仮面ライダーAP
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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第13話
前書き
◆今話の登場ライダー
◆南義男/仮面ライダーボクサー
質実剛健で情に厚い、元ボクサーのベテラン刑事。年齢は45歳。
※原案は平均以下のクソザコ野郎先生。
◆森里駿/仮面ライダータキオン
かつてはノバシェードの尖兵であり、遥花に敗れた後は芦屋隷の保護観察を受けつつ実験に協力していた改造人間。年齢は27歳。
※原案はエイゼ先生。
◆道導迅虎/仮面ライダーティガー
元プロレーサーでもある警視庁の巡査であり、男勝りなスピード狂の美女。年齢は26歳。
※原案はただのおじさん先生。
◆東方百合香/仮面ライダーアルビオン
元SATであり、シェードとの交戦経験もあるクールビューティー。年齢は27歳。
※原案はMegapon先生。
◆ジャック・ハルパニア/仮面ライダーUSA
在日米軍から出向してきた豪快なタフガイであり、アメリカ軍で開発中のスーツのテストを任されている陸軍大尉。年齢は40歳。
※原案はリオンテイル先生。
ZEGUN達に屋外の始祖怪人達を任せ、放送局の内部へと突入した新世代ライダー達。階段を駆け上がった彼らが次に辿り着いたのは、報道関係の情報を扱うニューススタジオだった。
吾郎が日向恵理のワインを口にしたことで人間としての記憶を取り戻し、「愛」に目覚めた場所。
その運命的な場所で彼らを待ち構えていた始祖怪人達は、ゆっくりと新世代ライダー達の方へと向き直って来る。
「思い出すなァ……。12年前、俺の部下……『ナオヤ』がここで、No.5に殴り倒されたんだ。あの瞬間もしっかり中継されてたからなァ……よォく覚えてる」
織田大道によるテロの現場となっていたニューススタジオ。その床を感慨深げに踏み締めていたのは――Dual ability transplant test body、Dattyだった。
可愛がっていた自身の部下が、No.5こと吾郎に倒される瞬間。その光景を鮮明に記憶していた剛拳の怪人は、黄昏れるように天井を仰いでいる。
「……あんたの試合はガキの頃から再放送でよく観てたよ、間柴健斗。もう少し早く生まれてたら、あんたの試合を生で観られてたのに……って、何度思ったか分からねぇくらいだ」
そんな彼の背に声を掛けたのは――南義男が変身する、仮面ライダーボクサーだった。
幼少の頃から間柴健斗の試合を観て育って来た彼は、憧れのプロボクサーの変わり果てた姿に、怒りとも悲しみともつかない声を漏らしている。
自分が生まれる前から、自分にとってのヒーローだった男は今。何としても倒さねばならない、怪人と化していたのだから。
一方、プロボクサー時代の自分を知る者が現れたことに少しだけ驚いたDattyは、興味深げにボクサーの方に振り向いていた。仮面に隠されたその貌はすでに、獲物を見つけた猛獣のそれとなっている。
「ほぉ……? 世代でもねぇのに昔の俺を知ってるとは、随分と熱心なファンボーイじゃねぇか。何なら記念に握手でもしてやろうか? 仮面ライダー」
「……いいや、結構。こうなっちまったからには……俺は警察官として、あんたに手錠を掛けるだけさ。ガキの頃、いい夢見させてもらった礼だ……1発KOで終わらせてやる」
Dattyという怪人がこれまで繰り返してきた、凄惨な殺戮の数々。その全ての記録を目にした上でこの場に現れたボクサーは、万感の思いを込めて拳を震わせていた。
憧れの男を超えるため。シェードの悪夢を絶ち、全ての犠牲者達に報いるため。そしてこれ以上、自分のような思いをする者を出さないため。
南義男は過去を振り切り、Dattyと対峙する。
「ハッ……いい歳こいて夢見がちなガキが、拳闘で俺と張り合うつもりか? いいぜぇ、掛かって来なファンボーイ!」
そんな彼の蛮勇を買い、真っ向勝負に乗り出したDattyも。チャンピオンを目指していた頃のフレッシュな感覚に立ち戻り、興奮を露わにして両拳を構えている。
