やはり俺がink!な彼?と転生するのは間違っているのだろうか
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パラディ島編 第22話 ウォール・ローゼ攻防戦① ~襲撃~
俺たち新人調査兵が初めて参加した壁外調査で、俺たち調査兵団は複数の知性巨人と遭遇。
熟練兵士の大量損失、リヴァイ兵士長の負傷などを代償にどうにか撃退することができたが、その代償は調査兵団の支持母体を失墜させるのに十分だったため、エレンが憲兵団に引き渡される事が決まってしまった。
だが、それを打開すべく、団長は超大型、および鎧の巨人の内通者探しを決行。
トロスト区防衛線で話してくれたアニをこちら側に引き込むことに成功した。
そんな中、アニの所属する憲兵団の管轄、ストヘス区で異形の女型が出現。
兵士を失いながらも、どうにか戦う中、さらに異形の鎧までもが参戦し、戦場は混沌と化していった。
それでも、調査兵団はエレンの力を利用し、異形の鎧を討伐、異形の女型を捕獲?した。
それにほっとするのもつかの間、アニから寿命の話を聞かされる。
アニの話を聞いて俺はエルヴィン団長に話しに行くことにした。
それに、話を聞いていたヒョウも共に説得に行く。
だが…、その矢先、いきなりヒョウが吐血した。
「おい、ヒョウ!?しっかりしろ!」
俺はそういいながらヒョウに駆け寄る。
ヒョウはそれに返さず、両手で口を押さえている。
だが、指と指の間から血が漏れ出ていることからかなりの量の出血だと見られた。
《!やはりだ…、どうも耐性が無効化されている。
だが、幸いヒョウはどうにか新しいスキルを獲得しかけているようだし、それで体調が回復するかもしれない》
!本当か!?
《いや、どんなスキルを獲得するかによって助かるかが変わる。
回復系統のスキルならば、自身で傷を治癒できるようになるからな。
だが、そうでは無い場合もあるし、そこのアルミンという人間の言う通り、治療院に連れて行くのをおススメしよう》
…分かった。
冷静に考えてみれば、確かにスキルを獲得しかけているのかもしれない。
ヒョウの体内魔素量がやけに少なくなっている。
だが、例えそうだとしてもこれは休ませた方がいい。
「ヒョウ!?すごい量の血…!
アルミンの言う通り、早く治療院に運ばせた方が良い!」
その言葉で周りも気付いたのか、発言者であるアニを筆頭にヒョウを治療院へと運ぼうとする。
「あの量の血、戦線に復帰できるか、いや命すら助かるか分からない状況だね…。
…無事に延命できるといいけど…」
ハンジ分隊長の言葉に声を出さずとも同意する。
あぁ、不安だ。
ヒョウは無事帰ってくるだろうか…。
そんな不安の中、エルヴィン団長が声を掛けてきた。
「…ハチマン、こんな状況ですまないが、任務を頼みたい」
「…は…?」
「ストヘス区に与えた被害は大きく、事後処理も含め、我々はもう少しここに留まらなければならない。
そこで、ハチマン。君にはウォール・ローゼ南区の隔離施設に居るミケ班に事の顛末を伝えてもらいたい」
どこか感情を感じさせない声音と表情のエルヴィン団長。
基本的に上司からの命令、任務は絶対なのだが、さすがのこの状況で任務を遂行するのは気が引けた。
「…ヒョウは、俺の大切な友人です。
私情を挟んで申し訳ないですが、あの状態のヒョウを放って任務につく事は…」
俺がそう返した時、後ろから肩をつかまれた。
