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チートゲーマーへの反抗〜虹と明星〜

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12話 Assassin【暗殺の企て】

「スクールアイドル同好会かぁ……」
「王道を往くワレワレにとって、強力なライバルになるに違いアリマセン!!」

侑たちと別れたのち、自らの家へと歩む速人たち4人組。

同好会という、ライバル出現の割に可可が息巻いているのは、やはりスクールアイドルオタクであるからだろうか。

とはいえ、その意見には速人も肯定する。


「それはいえてるかもな。あの歩夢さんって人は、見るからにお淑やかでスクールアイドルっぽい雰囲気が———」
「……どーせ私には女の子らしさもかけらもありませんよーだ。」
「そこまでは言ってねぇだろ……」
「ふん!!」


速人が気づいたときにはもう遅い。かのんの今この時点でのコンプレックスをさらに抉ってしまった———ここまで来ると被害妄想と言わざるを得ないが、そうであろうとかのんが自信をなくすのは害でしかない。

そんな中、速人の頭の中では全く異なる念が浮かんでいた。


「(師匠……一体何を隠してんだ…?)」


速人が気づいていないわけがなかった。

侑が自分たちに向けた異質な視線……驚き、混乱、哀れみ。そんな感情が渦巻いているのが伝わってきた。

素直な侑だからこそそのような感情も読み取れたのかもしれないが。

どのみち彼女がそのような感情を抱いたのは、俺が来た後だということは言うまでもない。


「(もし師匠が俺たちの障壁なったとしたら……)」


考えるだけでも恐ろしい。速人は自らの師匠が何者であれ、今の自分が勝てる気は全く起きなかった。


「……」
「速人くん?」
「!!」


考え込む速人を我に返したのは千砂都だった。


「大丈夫?なんかすごく思い詰めてるみたいだったから……」
「あぁ——ちょっと……」


煮え切らない速人の前に、千砂都は立ち塞がって人差し指を立てて忠告する。


「思い詰めてると体に毒!速人くんが体調を壊すと大変なことになっちゃうよ?」
「千砂都……」
「悪い癖だよっ!もう…!」


千砂都の健気な指摘でようやく現実的な思考へと帰ることのできた速人。

悪い癖。確かに速人は自らの相棒とは違い、動く際にも常に思考を巡らせる頭脳主義者だ。だがそれゆえに何か引っ掛かる情報があると、吹っ切れずに引っ張られ続ける。

そう、一人で完璧な人間など居るわけがない。


「そうだな———お前たちだけじゃなく俺も変わらなきゃダメか。」



「自分を変える舞台としては……最高だろ?」



速人たち一向の後ろから聞こえたカリスマ性溢れるボイス。その声の主は……


「小原…魁?」
「「「王様(Huángdì)!!!」」」
「忘れ物に粗相な奴を連れてきたぞ。」
「あ、あぁ……」


なんと生気の抜けた泥まみれの那由多の襟を掴んで連れてきたエルシャム王 小原魁。

流れるように那由多を置き捨てて、速人と千砂都の間に割って入る。


「今日はお前たちにビッグニュースを届けに来たんだ!!」
「ビックニュース?」

かのんは素朴にそのニュースの内容をせがんだ。

「では教えてやろう……俺の友人が催す代々木スクールアイドルフェスに———虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の1人が出演することになった。」
「「………」」
「おっと…やけに白けた目だな?」


微妙な空気が意外だったのか、キョトンとする魁……だが速人にはこの表情すら茶番じみたものに感じていた。

だが流石にそれを茶番と決めつけては、無礼極まりないためその事情を述べる。


「さっき虹ヶ咲学園の生徒に会ったんだ。あんたの言った通りのことを言ってたよ。」
「ほう……じゃあ、今回の戦いがいかに厳しいか理解したようだな。なんせ相手はあの優木せつ菜「な、ナンデストー!?!?!?」

