イベリス
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第九十六話 お盆になりその三
「だからね」
「その心配はいらないのね」
「そう、それで定期を使って行き来できるなら」
「もう余分なお金いらないわね」
「それで里帰り出来るなんて」
それはというのだ。
「こんないいことないでしょ」
「そうね」
咲もここまで聞いて頷いた。
「子供の頃田舎に里帰りってね」
「憧れたの」
「そうだったけれど」
それでもとだ、咲は母に話した。
「今お母さんと時間とお金のお話したら」
「そうだって思えたでしょ」
「そうね、日帰りならね」
まさにというのだ。
「すぐにお祖父ちゃんお祖母ちゃんに会えて」
「運賃もかからないならね」
「いいわね、田舎だけの食べものを食べるとかも」
「今はそういうのないでしょ」
「何処でも何でも食べられるしね」
咲はまた答えた。
「各地の名物ね」
「今はね」
「お取り寄せとかで」
宅配のそれでというのだ。
「出来るしね」
「そうでしょ」
「特に東京にいたら」
「交通が発達してるでしょ」
「日本全国どころか世界のあちこちの食べものもね」
これもというのだ。
「食べられるからね」
「だからね」
「田舎だけの食べものとかも」
「今はね」
「ないわね」
「そうよ、だからね」
それでと言うのだった。
「田舎へ里帰りとかね」
「しなくていいのね」
「そうよ、まあそれはそれでいいと思うけれど」
母は田舎への里帰り自体は否定しなかった。
「そこが故郷だからね」
「それはいいのね」
「けれど東京だってね」
自分達が今住んでいるこの街もというのだ。
「生まれ育った、それも代々ならね」
「故郷なのね」
「そうよ」
まさにというのだ。
「そうなるのよ」
「そうなのね」
「だから江戸っ子ともいうのよ」
「三代住んだらって言うわね」
「チャキチャキとか言うでしょ」
「葛飾とかね」
所謂下町で代々生まれ育ったというのだ。
「ああしたところにいる人達はね」
「それでわかるでしょ」
「東京も故郷ね」
「そうなのよ、生まれ育ったら」
「そうなるの」
「だから」
それでというのだ。
「咲にとってもよ」
「故郷があって」
「それが東京なのよ」
まさにこの街だというのだ。
「そうなるのよ」
「ううん、じゃあ田舎がないとか悲しがることも」
「全然ないわよ」
全くとだ、母は答えた。
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