことだけれどね」
「そうだ、本当に何かを決めるにはな」
父は娘のゲームから話したことを否定せずに話した。
「勇気が必要だからな」
「逃げるという決断を下してもなのね」
「いいんだ、それをしないで」
それでというのだ。
「自殺するのはな」
「最悪の行為なのね」
「だから咲は自殺をするんじゃない」
絶対にという言葉だった。
「お父さんもお母さんも愛ちゃんもいるな」
「うん、クラスメイトでも仲のいい娘いるし」
咲も答えて話した。
「部活でもね」
「そうした人がいるな」
「ええ、店長さんもね」
咲は自然と速水のことも話した。
「そうした人達のことも考えて」
「自殺だけはするんじゃないぞ、何があっても生きることだ」
「大事なことは」
「そのことは忘れないで欲しいんだ」
「お父さんとしては」
「お母さんもよ」
母も言ってきた。
「自殺だけはね」
「お母さんもそう言うのね」
「そうよ、本当にね」
まさにというのだ。
「自殺がどれだけ苦しいものか知ってるつもりだから」
「残された人が」
「そうよ、苦しくて辛くて」
「悲しくて」
「ずっとその人のことを思い出すと」
その時はというのだ。
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