ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第106話 ルキの失敗!1ミリのユダ登場!
side:小猫
メルク包丁を使いこなせるようになるため私は節乃さんと姉さまに修行を付けてもらっています。しかしその修行は想像以上に厳しい物でした。
「小猫、もっと早く正確に!少し雑になってきてるよ!」
「は、はい!」
私は今メルク包丁の一つである『千徳包丁』を使って数千種類の食材をさばいています。
この包丁はメルクさんの代表作でもあり様々な食材を自在に切ることが出来るまさにオールラウンダーな包丁なんですが……
(思っていたよりも難しい!何でも切れるから食材によっては本来切ってはいけない場所まで切れてしまう!しかも私自身が知識を持っていなければ完全には使いこなせない!)
多くの食材を切れるという事はそれだけ食材に対しての知識が無ければこの包丁は使いこなせません。しかも切れ味が良すぎるので少しでも力加減や動かし方をミスすれば食材を駄目にしてしまいます。
私も多くの料理本を読んだり実際に食材を捕獲に行って自分の目で確かめたりしますが、それでも経験が足りません。
私は初めて見る食材を切りながら同時にその食材の事を勉強して……を繰り返しています。
始めの頃は千徳包丁のあまりの切れ味に指を切ったり食材を駄目にしてしまいました。戦車の駒の特性である頑丈さがなければとっくに指が全部切り落ちていたと思います。
「よし、少し休憩しよっか。節乃さん、ワープキッチンを解除しても大丈夫だよ」
「ほいよ」
姉様がそう言うと節乃さんは手から出していた空間を消しました、これがワープキッチンです。
「節乃さん、だいじょうぶ?」
「流石にちとこたえるじょ。まあもう少ししたら次郎ちゃんがグルメ界から食材を持ってきてくれるから問題ないぞぃ」
「ならいいけど……無理はしないでね」
節乃さんほどの強者でもワープキッチンの連続使用はこたえるらしく始めて息を切らしているのを見ました。協力してくれる節乃さんの為にも何としてもメルク包丁を扱えるようにならないといけませんね。
「セッちゃん、食材を持ってきたぞ」
「おお、次郎ちゃん。すまんのぅ」
「構わん構わん、セッちゃんの為なら酒を数日断つくらいなんてことないわい」
そこに次郎さんが大量の食材を持ってきてくれました。
「あれ、次郎さん今日は髪が黒いんですね」
「小猫か、久しぶりじゃな。ワシは今酒を断っとるんじゃ、グルメ界に入る時は流石に酔えんからな」
私はその言葉を聞いて驚きました。次郎さんほどの実力者でも酔っては入れないというグルメ界……これは想像していたよりも遥かに危険な場所なんですね。
「さてそれじゃグルメ界の食材で料理を作ろうかのう」
「私も手伝うにゃん」
姉さまと節乃さんが調理に入りました。私ではグルメ界の食材を調理できないので今は見てることしかできません、しかしいつか必ずグルメ界の食材を使って料理を作って見せます。
「んぐ……んぐ……ぷはぁ!一仕事を終えた後の一杯は格別じゃなぁ」
「もう飲んでるんですか?」
「当たり前じゃ、ワシにとって酒は水と一緒、飲まんと死んでしまうんじゃよ」
「それアルコール中毒の人が言う事ですよ」
早速お酒を飲み始める次郎さんに私は苦笑しました。アザゼル先生といいマンサム所長といいお酒が大好きな大人ばかりですね、そんなに美味しいのでしょうか?
「そのお酒もグルメ界の食材ですか?」
「そうじゃよ、ワシのフルコースの一つ『ドッハムの湧き酒』じゃ」
「ええッ!?あのドッハムの湧き酒!?」
このG×Gの人達でも一生に一度味わえるかどうかも分からない次郎さんのフルコースの一つであるドッハムの湧き酒の名前を聞いて私は大層驚きました。
だって実物を見れるだけでも宝くじの一等賞を50回連続で取るより難しいことなんですよ!そりゃ驚きますよ!
