イベリス
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第九十二話 合宿を終えてその八
「糧も得られますが」
「人生のですね」
「しかしです」
それでもというのだ。
「進んで災厄に向かうことはです」
「しないことですね」
「そうです、災厄は向かうものではありません」
「出来るだけ避けるものですね」
「そして暴力はです」
これはというと。
「何度も言いますが」
「向かうものではないですね」
「暴力をなくせるならです」
その場合はというのだ。
「向かうべきです、ですが受けるだけで」
「傷付くだけなら」
「身体にも心にも傷を負ってしまい」
「怪我やトラウマにもなりますね」
「どちらもその回復は時として厄介です、特にトラウマは」
精神的外傷はというのだ。
「身体の傷よりもです」
「治りにくいですよね」
「そのことを考えますと」
「暴力にはですね」
「向かうものではありません、逃げられるのなら」
「逃げるべきですか」
「これは決して恥ではありません」
速水は断言した。
「逃げる、難を逃れるにも勇気が必要です」
「よく何事からも逃げるなと言う人いますね」
「そうですね、ですが今私がお話した通りに」
「暴力は、ですね」
「災厄でしかないので」
「逃げることですね」
「逃げる決断をするにも覚悟を決めます、その覚悟はです」
即ちというのだ。
「まさにです」
「勇気がないと出来ないですね」
「そうです、ですから恥じることはです」
「ないですか」
「むしろ恥じるべきは暴力を振るう人のその性根と」
加害者側のそれでというのだ。
「何もわからず無責任にです」
「逃げるなって言う人ですね」
「昔はどうだったとか自分はどうだったとか言い」
「さっきの剣道の先生みたいな人からですね」
「その先生のやっていることは剣道ではありません」
断じてというのだ。
「まさにです」
「暴力ですね」
「言い忘れましたがこの先生は生徒が試合に負けると部の生徒全員に丸坊主を強制しました」
「それって体罰ですよね」
その話を聞いてだ、咲は瞬時に顔を顰めさせた。
「強制って」
「それで自分はしませんでした」
「自分に責任はなくて」
「教えた、顧問である自分は」
「負けた生徒に全責任があるんですね」
「そして翌日丸坊主をした生徒が少ないと怒り」
そうしてというのだ。
「生徒の人達に暴力を振るいました」
「もうヤクザ屋さんですね」
「ヤクザ屋さんでもこうですと」
「駄目ですか」
「誰もついてきません、人の上に立つ器でないなら」
ヤクザ屋即ちアウトローの世界でもというのだ。
「足下をすくわれてです」
「終わりですか」
「だから田岡組長も力道山を窘めました」
下の者にあまりにも過酷だった彼をだ。
「それでは駄目だと」
「その人もですか」
「そうです、こうした先生のところにいても」
「いいことはないですね」
「人間として失格です」
速水はまた言い切った。
「これでは」
「試合に負けただけで丸坊主を強制して」
「自分はせず」
そしてというのだ。
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