反射的に振り向くと、そこには口から血を流し、顔を青ざめさせているヒョウがこちらの肩を掴み、見ていた。
「…ハチマン…、早く行け…」
「はっ!?ちょ、ヒョウ!早く治療院に―――」
「その前に、だ…。
さっきからずっと…胸騒ぎが…してんだ。
俺は治療院に行く…。だから…お前は、早く…任務について、この胸騒ぎを、終わらせてくれ…。
こんなのが…ずっと続いたら、おちおち…寝てられやしねぇ…から、な…」
そう言いながら、ニヒルに嗤うヒョウ。
明らかに無理をしてここにいるのが分かる。
…だからこそ、俺のやるべき事は決まった。
「…お前がそう言うときは大抵本当にヤバイ事が起きる前兆だからな…。
分かった、任務は俺に任せてお前はしっかり体を治せ」
本当に、無事に体を治してくれ…。
「…あぁ、頼んだぞ…」
ヒョウはそういい残して、他の兵士に連れられて治療院へと向かった。
それを見届け、俺は団長の方に振り向く。
「団長、勝手で申し訳ございませんが、今すぐ補給し、任務に就かせて頂きます」
「ああ。友が心配なのは私にも分かる。
それについては何も言うつもりは無い。
それと、この任務を終えたら、そのまま施設にいる104期兵と合流してくれ。
以上だ」
「はっ」
エルヴィン団長の言葉に返事として敬礼し、補給班の元で補給を済ませる。
だが、その前にアニに声を掛けておく。
「アニ」
「!ハチマン!」
治療院から出てきたアニに声を掛けると、彼女は嬉しくも、少々悲しそうな様子でこちらに向かってくる。
「アニ、ヒョウはどんな感じだ?」
「うん、一応衛生兵に見せて、安静にしてもらってるよ」
「…分かった、ありがとう」
「ああ。それで、その様子だと、あんたは任務だね?」
「正解だ。ちょっとウォール・ローゼ南区まで行ってくる。
その後は同期の奴等と合流する予定だから、またしばらく会えなくなるかもな」
「そう…、なら、あんたにお願いがあるんだ」
「ん?」
「帰ってきたとき、私と出かけること。
それと…まだ言えてない事があるから、聞いて欲しいんだよ」
そう言うアニの眼は、何かケツイを固めたような意志を感じさせた。
間違いなく重要な事だと感じた俺はすぐに返す。
「あぁ、帰ってきたとき、な。
それじゃあ、俺は行ってくる」
「あぁ、行ってきな」
その言葉を聞いて、俺はストヘス区本部に向かう。
そんな俺を、アニはじっと見つめていた。
―――
――
―
補給班の駐屯地にて、補給を済ませる。
換装用の刃、ガスを馬に積ませられる程度に確保し、念のため予備の立体機動装置も積んでおく。
…ん?お前には『七色之魂セブンスソウル』があるから立体機動装置の予備は必要ないだろって?
馬鹿いえ、誰が俺の予備だといった。
戦闘中立体機動装置が壊れた他の兵士用に決まってるだろう。
戦場じゃあ何が起きるか分からないからな。
立体機動装置の予備を持っていくことに意味ができちまうかもしれない。
そう考えながら、近くに呼び寄せた自分の馬に資材を積んでいく。
…いや、念のため携帯食と水を持っていくか。
ふとした考えを元にそれらも積んでいく。
そして、漸く積み終わり出発しようとしたその時、
「おい!調査兵団共!」
苛立ちを隠せない様子の憲兵に絡まれた。
「テメェらのせいでこの町は滅茶苦茶だ!
この責任、どうとるつもりだ!」
「どうもなにも、それは今ここに居る我々が決めることではない。
聞く相手を間違えているぞ」
憲兵の言葉に補給班の班長が冷静に返す。
だが、憲兵は聞く耳を持たなかった。
「うるせぇ!そんな事はどうでもいい!
