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仮面ライダーAP

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凶兆編 仮面ライダータキオン&エージェントガール 後編

 
前書き
◆今話の登場怪人

LEP(ロード・エグザム・プログラム)/仮面ライダーRC
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人として、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)達によって運用されていたスーパーコンピューター。普段は専用の兵員輸送車に搭載されており、その車内から有線操作式のロボット怪人「仮面ライダーRC」を制御している。
 ※原案は秋赤音の空先生。

間柴健斗(ましばけんと)/Datty
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた男。元プロボクサーの巨漢であり、Dattyと呼ばれる怪人として戦っている。外見の年齢は30歳だが、実年齢は77歳。
 ※原案はサンシタ先生。

福大園子(ふくだいそのこ)/サザエオニヒメ
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた女。真面目で堅物な女傑であり、サザエオニヒメと呼ばれる怪人として戦っている。外見の年齢は26歳だが、実年齢は73歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

加藤都子(かとうみやこ)/ハイドラ・レディ
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた女。今は亡き羽柴柳司郎の妻であり、ハイドラ・レディと呼ばれる怪人として戦っている。外見の年齢は24歳だが、実年齢は71歳。
 ※原案はエイゼ先生。

戦馬聖(せんばひじり)/レッドホースマン
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた男。現在はノバシェードを影から操る始祖怪人達のNo.3として、仲間達を指揮している。外見の年齢は28歳だが、実年齢は75歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

間霧陣(まぎりじん)/カマキリザード
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた男。現在はノバシェードを影から操る始祖怪人達のNo.2として、作戦の立案を担当している。外見の年齢は48歳だが、実年齢は95歳。
 ※原案は神谷主水先生。
 

 
「す、凄い……! ノバシェードの戦闘員達をいとも簡単に! これが……これが、あの噂に名高い『仮面ライダー』なのか……!」

 相手の得意分野での勝負に敢えて乗った上で、完膚なきまでに叩きのめし、悪しき心を折る。そんな新世代ライダー達の圧倒的な「力」を目の当たりにしたベイカーは、ヘレンに助け出されながらも感嘆に身を震わせていた。

 一方、ヘレンはベイカーと同じ思いを抱えていながらも、兄のようには行かなかった自分の非力さに唇を噛み締め、複雑な表情を浮かべている。それでも危ないところを救って貰った礼は尽くさねばという思いが、彼女の口を開かせていた。

「……ご協力には感謝致します。あなた達の助力がなければ、今頃私達は……」
「ふふっ、気にすることはないさ。これが僕達の任務なのだから」
「そういうこった。嬢ちゃんみたいな若者は、俺達が要らなくなった次の時代にこそ必要になる」
「だからこそ……これ以上、無理に首突っ込むのはやめたほうが良い。何事も、命あっての物種だ」
「しかしっ……!」

 だが。ベルトを外して変身を解いた幸路、義男、竜胆の3人は気さくに笑い、何事もなかったかのように自分達が乗って来たマシンへと視線を移している。彼らを乗せて来たスーパーカー「マシンGドロン」とレーサーバイク「マシンGチェイサー」は、主人の帰りを待ち侘びているかのようにエンジンを稼働させていた。

 優雅な美男子、壮年の熟練刑事、筋骨逞しい精悍なタフガイ。彼ら3人はベージュのロングコートを翻し、この場から立ち去ろうと各々の愛車に向かって歩き出して行く。
 そんな彼らに手を伸ばそうとするヘレンの前を遮ったのは――無骨な表情で彼女を一瞥している黒髪の青年、駿だった。手首からライダーブレスを外していた彼も、幸路達と同様に変身を解除し、本来の素顔を晒していたのである。

