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ソードアート・オンライン 八葉の煌き

作者:望月
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血盟騎士団:特務支援遊撃隊

 尊敬、羨望、期待そして嫉妬
 血盟騎士団の副団長はそういう眼で見られる要職である。ことさらにアリオスはついこの間漸く三人に増えたばかりのレア度で言えば超S級の存在であるユニークスキルの持ち主でさえあるのだ。その眼の激しさ足るや筆舌尽くしがたいものである。オマケに本人は自覚が丸で無いがモデル級の美男子でさえある。血盟騎士団の副団長二人が恋仲と言う根も葉もないデマが流れているのは、誰がどう見てもお似合いと言えるルックスと言うのも一つの理由なのだ。……ただし見た目だけ、だが。
 攻略組は誰もがトップクラスの剣士である。当然レアアイテムや金は唸るほど手に入って故に中層プレイヤーとは比べ物にならないほど生活も良い。それで得た金の大半を攻略用のアイテムに費やしているものもいるが大半は裕福な暮らしをしていると言えるだろう。アリオスもアスナもセルムブルグにそれぞれの家を構えているし道具で困った事は二人とも無い。
 よって中層プレイヤーは現実の一般庶民が貴族に持つようなイメージを攻略組に持っているのだ。広い風呂に入ったり高いレストランが使えたり、と。そしてそれは概ね間違いではない。普通の一般プレイヤーでは自分の家を持ったりせずに宿に泊まる者が大半なのだ、そういう意味では確かに裕福なのだろう。血盟騎士団副団長はさぞかし優雅な暮らしをしていると、そう一般プレイヤー達は想像しているかも知れない。
 半分(アスナ)は正しい。だが半分(アリオス)はと言うと
「あんのオクサレ野郎共、何処行ったああ!!!」
「うわああああ副団長だああああああ!!!! 逃げろおおおおおお!!!」
「まぁああああてえええええええ!! サボりと言う悪は断固として許さん! サボるなら俺も仲間に入れろおおおお!!!!!」
「それが本音かあああああああああああ!!!???」
 こんな風にサボり魔を追いかける毎日であったり(時に自分が追われるサボり魔になったり)するとても優雅とはいえないような生活を送っている。血盟騎士団のアリオス率いる特務支援遊撃隊はその傘下の部隊を含め騎士とは到底言えない様なゴロツキの集まりであるのだ。その詰め所には日々怒号が、書類が、そして時に剣が飛び交うアインクラッド有数の物騒な無法地帯なのである。この間アリオスが家に帰れたのはそれだけで極めて稀な事であり、仕方無くアスナに金を払ったり、高い高いアイテムを奢ったりレア食材を提供したりして掃除してもらっている程だ。こんな物外に見せられるはずも無い。基本的に血盟騎士団の人材募集の宣伝の得れるレアアイテムやコル(現実で言う収入)の欄には特務支援遊撃隊を省いた数字が書かれているほどだ。
 だがそれでも統率が取れているのは……鬼がいるからだ。
「何をやってるんですか」
 ……コレが現実世界のバラエティ番組なら「デーデーデードーデドードーデドー」と、かのダースベーダー卿のBGMが流れただろう。振り返れば(リーシャ)がいる。ボスモンスターにだって出現にはなんらかのサインが有るというのにこの鬼は本当に振り返ればいるのだ。絶対零度の冷気の相貌を殺気でギラギラ輝かせながら。心の準備もできないまま対峙しなければならない。
 さて、彼女が出現した瞬間、俺が追い掛け回していた部下(その中にはランディもいる)はシュタッと席について黙々と作業を始めた。つまり立って仕事をしていないのは俺一人。
 さてここで問題だ、この部下の行為を何と言う?
