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英雄伝説~西風の絶剣~

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第79話 痩せ狼

side:リィン


「……フィー?」


 強い脱力感と共に意識を失った俺はフィーの声が聞こえたような気がして暗い場所で目を覚ました。辺りは熱気がこもっていて肌が濡れている。


「フィー!ラウラ!皆……誰もいないか、皆は何処にいるんだ?」


 俺は辺りの気配を探ってみるが誰もいない、少なくとも魔獣以外の気配は感じなかった。


「……」


 俺は瞳孔を自分の意志で大きくして夜目の状態にする、これは夜での活動も多い猟兵がする特訓によって得たスキルだ。


「仲間は捕まったのか?一度ギルドに戻るべきか……?」


 あの鈴の音は間違いなく俺達の敵が放ったものだ。そうなると結社の執行者、もしくはその仲間の可能性が高い。


 俺がここに倒れていたのは敵の仕業か?その割には武器もあるし装備もなくなっていない、普通なら俺の仲間が俺を庇ってここに匿ってくれたと考えるが……


「……とにかく進もう、まずは状況の確認だ」


 俺は状況を知るために先を進むことにした。


「……この湯気や噴き出している高温の水蒸気を見るに俺達が入ろうとしていた源泉が湧く洞窟の中である可能性が高いな」


 視界が悪いため注意して進むがその途中で俺は自分が今いる場所を予想した。


 だが何故敵は俺を眠らせた後に放置したんだ?仲間と分断した理由は?……考えても分からないな。


 普通の猟兵ならそんな状況になれば捕らえたりその場で殺すものだが……結社はそういう考えで当て嵌めない方が良いのかもしれないな。


 ただでさえ謎の多い組織だ、俺達の想像とは違う目的があるのかもしれない。


 そう思いつつ高温の水蒸気を避けながら奥へ進んでいく。一度引き返して外に出ようとも思ったが水蒸気が道をふさいでしまい出られなかった、これも敵の仕業か?


 そして俺は広い空間に出たのだが……


「なんだこれは?」


 狭い道を進み出たのはところどころに空いた穴から木漏れ日が差し込む広い空間だった。そこにあったのは地面を流れるエネルギーの脈と地面に突き刺さった何かの装置だった。


「まさかこの装置が七耀脈の流れを操って地震を起こしているのか?」
「随分と遅かったじゃねえか」
「ッ!」


 奥の暗闇から何者かが現れた。それは黒いスーツとサングラスをかけた男だった。


「サングラスに黒いスーツ、ツァイスの各地で目撃されたっていう男の特徴に一致してる……お前は結社の人間か?」
「執行者№Ⅷ。『痩せ狼』ヴァルター、そんな風に呼ばれているぜ」


 俺は武器を構えて男から離れた。この男、強いぞ……!体から漂う血の匂い……一人二人どころじゃない、相当殺してるな……!


「ククッ、俺の体に染みついた血の匂いに感づいたか?お前と同じさ、俺も殺しを生業としている」
「……この一連の地震騒動はお前がやったんだな?」
「見りゃ分かんだろ?当たり前のことをいちいち聞くなよ」


 ヴァルターはそう言うと装置をポンポンと軽く叩いた。


「この杭は結社で開発された七耀脈に干渉できるシロモノでな、本来は真下の七耀脈を活性化させるだけなんだが『ゴスペル』を使う事で広範囲の七耀脈の流れを歪ませて局地的な地震を発生させる……まっ、そんな実験をしていたって訳だ」
「実験……お前達はゴスペルを使って何をしようとしているんだ!」
「知るかよ、そんなこと。俺は上から言われたことを行っただけだ」


 俺はヴァルターを問い詰めるが奴は心底どうでも良さそうにそう話す。


「さて、俺のノルマは達成したんだ。ここからは好きにやらせてもらうぜ」
「なにを……ッ!」


 俺がそう呟いた瞬間、ヴァルターは俺の眼前まで迫って拳を突き出していた。俺は咄嗟に横に転がって回避したが……


「なっ……!?」


 その正拳突きの余波で壁に穴が開いた。なんて身体能力だ……!