「南達の言うことには素直に従っておけ。……足を引っ張られては敵わんからな」
「なっ……! 何ですか、失礼なっ!」

 仮面が消失し、露わにされた絶世の美貌。その眼差しは氷のように冷たく、色めき立ったヘレンの眼を鋭く射抜いていた。吸い込まれてしまいそうな彼の瞳を目にしたヘレンは、豊かな胸の内でどくんどくんと高鳴っている自分の感情に、ただ困惑している。
 駿が羽織っていた黒いロングコート。その温もりに包まれているヘレンは、そこから漂う彼の匂いに「女」の貌を晒している一方で――素気ない駿の言い草に頬を膨らませ、意地を張っていた。出会って間もない内から失礼なことを言う男に、「一目惚れ」している事実から目を背けるように。

「……嫌いです、あなたみたいな人っ……!」
「そうだろうな。俺も、好かれるつもりで戦った覚えはない」

 これ以上彼の顔を見ていたら、心がどうにかなってしまう。おかしくなってしまう。
 その焦りもあり、ヘレンはぷいっと顔を背けていた。そんな彼女の横顔に皮肉めいた捨て台詞を投げると、駿も仲間達の後に続き、愛車であるGチェイサーに跨って行く。だが、すぐに発進しようとはせず――彼はおもむろに、黒いレザージャケットの懐から煙草の箱を取り出していた。拘りがあるのか、かなり古い銘柄のようだ。

「……上福沢、火をくれ」
「全く、仕方がないな君は」
「森里、煙草も程々にしておけ。健康に悪いぞ」
「改造人間の健康を心配するとはナンセンスだな、熱海。生憎だが、俺の身体は今さらニコチン如きでどうにかなるほどヤワな作りではない」
「俺達にとっちゃあ等しく『人間』だろうが。……1本までにしておけよ、森里。いつまでもここでチンタラしてるわけには行かねぇんだからな」
「……ふっ、それもそうか。今のうちにあんたも吸っておくか? 南」
「いや、俺はやめておく。そろそろ本子(カミさん)に怒られちまいそうだからな」

 幸路が持っていたライターで煙草に火を付け、僅かに一服した後。駿は仲間達と共に、愛用のマシンでこのエンデバーランドから走り去って行く。それは約1分にも満たない、彼らにとっての貴重な「休憩時間」であった。

 ――今回のテロに投入されたノバシェード側の最高戦力である腕力特化型が制圧された今、彼らでなければ倒し切れない敵はもうこの街には居ない。であれば直ちに、彼らは仮面ライダーの力を必要とする「次の現場」に向かわなければならないのだ。駿達は約2年間に渡り、ほとんど休むことも許されないままそのような生活を続けている。
 駿がわざわざ幸路達を待たせて煙草を吸い始めたのも、「勝手な行動をする者が居たため出発に遅れが生じた」という状況を作り、仲間達の足をほんの僅かでも休ませるための「口実作り」でしかない。どれほど世界中を飛び回ろうと、どれほど疲れ果てようと戦い続けなければならない仮面ライダーである彼らが、それでも1人の人間で在れる微かなひと時。それが、1分足らずの喫煙だったのである。

 そんな束の間の休息を終え、旅立って行く仮面ライダー達の背中を、見えなくなるまで視線で追い続けていたヘレンは――切なげな表情を浮かべ、桜色の唇をきゅっと結んでいた。

(……本当、嫌いっ……)

 それから、間もなく。ライダー達によって無力化された腕力特化型の者達をはじめとする、ノバシェードの戦闘員達は全員が射殺、あるいは逮捕され――このエンデバーランドで発生した武装蜂起は、僅か数時間で鎮圧された。

 そして、駿達4人が「次の現場」を目指してこの国を発った後。世界的な慈善活動家として知られているベイカーをノバシェードから守り抜いたとして、ヘレンは某国政府から勲章を授与されたのだが――当の本人は、終始腑に落ちない表情を浮かべていたのだという。

