機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第91話:2人で迎える朝
・・・翌朝。
窓から差し込む朝日の光を感じて目を覚ました俺は、
腕の中に何か温かいものがあるのを感じ取る。
(ん?なんだ?)
目を開けるとそこには、静かに寝息を立てるなのはの顔があった。
「へっ!?・・・っと・・・」
驚きで大きな声を上げそうになるのをなんとか抑えると、
一度目を閉じて気を落ち着けるために大きく深呼吸する。
冷静さを取り戻した俺は昨夜のことを思い出す。
ゆっくりと目を開けると、変わらず穏やかな表情で眠るなのはの顔があった。
シーツの端からはなのは白い肩がのぞいていた。
時計を見ると、フォワード達の教導に行くなのははそろそろ起きなければ
ならない時間だった。
俺はなのはに向かって声をかける。
「なのはー。朝だぞー」
「ん・・・」
小さな声で呼びかけたのだが、なのはは少し身じろぎしただけで
目覚める様子はない。
「おい、なのは。早く起きないと教導に遅刻するぞ」
少し大きな声で呼びかけながら肩を揺すると、
なのはの目がパチっと開いて俺と目が合う。
「あ、ゲオルグくん。おはよー」
眠たげに目をこすりながら、なのはは笑顔でおれに朝の挨拶をする。
「おはよう、なのは」
そう言うとなのははニコっと笑う。
「朝起きて真っ先ににゲオルグくんの顔が見られてうれしいの」
「俺もなのはの寝顔が見られてよかったよ」
なのはは俺の言葉に頬を染める。
「寝顔・・・みてたの?」
「ああ、少しの間だけだけどな」
「ちょっと・・・はずかしいかな」
「そんなことないよ。その・・・かわいかったし」
俺がそう言うとなのはの顔が真っ赤に染まる。
「・・・ありがと」
「どういたしまして・・・」
俺がそう言うとなのはがクスッと笑う。
「ゲオルグくん、顔真っ赤だよ」
「なのはこそ」
「う・・・、ってもうこんな時間!」
なのははシーツを身体に巻きつけて立ち上がる。
「私、シャワー浴びるけど、ゲオルグくんはどうする?」
「俺も部屋に戻ってシャワーを浴びるよ」
「そっか。じゃあ、また後でね」
「おう。はやてに昨日話したことを相談しないといけないし」
「うん。じゃあね」
そう言ってシャワールームに入ろうとするなのはの肩を掴むと、
少し強引に振り向かせて、なのはの唇に自分の唇を押し付ける。
「んっ!?」
なのはは少し抵抗するが、すぐに力が抜ける。
しばらくなのはの唇を味わったあと、ゆっくりと顔を離すと
なのはの顔は上気していた。
「嫌だった?」
そう訊くとなのははふるふると首を振る。
「ううん。たまにはこういうのもアリかな・・・と」
「あ、そう?参考にさせていただきます」
「でも、いつもはもうちょっと優しくしてもらえるといいなぁと思うの」
「りょーかい。じゃあな」
「うん」
そう言ってなのははシャワールームに姿を消した。
「俺も戻るか・・・」
俺はひとりごちると、ベッドの周りに散らばった自分の服を着て
なのはの部屋を出た。
副長室に戻った俺はシャワーを浴びて制服に着替えたあと、
デスクについて仕事を始めた。
端末を開いてメールソフトを立ち上げると、各セクションからの
物資補給要求に関するメールがずらっと並んでいた。
それらの中からシグナムから送られてきているフォワード隊と交替部隊分の
補給要求についてのメールを開く。中身を見て俺は唖然とした。
応急治療パックや緊急用の糧食セットもいつもと比べて多いが
何よりも目を引いたのはカートリッジ1000発という
途方も無い要求だった。
通常であれば1か月の消費量は200発もいけば多い方で
今回の要求量は軽く半年分といったところだ。
(大きな戦いの直後とはいえ、さすがに多すぎだろ・・・)
俺は深いため息をつくと、自分で管理している補給物資の管理表にある
要求量の欄にシグナムからの要求分を入力する。
「ゲオルグくん、入るよー」
プシュっと小さな音を立ててドアが開いたかと思うと、なのはが
そう言いながら中の様子を窺うようにしながら部屋の中に入ってきた。
「なのは?ブザー鳴らせよ」
俺が抗議するように言うとなのはは口をとがらせる。
「鳴らしたよ!でも何の反応もないし、ロックもかかって無かったから
大丈夫かなって思ったの!」
「鳴らした?マジで!?」
そう尋ねると、なのはは不機嫌そうに頷く。
どうやら、集中していたせいでブザーを聞き逃したらしい。
と、集中していた理由に思い至る。
「そういえばなのは」
俺が真剣な口調になったのを察知し、なのはも不機嫌オーラを脱ぎ捨てる。
「どうしたの?」
「シグナムから来月の補給物資要求が来てるんだけどさ、ちょっと見てくれよ」
「どれどれ?」
そう言いながらなのはが俺のデスクを回り込んで俺の隣に立つ。
「これなんだけどさ」
そう言って俺はモニターを指さす。
なのははモニターを覗き込んでから首を傾げる。
「確かに多いね・・・これは」
そう言うとなのはは腕組みする。
「でも、あんな大きな戦いがあったんだから、いざという時のための
在庫回復分も含めるとしょうがないんじゃない?」
「俺も一度はそう考えたんだけどさ、カートリッジ1000発はさすがにな」
「無理そうなの?」
「無理じゃないよ。でも・・・いや、やめとく」
「そこまで言ったら最後まで言ってよ」
なのはは真剣な表情で俺を見る。
「わかったよ」
そう言って俺は一度小さく息を吐くと先を続ける。
「実は本局の主計部から隊舎再建計画について予算圧縮の依頼が来ててさ、
無理だって突っぱねたばっかりなんだよ・・・」
「それがどうしたの?」
なのははそれがカートリッジの大量補給とどう関係あるのか判らないようで
首を傾げる。
「だからさ。隊舎再建の予算圧縮のお願いを無理だって断った上に、
膨大な額の補給要求を出すとさすがに主計部に睨まれるだろ?
主計部や運用部に睨まれるとこれからの部隊運営に支障をきたすから
できるだけそういうことはしたくないんだよ」
俺がそう言うとなのはは腕組みして考え込む。
「ゲオルグくんの言うことは判るけど、シグナムさんの要求もそれなりに
根拠があるはずだから、シグナムさんの意見も聞いてみたら?」
「それはそのつもりだよ。その前になのはにも意見を聞いておきたくてさ。
ま、こっちは後でシグナムと相談してみるよ」
「うん」
そう言って、なのはは笑顔で頷く。
「じゃあ、そろそろはやてのとこに行くか」
「そうだね。行こっ!」
なのははそう言って立ち上がった俺の腕に自分の腕をからませる。
「・・・部屋の中ならいいけど、通路に出たら離せよ」
「わかってるもん」
なのははそう言って頬を膨らませる。
「ならいいけど・・・」
俺はそう言うと、なのはと共にはやての部屋に向かうべく自分の部屋を出た。
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