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おっちょこちょいのかよちゃん

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273 唯一の取り柄

 
前書き
《前回》
 かよ子の杖から白魔術が発動される。それはラ・ヴォワザンとモンテスパン公爵夫人の黒魔術に勝る強さだった。その白魔術で二人の黒魔術使いを撃破する。そしてかよ子の杖は白魔術を操る事ができるように進化されたのだった!! 

 
 レーニンと杉山は目的地へと向かう。
(あの時以来になるの、か・・・)
 杉山は剣を奪い返しに来たあの高校生男子との対面を思い出す。そして彼の問いが頭に浮かぶ。
《杉山君、お前がレーニンの側についたのは赤軍の目的を達成させる為か?それとも、これが元の日常を取り戻す為に自分にしかできない事だと考えたからか?どっちだ?》
(そうだな・・・。だが、そうしねえと俺は大将になれねえし、大野を送り出す事はできねえんだ!!)
 そして杉山は親友の事も思い出す。
(大野、俺は本当は寂しいんだ・・・。だから転校の日までに何度でもお前と戦ってやる!!)

 藤木達の一行は雪山に辿り着いた。りえにとっては寒くて凍えそうな所ではある。藤木にとってはこの地は二回目だった。そしてこの地には藤木にとって唯一の取り柄であるスケートができる氷の泉があるのだ。
「ここではいつでもスケートができるんだ」
「うわあ、凄いっ!」
 りえはここまで雪が積もり、広い氷河を見た事がなかった。一人の遊女が馬車の扉を開け、二人を降ろした。
「安藤りえ嬢、茂様の『すけーと』はとても素晴らしいのです。虜になることまちがいなしですよ」
「へえ、そうなのっ!?」
「では、皆の者」
 皆の準備が整ったところで、紂王と妲己が呼び掛けた。
「それでは皆でその氷の上で存分に滑って楽しむと良い」
「はい!」
「りえちゃん」
「え?」
「僕の滑り、まずは見ててくれよ!」
「う、うん・・・」
 藤木は氷河に入り、滑り出した。藤木は颯爽と滑走していく。
(りえちゃんもきっと僕の虜になってくれるはずさ!!)
 この時の藤木の表情はいつも以上に活き活きとしていた。
(どうだ、この滑りは!?凄いのはまだこれからだぞ!)
 藤木は軽快にステップをしていく。そしてジャンプを見せる。3回転も容易く行った。そしてスピン。12回転のスピンだった。
「うわあ、茂様はいつでも凄い!」
「お嬢様はこんな人をお婿さんに持って本当に羨ましい・・・」
「お、お婿さんだなんて・・・」
(ほ、本当に凄い・・・。こんな凄い藤木君見るの初めてっ・・・!!)
 りえも見惚れていた。
(ふふ、上手くいってよかった・・・。これがないとおそらく『あの洗脳』が解けてしまうところだった・・・)
 妲己はあるものを持っていた。それは祝言の時にナポレオンとかいう男から渡された薔薇だった。氷河から藤木は出てきた。
「りえちゃん、どうだったかい?僕の唯一の取り柄は」
「す、凄かったわっ!!」
「今度は、その、僕と、滑ってくれるかい!?」
 藤木は顔を赤くしながら懇願した。
「うんっ、いいわよっ」
 りえは藤木に手を差し出した。藤木はりえと共に氷河を滑り出す。藤木は嬉しかった。好きな女子と手を繋いでスケートするのは初めてだったのだ。「前の世界」にいた時は「前に好きだった女子」とはそのような事はできなかった。いや、一緒に手を繋いで滑る事をする勇気すらなかった。断られるかもしれないという不安もあり、積極的になれなかった。しかし、その「前に好きだった女子」に対してできなかった事が今こうしてできている。藤木にとってこれ以上にない嬉しい事だった。
「りえちゃん、どうだい?凄く速く滑ってるだろ?」