 ◆

 ――総監。あんたは言っていた。例えどんな時代であろうと、その時代が望めば仮面ライダーは必ず蘇ると。

 ――けれど、こうも言った。一つでも多くの命を、笑顔を守ることが、俺達が存在する意義になるのだと。

 ――それなら俺は、仮面ライダーなど2度と望まれない時代を作りたい。俺達のような連中を望む必要なんてない、そんな世界が欲しい。

 ――だから俺は、好かれない方が良いのだと思う。もし何かの間違いで、俺を好きになる奴が1人でも現れてしまったら。俺のために、一つの笑顔が消えてしまう。

 ――いつの日か、俺達が要らなくなる時が来るまでに。1人でも多くの人間が、笑ってその時代を迎えられるように。俺は、俺が不要とされるために戦う。

 ――それでも俺を必要だと思う馬鹿が、どこかに居るというのなら。そんな奴は、あんた独りぐらいでいい。それでも構わないだろう? 総監……。

 ◆

 北欧某国の全土を震撼させた「エンデバーランド事件」。その大規模テロの発生から約半年後の、2021年9月6日。
 某国の極北部に位置するとある工場跡地では、とある怪人が「真の目覚め」を迎えようとしていた。

 その地はかつて、軍事兵器の製造を中心としていた大規模な工業地帯だったのだが、旧シェードによって滅ぼされた今となっては見る影もない。
 誰も住む者が居なくなったその極寒の地には、幾つかの廃工場だけが残されている。そのうちの一つの屋内では、1台の装甲車両の「調整」が行われていた。

 前世紀の兵員輸送車を想起させる外観を持つその車両の内部からは、バチバチと激しい火花が飛び散っており、薄暗い廃工場を内側から照らしている。野戦服に袖を通した十数名の男女はその車両を取り囲み、「調整」の様子を神妙に静観していた。

 ただそこに居るだけで迸る、凄絶な覇気。若々しい姿からは想像も付かないその威風を全身に纏い、彼らは歴戦の猛者さながらの鋭い双眸で、「同胞」の目醒めを待つ。
 そして、輸送車のハッチが開かれた時。その奥から電光と黒煙を帯びて、1人の「怪人」が進み出て来る。その不気味な様相は、地獄の封印から解き放たれた悪魔のようであった。

「……戦闘システム、オールグリーン。RC、再起動完了。これより、正規戦力として『始祖怪人(オリジン)』に合流する」

 濁った機械音声を発し、「調整」の完了を告げるロボット怪人「仮面ライダーRC」。その機体を車内から制御しているスーパーコンピューター「LEP(ロード・エグザム・プログラム)」は、ハッチの奥から怪しい発光を繰り返していた。
 かつてこの工業地帯を滅ぼした旧シェードの遺物は今日、完全に目醒めてしまったのである。仮面ライダーGとの戦いで破壊された装甲を「補修」した鈍色の鉄人は、赤い複眼から眩い輝きを放っていた。

 ――本体であるLEPは早期に再起動していたのだが、その手足とも言うべきRCを戦える状態にするまでには、かなりの月日を要していた。その補修期間がようやく終わりを告げ、最恐最悪のロボット怪人が令和の世に蘇ってしまったのだ。
 半年前のエンデバーランド事件をはじめとする、世界各地で起きた数々の武装蜂起。それらは全て、現地の戦闘員達が自分の意志で起こしたもの――と本人達は思い込んでいるのだが。彼らは皆、他者を扇動する能力を持つ「始祖怪人(オリジン)」達によって裏から誘導され、操られていたに過ぎない。差別からの解放を目指したノバシェードの「聖戦」は全て、RCの「補修」が完了するまでの時間稼ぎとして利用され、消費されていたのである。

「ォオォ……」

 濁った機械音声を漏らし、妖しく両眼を輝かせるRC。真っ当な神経を持ち合わせている生身の人間ならば、その異様な姿を目にするだけでも本能的に震え上がってしまうだろう。
 だが、そんな悍ましいオーラを纏っている「同胞」の姿を目の当たりにしても。恐れるどころか、薄ら笑いすら浮かべている者がいた。

