やはり俺がink!な彼?と転生するのは間違っているのだろうか
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パラディ島編 第21話 調査兵団③ ストへス区での戦い
ハチマンside
俺はさっきまで借りた部屋のベットで寝ていた。
本当ならもうちょっと寝ていたかったんだが…団長に呼ばれてるし、団長室に行かなきゃいけない。
だが…、
「もう!私にもハチマンをぎゅっとさせてよ!
ミカサばっかりずるい!」
「やだ。ハチマンは私の。あなたにはあげない」
「ハチマンはミカサのじゃないでしょ!」
何故かこの部屋で居るはずのないミカサとクリスタが何故かどっちが俺に抱きつくかでケンカしている。
…どうしてこうなった。
てか、ミカサは既に抱きついてるし…、俺お前のじゃないし…。
寝起きだからか、あんま頭回らない…。
「うるさい。ハチマンが起きる」
「なら代わって!」
「やだ」
「む~。…代わって!」
「やだ」
…なんだこの言い争い。
てか、さっきのクリスタの声かわいいな…。
…ちょっと頭も覚醒してきたし、起きるか。
「…ミカサ、どいてくれ。起きれない」
「!ハチマン、起きた?団長が呼んでる。早く行こう」
「いや、その前にどいてくれ。抱きつかれてたら動けん」
それにあなたのそのやわらかいものが当たって、俺の理性がゴリゴリ削れていってるからぁ!
「…分かった」
「ありがとよ。…はぁ、おはよう。クリスタ、ミカサ。
…さて、何でここに居るんだ?」
ホント、何で居るの?
「私は団長に呼ばれてハチマンを呼んでくるように言われた。
だからここに来たけど、寝てた。
ので、ハチマンに抱きついてた」
「なんで?」
「そうしたかったから」
「えぇ…」
なんでだよ…。
…まぁ、抱きつくのに理由はない…のか?
「む~。
いちゃいちゃしないで!」プク~
「いや、してねぇ…」
「/////い、いちゃいちゃ…」
…なんでミカサは顔赤くしてんだよ…。
怒ってるのか?
「むぅ…。
とりあえず、私も説明するから!
私はね、明日から別のところで待機するみたいだから、その前にハチマンと話そうって思ったの。
で、部屋に来たらミカサがハチマンに抱きついてたから「なら私も!」って」
「…そうか」
うん、何でそうなるのか分からん。
まぁ、とりあえず、この2人は人のぬくもりに餓えてるのか?
ミカサはまだ分かるが…、クリスタはどうなんだろうか。
…さすがに、ズバッと過去の事を聞くのは気が引けるし、自分から話して貰った方がいいんだが…。
今は無理だろうからな。
時間が解決してくれることを祈ろう。
「ハチマン、早く行こう」
「いや、その前に着替えなくちゃ行けねぇだろ…」
「そうだった」
「むぅ…。
…!ねぇ、ハチマン!今度、一緒に町に行こうよ!」
「!」
「ん?まぁ、別に良いが…、予定が合えばで良いか?」
「うん!」
「まった。私もハチマンと行きたい」
「また今度な」
「うん」
2人とも非常に嬉しそうである。
相当出掛けたいんだろうなぁ…。
…非常に…か…。
頭の中に
「いや船長のケツは非常にビックで素晴らしい」
ってセリフが知らない人の声で脳内再生されたのはなんでだ?
…まぁ、いいか。
「さて、2人とも。俺着替えるから」
「「うん」」
「…いや、うんじゃない。部屋から出てってくれ。
見られながら着替えられる程、俺は猛者じゃねぇからな?」
「あっ、ご、ごめん!すぐ出るから!」
(で、でも…、ちょっと見たい…)
「私のことは気にしなくて良い。
ハチマンの裸を見ても私は気にしないから」
「いや、そういう問題じゃねぇ…。
てか、見られながら着替えられるほど、俺は猛者じゃないってさっきから言ってるんだが…。」
説得に何とか成功し、ミカサは不満気だが出てってくれた。
クリスタは普通に納得してくれたのに…。
なんでだ?
そんなことを考えつつ、手早く着替えを済ませて部屋を出る。
「さて、行くか」
「うん」
「じゃあ、私は移動の準備があるから。またね!」
「「ああ、じゃあな(うん、また今度)」」
そういって、クリスタは走っていった。
「早く行こう」
「あぁ」
―――
「コンコン・・・。失礼します」
「…失礼します」
そうして団長室に入ると、既にジャンやアルミン、ヒョウがいた。
「よし、全員集まったな。
では、ついて来てくれ」
そう言い、団長は部屋から出て行く。
俺たちはそれに続いて歩いていくと、団長は食堂に入った。
団長が入っていくのに続き、食堂の中に入る。
中には、エレンと兵長、そしてリヴァイ班の先輩方が座って居た。
どうやら既に待機していたようだ。
団長が席に座るのを見て、俺も席につく。
ミカサ達も席に座り、それを確認した団長は、ついに本題を話す。
「本題に入る前に…、先の壁外調査で遭遇した知性巨人達、『異形の巨人』達について話しておく。
異形の巨人とは、ヒョウによると、知性巨人の亜種であり、何らかの因子を元に出現する巨人達だ。
この巨人達には種類があり、その種類もエレンのような現存する巨人化能力者の知性巨人の種類や記憶が元になっていると思われる。
そして、異形の巨人は巨人化能力者が付近に居ない限りは、出現しないと考えられる。
そのため、鎧や超大型が出現するまで、壁外でも壁内でも今まで異形の巨人の発見報告がなかったのだろう。
しかし、エレンという巨人化能力者が作戦に参加する。
故に今から話す作戦の途中…、または作戦決行前に異形の巨人が単体、または複数発生する可能性がある。
そのことを頭に入れて、明日は指示に従ってもらう」
なるほど…。
ガスター、この情報を記録して、この情報を元にあらゆる可能性を模索しておいてくれ。