 答えは『裏切り』だ。『寝返り』とも言える。
「とりあえず……O☆H☆A☆N☆A☆S☆H☆Iしましょうか副団長」
「ちょっ、ちょっと待て!! それキャラ違うし洒落にならないって!?」
「安心してください。今ならス○ーライトブ○イカーだってぶっ放せる気がします」
「いやこの世界遠距離武器も魔法も存在しないんだが!?」
「レイジン○ハート、セットアップ!」
「中の人だって一致してねえんだって!?」
 抗議も空しく、アリオスはリーシャに引きずられていった。消えた先からはなにやら不穏な「ズンッ! ドゴォッ! バキィッ! ゴキッ! グチャアッ!!!」効果音が聞こえ隊員達は「副団長生きてると思うか?」「いや、死んだな」と小声で話す。
「さあ皆さんチャキチャキ書類を片付けてくださいね!」と戻ったリーシャの声が響いた。ちなみにカーソルはグリーンのままだ。どんな裏技を使ったし。
 その後に丸でぼろ雑巾のような酷い有様の紅いコートを纏い八葉丸を杖のようにしてアリオスが現れた。その眼に生気は無く、今にも崩れ落ちてしまいそうなその姿に特務支援遊撃隊の面々は懐からハンカチを取り出す。
「ああ副団長……ムチャしやがって……」
 それを見たアリオスはその場にいたリーシャ以外の全員に復讐をする決意をした。
「つーかもう直ぐ昼だな」
 そのランディの呟きを聞いた瞬間その場の時がまるで止まってしまったかのようにピタッと静かになった。昼になる。つまりはもう直ぐこの間新たに開かれた七十五層の主街区『コリニア』でSAO最高クラスの決闘が始まると言う事だ。
 『特務支援遊撃隊』は攻略組の中でならず者や問題児が多い所謂(いわゆる)『はみっこ』で構成された部隊だがその一方で攻略組の性質が一番色濃く出ている部隊でもある。全員が全員現実でトップクラスのMMOプレイヤーでSAOのβテスターも非常に多く特にロイドやリーシャの様なこの部隊の幹部はSAOの攻略組の中でも最強クラスの部類に入る。勿論『八葉一刀流』なんてユニークスキルがある俺も例外ではない。そしてそんなMMOトッププレイヤーには一つの救い難い性質がある。自分がそのゲームの中で最強でありたいと言う欲望だ。そしてその欲望ゆえにレベル上げに躍起になり、情報があるならば犬並みの嗅覚で嗅ぎ当てハイエナの様に(かじ)り付く。そしてそれこそが攻略組と中層プレイヤーとの間で埋められない隔絶を生んでいるのは何とも救いようの無い問題であると言えよう。MMOプレイヤーの中でこんなデスゲームの中でさえプライドを捨てられなかった哀れな者達…MMO初心者だったが天才的なセンスでのし上がったアスナのような例外はあるにしても…が攻略組の大部分を占めている。
 そんな俺達が今齧り付こうとしている餌は言うまでも無く『二刀流(キリト)』と『神聖剣(ヒースクリフ)』による決闘だ。新たなユニークスキルである『二刀流』のその力がどの程度の物なのか、それが俺達が今、一番に得たい情報なのだ。キリトというプレイヤー自体の技量も見れるであろうその決闘は俺達の中で『見ない』と言う選択肢は存在しない。よって俺達が考える事は同じだ。
 さあこの書類、どうやって処理する?
 人は弱い。特にゲーマーなんて人種はモロ弱い。前もって宿題をやっておくなんてことは決してできないタイプの人間だ。あのリーシャや真面目なロイドでさえ悪戦苦闘している様子が見て取れる。
 そしてここにも例外は存在する。
「ふぅ……片付いたよ」
 その声に一気に視線が集中する。憎たらしい程にさっぱりとした表情をしている男……にどうも見えない性別不詳人間のワジは立ち上がった。奴のトレードマークとなっている青に白のマフラーを巻いて颯爽と立ち去って行こうとする。コイツをそのまま逃す手はない。
「ワジー、書類手伝ってくれー」
 ワジはこちらを見てニッコリ微笑んだ。しまった、と反射的に思ったときには時既に遅し。
「本当は気が乗らないけど……(いと)しのアリオスに頼まれたら嫌とは言えないね♪」
 ……こういう奴だってのを忘れていた。コンマ一秒で辺りからざわめきが漏れる。「そうか副団長…」「何も言うな副団長、俺達は味方だ……だからもうチョイ離れてくれ」……ワジのことも俺のことも知ってて言ってるのだから尚更に性質(タチ)が悪い。