テメェらが、ここに居るテメェら自身がどう責任を取るかを聞いてんだよ!」
荒々しい口調で言う憲兵。
今ここに居る俺たちがどう責任を取るか、か…。
…俺には任務があるから何とも言えないが、他の補給班の兵士たちはどう答えるのだろうか。
「…つまり、君は我々が行った残虐非道な行為に対して今この場に居る我々自身がどう責任を取るかについて聞いているのだね?」
「あ、あぁ!その通りだ!さっさと答えやが―――」
「ならば、我々はすでにその責任を果たす為に行動している」
「…は…?」
「住民の治療を行っている医療班への医療品の補充、運搬。
住民の探索、救助を行っている偵察班への人員派遣。
そして…、君たち憲兵への補給物資の提供。
これだけの事をやって、我々は我々なりに責任を果たしている。
さて、質問には答えた。こちらも忙しいのだから、邪魔をしないでくれたまえよ」
そういって、補給班の班長は憲兵を黙らせる。
黙らされた張本人である憲兵は、班長のその声の圧に恐怖したのか、そそくさと去っていった。
…あの憲兵は、何をしたかったのだろうか…。
何処か、違和感を感じるな…。
《…ふむ…》
そう思いながらも、今はそんなことを考えている場合じゃないと思考を切り替え、南区へ向かった。
―――
――
―
ストヘス区の外門からウォール・ローゼへと出る。
そして、そのまま南へ向かって馬を走らせる事数時間…。
104期の調査兵たちが待機していると思われる駐屯地が見えてきた。
だが、それと同時にとんでもないものも発見する。
「!?きょ、巨人…!?」
《…!この壁内で巨人が出るとは…、壁が破られたか…?》
俺はその言葉に動揺を隠せなかった。
もし本当にそうならば、人類…いや、壁内人類は巨人に負けたという事だから。
《…ハチマン、動揺している場合では無い。
巨人達が駐屯地の方に向かっている。
早く行かねば、手遅れになってしまうぞ》
ガスターのその言葉で我に返る。
そうだ、確か…待機している調査兵の中にはクリスタも居たはずだ。
たとえ今、巨人を発見したとしても、立体機動装置を装着する余裕は無いはず…。
距離的にも巨人達は今森を出て少しした辺り…と思えば、いきなり走り出した。
「嘘だろ、オイッ!全員奇行種ってのかよ!」
《…む…?…気のせいか…?》
そんな事を言っている間にも、巨人達は猛スピードで駐屯地へと走り出している。
俺はそれに焦りを感じ、全速力で馬を走らせる。
「…間に合ってくれよ…!」
そう言う内に駐屯地へとどんどん近づき、すぐにその前へと着く事ができた。
駐屯地付近を一通り走りぬけ、ここで待機していると言うミケ班の兵士たちがいないかどうかを確認する。
「…もぬけの殻…か」
馬は数頭残っているものの、それ以外に生き物の気配は感じない。
おそらく既に移動しているのだろう。
そう思い、『七色之魂セブンスソウル』の『五感上昇』や『解析鑑定』の効果が付与されたメガネを装着して周囲を見渡す。
すると、思ったとおり駐屯地から遠く離れたバラバラの位置で馬で駆ける104期生と数名の調査兵の姿があった。
《…ふむ、どうやら君の同期は誰一人として欠けていないようだな》
ガスターのその一言にホッとする。
…ん?”君の同期”は?
《ああ、ここで待機していたミケ分隊の隊長、ミケ・ザカリアスその人がどうやら不在のようだ》
なるほど…、道理で言い方に違和感があったわけだ。
というか、ザカリアス分隊長だけ居ない?
…まさか…。
《ハチマン、君の考えている通りだろう。
あの奇行種の量だ、全員で安全に逃げ切れる保証は無い。
何より、付近の住民らに巨人が来た事を知らせ、避難させる必要もある。
そんな状況下でとる必要がある選択肢はただ1つ》
誰かが囮に巨人達を引きつけて他の兵士達を安全に行動させる…!
