機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第92話:管理局の裏側
部屋から通路に出てはやてのいる艦長室へと向かう。
俺は自分の左腕にしがみつくように歩くなのはに目を向ける。
その顔には笑顔が浮かんでいて、なんとなく足取りがはずんでいる。
「なあ、なのは」
「ん♪」
「部屋を出たら手は離すって言ってなかったっけか?」
「そうだったっけ?」
「ったく・・・。ま、いいけどさ」
艦長室の前まで来て、扉の脇にあるブザーを鳴らすと、
不機嫌そうなはやての声が返ってきた。
「はやて、なんか不機嫌そうだけど・・・どうする?」
「いいよ。入ろ!」
そう言ってなのはは扉を開けて俺を引っ張っていく。
艦長室に入ると、はやてが眉間にしわを寄せて端末のモニターを
睨みつけていた。
「おはよう、はやて」
「おはよう、はやてちゃん」
俺となのはが朝の挨拶をすると、はやては端末から目を上げて
俺たちの方を見る。
「おはよう・・・って、なに?そのカッコ」
はやては俺の腕に抱きつくようにしているなのはを見て訝しげな
表情を浮かべる。
「えっとね。ちょっとだけ自分の気持ちに素直になろうと思って」
なのはがそう言うとはやては俺の方に目を向ける。
「なあゲオルグくん。規律保持のためにも公の場ではそういうのは控えて
欲しいんやけど」
「なのはに言ってくれ。俺の意志じゃない」
俺がそう言うと、なのはは不機嫌そうに俺の顔を見上げる。
「ゲオルグくんは、私と腕を組むのイヤなの?」
「そうじゃなくて、公私のケジメをきちんとつけようって言ってるんだよ」
「むぅ・・・わかったの」
そう言うとなのはは不承不承といった体で俺の腕から手を離す。
「で?こんな朝から、しかも2人揃って何の用なん?」
「はやてにおりいって相談があるんだけど」
俺がそう言うとはやてはおやっという顔をする。
「2人揃ってっていうのは珍しいやん。何なん?」
「実はヴィヴィオの事なんだけどな。今はアイナさんに
預かってもらってるだろ。ただ、ヴィヴィオがなのはや俺と一緒に
いたがってるみたいでさ・・・」
「ほんならアースラに・・・って無理やな」
はやてはそう言って首を横に振る。
「そうなんだよ。で、隊舎の再建が終わるまで、俺が自宅として
借りてるマンションに3人で住もうかと思ってさ。
はやてに許可をもらいに来たんだよ。どうかな?」
「ええんちゃう」
俺の問いかけにはやては即答した。
「即答かよ・・・本当にいいのか?」
「そやからええって。ゲオルグくんは24時間待機の要員やないし、
なのはちゃんも病み上がりやから、当分は24時間待機からは外すし。
それにゲオルグくんのマンションってここから30分やろ?