「へっ、ようやく『補修』が終わったみてぇだな。随分と待たせてくれたじゃねぇか、天下のスーパーコンピューターさんよぉ?」

 褐色の肌と、短く刈り上げた黒髪が特徴の巨漢――間柴健斗(ましばけんと)。野戦服がはち切れそうなほどの筋肉量を持つその大男は、へらへらと笑いながらRCの額を裏拳で小突いていた。

「あーあ、やっちゃったぁ。ボクはどうなっても知らないよぉ〜?」
「……実に愚かな行いだ。ほとほと呆れる」
「ははっ、あいつらしくてイイじゃねぇか」

 その恐れ知らずな挑発行為に、周囲の仲間達は様々な反応を示している。呆れる者も居れば、嗤う者、案じる者、静観する者も居る。だが、彼らの脳裏にはある1点の共通項があった。

 ――この男は間違いなく、痛い目に遭う。それが間柴の行為に対する、この場に居る全員の共通認識となっていた。

「……そこまでにしておけ、間柴。LEP相手に『言い訳』の類は一切通用しない。湾岸戦争の頃、1発誤射した『黒死兵』がバラバラに引き千切られていただろうが」

 その「顛末」を予見していた1人である長身の美女・福大園子(ふくだいそのこ)は、腕を組んで豊満な乳房を寄せ上げながら、呆れた様子で口を開く。だが、同胞の忠告にも耳を貸すことなく、間柴はRCの額を小突きながら嗤っていた。

「ハハッ、固えこと言うなよ福大。こんなのほんの『ご挨拶』――」

 そして、彼が福大の豊満な乳房へと視線を移した瞬間。間柴の「戯れ」を「攻撃」と認識したRCの鉄拳が、彼の横っ面に炸裂する。
 間柴の巨体が紙切れのように吹き飛ばされたのは、その直後だった。空を切る間柴の身体は廃工場の壁を突き破り、外にまで放り出されてしまう。

 だが、仲間達は誰も間柴を気遣う素振りを見せない。自業自得だから、というだけではない。「この程度」でどうにかなるような者ではないことを知っているから、心配などする必要がないのだ。
 そんな彼らの見立て通り、間柴はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、何事もなかったかのように起き上がろうとしている。その単細胞ぶりにため息を吐く着物姿の美女――加藤都子(かとうみやこ)は、福大以上に呆れ返っているようだった。

「はぁ……相変わらずですね、間柴様は。いい加減、お戯れは怪我の元と学ばれては如何です?」
「……ハッハハハ! そんな必要はねぇぜ、加藤ッ! こういう『ご挨拶』も俺は嫌いじゃねぇからなァッ!」

 加藤の苦言も笑い飛ばして立ち上がった間柴は――即座に地を蹴り、RC目掛けて凄まじい勢いで殴り掛かろうとしている。しかもその姿は、青い複眼と真紅の装甲、そして肥大化した両腕を持つ剛腕の始祖怪人「Datty」へと変身していた。

 蒼色のまだら模様が浮かぶ巨大な腕を構える怪人が、本気のストレートパンチを打ち込もうとRCに急接近して行く。その殺気をセンサーで感知したロボット怪人も、無謀な挑戦者を真っ向から迎え打とうとしていた。

 ――だが、両者の間合いが詰まる直前。その間に飛び込んで来た1人の男がDattyの剛腕と首を掴み、払腰の要領で地面へと叩き付けてしまう。

「ご、はッ……!?」

 轟音と共に地面に減り込んだDattyの身体を中心に、大きな亀裂が広がっていた。
 予期せぬダメージによって変身を解除され、Dattyこと間柴が苦悶の声を上げている一方で。投げの威力を物語る地割れを目にした仲間達は、ようやく「茶番」が終わったかと鼻を鳴らしている。