人生最後のボクシングを、人生最高のKOで終わらせるために。
そんな彼らのすぐ近くでは――髪先を蛇頭に変異させたハイドラ・レディと、森里駿が変身する仮面ライダータキオンが「太刀合わせ」を始めていた。
矢継ぎ早に無数の蛇頭を伸ばし、圧倒的な手数と疾さで攻め立てる蛇の怪人。超加速機能「CLOCK UP」で回避に徹しているタキオンは、その「小手調べ」を全て紙一重でかわしていた。
「……柳司郎様の想いを、ほんの一欠片でもこの世界に遺すため。申し訳ありませんが……仮面ライダーの皆様には、尊い犠牲になって頂きます」
「貴様が羽柴柳司郎の妻だったという、加藤都子か。……歪んだ愛に殉じることしか出来んとは、哀れな女だ。俺がこの手で終わりにしてやる」
相手が全く本気を出していないことを互いに理解していたハイドラ・レディとタキオンは、徐々に攻撃速度の「ギア」を上げて行く。
妻として、亡き柳司郎の遺志を継ぐ加藤都子としての信念。その気迫を目の当たりにしながらも、同じ改造人間として立ちはだかる森里駿は、哀れな未亡人に「終わり」を齎すべく、その拳を振り上げていた。
一方で、彼らよりも一足早く「トップギア」に突入している者達もいる。
高速移動を得意としているタパルドは、自分と同じ得意分野を持っていた道導迅虎こと仮面ライダーティガーの脅威的な「疾さ」に、薄ら笑いを浮かべていた。
「……仮面を被ってても分かるよ。あんた、なかなか良い面構えしてるじゃないか。この私と『速さ』で渡り合うつもりかい?」
「張り合う? ……違うな。『速さ』であんたを、超えるつもりだ」
スタジオ内を超高速で疾る彼女達は、天井も壁も問わず縦横無尽に駆け回り、互いの爪をぶつけ合いながら競い合っている。
今になって対等な好敵手と巡り会えたタパルドは、「歓喜」の笑みを溢しているのだ。
「……ハハッ、面白ぇー女だ! 始祖怪人の私を相手に、随分な自信じゃないか? ビッグマウスもほどほどにしておかないと、『痛い目』見るよッ!」
「ビッグマウスかどうかは、試してみれば分かるさ。元レーサーを無礼るなッ!」
互いの爪で命を狙い合っている2人は、設備や照明を破壊しながら、幾つもの火花を置き去りにして駆け抜けて行く。戦場とするにはあまりにも狭いこの空間を、彼女達は一瞬たりとも止まることなく動き回っていた。
そんな2人がスタジオ内を超高速で駆け回る中――その渦中で「余波」の猛風を浴びているブレイズキャサワリーは、東方百合香こと仮面ライダーアルビオンと対峙している。
「……まさか、一度は仮面ライダーGに倒されたはずの貴様が、再び私の前に現れる日が来ようとはな。不謹慎を承知の上で言わせて貰うが……柄にもなく、神様とやらにも感謝したい気分だ」
「その声……お前、SATに居た女か。あの時の死に損ないが、仮面ライダーの1人になっていたとは驚きだ」
1990年代に設置された、対テロ特殊急襲部隊「SAT」。その隊員として旧シェードの暴虐に挑んでいたかつての百合香は、ブレイズキャサワリーの爪によって大勢の仲間達を喪った過去を秘めていた。
「今度こそ……貴様には何一つ奪わせん。貴様が重ねて来た所業の数々に……相応しい『敗北』をくれてやるッ!」
「……命よりも矜持、か。嫌になるぜ、昔の俺を見ているようでなァッ!」
数年前の因縁が、2人を再び引き寄せたのか。剛拳を備えた戦乙女とヒクイドリの怪人は、決着を付けるべく――拳と爪を交わし、「一騎打ち」を開始する。
そして、拳打と蹴撃の応酬が始まった頃。
悍ましい異形の姿を晒し、この場に現れたケルノソウルは――感慨深げに、仮面ライダーUSAのスーツを纏うジャック・ハルパニア大尉と相対していた。
「逞しくなったわね、ジャック。成長したあなたを一目見られただけでも、ここに来た意味があったわ」
「……ソコロフ。やはり、あんたも蘇っていたんだな」
対テロ組織としての「シェード」が誕生する前からの「旧知の仲」だった2人は、これから果たし合いを始める敵同士とは思えないほどに、穏やかな声色で言葉を交わしている。だが、それは初めのうちだけ。