刹那、可可が一瞬にして魁の側へと急接近する。

「優木せつ菜…本当に優木せつ菜様ナノデスか!?!?」
「あぁ。【あの】優木せつ菜だ。」
「可可ちゃん、その人誰か知ってるの?」

かのんはまたも素朴な疑問を可可にぶつけた———ところが、返ってきたのは少し怒気の混じった答えだった。


「かのんサンまさか知らないのデスか!?」
「う、うん…まぁ……」
「優木せつ菜様は現役スクールアイドルの中で最も勢いのあると言っても過言ではないオヒト…!グループの多いスクールアイドルでは、異色のソロアイドルとして世界に名が轟くスーパースターなのデスよ!?第一可可が日本に来たのは優木せつ菜様に憧れてのコト……!」
「そ、そんなに……」
「マサカ私たちが同じステージに立てるとは…!!ユメミタイ—!」


ワクワクが外に漏れ出している可可。そんな彼女を見て魁は上から目線の褒め言葉をよこす。


「随分とポジティブ思考じゃないか。そう言う奴は嫌いじゃない……いや、俺の好みのタイプだ。」
「————その優木せつ菜って娘が出るなら……一位は攫われちまう可能性の方が高い……か。」
「トウゼンですハヤトさん!!———ということは……アアアアアアアア!!!」


噛み締めてようやく実感した可可。みるみる顔色が悪くなり、目がぐるぐると回りだした。


「一体ドウすればイイのデスか〜!!」
「なぁに。これまでと同じように……ステージの上で自分たちのやりたい事をやればいい。他の奴のことなんて気にせずにな。」
「でも、順位が出る以上ある程度のパフォーマンスをしないといけないんじゃ……」


魁の持論に待ったをかけたかのん……それは自分のパフォーマンスへの加虐。歌が歌えないという訳のわからない自分へのせめてもの処罰である。


それを聞いた魁は少し落胆するようにため息をついた。

「お前ら……本当にスクールアイドルをやりたいのか?」
「「「「え?」」」」
「本気でスクールアイドル活動がしたいなら、別に誰かに認めてもらう必要はない———そう言ったんだ。」


暴論。

そう呼ぶに相応しい、無茶苦茶な主張というのは魁を除く全ての人間が思ったことだろう。しかしそれを彼は何の淀みもなく、平然と答えた。

そんな暴論はかのんの機嫌を損ねた。顔をしかめさせて、魁にくってかかる。


「そんなの……いくら何でも暴論すぎませんか!?」
「暴論——確かにそうだな。」
「……!」


まさか自らの反論を肯定されるとは思っていなかったかのんは拍子抜けする。しかし魁はこう続ける。


「だが、暴論だから何だっていうんだ?そもそも常識やルール、法律なんてのは綺麗事。屁理屈に過ぎん。それを人間は美化し過ぎている———もし本当にやりたいことがあるのなら、お前たちを邪魔するルールなんて破っちまえ!そんなルールを押し付ける奴らと必死に戦え!!」
「「「はぁ……?」」」

首を傾げる一同に少し苛立った魁。そこで彼は寝転がっている那由多へと視線を向けた。

「ったく、そういう意味ではお前たちはこのオオカミ男の方がよっぽど優秀に見えるぜ。」
「那由多が?」
「あぁ。こいつは頭は非常に良くないが、信念のためならどんなことも厭わないからな。ただその信念が今少し揺らいでしまっただけ———ハナから、『ルールで決まっているから』と諦めるお前たちとは訳が違う。」


少し軽蔑を含んだような視線……普通の人間なら怒りを覚えるのだろう。しかしそれはできない。

なぜなら……魁という未知数の人物が放つ、圧倒的な威圧感があるから。ただ、かのんたち仮面ライダーでない人間には、異様なほどのカリスマ性と捉えてしまうだろう。

だが速人と那由多はそうではない。彼の持つ圧倒的な実力。まるで人間と微生物ほどの差に思えるその力に裏付けられた、軽蔑。


「ま、そういうことだ。せいぜい悔いの残らぬように努めるようにな。」
「「「「……」」」」」
「あ、それと……天羽速人、そして中川那由多。」
「「!!!」」


赤黒いマントが靡く。


「当然だがフェスで何が起こるかわからない。怪人が出てくるかも知れんし、別の敵が現れるかも知れない。鍛錬を怠るなよ。」
「言われなくても……やってやる……!」
「その顔で言われても説得力ねーな。」