「アイツは特異点でお前を追い詰めろと言っていたが、別に俺がやっても問題はねえよなぁ?」
「特異点?」
「ああそうだ、お前も前に入っただろう?ゴスペルの力を使って自由にあの空間を作れるのさ。お前の仲間は全員そこにいるぜ、今頃そこの主と遊んでいるだろうな」
「……お前の目的は何だ?」
「決まってるだろう、殺しあいだよ」


 ヴァルターはどう猛な笑みを浮かべて俺を射抜く、そのプレッシャーはあのロランス少尉と変わらないほど重かった。


「俺はな、人生において楽しむのには適度な刺激が必要だと思ってんだよ。その中でも殺しあいは最高のスパイスさ、生きるか死ぬか……まさに極限のやり取りだ。ゾクゾクしねえか?」
「……お前と議論する気はない、結社の一員なら捕らえるだけだ」


 この男は殺意に取りつかれている、猟兵の俺がこの男を非難する資格など無いが理解もしたくない。


「リィン・クラウゼル……お前というスパイスを味見させてもらうぜ。せいぜい俺を満足させられるように頑張ってくれよ」
「ぐっ!」


 俺は太刀を振るいヴィクターに向かっていった。


―――――――――

――――――

―――


side;フィー


「くそっ!しつこい奴だ!」


 鳥のような巨大な魔獣に襲われているわたし達は狭い足場を乗り継ぎながら必死で逃げていた。


「このっ!」


 わたしはジャンプして魔獣に銃弾を撃つが届かない、これじゃ攻撃できないよ……!


 とはいえアーツでは隙が大きすぎる、しかも止まらないといけないのであの炎の餌食になるだけだ。


「皆さん、こちらです!」
「エマ!」


 足場の先に聳え立つ岩山、そこの崖の上からエマの声が聞こえた。無事だったんだね。


「こっちです!この横穴に逃げ込んでください!」


 エマの指差した方に小さな横穴があった。わたしたちは急いでその穴の中に逃げ込むと魔獣が首を突っ込ませてきた。


「こいつでも喰らえ!」
「はぁっ!」


 アガットとラウラが大剣を魔獣の頭に叩きつける。すると予想外の反撃に驚いたのか魔獣は悲鳴を上げて逃げていった。


「……ふう、なんとかなったわね」


 魔獣が去ったのを見たエステルは安堵の溜息を吐いた。


「エマ、無事で良かった」
「ふふっ、危険を察知したのでこの横穴に隠れていたんです」


 わたしはエマに話しかける。どうやら危険を察知して一人この横穴に身を潜めていたらしい。


「ニャー」
「あっ、一人じゃなかったんだね」


 するとエマの肩にセリーヌが乗って私もいるぞと言わんばかりに鳴いた。


「くそっ、合流できたのは良いがいつまでもこんなところにいられねえぞ。何とかして脱出しねえと……」
「ここは特異点ですからまずは主を探した方が良いと思います?」
「あん?お前ここがどこなのか分かるのか?」


 アガットが悪態をつくとエマが特異点と話した。エマはこの空間の事が分かるみたいだね。


「特異点とは高位の力を持った存在が生み出す空間の事です。分かりやすく言うと自分の好きに操れるダンジョンを作れて私達はそこに迷い込んでいるんですよ」
「へえ、そんな空間があったんだ」
「エマさんは博識なんですね」
「ふふっ、お婆ちゃんやお母さんに教えてもらったんです」


 エマの説明を聞いていたエステルとクローゼが感心した目でエマを見ていた。


「それでここから出るにはどうすればいいんだ?」
「特異点を生み出している存在を倒せばいいんです、そうすればこの空間は消滅して脱出できます」


 アガットの質問にエマはここを生み出している存在をやっつければ出られると答えた。それなら簡単だね。


「でもここまで来る時にいっぱい魔獣を見てきたけどどれが主なんだろう?」
「多分先程の大きな鳥型の魔獣が主だと思います。強い力を感じました」


 ティータがどの魔獣が主なのかと考えているとエマがさっき襲ってきた鳥型の魔獣が主だと話す。


「じゃあさっきの奴をやっつければいいのね!」
「でも一筋縄じゃいきません。あの魔獣は常に高い所から襲い掛かってきました、高い知能を持ってると思います。つまり私達の攻撃が届かない空から引きずり降ろさないといけません」
「先ほどは私達を追い詰めたがゆえに突っ込んできたのだろうが次は警戒するだろうな」