「……てめえら言いたい事があるならハッキリ言えや」
「イヤア、ナニモイウコトハアリマセンナー」
「マッタクマッタク、ランディサンノイウトオリデスナー」
「エエホントソノトオリデスワー」
 ………ランディを筆頭にいっそ清々しい程に棒読みだ。
「俺はホモじゃねえええええエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!」
「え? アリオス……僕とあーんな事やこーんなこともしたのに…………忘れてしまったと言うのかい?」
「誤解を拡大させようとすんじゃねえこの性別不明(ひでよし)野郎!良いから黙って書類手伝え!」
「ふふ、そんなつれない所も好きさ♪」
「おぞましい事をぬかすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」
 ………誤解が無いように言っておくがワジと俺はそんな関係じゃない。そんなのは願い下げだ。こちとらそんなアブノーマルな趣味は無い。どこぞの残念でナルシストな帝国皇子見たいに両性愛者(バイ)でも無論無い。至ってノーマルだ。だからと言って「女が好きだぁああ!!」等と叫ぶほどでもないが。ともかく大事な事なのでもう一回言おう。俺はノーマルだ。両性愛者(バイ)でも同性愛者(ホモ)①でも同性愛者(ゲイ)②でも同性愛者(オカマ)③でもない。至って健全(ノーマル)だ。
「そこまで力説されると返って怪しく感じますよね、三回も同性愛者って言うところとか」
「おいリーシャ、テメェ何を言い出すかと思えばそんな馬鹿げた事を」
「私にそんな口を聞くって事は書類終わったってことですよね?」
「心の底からすみません」……駄目だリーシャは強すぎる。
 そんな漫才をしている間にも席を立った者は一人もいなかったという。勉強が嫌いな高校生張りの遅さであると言えよう。
「作業遅くたって良いじゃない。人間だもの」
「み○をか」

 結局なんだかんだでワジはちゃんと手伝ってくれた為それからの作業はテキパキと進んだ。普通にやるなら最初っから普通にやってくれりゃあ良いのに……それを特務支援遊撃隊員(コイツラ)に求めるのも酷な話か。ボスだってこの上限の四十八人に満たない三十人のメンバーだけで「ヒーハー!」とか叫んで挑むような連中だ。中でも幹部連中はロイドを除いて皆頭の螺子(ネジ)がずれている様にしか思えない。特にワジは善良に見えて嘗ての犯罪者(オレンジ)ギルド『テスタメンツ』のリーダーで有ったりもすることからそのずれ方は半端ではない……ずれていると言うよりもからかい方が問題なのか。
「『テスタメンツ』……懐かしいね。アッパスは元気にやってるかな?」
「元気にやってるだろあのおっさんなら。中層プレイヤーとは言え素手でプレイヤー折檻(シバ)き倒せる人だぜ?」サングラスをかけたハゲで長身でガングロのワジの副官だった男を思い浮かべながら俺はそう言った。
 本来なら潰れたら、その構成員は軍で面倒を見られることになる犯罪者(オレンジ)ギルドだがワジの『テスタメンツ』はその例に当てはまらなかった。
 と言うのも軍が拘束するにはワジを初めとした『テスタメンツ』のメンバーは余りに人々から支持されすぎていたのだ。いわゆる義賊の様な存在だったのである。かの『笑う棺桶』の様な殺人(レッド)プレイヤーや、横柄な軍の連中から一般のプレイヤーを守り攻略組の中で自分の実力を鼻にかけているような連中からレアアイテムを掻っ攫い格安で売りさばく……妙な人気も出る訳だ。
 オマケにワジや話にだけ出てきたアッパスと言う男の強さは半端ではなく、ワジに至っては犯罪者(オレンジ)プレイヤーなのに攻略組と同じく渾名がつけられている程だ。ちなみに『鎌鼬(カマイタチ)』と言う。その名に相応しい超の字がつく程のスピードファイターだ。武器は体術の為のナックルのみである。そんな所からも巷では常々世間話の話題に上ったものだ。
 さて、そんな彼等が横柄で知られる軍に捕まったらどうなるか?……そんな事は火を見るより明らかだ。
 その日は奇しくも十三日の金曜日だったことから北欧神話からとって『バルドルが殺された日』と今では呼ばれている大暴動が『はじまりの街』で起こったのである。その暴動を起こした者の中にはちゃっかり軍の穏健派も混ざっていたそうだ、その機会に過激派に打撃を与えようという魂胆だったのだろうか。