 間柴を地面に叩き付けて「ご挨拶」を終わらせた男は、銀色の髪を靡かせて不適な笑みを浮かべていた。端麗な容姿を持つその男は、野戦服の上にレッドブラウンのトレンチコートを羽織っている。
 旧シェードの創設メンバーである始祖怪人。その中でも屈指の実力派であり、徳川清山(とくがわせいざん)羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)が死去した今では「No.3」の座に就いている、戦馬聖(せんばひじり)だ。

「……止めときなァ、間柴。福大の言う通り、コイツは俺達と違ってユーモアってものが分からねェ。この辺にしておかねぇと、死ぬまで殺り合う羽目になるぜ?」

 Dattyに変身した状態の間柴を投げ飛ばした上、体格で勝っているはずの彼をそのまま取り押さえている戦馬は、気さくな声色で最後の忠告を口にしていた。
 一見すると皮肉屋な美男子と言った印象だが、間柴を抑え込んでいるその両腕は、元ヘビー級ボクサーの始祖怪人ですら抗えないほどの膂力を発揮している。

 始祖怪人達の中でも最強と恐れられていた、羽柴柳司郎こと「仮面ライダー羽々斬(ハバキリ)」。彼直伝の技で間柴を投げ飛ばした戦馬は、「授業」を受けさせられていた頃の自分を想起させる間柴の姿に、不敵な笑みを溢していた。

「へっ……死ぬまで殺り合う、ねぇ。俺としちゃあ、それで一向に構わねぇんだけどなァ。この俺との殴り合いが成り立つ相手なんて、ごく一握りじゃねぇか。そうだろう? 元特殊部隊(スペツナズ)の戦馬さんよォ」

 1970年代に徳川清山と出会い、改造人間として生まれ変わるまで。旧ソビエト連邦軍の精鋭特殊部隊で訓練を積んでいた、ロシア系の血を引く生粋の「兵士」。そんな戦馬の技と腕力に冷や汗をかきながらも、間柴は変わらず薄ら笑いを浮かべ、軽口を叩いている。その様子に口角を緩めて手を離した戦馬は、自分と共にこの「ご挨拶」を静観していた「No.2」の方へと視線を移していた。

「だったら例の『決戦の日』まで、壁でも殴って待ってるんだな。……ほうれ、『No.2』のお見えだぜ」

 彼の視線の先に居たのは、両腕を組んで「ご挨拶」の顛末を見届けていた1人の男。鍛え抜かれた太い腕を組み、威厳に満ちた面相で間柴の暴走を静観していた壮年の古参兵だった。

「……その『戯れ』を見るに、基礎動作も申し分ないようだな。これでようやく、俺達全員が真の意味で結集出来たということだ」

 現在の始祖怪人達に多くの指示を与えて来た、事実上の「No.2」こと間霧陣(まぎりじん)。スキンヘッドの頭と左眼の眼帯を特徴とする元脱獄囚は、ゆっくりと戦馬達の前へと歩み出して来た。

「だが、今のRCがどれほど戦える状態にあるか……『実戦』を通じて検証する必要がある。『決戦の日』までには万全の状態に調整しておかねばならんからな」

 一歩地を踏むたびにそこから溢れ出す覇気の威力は、猛者揃いの始祖怪人達の中でも群を抜いている。それほどのオーラを纏っている間霧は、一瞥するだけでRCを輸送車の車内へと引き退らせていた。

「実戦だァ? それなら話が早いぜ、この俺が死ぬまで付き合ってやらァ。LEPとしても、やり甲斐のある相手じゃねぇと検証にならねぇだろ?」

 だが、恐れ知らずの間柴はその場で飛び起きると、彼相手にも無遠慮に食って掛かる。闘争に飢える巨漢は、相手を問うことなく戦いを渇望し続けていた。そんな彼を右眼でじろりと睨む間霧は、おもむろに野戦服の懐へと手を伸ばしている。