速人は那由多にいつも通り見下すような視線を送った。




—————※—————




「………」
「—————」パクパク


日没後……俺 伊口才はバーガー&ポテトを、澁谷家で持ち込み食いを絶賛実行中。

本来食事持ち込みは御法度。しかしこの澁谷家は家族ぐるみの付き合いゆえに容認されている。

そして隣には目を抑えて悩む少女が1人。


「悩んでんな。」
「!———え?」
「親にも話しずらいなら俺が聞いてやろう。大丈夫。速人たちにも言わねーよ。」
「才さん……!」


これでも————かのんとの年差は伊達ではない。いいアドバイスはできるに決まっている。

それに……俺のような人間だからこそ話せることもある。


「実は———また歌が歌えなくなっちゃったんです。それでこのままだと次のフェスでもいい結果は期待できない。」
「そうかもな。」
「あの可可ちゃんは……上海から夢を追いかけて日本にやってきて…こんな私の歌を見てスクールアイドルに誘ってくれたんです。」


彼女の目線が徐々に下へと落ち、その声もくぐもった、今にも切れそうなモノへと変わっていく。


「それなのに…私を選んだせいで———私のせいで夢を諦めなきゃいけないなんて…!申し訳なさすぎるです!!」
「……」
「足手纏いになるって分かってるのにステージに上がるなんてできないよ!!!」


本当の涙は自然と溢れる。その言葉はほぼ間違いないだろう。彼女は人目という悪魔に苛まれている。

人目は本当に怖い。なぜなら良くも悪くも本人の意思を無視した評価が下されるから。

ただここで自分がそれに晒されるには何の問題もない。しかし2人となれば話は違う。いかにも共感覚の鋭い彼女らしい悩み……か。


スマホを胸ポケットから取り出し、録音を【停止】する。そしてその録音を一瞬にして【ある場所】へと放り出す。

そしてかのんにポテトフライを差し指がわりにする。


「お前の言うそれは…あくまでお前の罪悪感だろ?」
「え?」
「可可はそんなことで……いや、むしろお前と一緒じゃなきゃステージには立たない。一回会っただけでもそれはわかる。」
「それはそうですけど———でも」
「それを可可から直に聞くのが一番だ。アイツの目的はもうお前たちとアイドルをやる…….そうなっているはずだ。」
「————!」


勢いよく立つかのん。


「才さん。私……行ってきます!」
「おう。」


そう言って彼女は勢いよくカフェの玄関を閉めて行った。

俺はネクタイを締め直し、ポケットにしまっていたタバコ———正確にはタバコの形をした味のついた薬草だが。これを「味タバコ」と俺は呼んでいる。

伊口ファウンデーションが作り出したこれは未成年でも吸えて…….というのは余談である。


俺がタバコを咥えていると……階段が騒がしくなった。


「才さん…」
「お、ちょうどいい。【澁谷父】、火ぃ貸してくれ。」
「あ、はい———」


俺にライターを手渡すのは、澁谷かのんの父……澁谷研(けん)。翻訳家兼言語学者でもある男。彼もまた年に比べて若々しい。

そんな【若者】は俺に訊いてくる。


「先日速人くんが僕の部屋にやってきて辞書数冊と民間伝承を数冊借りて行きました……そしてかのんの話から考えて———とうとう【始まった】ということですか?」
「始まった、か……ハハハハ。」
「何がおかしいんですか?」


俺が見せた乾いた笑いに澁谷研は首を傾げた。


「……もうとっくに運命は回り出してんだよ。そして最終的な運命は同じ。それをアイツらがどういう過程で進めるか———お前たち【大人】が出る幕はない。」
「えぇ。それでも……嬉しいんですよ。これでようやく———弔い合戦ができる。」
「……そうか。」


タバコを灰皿へと投げ捨てた。



————※————




「」ワクワク
「どうしたの侑ちゃん?」


ゆりかもめは夕焼けて、焦げた東京臨海を泳ぐ。それを構わずそわそわとする侑……隣にいる歩夢は当然問いかける。


「だってあの澁谷かのんちゃんと唐可可ちゃんのグループが楽しみすぎてさ。うーん!!ときめいちゃう〜!!」
「あはは……」
「でも————あの速人くんとも仲良くなれそうだけど……困ったなぁ。」
「そう……だね。」