《了解だ》
さて…、話の続きを聞くか。
「…明日、私を含めた調査兵団の責任者が王都に招集される。
そして、エレンも憲兵団に引き渡されるだろう。
その前に…、超大型、および鎧の巨人の協力者、または同じ巨人化能力者であろう人物を予測することができた」
…マジか…。
全然情報が無い中で思考加速のような能力やガスターみたいな神智核マナスなしで自力で発見するとか…、普通にすごいな…。
「今回…、いや、明日の作戦で目標を討伐、捕獲または懐柔できれば、人類と我々調査兵団の首は繋がるだろう。
作戦は、我々が王都に召喚される途中で通過するストへス区で決行する。…ここが、最初で最後のチャンスとなる。」
ストヘス区ね…。
つまり、敵が内地に潜んでるってコトか…。
「目標をストヘス区の地下通路へと誘い込む。
たとえ目標が巨人化しても動きを封じて捕縛する。
だが、万が一その前に巨人化した場合…、エレン。
君に頼むことになる。
目標への接触は、エレン、ミカサ、アルミン、ハチマン、ヒョウの5人で行い、他の兵士は市民に扮して周囲に潜伏、目標を取り押さえる。
さらに、万が一に備え、リヴァイ班を含む一部の兵士は完全装備で後方、地下通路内で待機しておく」
なるほど…。なんで俺が接触なのかは…、まぁ…。
正体については、薄々気付いてるんだが…、外れていて欲しいな…。
「目標はストヘス区の憲兵団に所属している。
それを割り出したのはアルミンだ。
目標は、先日の壁外調査で遭遇した異形の巨人の元となり、君たち104期訓練兵の同期である可能性がある。
その目標の名は―――」
…あぁ…。
予想はあってるっぽいなぁ…。
多分…、
「―――アニ・レオンハート」
アニ…だろうな…。
「ッ!?アニ…が、巨人の…仲間…?」
「…信じたくないだろうけど、多分そうだ。
あの異形の巨人と呼ばれた女型は、104期生しか知らない、『死に急ぎ野郎』というエレンのことを指す言葉に反応した。
つまり、あの巨人には104期生のことについての知識がある。
ハチマン、エレン。あの異形の巨人と戦ったのなら、アニに通ずる格闘術とかを見なかった?」
「…見たぞ。
エレンがアニの足技を受けそうになったが寸でのところで避けて、カウンターを入れてたとこを丁度見たからな。
…だが、アニは、俺達を裏切るはず無いんだ…。
アイツは…、自分が巨人だって事を俺に自白してくれた。
その場にはミカサもいたし、アイツは味方…のはずだ…」
「!…ハチマン。
何で、そのことを団長や僕たちに言わなかったの?」
…あの目は…、多分…、気付いてる目…。
その上で聞きたいみたいだな…。
「…俺がそれを知ったのは、トロスト区防衛線の時だ。
あの時にお前らに話していたとしても、余計に混乱するだけだろうし、何より、本人が言うのを望まなかった。
調査兵団に入ったときには、まだ団長や兵長の人柄や考えがいまいち分からなかったから言うか迷ってたし、本人が居ないのに勝手に言って良いものかどうか分からなかったのもある。
もし、エレンに言ったら、相当大変なことになってたと思うし。
兵長や団長、お前らの事を信用してなかったわけじゃない」
「…たしかに、あの時の僕等じゃ、それを言われても余計に混乱するだけだった。
調査兵団に入ってからも、ほとんど会う機会が無かったし。
それに、もしエレンだけにそれを伝えたとしても、エレンがそれを信じないかもしれなかったし、逆に怒って暴走するかもしれなかった。
エレンって、よく感情に身を任せておかしな行動を取るし、ヒョウも知ってたから、言う相手もあのエレンだけだったし。
仕方ないね」
「…お前ら…、俺の事をなんだと思って―――」
「仲間思いの死に急ぎ野郎」
「無鉄砲の駆逐馬鹿」
「人類終焉の進撃野郎」
だよな。
ヒョウの言ってることについてはいまいち分からんが…、アルミンの言ってる事は分かる。
確かにそうだもの。
「オイッ!?酷過ぎるだろッ!
てか、ヒョウとハチマンに限ってはそれ悪口だろッ!?」
「おいおい、無鉄砲のところは悪口だが、駆逐馬鹿についてはほめ言葉だぞ?
そんだけカルラさんの事を大事に思ってんだろ?
だから、あそこまで執着してる。いいことじゃないか」
「お、おう…。いいこと…なのか?
てか、ヒョウに関しては…、人類終焉の進撃野郎って何だ?」
「いや、いつかこんな風にやらかすだろうなって思って」
「いや、しねーよッ!」
…どゆこと?
「…おい」
…あ。終わった。
「「「「…」」」」ガタガタ
「今はふざけてる場合じゃねぇ。真面目にやれ」
「「「「はいッ!」」」」ガタガタ
こわい…。
こわいよぉ…。
じごうじとくなんだけど…。
(ハチマンがブルブル震えてる…。
…かわいい…)
「…よしよし。もう大丈夫だから」
なんか、みかさからあたまなでられてる…。
…きもちいい…。
「…♪」
(かわいい)
(なにあれ超かわいい!
普段クールなハチマンがあそこまでなるなんて…。
…今すぐぎゅってして、あたま撫で回したい!)
「…あれ?ぼくたち作戦会議してたよね?」
「してたな」
「…何か、おかしな状況になってるな」
「…仕方ない。
彼らのことは置いておいて、作戦の説明を続ける」
あの後もミカサにあたまを撫でられ続けている間に作戦会議が終わってしまい、リヴァイ兵長にしこたま怒られた。
まぁ、アルミンとヒョウの説明で作戦は大体理解したし良かったが…。
(あの怖がってるハチマン…、…かわいかった。
また、あの状態になったらもっと愛でよう)
(あのハチマン…、かわいかったなぁ…。
また見れないかなぁ…。見れたら、絶対にぎゅってしてあげないと!)