《そうだ。おそらく、調査兵団No.2と謳われるミケ・ザカリアス分隊長が自ら躍り出たのだろう。
他の兵士では荷が重いし、それ以前に戦える兵士の量が少なすぎるからな》
…なら、俺はザカリアス分隊長の援護に行くか。
《ああ、そのほうが良い。
調査兵団屈指の実力者とはいえ、あの奇行種達を1人で相手取るのはどうしても危険だからな》
…といっても、一体何処にいるのやら。
そう思い、付近を探そうとしたとき、ガスターの一言が俺の気を引いた。
《今居る位置から南東の方にいるようだな。
そちらに向かって進んでくれ》
…ん?ガスター、何でそこまで分かるんだ?
《…?…あぁ、そういえば言っていなかったな。
ここ最近、獲得したスキルの解析鑑定を行っていたのだが、どうやらヒョウがスキルの情報をこちらに送られてきたようでね。
それも解析して、情報化データとして纏め、その情報データを早速活用してみたのだよ》
…へぇ、どんな風にだ?
《例えば、さっきからも行っていたように、ヒョウのユニークスキル『学習者マナブモノ』の『生命探知』の情報データを応用して、重力操作をかけられる範囲の拡大とその対象の索敵を行えるようになった》
…ってことは、遠くの敵を索敵しつつ重力操作で足止め、または殺害ができるって事か…!?
《そう言うことだ。
他にも、『学習者マナブモノ』の『技術スキル習得』も情報化データを取ってあるから、そこから下位のスキルが学べるようにもなっている》
さすがに完全再現とまではいかなかったみたいだな。
《それに関して私個人としては残念だが、仕方の無いことだと割り切っているよ。
ユニークスキルにはさまざまな種類があるが、ヒョウの『学習者マナブモノ』、『傍観者ミマモルモノ』はいずれも心核ココロに根差すスキルなのだから、送られてきたとはいえ情報を解析できただけでも大したものであるといえるからね》
そりゃあ、そうだろうな。
普通、他人のスキルを解析なんてできるわけないし。
《ああ、その通りだ。
今回は異例中の異例、次は期待しないでくれたまえよ》
あぁ、そんな機会もほとんど無いだろうしな。
それより、早く行ったほうがよさそうだ。
《その通りだな。行こう。
補助は任せたまえ》
頼んだぞ、ガスター。
俺はそう声をかけ、重力操作で感知したザカリアス分隊長の元へ馬を走らせた。
―――
――
―
時は数分前、駐屯地から待機していた104期生含む兵士全員が馬に乗ってその場を離れた所まで遡る。
作戦を説明し、南班と共に移動していたミケは突如走り出した巨人達に驚愕を隠せないでいた。
しかし、そんな中でも己の経験と鼻を元に最適解を導く。
(…あれだけの数であの速度だと、すぐに全滅する…。
ならば…!)
「ゲルガー!南班はお前に任せた!
俺は巨人達を引きつける!」
一方的にそう告げ、ミケは巨人達の方へ馬で走り去っていった。
その行動に調査兵の一人が絶叫する。
「ミケ分隊長が囮になったの!?
1人で行くなんて無茶よ!」
そう言った彼女と同じことをその場に居る誰もが抱いている中、リーゼントが特徴的な男性兵士―ゲルガーがその言葉に声を返す。
「ミケさんを信じろ!
調査兵団でリヴァイ兵長に次ぐ実力者だぞ!
きっとうまく切り抜けて戻ってくる!」
ゲルガーの言葉でその場の者全員が安心した表情を浮かべる。
人類最強と謳われるリヴァイ兵士長に引けを取らない実力者であるミケならば問題ないと思ったのだろう。
故に、彼らはその場を馬で駆け抜ける。
それこそが、ミケが生き残る道であると直感的に理解したから。
そして、ミケが引き付けのために場に居た巨人を近くにあった別の無人の駐屯地まで引き付け、残り5体という数まで屠った時、彼らは既に遥か遠くまで移動していた…。
木の木陰から姿を現し、こちらに手を伸ばしてくる巨人の腕を伝う。
そして、そのまま全速力で駆け抜け、巨人の項目掛けて己の筋力が許すままに刃を振るい、削ぐ。
息を吐く様に屋根に着地し、付近の巨人の数が4体にまで減った事を確認した。
(もっと時間を稼ぐべきか…?