侑は悲壮を感じざるを得ない。自分と同じ、仮面ライダーに会えた。だが———師匠が問題。

そもそも侑は少し自分の観念が正しいのか…そもそも疑問が湧いていた。

だが歩夢はそうではない。この列車でも侑の見えないところで……


「(アイツはゆうちゃんをどこまで傷つければ…ほんと死ね)ばいいのに。」
「歩夢?」
「!…ううん!なんでもないよ、なんでもない……」


小さな声で放った呪詛のようなそれを侑に聞かれてしまったが、なんとか誤魔化す。当然鈍感な侑がそれに気づくことはない。

そこへ……彼が現れる。


「お前らは…!」
「あ、確か君は———」
「宮下陽人。久しぶりだな高咲…先輩でいいのか?」
「侑でいいよ(実際あの速人くん似は呼び捨てにされたし。)」


宮下陽人……防衛学科1年にして特務機関ヘラクレスの学生隊副リーダー。若きエース。

そんな彼だが、絶賛買い出しの帰路に着いたところ。その道で今、侑と久々の再会を果たした……

一回戦線を共にすればもうそれは戦友……今の互いの事情を話すくらいの仲にはなる。


「そうか……なんの因果かな。」
「え?」
「実はな———そのスクールアイドルフェスにお偉方が参加予定なんだ。」
「「お偉方?」」
「あぁ。詳しくは言えないけど、大臣クラスは来るんじゃないかな。」

大臣……その権限はもはや見る影もない。

日本国が仮にも自治しているのはこの関東一帯のみ。しかもその関東にもエルシャム王国と欧米諸国の勢力が蠢いている。

とはいえ、大臣は大臣———多民族国家となった日本に誇るスクールアイドルフェスには見張るモノがあるのだろう。

そして当然。


「俺たちはその警備を行う。だからお前たちと再び仕事を同じくするだろうから……よろしく。」
「あぁ——りょーかい♪」
「それと……」


陽人は侑に耳打つ。


「もう1人のオレにも……頼む。」





————※————



早朝。

いや、詳しくは「フェス当日」の早朝。



「はぁ……はぁ……」


息切れ。

男は…葉月稔はそれでも先に進む。たった1つのモノ。それを運ぶため———別に特段急ぐわけでもない。

ただ、ただただスピードが速くなる。【人目につきたくない】事は一瞬で終わらせたい。それだけの理由でも足は勝手に速くなる。

たった1つ……世界を動かすワンピースだ。




全ては———————



「困りますねぇ……我々についてのフェイクニュースの流出は。」
「!!」


見つかった。

見つかってしまった———いや、むしろこれこそ必然なのかもしれない。

だが……それでも悔やまれる。


「……まさか、俺のためにアンタほどの大物が動くとはな————マクロフォーム創業者 ウィル・ゲーテ!!」


マクロフォーム……世界的ソフトウェア企業。会長たる彼の躍進なしでは現在の情報網はないとされる世界的イノベーター。

その60歳超えのVIPである男がわざわざ———


「私だけではない。【私の友人】がこの街にいる君の仲間を一掃するだろう。」
「———仲間?あいにくだが俺にそんな奴はいない。」
「全く、強がりを……どのみち君は死ぬ。その仲間も、全員無事では済まない。あぁ———あと…君の一人娘も。」
「!!!————黙れ。」
「死にゆく娘のため奮闘する父という図もなかなか
「黙れ黙れ黙れ!!!!」


ものすごい迫力でウィルの言葉を遮る稔。まさに逆鱗に触れたと形容するに相応しい怒りようだ。

しかしウィルは不敵に笑み……ブツを取り出す。


【VISION DRIVER】


「黙れ…その言葉、そっくりお返ししよう———死を以て。」


装着したヴィジョンドライバー……その権限をその親指によって認証する。


【ZENITH、LOG IN 】


どこか荘厳な待機音のリズムに合わせて、ベルト横に常備したプロビデンスカードを…….


「Henshin!」


【INSTALL】

【RULE THE PROVIDENCE、ZENITH 】


紫と青のラインが施された黒い装甲を纏い、まるでギョロっとした目玉を顔とした存在。

冷徹な処刑者にして、支配者……



仮面ライダーゼニス。












 
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