ジャックの方は徐々に、深い悲しみと失望、そして怒りを滲ませた声を漏らし始めていた。
「未熟な新兵だったあなたが、今や歴戦の仮面ライダー……か。悪戯に長く生きていると、時間の流れも早く感じられるわね。覚えているかしら? 昔のこと」
「……あぁ。18年前のイラク戦争のことは、今でも昨日のことのように覚えている。あんたは……小隊が壊滅して孤立状態になっていた俺を、あの弾雨から救い出してくれた。誰もが化け物だと罵ったあんたの姿が、俺にとってのヒーローだった」
――2003年に中東で勃発したイラク戦争。当時22歳の新兵だったジャックはその戦地で、傭兵として参加していたプリヘーリヤ・ソコロフと出逢っていた。
異形の怪人に変身した時の彼女の姿は、誰もが化け物だと叫ぶほどに悍ましいものだったのだが。そんな彼女に命を救われたジャックだけは、決してソコロフをそのような眼では見なかったのである。
普段こそ、荒事とは無縁そうな少女の姿だが。一度戦闘が起これば異形の怪物「ケルノソウル」へと変身し、圧倒的な火力で敵を蹂躙する。
そんな彼女は戦闘においては頼りにされる一方で、化け物と陰で謗られることが当たり前となっていた。
その当たり前が、ジャックには通じなかったのだ。それは、罵詈雑言を浴び慣れていたソコロフにとっても初めての経験であった。
いつしか2人は、全ての垣根を越えた戦友として信頼し合うようになり。当時のアメリカ大統領による大規模戦闘終結宣言が発表されるまで、この戦争を最後まで生き延びたのだが。その日を境に姿を消した彼女が、次に現れた時は――世界に仇なす「怪人」となっていたのだ。
「俺はただの人間だけど、それでもあんたのように強くなりたいと……本気で思っていたんだ。そのあんたが、なんてザマだ……!」
「……これでもあなたには感謝しているのよ、ジャック。あなたと過ごしたあの日々は、まるで人間の頃に戻れたかのような夢心地だった。あなたほど、私という『人間』を肯定してくれた人は居なかった」
「だったらどうして、俺の前から姿を消した! 何故、本物の『怪人』になった! 何故今になって……俺の前に現れたんだ!」
「それは私にも分からないわ。……でも、起きてしまったことに理由を与えることは出来る。私はきっと、あなたと戦うことで……私自身の全てを精算するために蘇ったのね」
ソコロフにとっても、ジャックとの友情が嘘だったわけではない。どこまでも「人間」として向き合おうとしていたジャックの存在は、彼女にただ1人の人間としての思い出を残してくれたのだ。
それでも。世界が改造人間の恐ろしさを正確に認識し、許されざる存在であると定義した時点で。彼女は、幸せな思い出に浸るわけにはいかなくなってしまったのである。
年を追うごとに急速に発展して行く、情報社会の成長。その様子から、いずれ来る迫害の未来を予測していたソコロフは、ジャックの前から去るしかなかった。
そして今、「仮面ライダー」と「怪人」という相容れない宿敵同士として、ジャックの前に現れたのである。
全ての思い出を置き去りにしてでも、怪人としての己と決着を付けるために。
「さぁ、来なさいジャック。いえ……仮面ライダーUSA。あなた自身が、前へと進むために」
「……分かった。ならば俺が……あんたの全てを、ここで終わらせる。これで最後だ、ケルノソウルッ!」
その想いを汲んだジャックは、仮面ライダーUSAとして。ソコロフことケルノソウルとの決着を付けるべく、その鉄拳を構えるのだった。
「この階層の生命反応は……スタジオに居る俺達のものだけだな。人質らしき反応はない」
「ってことは、さらに上の階で監禁されてる可能性が高そうですね……!」
「よし……ここはジャック達に任せる。俺達は上階に行くぞ! 1人たりとも人質を死なせるわけにはいかん!」
「……了解ッ!」
そんなUSA達の背を見届けながら、残った新世代ライダー達はスタジオを抜け、さらに上を目指して階段を駆け上がって行く。彼らなら、この階層の始祖怪人達にも必ず勝てるのだと信じて――。
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