…いや、もう潮時だ。十分時間は稼いだ)
そう考え、ミケは今現在使用中の刃を空っぽの鞘の中にしまう。
そして、口笛を吹き馬を呼んだ。
馬が来るかどうか少々不安になりながらも、あたりを見渡す。
相変わらず不気味な巨人は4体しか居ない。
…だが、それ以外にも異質な巨人が1体だけ居た。
(…それにしてもあの巨人…やはり妙だ。17メートルはある…でかい。獣のような体毛に覆われている巨人など初めて見る。
こちらに近づくことなく辺りを歩き回っている辺り、奇行種には違いないのだろうが…)
その巨人の特徴を冷静に振り返り、奇行種と結論付けるミケだったが、それでも長年の勘と言うものか、どうしても不安は取り除けなかった。
そんな中、ミケの馬がこちらに走ってくる。
(よし、良く戻ってきた。ここで夜まで耐える必要はなさそうだな)
そう思ったミケだったが、何処か不穏な何かを感じ取ったのだろうか。
知らぬうちにアドレナリンが分泌されたかのように体には活力が漲っていた。
そして、それが彼の生死を分けることになる。
そんなミケの目には信じられない光景が映った。
目の前の奇行種がこちらに走ってきたミケの馬を掴み、握り殺したのだ。
「な…ッ!」
(馬を…狙った…!?)
「そんな…まさか…ッ!」
咄嗟に刃を抜く。
その判断は正しかった。
なぜなら、巨人はミケ目掛けて握り殺された馬を玉のように投げてきたからだ。
「ぐぅッ!」
超スピードでこちらに来るそれを屋根を転がりながら間一髪で避ける。
結果、軒先部分から空中に放りだされた。
そんなミケを捕食しようと他の巨人達とは一線を画す気持ち悪さの小型巨人が飛び掛ってくる。
普通ならば食われていただろう。
だが、体が活力で漲っていた今のミケは普段は出来ない動きをして見せた。
自身の利き手の刃を巨人の眼球に刺し、刃を換装する際と同じように操作部分から外し、空中で回転してその身を巨人の飛び掛ってくる方向と反対方向に投げ出したのだ。
お陰でミケは一切の傷を負わず受身を取り、無事に立ち上がった。
そんな自身の動きに呆然としたのも束の間、醜悪な顔の巨人は眼球を刃で潰されたにも拘らずこちらに向かって走り出してくる。
それを見てミケは立体機動で逃走を図ろうとするも、巨人との距離的に間に合わないと判断した。
万事休す…といったところで、威厳ある低い声がミケの耳に入る。
「待て」
その声を皮切りにこちらに向かってきていた巨人の足が止まった。
そして、何時の間にかミケの近くに来ていたその声の主はしゃがみ、ミケを見る。
だが、巨人が人の言葉を話す、巨人が巨人に命令しそれを聞く、そんな目の前の在り得ないはずの光景にミケの脳は思考を停止していた。
その隙を見逃さなかったのか、醜悪な巨人はミケを捕食しようと走り出す。
だが、
「え…?俺今、待てって言ったろう」
それに驚いた様子のその巨人はミケに向かって走る醜悪な巨人の顔を右手で掴み、そのまま握りつぶした。
握りつぶされた巨人の血があたりに飛び散る。
だが、それが気にならないほど、ミケは動揺していた。
そんなミケを放置して、その巨人は顔を握りつぶした右手についた血が一瞬の内に蒸発するのを見て「うわぁ…」と声を出したあと、目線をミケへ戻しながら、首を横に逸らして言う。
「…その武器は…何ていうんですか?
腰に着けた…飛び回る奴」
そう問われるも、返事は出ない。
否、返事が出来ない。
目の前の在り得ないものに先ほどから脳が思考を停止している。
そんな状態のミケに質問を答えさせようとする方が酷だろう。
だが、巨人はそれに気付かず、何故答えないのか疑問に思った。
「…うーん、同じ言語のはずなんだが…怯えてそれどころじゃないのか…?