次の日…というか、作戦当日。
俺は朝から兵団購買部に行って、帰ってきた。
理由としては、俺の立体機動装置が紛失したからだ。
…まぁ、ホントは紛失とかじゃなく装置自体が『七個之魂セブンスソウル』に取り込まれちゃったため、もう1つ、装置を用意してもらおうと思ったのだ。
結果、新品の立体機動装置を用意してもらうことができた。
…紛失したといった時、「弁償代を払ってください」と補給兵の人から満面の笑み(目は笑ってない)で言われ、非常に怖かったですはい。
ちなみに、弁償代は金貨25枚だった。
今まで一切給料を使ってなかったから足りたものの、もし散財してたら危なかったな。
…残りの財産は、金貨4枚と銀貨28枚。
まぁ、町で買い物する分には全然余裕だな。
さて…、用意は済んだ。
作戦開始だ。
「アニ、やぁ…。…もうすっかり憲兵団だね」
「アルミン…?どうしてストへス区に?…!ハチマンも」
「アニ、エレンを逃がすのに協力してくれないか?
このままじゃ、まず間違いなくエレンは殺される。
ウォール・シーナ内の検問を通り抜けるには憲兵団の力が必要だ」
そこまで言い切って、アニの耳元で小声で話す。
「今、アニは鎧や超大型の協力者として疑われてる。
今から地下通路まで連れて行くから、抵抗せずに地下通路を通れば、疑いは晴れるし、そのまま憲兵を続けられると思う」
「…分かった。協力するよ。
…で、でも…、ひ、久しぶりに会ったわけだから…、
その…、あ、後で私のお願いを1つ聞いてほしいんだけど…」
「ん?別にいいが…、何するんだ?」
「そ、それは後で言うから…。
ひとまず、今は先にエレンを逃すべきじゃない?」
「そうだな」
俺は一度、アニから離れて、エレンたちの所に行く。
「協力してくれるらしい」
「良かった…。なら、アニ。ついてきてくれ」
その言葉を合図に、アルミンたちは歩き出す。
アニと俺はそれについていく。
「それにしても、1ヶ月ぶりだね。ハチマン」
「まぁな。俺は調査兵で、アニは憲兵。
なかなか会う機会なんぞないからな」
「まぁ、そうだね。
でも…、また会えてうれしいよ」
「/////お、おう」
「/////」
くっそ、何かこっぱずかしいな…。
「ムッ」
「…」ニヤニヤ
気まずい空気が一瞬流れたが、すぐに地下道に着いた。
「行こう…。この地下道は外門の近くまで続いてるんだ」
そうして降りていく4人。
それに続いて、俺とアニも降りる。
作戦は成功。これでアニも無事…。
「はぁ、アニ・レオンハート!あんたには呆れたよ」
いきなり、階段の上の方からアニによく似た声がした。
それに反応し、後ろを振り返ると
「まさか、故郷と、その故郷に置いてきた自分の父親と見捨てて自分のそのくっだらない恋心を優先するなんてね」
薄い灰色の髪色をした、アニそっくりの顔立ちの憲兵が立っていた。
「!?…アニの…姉妹さん?」
「いやなんでだよ」
「いやいや、冗談だって」
こんな状況でよく冗談をいえるな…。
まぁ、自分にとっては何が来ても安心って思ってるからかもしれんが。
「はぁ…、ホント、聞いて呆れるよ。
あんたはどっちも選べず、ここで巨人となってこいつらと戦うと思ったんだけど…、予想が外れたね…。
おかげで、私がそれをする羽目になったじゃないか…。
道のせいで、座標には…、始祖には逆らえないし」
「オイ、テメェ、結局何が言いたいんだ?」
「そうだね…。あんた、いや、あんたらに呆れたって事と…、ここで死んでもらうって事ぐらいなぁ!」
そうして、目の前のアニ似の憲兵は指を噛もうとした。
それにいち早く反応したアルミンが音響弾で合図を送る。
その合図で一斉に先輩兵士方が出てきて、アニ似の憲兵を
巨人化できないように拘束する。
これで…。…!アイツ…!
「チッ!全員、降りろ!」
アニとアルミンを掴みながら、ヒョウたちの向かって言う。
だが、ミカサはエレンを掴んで既に降り始めており、ヒョウに関しては階段をバックステップして降りながら、俺が作った麻酔弾を撃てるようにさらに改造した方のColt 1911 カスタムでアニ似の憲兵に発砲している。
いや、すげぇな。あの若きBIGBOSS―――ネイキッド・スネークがプロ仕様って言ったくらいに扱いが難しいのにあそこまで使えるようになるとは…。しかも短期間で…。
…いや、よくよく考えたら『学習者マナブモノ』のおかげだな。あれ。
ヒョウが確か、『学習者マナブモノ』に新しい権能として『技術開花』と『技術スキル習得』ってのが追加されたって言ってたしな。
って、そんなこと考えてる場合じゃねぇ!
アイツが巨人になる前に何とかアルミンとアニを外から見られない、通路の奥の方に移動させる。
丁度その時、あたりに轟音が鳴り響き、壁外調査で見たものとは若干違う異形の女型が出現した。
それに気付いたミカサがいち早くエレンをこっちに連れてきた。
ヒョウは麻酔弾を撃ってからこちらに来る。
どうやら、麻酔弾はあいつに効かなかったらしい。
「ッ…。し、しまった…」
アルミンがそう声を出した時、異形の女型の腕がこちらに伸びてくる。
それにいち早く気付いたヒョウがある程度威力を底上げした実弾入りのColt 1911 カスタムで腕を撃ち抜く。
しかし、大したダメージにならず、少し怯むだけだった。
だが、そのわずかな時間で俺を含む全員が奥に移動し始める。
それに気付いているのか、それとも当てずっぽうなのか、どちらかは分からないが、異形の腕はこちらに迫ってくる。
「くそ…。まさか、拘束されても巨人化できるように小型の鉤爪を指輪に隠しつけて、巨人化するなんて…」
「そんな悔しがるな。あんなのまず予想できるわけないだろ。
それに、予想しようにも、俺らには経験も知識も足りてない。
それより、今はこの現状をどう打破するかが問題だ」
「ッ…。そうだね…。…とりあえず、3班と合流しよう。
そして、地上に出て、後は対女型用の二次作戦の通りに。
あの…異形の巨人と戦う。
エレンは対女型用の作戦と同じように巨人になって、異形の巨人の捕獲または討伐に協力してもらう。
本来なら討伐のみだけど、あいつは人間にもなれる。
だから、できるだけ捕獲を優先して欲しい」
「…あぁ…」
…相手がアニに似てるからか、エレンには迷いが残ってるみたいだな…。
にしても…、どうすっかな…。
「おーい!」
「!3班だ!」
「ッ!一次捕獲は成功したみたいだが…、上からの轟音は何だ!?」
「成功はしましたが…、異形の巨人が出現しました!