「ええ、でも、ちょっと怖いかな?」
「そっか、それじゃあ、少しゆっくり滑るよ・・・」
 藤木はスピードを遅くして滑った。
(りえちゃん・・・。ここで会った時はあまり嬉しそうじゃなかったけど、今は何かとても僕に興味を持ってくれてる・・・。祝言で一緒になってくれたからかな、それとも、僕の気持ちが伝わったからかな?)
 藤木はそんな事を考えながらりえと滑った。
「茂様、りえ様、お似合いですよ~!!」
 遊女達が声援を送った。
「あ、いやあ・・・」
 りえも照れながら笑っていた。そして藤木はりえと暫く滑り続けた。そしてりえはまだ上手く滑れない事もあってか、藤木に少しずつ滑り方を教わっていた。
「茂様、りえ様!」
 一人の遊女が呼んだ。
「そろそろお昼ご飯の時間ですよ~。体も冷えてると思うので温かく鍋料理を用意させていただきました~」
「あ、ありがとう。りえちゃん、行こう!」
「ええっ!」
 ふじきとりえは氷河を出て炊事がされた場所へと移動した。鍋料理には葱に人参、白菜と色々は要っていた。そして肉のような物が入っている。
「いただきます!」
 藤木は肉のような物を食べる。だが、今までに食べた事のない感触だった。
「こ、これは何だい?」
「これはもつ肉といいます。けっこう美味しいと聞きました。如何でしょうか?」
「す、すごい美味しいよ」
「美味しいっ?それじゃあ、私も貰おうっ!」
 りえももつを楽しむ。二人はもつをたくさん食べると共に身体を温めたのであった。
「茂様。午後も滑ってください!私ももう一回見たいです」
「私も、私も!!」
「うん、皆に見せてあげるよ」
 そして藤木は休憩後、もう一度滑り出す。またもやりえや多くの遊女から拍手が送られた。
(やっぱり僕はスケートが一番の男なんだ!)
「ふ、藤木君・・・」
 りえが呼んだ。
「何だい?」
「もう一度、一緒に滑ってくれるかしら?」
「うん!」
 藤木はりえと共に滑った。二人共楽しそうにスケートを楽しむのだった。
「りえちゃん」
「ん?」
「僕は他に出来る事が何もなくてさ。夏休みに会った時、スケート見せたいって言ったからそれを見せられてよかったって思うよ・・・」
「うん、私も藤木君かっこよく見えたわっ!」
 りえは共に滑りながらも藤木の前に立った。そしてキスをした。
(りえちゃん・・・)
 藤木は照れながらもその接吻を拒まなかった。
「うわ〜ん、お似合いです!!」
「茂様、羨ましい・・・!!」
 遊女達に騒がれ少し恥ずかしくなった。しかし、唯一の取り柄を披露する事ができて嬉しく思うのだった。

 かよ子達は昼食として支給された焼きそばを食べていた。
「さて、昼飯を食ったら出かけるぞ」
 次郎長はかよ子達に促した。
「法然さん達はこれからはどこへ行くんですか?」
「そうですね、私達は敵の世界の本部とやらに向かうとしましょう。あそこを落とさなければこの世界の平和はないでしょうから」
「うん、気をつけてね!さようなら!」
 かよ子達は法然に島、高崎、中本と別れた。そして自分達の目的地へと向かう。目指すは藤木の住む居場所。その方向は東側。かよ子はまた強くなった杖を利用して藤木を攫っていった者を倒し、藤木を奪還する。そしてそれが済んだら杉山をレーニンの元から取り返すのだ。

 杖はまた進化を遂げた。そしてかよ子達は藤木のいる場所へと近づいて行く。 
 

 
後書き
次回は・・・
「杯は探知できず」
 三河口、湘木、冬田は引き続き杯を捜索するのだが、手掛かりは全く掴めないでいた。長山は本部守備班としての仕事を全うすると共に藤木やりえの捜索を神通力の眼鏡を通して察知し続ける。そしてかよ子達は着々と藤木のいる場所へと近づいていた・・・!! 
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