 エステルは握り拳を作ってやる気を出すがクローゼはあの魔獣は賢いから降りてこないと戦えないと言う。


 ラウラの言う通りさっきみたいに誘い込むのも難しそうだ、最悪炎を流し込まれて蒸し焼きにされてしまうかもしれない。


「とにかく今は残りのメンバーと合流しない?出られる方法が分かっても危険なのは変わりないし……」
「そうだな、まずは全員の安全を確保するか」


 エステルの提案にアガットも賛成した。出られる方法が分かったのならまずは全員の安全を確かめた方が良いからね。


「エステルお姉ちゃん、こっち通れそうだよ」
「ナイスよ、ティータ!」


 ティータは崖の上に道があるのを発見した。わたしが先行して上にのぼり縄梯子を下ろす。


「いいよ、登って」


 さっきの鳥みたいな魔獣が襲ってこないか確認しながら全員上に登った。すると何か地響きがして強い振動がわたし達を襲った。


「な、何が起きたの!?」
「見てください、私達のいるこの岩山が沈んでいます!」


 エステルは振動に驚きクローゼはわたし達がいる岩山が沈みだしたと叫んだ。


「上に行くぞ!このままじゃマグマの中に落ちちまうぞ!」


 アガットの言う通りこのままでは死んでしまう、わたし達は急いで岩山を登り始めた。


「くそっ、足場渡りの後は山登りかよ!こりゃ相当鍛えられるなぁ!」
「こんな命がけの訓練はごめんよ!」


 アガットとエステルはそんなやり取りをしながらティータとクローゼを抱っこしながら必死で走っていた。


「ちょっと!嘘でしょう!?」


 すると頭上から大きな岩が落ちてきた。このままじゃ……!


「ゴールドハイロウ!!」
「光破斬!」


 すると沢山の光の玉が岩に当たり大きなヒビを入れる。そこに飛ぶ斬撃が当たって岩を粉々にした。


「今のって……」
「皆、こっちだ!」
「急いで!」


 横から声が聞こえたので見て見ると浮島にオリビエとアネラスがいた。普通に浮島って言っちゃったけどなんで島が宙に浮いてるの?


「とにかく急げ!」


 あっ、そうだった。摩訶不思議な光景を見て固まっていたけど今いる場所沈んでいるんだった。わたし達は急いで浮島に飛び移った。


 一番後ろにいたわたしが浮島に飛び移るとさっきまでいた岩山は完全にマグマに飲まれてしまった、間一髪だったね。


「皆、無事で良かったよー!」
「わわっ!」


 再会を喜ぶアネラスがティータに抱き着いた。わたしにも抱き着こうとしたけど逃げた。


「オリビエも無事だったんだ」
「ははっ、僕は目を覚ました時にこの浮島にいてね、近くにいたアネラス君と共に君たちが来るのを待っていたんだよ」
「そうだったんだ。でもどうしてこの島は宙に浮いてるんだろう?」
「この特異点はあの魔獣によって生み出された場所です。現実ではありえないような光景や現象もここでは普通なんですよ」
「確かに私が前に入った特異点も普通じゃ考えられないようなことばかり起きてたよ」


 オリビエとアネラスはこの浮島に最初からいたらしい。


 でもどうして島が空中に浮いているんだろうと思ってたらエマがここは普通でがあり得ないような現象も起こると話し、前に特異点に入った事のあるアネラスも同意していた。


「あれ、リィンはいないの?」
「この浮島では見ていないな、君達と一緒だと思っていたんだけど違うのかい?」
「うん、わたし達は会っていない」


 ここまでくる道中ではリィンを見なかった、てっきりオリビエ達と一緒だと思っていたんだけど……


「まさか弟弟子君、マグマに落ちちゃったんじゃ……!」
「そ、そんなことないよ!リィンがわたしを残して死ぬわけが……!」


 アネラスの言葉にわたしは心臓が止まりそうなくらいショックを受けそうになった。でもここまでリィンの姿はなかった……じゃあやっぱり……


「フィー、落ち着くのだ」
「ラウラ……」
「リィンは死んではいない、私達がそう信じないでどうする。まずはここから脱出するんだ、そうすればリィンが生きているのかどうかわかるはずだ」
「……」


 ラウラの言葉を聞いてわたしもリィンを信じようと思った。


「ごめん、ラウラ。迷惑をかけちゃった」
「気にするな、私も同じ気持ちだ。リィンにもしもの事があったら……」
「……」


 ラウラも不安なんだよね、なのにわたしを勇気づける為に気丈に振る舞ってる。わたしも頑張らないといけないね。


「ここを出るにはこの特異点を生み出している存在を倒すしかありません。その存在は鳥のような姿をした魔獣だと思います」
「それなら私達心当たりがあるよ。この浮島に大きな鳥が休みに来てたのを見たの」


 エマはここを脱出するにはこの空間を生み出している存在の特徴を話すとアネラスは心当たりがあるのかその魔獣を見たと話す。


「本当か?」
「うん、白い体毛とおっきな羽根が腕に生えた鳥みたいな魔獣だよね。そいつがここに来るのを見たの」
「僕も見たよ、二人だけでは勝てそうになかったから隠れていたんだ。多分ここがその魔獣の住処なんじゃないかな?」
「ならここで待っていればソイツが帰ってくるんじゃないの?」