対女型用二次作戦に移行してください!
…!」
アルミンが足を止めたその時、地下道の天井を貫通してきた異形の足に3班の調査兵たちが踏み潰された。
そして、一気に砂埃が舞う。
「ッ!?目ェッ!目がァァァァッ!」
何も見えない中、ヒョウの苦しむ声が聞こえる。
…何やってるんだ。あの馬鹿は…。
砂埃が治まり、目に映ったのは石に潰された調査兵の足と穴からの太陽の光、そして、少し離れたところから穴を見つめる異形の女型だった。
「ッ!全員奥に!」
全員にそう伝え、未だ目を瞑って痛がっているヒョウを引っ張り、異形の女型が見えない位置まで移動する。
「どうしよう…。退路を塞がれた…。
立体機動で素早く出たとしても、その瞬間を狙われる。
かといって―――」
アルミンが話を続けようとした時、少しこちらに近づいた位置でまた天井が壊される。
「ッ!…ずっとここに居ても、何時踏み潰されるか分からない!」
少し上擦った声でアルミンが言う。
その時、エレンが立ち上がった。
「俺が何とかする!あの時、砲弾を防いだみてぇに!」
「やめとき。
今ここで巨人化してもうたら、あんたが無防備になってまうやろ。
その上、あんさんには迷いがある。
そんな状態で巨人になれるほどその力があんまないのはあんさん自身が分かってんやろ?」
「…なんか口調おかしくね?」
「いま、頭一杯一杯やねん。やから、頭おかしくなっとるん…。
ちょっと整理する時間もらうで…」
「…あ、あぁ…」
…いや、まぁ、一杯一杯なのは分かるけど…。
なんで関西弁?
「…なんだか、ヒョウの様子がおかしいけど、いつものことだし放っておくとして…、ヒョウの言う通りだ。
今巨人化したら、エレンは良い的になる。
あいつはぼく達を殺そうとしている以上、下手な手は打てない。
今エレンを失ったら、あの巨人に対抗する術が1つ減ってしまう」
「…あとは、どっちかが死ぬ確率の高い作戦しか残ってないな…。
くっそ…。取れる選択肢が少なすぎる…」
「…あんたら、私の存在を忘れてないかい?」
「ッ!そうだ…、ここにはアニが居る…。
…余計に選択肢が縮まったぞ…」
「…ハァ…。
アルミン。あんたの作戦に協力してあげるから、ちゃんと考えな。
どうせ、あんたら…いや、ミカサとハチマン以外は予想ってところだろうけど、私が巨人になれるって事は分かってるんでしょ?
私は、あと少しで死ぬかもしれないこの状況で…、出し惜しみしてる場合じゃないのは理解してる。
そう理解してるからこそ…、私はあんたに賭ける。
あんたが良い方法を思いつくことに賭けてあげるよ。
だから…、いくら死傷者が出ようが、あいつを倒せる算段を考えな」
「ッ!…そうだ…。
…エレン。君にはさっきヒョウが言ってように、まだ迷いがある。
その迷いを断ち切らない限り、巨人にはなれない。
エレン。この世界は残酷なんだ。でも、そんな世界を変えようとしてる人たちがいる。その人達は、自分にとって大事なものを捨てて、この世界を…、何かを変えているんだ。
…何も捨てることができないのなら…、何も変える事はできない。
化け物をも凌ぐために必要なら、人間性さえ捨てる。
あの異形も…その覚悟があったのかもしれない。
その覚悟を持ったものが…、それをできるものが勝つ!
エレン…。さっき死んでしまった兵士を思うなら…、
今度こそ、その『慈悲』を捨てて、巨人になるべきだ。いいね」
「ッ!…あぁ。もう、迷いはしない。絶対に…殺す」
…あれだけ言ったが、まだ決意が足りなさそうだ。
「…うん…。…皆、作戦を考えた。
まず、ハチマンとアニはさっき開いた穴から、僕とミカサは元々の入り口から同時に出る。そして、異形の位置を確認して、異形をここから遠ざける。その間にエレンが巨人化。異形と戦う。念のため、三次作戦決行の準備として、誘導場所に近づきながら遠ざけてくれ。ヒョウは…、エレンが巨人化したのを確認して、僕たちと合流、異形との戦闘を開始してくれ。
…以上が作戦だ。時間的に、もうこれ以上のものは出ないと思う。
だから…、この作戦で蹴りをつけよう」
「…分かった。やっと頭も落ち着いてきたし、早速やろうか」
「うん…。じゃあ…、作戦開始だ!」
…さて、やるか。
にしても良い作戦を考えたな…。
《本当だな…。時間はかかったが、私とほとんど同じ作戦を考えるとは…。
あのアルミンというニンゲン。中々良い才能を持っているようだな》
まぁな。アイツは、やる時はやるからな。自信があんまりないけど。
《そこは直すべき点だろうな。
だが、無理にとは言わない。補助してやれば問題無いだろう。あのニンゲンは参謀向きだな》
だろうな。さて、アイツに自信をつけさせるためにも、この作戦を成功させるぞ。
《あぁ。補助は任せておけ》
「アニ、行く準備はできたか?」
開けられた穴へ走りつつ、アニに声を掛ける。
「もうとっくに出来てるよ。
それに、私は、こんなとこで死ねないんだ。
だったら、戦うしかないでしょ?」
「そうだな…。
それに、まだアニのお願いも聞いてないし、ミカサやクリスタと出かけてないし、死ぬわけにはいかないな」
そんなことを言った途端、アニから何か、黒いオーラみたいなものが出てるように見え始めた。
「…ねぇ、ハチマン」
「ひゃい!」
「ミカサやクリスタと出かけるって…、どういう事…?」ゴゴゴ・・・
や、やばい…。圧がすごい…。
「い、いや、今日の朝、今度一緒に町に行こうって誘われたんだよ!