いざっちゅうときには1時間以内に来れるんやから問題無いよ。
それよりも・・・」
はやてはそこでなのはを見る。
「なのはちゃんこそええの?これって同棲ってヤツやと思うんやけど」
はやての問いになのはは頷く。
「うん。昨日の夜にゲオルグくんとも話したんだけどね、
とりあえず隊舎が再建できるまでってことならいいかなって。
ヴィヴィオと一緒に居たいっていう気持ちもあるし」
なのはの答えにはやては微笑むと、なのはに向かって手招きする。
なのはが自席に座るはやてのそばにいくと、はやてはなのはの耳元に
口を寄せて、何かを囁いているようだった。
はやてがなのはから顔を離してニッコリ笑うと、なのはの顔が真っ赤になった。
なのはは顔を赤くしたままうつむきがちに俺のところまで戻ってくる。
「なあ、はやてと何を話してたんだ?」
俺がそう尋ねると、なのははさらに耳まで真っ赤にして俺を一瞬見ると
うつむいて小さな声でもごもごと何かを言っている。
「・・・ない」
「あ?何言ってんのか聞こえないんだけど」
俺がそう言うとなのははキッと俺を見て口を開いた。
「ゲオルグくんには話せないっていったの!」
なのははそれだけ言うとまたうつむいてしまった。
(耳元で叫ぶなよ・・・あー頭痛て・・・)
「話はそんだけかいな?」
はやてはそんな俺となのはのやりとりを見てニヤニヤと笑いながらそう言った。
「いや・・・。それと引越しのために俺となのはの休暇を合わせたいんだけど」
「ん?それやったら適当に有給休暇を使ったらええやん」
こともなげにはやては言う。
「いいのか?」
俺が尋ねるとはやてはひらひらと手を振りながらカラカラと笑う。
「ええねんって。どうせ何か起こってもウチに対応依頼は来えへんよ」
「はぁ?どう言う意味だ?」
「あのな、私らはJS事件でちぃとばかし活躍しすぎたんよ。
そやから、これ以上私らが活躍できひんように出動制限が
かかってるはずやねん。ま、昔からの管理局のやり方っちゅうやつよ」
肩をすくめながら言うはやての言葉に俺は少し引っかかりを感じた。
「昔から?」
俺がそう尋ねると、はやては大きくため息をついてから口を開いた。
「PT事件と闇の書事件のあと、アースラとその乗組員が
どうなったか知ってる?」
「知らないよ。なのははどうだ?」
そう言ってなのはを見ると、先ほどまで真っ赤だった顔が青ざめていた。
「なのは?」
もう一度声をかけるが、なのはは口元を抑えてはやてを見つめていた。
「なのはちゃんは知っとるわな」
「そうなのか?」
はやてと俺の言葉になのはは小さく頷く。
「うん。でも、そんな・・・」
小さくそう言ったなのはの声は心なしか震えていた。
「なのはちゃんの気持ちは判るけど、事実やで。
ま、私もそう言う事情があったんやって知ったんはつい最近に
なってからやけど」
「すまん。話が見えん」
俺が手を上げてそう言うと、はやては苦笑する。
「ごめんごめん。ゲオルグくんは知らんかったんやったね」
そこではやては手元にあったカップの中身をあおる。
「でや、両事件の関係者についてやけど、まずはアースラの艦長やった
リンディ・ハラオウン提督は本局運用部に転任して以降現場勤務は無し。
当時、執務官やったクロノくんもその後3年間は本局捜査部勤務で
現場に出始めたんは提督に昇進してから。
他の乗組員も、軒並み本局の内勤か中央への転任が命じられてるんよ。
ま、形式上は出世したことになるから論功行賞の結果ともいえるんやろうけど
ホンマの目的は、あまりにも功績を立てすぎたアースラ関係者を
現場から遠ざけることやったんよ」
「それ、証拠はあるのか?」
俺が尋ねると、はやては笑いながら頷く。
「あったりまえやん。他はともかく艦長クラスの人事を秘密裏に
決められへんやろ。そやから公式記録にバッチリ残ってたよ」
「じゃあ、事実なんだな・・・」
「そやからそう言うてるやん。それに、それだけやないで。
その他の事件関係者の取り扱いについてもいろいろあんねん。
まずはユーノくん。抜群の調査能力と遺跡発掘の実績があるとはいえ
いくらなんでもいきなり無限書庫の司書に抜擢はちょっとおかしいと
思わへん?無限書庫の司書っちゅうたら、正規になろうと思ったら
ものすごい倍率の試験を通らななられへんやん。
それになのはちゃん。なのはちゃんはリンディさんに熱心に
勧誘されて中学生の間は嘱託として管理局に協力。