「お前にやらせていたら『対消滅』もあり得る。その案は却下だ」
「チッ……じゃあ、どこのどいつにLEPとRCの『試運転』に付き合わせるってんだァ? だいたい、場所はどうするつもりなんだよ。俺達始祖怪人が暴れるには、この廃工場は狭すぎるぜェ?」
「数体の黒死兵で制圧が可能な『実験場』を見繕って来た。そこでLEPとRCの『試運転』を行い、『決戦の日』に向けた運用データの収集を行う」
「実験場、だとォ……?」

 間霧が懐から取り出したのは、彼ら始祖怪人が潜伏しているこの某国全体の地図。国境線付近を指しているその地図のある箇所には、赤い丸印が残されていた。

「この街だ。正確には、この街の防衛を担当している警察組織と正規軍。こいつらの死体を餌に『仮面ライダー』を釣り、LEPに『前哨戦』を経験させる。……街を制圧するまではお前が指揮を取れ、戦馬」

 そこが間霧の云う「実験場」であることは明らかだった。丸印が刻まれている地点の名は、観光都市「オーファンズヘブン」。その地で彼は、「実験」という名の「侵略」を企てているのだ。

「へいへい、分かってらァ。……『大佐』といいあんたといい、復員兵崩れのおっさん共は人使いが荒くて敵わねェぜ」

 間霧に実行役を命じられた戦馬は気怠げに頭を掻きむしると、スゥッと目を細める。彼の鋭い双眸は間霧だけでなく、その背後からこの状況を見据えている「No.1」の老兵も射抜いていた。

「……」

 「大佐」と呼ばれるその白髪の男は、間霧と比べれば細身の体躯だが。紅く発光している両眼からは、間霧以上の覇気が滲み出ている。
 腕を組み、仲間達の様子を最後方から無言で見据えている老兵の眼光は、間霧さえ凌ぐほどの迫力と威圧感に満ちていた。

 有無を言わせぬ紅い眼力で始祖怪人達を従える、事実上の「No.1」。その気迫を背に浴びる間霧は「かつての上官」を一瞥し、言葉を紡ぐ。

「……令和と呼ばれるこの時代に蘇ってしまった以上、俺達は人間共の行いから目を背けることは出来ない。そして俺達が黙って朽ちて行くことを受け入れられるほど、奴らは行儀の良い歴史を見せてはくれなかった」

 1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動して来た彼らは、2009年に洗脳から覚醒した仮面ライダーGに倒され、一時的な仮死状態に陥るまで。人類史に残る戦争や紛争が生んだ惨状の数々を、当事者の1人として目の当たりにして来た。

 その後。2009年から2021年までの約12年間にも渡る、長い眠りから覚めた時。世界は絶望的なまでに、醜いままとなっていた。
 徳川清山と羽柴柳司郎の死、そして旧シェードの滅亡。その「禊」を以てしても人類は差別と偏見を捨て切れず、残された改造人間達を迫害し、やがてはその愚行に端を発する憎しみの連鎖が、ノバシェードを生み出していた。

 そんな「行儀の悪い歴史」を観たからこそ。47年前、ツジム村で起きた悲劇を目の当たりにしたからこそ。間霧を含む始祖怪人達は、敢えてその悪しき連鎖に身を投じているのだ。今の人類が「信頼」に足るか否かを、見定めるために。

「だからこそ……死に損なった俺達の眼で確かめねばならんのだ。この世界は本当に、改造人間を必要としなくなったのか。俺達が1人残らず、滅びるべきなのかをな」

 そして、彼の宣言から僅か数日後。この計画の実現が、新たなる戦いの物語へと繋がって行くことになる――。
 
 

 
後書き


 始祖怪人組のイチャイチャで締めつつ、今話を以て凶兆編は完結となりました! 最後まで読み進めて頂き、誠にありがとうございます。本筋となる次回からの新章もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و 
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