ん、んで、せっかくだし行っとこうと思ったんだ!」
「…ふーん。そう」
あ、圧は収まったけど…、すっごい不機嫌そうなんだが…。
…俺と一緒に居る時はそうでもなかったのに…。
!…まさか…、
「…一緒に町に行きたいのか?」
「!」
おっ、この反応はそうみたいだな。
「なら、また休日を貰った時、一緒に町に行くか」
「!…うん/////」
「!」
…めずらしいな。アニが笑顔を見せるとは…。
そんなことを考えつつ、俺はそのアニの笑顔に見惚れてしまっていた。
《…ハチマン。今は戦闘中だ。惚気るのは後にしてくれ》
ガスターの一言で我に変える。
というか、惚気てねぇよ。
そんなことを思ったが、ガスターからの返事は無かった。
どうやら、状況の解析の集中しているようだ。
「さて…、今度こそ行くぞ!」
「分かったよ」
シュゥゥゥッ
外に出た俺たちは一直線に三次作戦の決行場所に向かって移動する。
「!」
その立体機動の音で異形の女型が俺たちに気付き、こちらに向かってくる。
「チィッ!やっぱ狙ってくるか!」
わざとそう言いつつ、追いかけてくることを確認して、俺たちは追いつかれない程度にガスを吹かして移動する。
それを異形は走って追いかけてくる。
結構速い。
今使ってる立体機動装置は『七個之魂セブンスソウル』の権能の1つである魂器化の立体機動装置を用意してもらった新品に一時的に宿しているのだが、こちらが先に動いたのに、すぐに気付き、追いかけてきている。
その上、移動速度上昇等が付与された立体機動装置での移動なのに異形との距離が少しずつ縮まってきている。
というか、この状況でも追いついてきているアニもすごいな…。
って、そんなことを考えている場合じゃない!
ひたすら目標地点まで移動していると、
「ッ!」
立体機動の音と共に、異形の背後から近づいてくる影が思いっきり異形の項を攻撃する。
しかし、硬質化した腕によって刃が阻まれ、パリンッ!という音と共に一気に刃が折れてしまう。
「チッ!おい、お前ら!こっちだ!」
異形の動きを止めたジャンが目標地点まで誘導するように移動する。
「!了解だ」
俺たちはそれに続いて移動する。
後ろをチラッと見ると、異形はこちらをバリバリ追いかけて来ていた。
高速移動し続け、目標地点まで着くと、轟音と共にワイヤーが発射され異形の巨人の足を捕らえた。
せめてもの抵抗とばかりにこちらに腕を振るってくるが、俺はそれを軽々と避けつつ、体から発せられる制御していた微量の魔素でSAAを構築し、異形の眼球目掛けて撃つ。
弾は異形の眼球に命中し、異形の片目が潰れた。
「ッ!アァァァァッ!」
それに危機感を覚えたのか、異形は叫びを上げ、その風圧で調査兵を吹き飛ばし、使えた片手で拘束装置を破壊して、一目散に移動し始めた。
「ッ!?拘束を振りほどいた!?」
「チィッ!やっぱり拘束装置が足りなかったか…。
逃がすな!追え!」
ハンジ分隊長の指示で一斉に動き出す調査兵。
俺もその後に続く。
「ッ!」
異形は兵士たちが追いかけてきていることに気付き、迎撃体勢をとる。
そして、見覚えのある足技を繰り出そうとしている。
あれをやられれば、周りに居る兵士たちは皆死ぬだろう。
その前に…、
「ッ!頼むぞミカサ!」
「!分かった!」
ミカサに指示し、異形の手足に斬撃を浴びせる。
そして、
「ッ!ラァッ!」
異形の項に斬撃を浴びせる。
が、やはり、パリンッ!という音と共に刃が折れてしまう。
だが、多少の時間は稼げた。
早く…、早くエレンがこねぇとジリ貧だぞ…。
「チッ。やっぱ折れるか…」
そうぼやきつつ、屋根の上で刃の換装作業をする。
「くっ…。ハチマン!私の力を使った方が…」
アニが近くに来てそういが…、
「いいや、駄目だ。
ここでアニの力を使えば、エレンの有用性が証明できなくなる。
その上、アニが力を使えば、アニの身が危なくなる。
今は、エレンが巨人化することに賭けるしかない」
そう言った時、さっきまで居たと思われる地下道の方から轟音と共に、雷が落ちた。
そして…、
「ウ”ウ”ゥ”ゥ”ゥ”オ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ッ!」
異形の頬に、走ってくるエレンの拳が入った。
殴られた異形は思いっきり吹っ飛ばされ、地面に倒れる。
「!お前ら!」
「!ヒョウ!無事か!?」
俺は、頭と右腕、左足から血を流したヒョウにそう言う。
「ん?あぁ…。一応無事、というべき…かな?
頭のキズも対して影響はないし、問題ないはず。
まぁ、少し時間がかかったけど」
「?時間がかかったって…。
…まさか」
「その通り。
エレンは『慈悲』を捨て切れなかった。
でも、見ての通り大丈夫。何とか説得して巨人にしてきたからね」
「そうか…」
やっぱり、まだ決意が固まってなかったか…。
「後…気をつけて。
さっきから、ずっと、嫌な予感がしてるんだ。
何か…やばめの新手がk」
ヒョウの話は辺りに鳴り響く轟音にかき消され、別のところに雷が落ちる。
「?…ッ!ちょっ、ちょちょちょ!
ハンジ分隊長より7時の方向!
異形の鎧が接近中!」
『傍観者ミマモルモノ』で確認したのだろう。
ヒョウが珍しく焦った声でそう言う。
「なッ!」
「ッ!嘘でしょ!?」
やべぇ…。
何でよりによって、普通の刃じゃ歯が立たない奴が出てくるんだよ…。
「ッ、チィッ!ハチマン!エレンは異形の鎧と戦わせる!
異形の女型はアニの力を使わず、全兵力で攻撃してくれ!
エレンが異形の鎧の方に行くまでの時間は俺が稼いで置く!」
そう言って、ヒョウは異形の鎧の方に行く。
「ちょッ、まッ…はぁ…、仕方ない。
エレン!そいつとの交戦は一旦終了だ!