その後正式に管理局入りした。で、間違いないよね?」
はやての言葉になのはは小さく頷く。
「これも考えてみればおかしいんよ。何の専門教育も受けてへん
10代前半の女の子を軍事組織が嘱託職員として雇うっちゅうのも
変な話やんか。いくら魔法能力が高いとはいえやで」
「じゃあ・・・」
「うん。リンディさんに聞いたら、なのはちゃんを管理局入りさせるように
上から命令を受けたって言うてたわ」
「そう・・・なんだ・・・」
「まあ、リンディさん自身もなのはちゃんの能力をそのままにしとくんは
もったいないと思ってたらしいけどな。リンディさんの思いとしては
きちんとしたルートで管理局入りさせて、きっちり基礎教育から受けて
任務に付けるべきやと思ってたらしいわ。
にもかかわらず、なし崩し的に戦闘任務に駆り出されるようになった・・・」
そこで一旦言葉を切ると、はやてはなのはと俺を交互に見た。
隣に立つなのはを見ると、口に手を当ててその顔は少し青ざめて見えた。
よく見ると、その肩は少し震えているようにも見える。
俺がなのはの肩に手を置くと、なのははゆっくりと俺の顔を見る。
「大丈夫か?」
「・・・うん」
なのはは小さく頷く。
「でも・・・ゴメン。手、握ってて」
「判った」
俺は短くそう言うと、なのはの手を握る。
「続き、話してもええ?」
はやての言葉に俺となのはは頷く。
「ほんなら話すわな。で、まあユーノくんとなのはちゃんについて言えば、
管理局がその力を他に持っていかれるくらいなら、自分のところで
飼い殺しにしてしまえっちゅう上層部の考えのもとに用意された立場なんよ」
「じゃあ、ユーノくんが司書長になったのや私が戦技教導官になれたのも?」
「そっちは完全に実力や。つまり、ユーノくんもなのはちゃんも
上層部が考えてた以上に力を持ってたってことやね」
「そっか・・・」
なのはは少しほっとしたように表情を緩める。
「ま、管理局がキレイなトコばっかりの組織じゃないってのは
わかってたつもりだけど・・・な」
俺がそう言うと、はやては頷く。
「ゲオルグくんは情報部の特務におったから、管理局上層部の
汚いトコを直接見る立場やったからね」
「まあな」
その時、なのはが俺の手を握る力を少し強くする。
「・・・なのは?」
そう言ってなのはの顔を見ると、不安そうに俺の顔を見上げていた。
「ゲオルグくんが情報部で何をしてきたのか、結局私は何も知らないなって」
「知りたいのか?」
「うん。ゲオルグくんのことはなんでも知りたい。できればだけど・・・」
「なのは・・・」
なのはの表情と言葉に一瞬、すべて話してしまおうかと思う。
が、次の瞬間には話すべきでないと俺の理性の部分が判断していた。
「悪いけど、いくらなのはでも話せない。ホントに済まないけど」
俺がそう言うとなのははふるふると首を横に振った。
「いいよ。ゲオルグくんは私のために話さないって決めてくれたんでしょ。
それに、私たちが初めて戦場で出会ったときのことを考えても
ゲオルグくんが公に口外できないような任務についてたのは
なんとなくわかってるつもりだから」
なのははそう言って俺に笑顔を向ける。
「ありがとな。なのは」
そう言って俺もなのはに向かって笑いかける。
「あー、こほん。ここは私の部屋なんやけど、わかってる?」
はやてのその声で俺となのははバッと手を離す。
「悪い・・・」
「ごめんね、はやてちゃん・・・」
「いや、そこまで謝られるほどのことやないんやけどね。
で、思わぬ話題になったけど相談って以上?」
俺となのははお互いに顔を見合わせると、はやてに向かって頷いた。
「ほんなら話は以上やね。休暇の日程が決まったら連絡してや」
「うん。じゃあ、ありがとね。はやてちゃん」
「ええって。ほんならね」
なのははそう言って艦長室を出ようとする。
が、俺が動かないので手を引かれ、少しバランスを崩す。
「ゲオルグくん?」
「悪い。俺はもう少しはやてと仕事の話をしたいんだ」
「そっか。じゃあ私は先に戻るね」
そう言うとなのはは艦長室を出ていった。
音を立てて扉が閉まったところではやてが先に声を上げる。
「で?話っちゅうのは何?」
「ああ。ひとつ頼みがあるんだけど・・・」
そうして、俺ははやてに一つの頼みごとをして艦長室を後にした。
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