 ともかくその数はなんとSAO六千人中二百人集結して勿論そんな大軍を到底軍に抑える事などできるはずもなくその当事既に最強と呼ばれていた血盟騎士団に増援の要請が有ったほどだ。血盟騎士団がどのような対応をしたのか……色物部隊とはいえ血盟騎士団にそのリーダーが入っている(しかも幹部クラスとして)ところから想像して欲しい。お陰で軍との関係は今最悪と言える状況だったりする。
 さて、長々とワジのことを語ったが特務支援遊撃隊の構成員がどれほど頭の螺子が外れているか理解して貰えただろうか?他にもハルバードを街中で振り回して攻略組最大のギルド『聖竜連合』のお偉いを薙ぎ払ったりするランディ(この時『聖竜連合(むこう)』からは多額の賠償金が要求された。ランディがそれをちゃんと自分で払ったかどうかはまた別の話)や話せば話すほど、(キリ)が無いような気がしてくる。
 ……と、こんな風に内心で愚痴っているアリオスがぶっちぎりのトラブルメーカーなのは言うまでも無い。でなけりゃ隊長だと言うのにも関わらずリーシャにシバかれたりはしないのだが、生憎アリオスには自覚と言う物が存在しない。非常に残念な話である。良いのかそんなのが隊長で。そして血盟騎士団も良いのか、こんなのが副団長の片割れで。
 なにはともあれ書類と言う鎖から開放された特務支援遊撃隊は血盟騎士団員であることに物を言わせ善良な中層プレイヤーから良い席をカツアゲ……しようとしたらリーシャの顔がドンドン気温が下がって絶対零度ゾーンに突入しようとしたのを見てアリオスが急いで止めさせた。本当にコレで良いのかこの部隊。
「いっつも本当にご苦労様だねリーシャちゃん……」
「いえいえ……私としてはアレの幼馴染だって言うあなたの方が尊敬できますよアスナ副団長。いっつもストッパーご苦労様です」
「いやいやリーシャちゃんこそ」
「またまた、アスナ副団長こそ」
 余談だがこの二人の中は良い。親友と呼べるレベルで。出会ったのはリーシャがアリオスの副官になってから数日が経ってのことだったのだが、人目でお互いに何か通じ合うものを見つけたらしい。二人ともSAOの中では五本の指に入る美人なのもあって公私共に付き合いが深い。主に言い寄るナンパの撃退の為なのだろうが、そうでなくても普通に中が良い。なおで良く見られる光景なのだ、そしてそれをチラチラと見る無粋な(やから)を撃退するのはアリオスの役目と言うのが暗黙の了解である。
「………………………………………………………」
「えーその無言のプレッシャーはなんでしょうかリーシャさん?」
「……………………………(喉が渇いたんですよ)」
「何か今心の声で言いませんでしたか!? ハッキリ聞こえたんですけどアンタはエスパーかなんかか!?」
「いやー、アリオスさんは優しくて部下思いな隊長ですからね。こんな日に『いっつも迷惑かけてごめんね』的な事を言ってドリンクの一杯でも買ってきてくれるんじゃないかなーって思ったんですよ」
「無言のプレッシャーの次はものっそいオブラートに包んできたよこの人!? え、なに。買って来なきゃこのプレッシャーからは解放されないパターン!?」
「あー試合観戦しながら『クーラ』が飲みたいなー」
「今度はわざと聞こえるように言ってチラ見ですかぁ!? しかもあれ某炭酸飲料に名前は似てるけどその実態は無茶苦茶高いカクテルじゃねえか! そんなもん上司に奢らすな! 飲みたいならテメェで買って来い!」
「………月夜ばかりと思わないことです」
「怖い!? ちょっとガチ怖いってそれは!」どこぞの守銭奴の()台詞を言われては仕方が無い。
 何時だって人間は暴力に屈してしまう物だ。ああいつか革命が起こせたら。
 その思いを読み取ったのかランディにワジ、そしてその周りにいた隊員達が迷える哀れな子羊を見る神父のような眼で此方を見た。
「「「まあ無理だな」」」
「うるせえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 
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