 アガットはクローゼとオリビエに確認を取ると二人の証言はわたし達が見た魔獣と一致していた。エステルはここがアイツの住処なら待っていれば帰ってくるんじゃないかと言う。


「でもあの魔獣は知能が高そうですので私達がいると分かれば降りてこないでしょうね」
「うん、何とかしてあの魔獣を飛べないようにしないと……」


 クローゼとティータの言う通りここで待ち伏せても空に逃げられたら意味はないね。


「そうだ、携帯料理を使って気を逸らせばいいんじゃないかな?その隙にあの羽を攻撃して飛べなくするの!」
「そんなに上手くいくかな?」
「だがこのままなにもしないよりはいいだろう、試してみよう」


 エステルの作戦にわたしは上手くいくのかと思ったけどラウラの言う通り何もしないよりはいいだろう、わたし達は携帯していた料理を奴の住処に置くことにした。


「ここが奴の住処だね」


 アネラスの案内でわたし達は浮島の中心にある崖の上に来ていた。身を隠せる場所も多いし待ち伏せにはちょうどいいかもね。


「よいしょっと」
「フィー、何をしてるの?」
「アイツの匂いを付けてるの。そうすれば隠れていてもばれにくくなるから」


 わたしは奴の寝床で寝転がってアイツの匂いを体に付着させた。これは一人で生きていたころに覚えたサバイバル技術だよ。魔獣は匂いに敏感なタイプも多いからこうしておくだけでも見つかる可能性は大きく下がる。


 獣臭いけど我慢だ、終わったらエルモ温泉に入ろっと。


 他のメンバーも同じように体に匂いを付けてその後に餌になる料理を置いていく。


「あっ、フィーの料理知らないレシピね」
「ん、これはあの料理を独自に改良してみたの。帝国ではこういうのが流行ってるよ」
「わぁ!ラウラさんの料理美味しそうですね」
「ふふっ、私の故郷レグラムの伝統料理を参考にこのレシピをアレンジして作ったのだ。今度ティータにも作ってあげよう」
「なるほど、今あるレシピを元に別の料理の調理法を加えるのですね。王家に伝わるあの料理をこの料理にいかせば……」
「今度皆で色々試してみようよ!」
「お前らな……緊張感を持てよ」


 ガールズトークをするわたし達にアガットが呆れたように呟いた。



「さて、後は奴が来るのを待つだけだね……」


 わたし達は物陰に隠れてあの魔獣が帰ってくるのを待った。すると空からあの魔獣が下りてきてわたし達のおいた料理に興味を示していた。


 こうしてみると鳥に似てるけど腕とか獣みたいに逞しいね、爬虫類系の魔獣の要素も強いみたい。


「警戒していますね……」
「うん……」


 クローゼの言う通りアイツは警戒していた。でも辺りを見渡して何もいないことを確認すると料理の一つを食べた、すると味を気に入ったのか他の料理も食べ始めた。所詮は魔獣だね。