つーか、剣とか使ってんのか。やっぱ、項にいるって事は知ってんだね」
そう声を漏らしながらも思考を続ける巨人。
対照的にミケはいまだ思考が停止したままだった。
だが、それはもう許されないらしい。
「…まぁいいや。持って帰れば…」
そういって腕を伸ばしてくる巨人に怯えるミケ。
そこに歴戦の兵士としての貫禄は無い。
だが、ミケにとってそれが最善の行動だったらしい。
ミケは運よく匂いをかぎ分けた。
1頭の馬とそれに乗っているであろう一度嗅いだ事のあるあのリヴァイ班にも抜擢された優秀な兵士の匂いを。
こいつが去ってくれれば生き残れる。
顔を伏せながらもそう考え、身を縮こませる。
すると、何かが外れる金属音が聞こえ、腰の重量感がなくなったのを感じた。
顔を上げると、巨人が先ほどまで使用していた立体機動装置本体を持って立ち去っていくのが見える。
そして…、
ザシュッザシュッ
何かを削ぐ音が聞こえ、付近に居たあの毛の生えた巨人と醜悪な巨人以外の2体が項から煙を上げて絶命しているのが分かった。
ほっとしたかのような表情のミケ。
そうしているのも束の間、先ほどの巨人の声が聞こえる。
「…あ、もう動いていいよ」
それに反応する3体の巨人の内2体は既に絶命しており、
「ふぅッ!」
残る1体であった醜悪な巨人も既に目の前のアホ毛が特徴的なメガネをかけた黒髪の兵士によって討伐されていた。
巨人が倒された事に気付かず去っていく毛の生えた巨人。
その巨人が去っていった事を確認して、兵士はミケに声をかけた。
「援軍に来ました。ご無事…だったようですね。装備は兎も角」
「ああ、装備は盗られた上、馬も殺される自体になってしまったがな。
お前が来なければ俺は食われていた。感謝するぞ、ハチマン」
そう礼を述べて立ち上がるミケ。
そんなミケの目の前にいるメガネをかけた黒髪の兵士…ハチマンの活躍によって、人類は強力な索敵能力と高い戦闘能力を持つ貴重な戦力を失わずに済んだのである。
―――
――
―
《危なかったな、ハチマン》
あぁ…、ホントその通りだな…。
俺はガスターに返事しながらザカリアス分隊長にばれないようホッと息を吐く。
あのあとザカリアス分隊長の援護に向かおうと馬で駆けていた時、ふと遠くを見ると、毛の生えた異様にでかい巨人がうろついていた。
そいつを見たとき、俺の直感があいつとはまだ戦うなと嘯き、それから背筋が凍るっていうのはこのことなんだなぁと余計な知識が増えた。
…そんなことは置いておくとして、一先ずあいつが去ってくれたのは僥倖だった。
俺1人でもあいつに勝てないことは無いが、無事に勝てるって事はおそらく無いだろう。精々、相討ちがいいところだ。
そんな相手とその指揮下に居る巨人達と、戦えない状態の兵士を護りながら戦うとなったら確実に負ける。
だからこそ、この状態が一番いい。
そう納得し、俺はザカリアス分隊長に声をかける。
「ザカリアス分隊長は今現在馬と立体機動装置自体が無いと言う状況なんですよね?」
「ああ、その通りだ。
それと、俺の事はミケでいい」
「…分かりました、ミケ分隊長。
一先ず、予備の立体機動装置一式が用意してありますので、それを装着ください。
馬は先ほどまで居た駐屯地に数頭残っていましたので、そちらを使いましょう」
「!…まさか、予め装備一式を用意していくとは…中々の先見性を持っているようだな。それは兎も角、今回はありがたく使わせてもらう」
「いえ、それでは馬をとりに行ってきます」
俺はそういって先ほど立ち寄ったミケ分隊長たちが待機していた駐屯地から馬を1頭連れ、ミケ分隊長に渡す。