新しく鎧が出た!そっからも見えるだろうから、そっちに向かってくれ!」
「!…コク」
エレンは少し驚いた後、頷いてヒョウの後を追う形で異形の鎧の方に向かった。
…さて…、
「アニ、ミカサ!やるぞ!」
「うん!」
「分かったよ」
ヒョウside
さて…、異形の鎧のとこまで来たわけだけども…、
…やっぱ、暴れてるよねぇ。
そう。建物壊すわ、人を踏み潰すわでやりたい放題してる。
「…決意を抱け。思いを紡げ。意志を持て。
強固な意志こそ、理と世界を紡ぐ力となる。
諦める事は許されぬ。今果てる事も許されぬ。
我は業を背負う者。その意志と覚悟を持つが故に、我は赦しを乞う者にあらず、赦しを与える者なり」
何故か思い浮かんできた言葉を言い、異形の鎧に立体機動で近づく。
異形の鎧はそれに気付き、異形の女型よりは鈍足な速度で腕を振るってくる。
が、
「ほいっと」
俺はそれを容易に避け、一気に顔に近づき、眼球目掛けて突きを放った。
「ッ!グ”オ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ッ!」
目に刺さるとは思っていなかったのか、異形の鎧は自分の顔目掛けて腕を振り、それと同時にもう片方の腕を振り回し始めた。
「ちょ、やばっ」
俺は慌てて離れる。
何とか腕には当たらずにすんだが、周りへの被害が大きい。
時間も稼ぎつつ、被害を最小限に抑え、生き残る。
これほどきつい事は無い。
…やばい、お腹減ってきた…。
…戦闘中にそんなことを考えるのは、一瞬の隙へと繋がる。
俺はそれを分かってた…はずだった。
だが、作ってしまった。
それが…、幸運なことに、俺の運命を知る要因のひとつになったのだ。
そんなことを考えていたから、一瞬ではあるが俺は隙を作ってしまった。
隙を狙って、異形の鎧はこちらに腕を振るってくる。
俺はそれを慌てて回転しつつ避け、立体機動で異形の足元に迫り、足首の鎧に覆われていないであろう部分に刃を滑り込ませ、削ごうとするが、パキンッという音と共に、刃が折れてしまう。
「ッ!やっぱり…」
異形の鎧から立体機動で離れながら、思わず口に出してしまう。
ゲームの方では普通に攻撃が通っていたからもしかしたらって思ったけど…。
…いや、普通に考えて無理だって事は分かるか。
にしても、この状態だと勝てる見込みがないぞ…。
俺は並列演算と思考加速を使い、突破口を考える。
それに並行して異形の鎧の攻撃を避け続ける。
(エレンが来るまで耐えるか…。
てか、エレン遅いんだけど!?)
結論と疑問を出した時、異形の鎧が俺の事を叩き落とそうとしてきた。
俺はそれを移動して避けようとする。
が、
(なッ!)
異形の鎧は俺の刺したワイヤーを掴んできた。
俺はすぐに刃でワイヤーを切る。
が、そこで上から迫る異形の鎧の腕の事を思い出す。
(クッ…、この状態じゃ、インク移動は使えない…。
…終わった…かな?これ)
死を覚悟する。
が、その時、頭の中にハチマンと俺が、会った事も無いのに何処か既視感のある白髪赤眼の少年・・・・・・・やツインテールの巨乳幼女・・・・・・・・・・・、金髪翠眼の妖狐・・・・・・・、赤髪青眼の青年・・・・・・・、白髪蒼眼の少女・・・・・・・等と楽しそうに生活している風景と謎の言葉が浮かんできた。
俺は、脳裏に浮かぶその言葉を言わなければいけない気がして、その言葉を口にする。
「『赦しをペレドーノ』」
その言葉を発した途端、辺りに鈴の音が鳴り響く。
そして、こちらに腕を振るってきていた異形の鎧が一気に吹っ飛んだ。
「…へ?」
異形の鎧が一気に吹っ飛び、地面に倒れる。
異形の鎧が立ち上がったその時、
「ウ”ウ”ゥ”ゥ”オ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ッ!」
こちらに走ってきたエレンが異形の鎧の顔面目掛けて思いっきり拳を振るった。
その速度は尋常ではなく、殴った際にソニックブームが発生するほどの速さで、異形の鎧の硬質化した皮膚を物ともせずに皮膚に皹を入れ、吹っ飛ばす。
だが、エレンのほうも無事ではなく、異形の鎧を殴った拳は、皮膚が裂け、筋肉はぼろぼろ、骨が見えるくらいにまで損傷している。
が、すぐに再生し始めていた。
…トントン拍子でことが進むからびっくりするんだけど…。
そんなどうでもいいことを考えつつ、並列演算で他の思考をめぐらせる。
あの情景はなんだったのか。
見たこと無い、経験したことも無いはずなのに、何故か懐かしく感じる…。
…考えられる可能性としては、エルディア人特有の『道』。
未来の自分と『道』が繋がって、あの情景と謎の言葉…『赦しをペレドーノ』かな?
『赦しをペレドーノ』…。確か、イタリア語で『赦し』って意味だったはず…。
よかった~。中二病にかかってて。こんな世界に来ちゃったから、前世では無駄な知識も、ここでは役立つことがあるし。
にしても『赦し』ねぇ…。
…なんでこの『赦し』って言葉がなんであんなにすごい効果を発揮するか分からないけど、危険になったらこの言葉を使うといいかもしれないね。
これが『道』を辿って伝わってきたって事は、この先、この言葉の意味とこれを持つ時が来るってことだけど…。
…ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”。
頭が働かない…。しかも、頭痛もひどいし…。
その上、最近はスキルを使う時もしんどくなってくるし…。
…何で?
…考えても仕方ないし、一旦この議題はおいとこう。
作戦に集中だ!
「…エレン!そいつの相手は任せる!
そいつには、俺が教えた固め技や絞め技…特にキャメルクラッチあたりが効くと思う!
それらを使って攻めて!そして、そいつを殺せ!
捕獲は考える必要ないから!」
「!?…コク」
エレンは納得してくれたようで、そのまま異形の鎧と格闘戦を始めた。
さて…、
「…ハチマンみたいに骨生成で立体機動装置のワイヤー作れないかな…」
『学習者マナブモノ』の森羅万象も駆使すれば…、
…よし、結構適当だけどできた!