「ティータ、今だよ」
「はい……!」


 ティータは導力砲を構えると煙幕弾を放った。それが魔獣の顔に当たり奴の目を隠した。


「アルゼイド、いまだ!」
「承知!」


 そこにアガットとラウラが飛び込んで魔獣の羽を大剣で斬り付けた。赤い鮮血が飛び散って奴が悲鳴を上げる。


「ちっ、予想以上に固くて切断までには至らなかったか!」
「だが傷はつけたぞ、あれでは飛べまい!」


 奴の皮膚は想像以上に固かったらしく切断は出来なかった。でもあの傷なら飛ぶのは無理そうだね。


「皆、いくわよ!」
『応っ!』


 魔獣が怒りの咆哮を上げわたし達は武器を構えて魔獣と対峙する。


 わたしはバトルスコープで魔獣のデータを調べる。名前は『ギアスバーン』……強そうだね。


「皆、コイツは弱点はないけど炎を無効化するよ!」
「なら威力の高いアーツで攻めよう!」


 オリビエはそう言うとアーツを放つ準備に入った。クローゼとエステルはその前から準備をしていたのでわたし達に補助系のアーツをかけて援護する。


「やっ!」


 わたしはギアスバーンに目掛けてクリアランスを放つが奴は腕を振るってカマイタチを起こして銃弾を弾いた。


「らあっ!」


 攻撃力の上がったアガットの一撃がギアスバーンに直撃した。でも皮膚が硬いからかそこまでダメージは入っていなかった。


「ぐおっ!」


 アガットを爪の一撃で吹き飛ばしたギアスバーンはアガットに目掛けて火炎を吐き出した。


「させません!」


 そこにエマが割って入って何か障壁のような物を展開して炎を防いだ。


「鉄砕刃!」
「金剛撃!」


 ラウラの一撃がギアスバーンの脳天に直撃して奴を怯ませる。そこにエステルが接近して奴の腹部に金剛撃を叩き込んだ。


「きゃあっ!?」
「むう……!!」


 でもギアスバーンは体から爆炎を噴き出して二人を吹き飛ばした。


「あいつの皮膚、硬すぎるね。打撃も斬撃も効果が薄い……!」
「ならこれはどうだい!」


 オリビエはゴールドハイロウを発動して複数の光の玉を直撃させる。さらに追い打ちでアネラスがプラズマウェイブ、クローゼがアイスハンマーを放った。


「キョアア……!」


 堪らず空に飛んで逃げようとするギアスバーン、あの傷でまだ飛べるのかと思ったがやはり傷が痛むのかさっきみたいな速さや硬度は出せないみたいだ。それでも速いけどね。


「突っ込んでくるぞ!」


 ギアスバーンは炎と風邪を纏って高速で突っ込んできた。わたしはティータとクローゼを引っ張って奴の攻撃の斜線上から回避させた。


「あ、危なかった……!」
「また来るぞ!」


 幸い一回目は全員回避できたみたいだけどギアスバーンはまた突っ込んできた。


「アガットさん!ラウラさん!私が魔獣の攻撃の衝撃を和らげます!アレを抑え込んでください!」
「心得た!」
「簡単に言いやがって……やってやらぁ!」


 エマの放った光がラウラとアガットを包み込んだ。そして二人は突っ込んできたギアスバーンに目掛けて剣を振り下ろす。


「ぐうぅぅぅぅぅ……!!」
「らあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 二人は大きく後退したがギアスバーンの突進を抑え込んだ。凄い馬鹿力だね。


「そこだよ!」


 アネラスは動きの止まったギアスバーンの頭に乗ると奴の目に剣を突き刺した。流石に目までは皮膚のような硬さはなかったようでギアスバーンは痛みで叫んだ。

 
 ギアスバーンはアネラスを振るい落とすと空中から炎を雨のように吐いてきた。でもそれはエマの障壁が全部防いでくれた。


「炎のブレスは私が防ぎます!皆さんは攻撃を!」
「エマさん、ありがとう!」


 エマにお礼を言ったエステルは跳躍して奴の足に一撃を当てた。その攻撃でバランスを崩したのか不安定な体制になった。


「落ちろっ!」
「喰らえっ!」


 跳躍したアガットとラウラの一撃がギアスバーンの右腕に挟むように放たれた。その一撃が遂にギアスバーンの硬い腕を切り落とす。


「キャルアァァァァァッ!」


 ギアスバーンは怒って二人をもう片方の腕で弾き飛ばした。そして全身を発火させると炎の弾丸を広範囲に放つ。


 エマがティータとクローゼを守ってくれたが他のメンバーは炎の弾丸を受けてしまった。幸い補助アーツで耐性を上げていたから致命傷にはならなかったが炎傷の状態異常になってしまったみたいだ。


「わたしが決めるしかないね!」


 運よく炎の弾丸を回避できた私は再び炎の弾丸を放つギアスバーンに接近していく。攻撃を避けながらギアスバーンに接近していく。


 ギアスバーンは腕に炎を纏い広範囲の爆撃をわたしに放ってきた。でもすでに奴の攻撃範囲を見抜いていたわたしはその攻撃を回避してワイヤーを使ってギアスバーンの首に乗っかった。


「これで終わり……!」


 そしてもう片方の目に双剣銃の刃を突き立てて闘気を込めた一撃を放つ。その一撃はギアスバーンの頭の中で炸裂した。


「カ……ァ……」


 その一撃が致命傷になったのかギアスバーンはフラフラとよろめき遂に地に伏せたのだった。


「やった……!」
「やりましたね……」


 エステルがガッツポーズをしてクローゼは安堵のため息をついた。


 すると空間にヒビが入り始めて不安定な状態になっていった。


「何が起きてるの!?」
「ここを生み出していた主を倒したので元の世界に戻ろうとしているんです!」
「じゃあ出られるのね!でも浮島も崩れ出したし大丈夫なの?」
「皆さん、中心に移動して伏せてください!」


 エステルに元の世界に帰れると答えたエマは皆に伏せてと叫んだ。わたし達は下のマグマに落ちないように身を寄せ合って安全な場所に集まる。


 そしてまばゆい光がわたし達を包み込むとわたしの意識は薄れていった……

 
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