そして、共に他の兵士たちが行ったであろう方向へと馬を走らせた。
おまけ1
場所は治療院の一室。
そこではベットの上で身体を起こしている銀髪の少女のような少年が居た。
「胸騒ぎがマシになった…。ハチマンが、ミケ分隊長を助けてくれたみたいだな…」
ほっとした様子で言う少年―ヒョウ。
だが、それでも彼には懸念があるらしい。
「…胸騒ぎはマシになった。そう、マシになっただけだ。
このままだと、ミケ分隊長は無事でも他の兵士…ナナバさんやゲルガーさん達が結局ウトガルド城で死ぬことになっちまう…」
そう、彼の胸騒ぎの原因はこれである。
本来ならば死ぬであろう兵士達を助けるべく行動する。
それを続け、一部は成し遂げた。
その証拠に本来死ぬはずだったマルコやイアン達もそれぞれ憲兵団に所属していたり、そのまま精鋭班の班長を続けている。
正規の物語とは違う道を開拓していたというのに、いきなり倒れ、それが自身の手では続行不可能となった。
だからこそ、彼はずっと胸騒ぎがしていたのだ。
己が動けないが故に、助けたいと思う人物達を助けられないような気がしたから。
「…だが、ミケ分隊長を助けたハチマンなら…やってくれる。
いまは…そう信じるしかない…な…」
あの、己と同じく本来なら居なかった、そのはずなのに正ヒロインと謳われる東洋の少女からも、敵となり、最後に共に戦った金髪の髪を結んだ格闘少女からも、王の血筋を引きながらも『妾の子』と蔑ろにされてきた天使の少女にも、死ぬはずだったオレンジに近い明るい茶髪の女性にも好かれている、もう会えない友人たちを抜いた唯一の親友で、黒髪のアホ毛の生えた少年ならば、自分の今は果たせそうに無い事を代わりにやってのける様な気がするのだ。
彼は今、全てのスキルの行使ができない。
『想像力とAUの守護者インク!サンズ』の『AU召喚』による援護も、『学習者マナブモノ』による訓練も。
…そして、『傍観者ミマモルモノ』によるハチマンの行動の観察も。
一切のスキルの行使ができず、彼に出来るのはただ身体の回復を待つばかり。
それに不甲斐なく感じるのは、それだけ自分が変わったという事なのだろうか。
前世では決して感じなかった不甲斐なさ。
ここまで変わったのは、間違いなくここの環境と目的意識の芽生え、そして、かの親友の影響だろう。
そんな親友が言ったのだ。
『任務は俺に任せてお前はしっかり体を治せ』と。
任務亡き人の救出を、任せてくれと言ってくれたのだから。
だからこそ、不甲斐なく思っても身体を動かさず、回復に努めているのだ。
そんな自分にどこか嬉しく感じる。
それと同時に、早く治さなければならないと言うケツイが湧いてくる。
「…早く、治さないとな」
その強き意志を胸に秘め、彼はまどろみの中に落ちていく。
だからなのだろうか、世界は彼に味方をしたのだ。
『…そのケツイを抱いたのなら、今度はあなたの番ですよ?
さぁ、次世代の界王となるべき覚者よ、戦うために力を貸しましょう』
《確認しました。ユニークスキル『七色之魂セブンスソウル』の『渇望具現』の効果が発動し、固体名:三木氷華ヒョウ・ギルデットが新たなスキルを獲得…成功しました。スキル『自己回復』を獲得…成功しました》
スキル『自己回復』によって、彼の不調の原因でもある肺にあった腫瘍と胃の穴が治療されていく。
そして、スキル『魔素生成』によって生きる為の最低限度分以外の栄養素が魔素に変換されていく。
彼が万全な状態に戻るまで、あと日…。
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