これで立体機動はできそう。
さて、これで回避手段も確保できたし、エレンの援護をするか。
そう思い立って、俺は頭に響く頭痛に耐えながら、AU召喚でアイテムを呼ぶ。
AU召喚はなにも、AUサンズ達やスネーク達のような非常に強力な者たちを呼び出すだけ権能じゃない。
AU召喚の神髄は、制限はあれど、ある程度の物、または者を召喚できることにある。
例えば、サヘラントロプスやゴジラのような、超巨大生物や巨大な機械等は呼び出すことができないが、グレネード、伝書鳩等は呼ぶことができる。
つまり、あまりにも巨大なもの以外を大抵は呼び出すことができる。
それを利用すれば…、
「ヘッドショット威力435のクレーバー50だって使えるようになる」
俺はクレーバーを構えながら独りぼやく。
このクレーバーは、俺が前世でよくやってたゲームに登場する、ヘッドショットでどんな敵でも1撃ダウンを成功させる、非常に強力なスナイパーライフルである。
その代わり、入手条件が厳しく使う機会がマッチではあまりない。
しかも、弾も少なく、もし見つけても放置する人が意外に居る。
が、俺の権能を使えばすぐに使えるし、弾は無限だし、1,2km程度離れてても何者をも貫く弾は愚直に飛び、ヘッドショットを決めれる。
そんな銃を構え、エレンに当たらないよう異形の鎧の位置を予測し、そこに向かって…撃つ!
バンッ!!
辺りに銃声が響く。
そして、弾は50mほど離れたところに居る異形の鎧まで向かっていき、
「ッ!?グ”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
異形の鎧の硬質化した皮膚をもろともせず、項に損傷を与えた。
それを好機と見たのか、エレンは異形の鎧の頭を鷲掴みし、地面に叩きつける。
そして、うつ伏せにすると異形の鎧の上に乗って、顎を掴み、体重を思いっきり自分の後ろにかける。
キャメルクラッチだ。
異形の鎧は腕を動かして抵抗しようとするが、その腕はエレンの足によって押さえつけられており、動かせていない。
その間に、もっと力を入れるエレン。
そんな状況を見ている人が、俺以外にも居たようで、
「何だ…、あれは…」
団長の同期であるナイル・ドーク師団長や他の憲兵がエレンと異形の鎧の戦いを驚愕と畏怖の眼差しで見ていた。
…ネットでは、この人の死を喜ぶ人がいたけど、この人、普通にいい人だと思うんだけどなぁ…。
目の前に現れた人について思い出しつつ、エレンの援護をする。
まぁ、援護といっても抵抗できないように関節部分を撃ち抜く事位なんだけども。
エレンが力を入れ続け、異形の鎧が抵抗しようとすれば、俺がクレーバーでその関節部分を撃ちぬくという状態が続くが、次第に異形の鎧の腹部の硬質化皮膚に皹が入り始め、それを確認したエレンがもっと力を入れる。
そして、
「ッ!グ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”…」
異形の鎧の腹部を守る硬質化が無くなり、異形の鎧はキ〇肉マンのブロッ〇ンマンような、上半身と下半身がすっぱり分かれた状態になった。
それを確認したエレンは、ちょっと目を逸らしながら立ち上がり、止めとばかりに異形の鎧の項を踏み潰す。
それを最後に異形の鎧は動かなくなり、蒸気が出始め、絶命した。
ちなみに、それを見ていた憲兵団の人達は絶句していた。
…まぁ、相当グロイからねぇ。
まっ、俺はバ〇オハザードヴィレ〇ジとかRe:3とかの実況見てたから大分耐性が付いてるんだけども。
…うっ。ベビーの気持ち悪さを思い出したら吐き気が…。
耐えろ…!耐えるんだ…!
…大丈夫だったー。
「…さて、異形の女型の方に行きますか。
エレン!異形の女型の方にいこう!
ハチマン達を援護しないと!」
「…コク」
エレンは頷いて、異形の女型が居る壁の方に向かった。
俺もそれに続く。
…俺たちが着くころにはもう瀕死だったりして。
ハチマンside
俺は屋根の上から飛び降り、立体機動で既に壁のすぐ近くまで移動している異形の女型に近づく。
異形の女型は相変わらずの反応速度でこちらを発見し、いきなり手の甲辺りのみを硬質化させた腕で攻撃を仕掛けてきた。
俺はそれを避け、お返しと言わんばかりに硬質化していない腕の部分を斬る。
さすがスキルで強化された刃というべきか、まさに白菜を切るような感覚で硬質化していない手首辺りを切り落とすことができた。
…いや、すげぇな。
強化する前だったら、こんな風に簡単に斬れなかった―――というか、太すぎて切断することすらできない―――のに。
こんな簡単―――いや、白菜を切るのにも結構力が要るから、比較的簡単って言った方が正しいか。
にしても、スキルってありがたいものだなぁ…。
使うだけで戦闘を劇的に変えるし。
そりゃ、獲得条件が厳しいわけだ。
…まぁ、そんな事は今考えることじゃないな。
頭を切り替え、俺はこちらに向かってくる腕に飛び乗り、異形の女型の左目に刃をぶっさす。
異形の女型の目が潰れたのを瞬時に確認すると、刃を換装しつつ俺の指示に従って付いて来てくれた2人に合図を出す。
「今だ!アニ、ミカサ!」
…正直言って、こういう指揮統率は俺の役割じゃないと思うんだが…。
我侭言っても仕方ないし、状況がそうさせている。
甘んじて受け入れるしかないな。
「了解!」
「分かってるよ」
俺の指示を聞いた2人が異形の女型の足をそれぞれ斬る。
その攻撃で、異形の女型は足から崩れ落ちた。
それを確認し、項に攻撃を仕掛けようとするが、疲弊しきっていないのか硬質化した皮膚に防がれ、刃がボロボロに折れる。
「チッ。まだ硬質化できるのかよ…」
思わず愚痴をこぼす。
目の前の異形の再生能力は可笑しく、2人が斬った足は再生が始まり半分くらい再生しきっており、左目に関しては再生が終わりそうなところまできている。
早い早い…。
って、もう再生しきってる!?
「いやいや、速すぎるだろッ!」
俺は急いで追いかける。
異形の女型はすぐに壁まで走り、硬質化した手足を使って壁を登り始める。
「ッ!壁を乗り越える気か!?」
そうハンジさんが言う。
「チッ、なら!」
俺は異形の女型の硬質化していない指を切り、壁から落とす。
異形の女型は真っ逆さまに落ちていった。
そこに、
「ウ”オ”オ”オ”ォ”ォ”ォ”ッ!!」
異形の鎧を倒したのであろう。エレンが援護に駆けつけて来てくれた。
異形の女型は避ける暇なく、エレンに飛びつかれ、片腕を引き千切られる。
そして、エレンは異形の女型の項にかぶりついた。
「ッ、エレンッ!!ストップだッ!!」
エレンと一緒に異形の鎧と戦っていたであろうヒョウがこちらに来ながら叫ぶ。
その叫びが聞こえていたのかどうかは分からないが、エレンは異形の女型の項辺りの皮膚を引き千切る。
何が見えていたのか…、それは分からないが、エレンはほんの少しの間、呆然として動かなかった。
その時、異形の女型から水色の光が溢れ出て、その光と共に何かがエレンと異形の女型を融合し始めた。
エレンはその状態から逃れようと叫びながら抵抗する。
しかし、腕の部分は既に融合し始めており、抵抗しても意味が無かった。
そこへ、
「やめなさいって…、言っただろ?」
ちょっと黒い笑みを浮かべたヒョウが項を削いで、エレンの本体を救出した。
エレンを担いでヒョウはすぐに巨人の体から離れる。
そして、少し離れたところの地面に降り、エレンを寝転ばせた。
「エレンッ!」
そこへミカサが走ってくる。
ふぅ…これで調査兵団の首は繋がったな。
その上、エレンの生存は確実だといっていい。
なんせ、『今、唯一鎧の巨人に対抗できる戦力』として認識されるだろうしな。
にしても、今回の異形の女型はまさに異質だったな。
人間にもなれて、正体不明の結晶にもなれる。
あんな風になられたら、情報を吐かせることすらできない。
一見、多大な犠牲を払って、得たものが何もないように見える。
だけど、まぁ、ヒョウによれば、
『異形の巨人はいわば転生者。幾度と無く殺されるたびに記憶と経験を自身に刻み、生き返り、それを繰り返す、死ぬたびに永遠と強くなる知性巨人だ』
らしいし、今回の作戦は、決して無駄じゃないし、むしろ成功とも取れる。
なんせ、ヒョウの言ってることが正しければ、異形の巨人を生け捕りにして、自殺しないようにしておけば発生する異形の巨人を減らせるってことだからな。
しかも、この状態ではこちらは手が出せないとはいえ、それはらくそれは結晶の中に居る相手も同じ。
つまり、これで異形の巨人を1体、完全無力化したといえる。
やったぜ。
「ハチマン!…これで、一応終わったね」
「あぁ…。あとは…、アニをどうするかだな」
そういうと、アニの表情が少し強張った。
「そうだね…。
…正直に言えば、もう憲兵なんて辞めて、
ハチマンと一緒に居れれば良いんだけど…」
「いや、俺と居ても、調査兵団に所属して身だから、何時死ぬか分からねぇんだし、止めといた方が…」
「たとえそうだとしても、私が死ぬあと8年間は…ハチマンと過ごして居たい」
「は…?」
アニが死ぬまで後8年…?
どういう事だ…?
「…代々、知性巨人をその身に宿すものは、『ユミルの呪い』に縛られ、継承してから13年でその命が終わる。
私がこの『女型の巨人』を継承したのは10歳のころ。
今から5年前…。だから、私は後8年で寿命で死ぬんだよ」
「…嘘だろ…?」
「…だから、せめて、死ぬまでのあと8年は…ハチマン。
あんたと過ごして居たいんだ。
・・・デキルナラ、アンタノコダネモホシイ」
「」
…何でだよ…。何で…、そんな寿命があるんだ…。
『ユミルの呪い』?…どうにかできねぇのかよ…。
《…どうにもできない…とは言えないな。
もしかしたら解決策が見つかるかもしれない。
私も模索してみよう》
あぁ…。頼んだ。
…今、こいつに…、アニにしてやれる事は…、一緒に居てやれることだけだな。
「…なぁ、アニ。
憲兵団を辞めて、調査兵団にこれないか?
調査兵団に身を置いてるんだ。何時死ぬかは分からない。
でも、できるだけお前のそばに居てやりたいって思ってる。
だから…、調査兵団に来てくれ」
…これぐらいしか思いつけねぇなんてな。
もっとマシな案だってあっただろうに…。
「…できるかどうかは分からない。
でも、やるだけやって、あんたと一緒に居られるなら、それで良いよ」
「ッ!そうか…。なら、俺は、お前を置いて逝かないよう努力するよ」
「うん…。お願いだから…、死なないで」
「…善処する。
さて、丁度団長が居るんだ。交渉に行くか」
「分かった」
「話は聞かせてもらった」
「「!?」」
何時の間に居たの!?
「交渉に関しては私も手伝おう。
な~に、心配するな。こういうのは、結構得意だ」
そんな風に言いながらヒョウがこちらに寄ってくる。
「…できるのか?」
「愚問だな。できるできないの問題じゃないだろ?
やるしかないんだよ」
「確かにな…。なら、頼めるか?」
「あぁ、大丈夫だ。初めての友人・・の頼みだ。
最善を尽くすしかないだろう?」
ヒョウはそう言って、笑う。
その場で感謝し、3人で団長の元に向かおうとしたその時、
「グッ…。ガッ!」
ヒョウが急に苦しみだし、吐血した・・・・。
「ッ!?ヒョウ!?どうした!?」
《…!ハチマン。ヒョウは元々持っていた『痛覚無効』と『刺突耐性』の効果が何故か無効化されているようだ。
その上、胃と肺に異常が見られるぞ》
それって相当ヤバイじゃねえか!
「ッ!ヒョウ!
駄目だ…。早く治療所へ!」
ヒョウ…。何で耐性が全部無効化されてるんだよ…。
というか、どうしてそんな状態に…?ヒョウは元の状態に戻るのか?
次々と浮かび上がる疑問と不安を、俺は振り払うことができずに居た。
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