「アザゼル先生がいたら絶対に飲みたがったでしょうね」
「おお、あの堕天使か。アイツも良い飲みっぷりじゃったしいつか『酒豪諸島』を案内してやりたいのう」
「酒豪諸島?」
「その名の通り様々な酒を味わえる島々の事じゃ。ワシは多い時は週8で行くぞ」
「いや毎日じゃないですか!?」
聞いてるだけでアルコール臭くなりそうな場所です、酒豪諸島って……なんかマンサム所長もよく行ってそうですね。
「次郎さんは昔からお酒が好きなんですか?」
「ワシが酒に興味を持ち始めたのはアカシア様に勧められたときからじゃな。自分ので言うのもなんじゃが昔のワシは暴力が人の形をしたような暴れん坊でな、初めてアカシア様に会った時など問答無用に殺しにかかったもんじゃ」
「想像できません、次郎さんがそんな人だったなんて……」
私にとって次郎さんはお酒が好きで頼りになる大人というイメージが強かったのでそんな恐ろしい人だったなんて思えないです。
「人間若い時なんて大抵悪さしとるもんじゃよ、まあワシは悪さで済むもんではなかったが……もしアカシア様に出会っていなかったら今のワシは無かったじゃろうな」
そう語る次郎さんの表情はいつにも増してしんみりとしたものになっていました。
「次郎さんにとってアカシアさんは父親みたいなものなんですね」
「そうじゃな、ワシには育ての親が三人おる。その一人はアカシア様じゃな」
「もう一人はフローゼさんとして……あと一人は?」
「ふふッ、誰じゃろうなぁ……もう百年近くは会っておらんし向こうはワシを忘れてしまったかもしれんなぁ」
次郎さんは可笑しそうに笑いました。他の育ての親とはいったい誰なのでしょうか?少なくとも100年以上は生きてるようですし、まさか人間じゃない……?
……まぁそんなわけ無いですよね。
「アカシアさんやフローゼさんってどんな人だったんですか?」
「そうじゃな、アカシア様はとても優しく強い人じゃった。イチちゃんもとても尊敬しておったし実際そう思われるだけの人格者じゃったよ。ワシにノッキングの技術を教えてくれたのもアカシア様じゃったからな」
「次郎さんの凄いノッキング技術はアカシアさんからの教えだったんですね」
今じゃ伝説にもなってる人物が実際にどんな人だったのかと聞けるのって凄い貴重な体験ですね。もうちょっと聞いてみたいです。
「フローゼ様はまさに慈愛が形になったような人であの頃は戦争も多くて被災者などに弁当を配っていたんじゃ」
「凄い良い人じゃないですか!」
「そうじゃろう?じゃが戦争は人を狂わせてしまう、中にはその弁当にケチを付けたり偽善者とフローゼ様を悪く言う人間も何人もいた」
「そんな……」
「じゃがフローゼ様は決して怒りはしなかった、寧ろそう言った人達を見て悲しんでおったよ。決して自分が悪く言われて悲しいから泣いているんじゃない、空腹で荒ぶってしまった人たちの心を癒せなかったことに泣いておったんじゃ」
フローゼさんはとても優しい人だったんですね。酷い事を言った人に怒るのではなくそんな風に荒らんでしまった心を癒せなかったことに悲しむなんて……私だったら自分の事で悲しくなっちゃいますよ。
「フローゼ様は最後までその姿勢を崩さなかった。彼女が死んだのも大切な存在を治療するために消耗した体で無茶な調理をしたからなんじゃ。厨房に立ったまま死んでいたフローゼ様のお姿は今も目に焼き付いとるよ……」
「次郎さん……」
フローゼさんは最後まで誰かの為に動いたんですね、自分の命さえも失ってまで……
「あの馬鹿もフローゼ様を慕っておった。なのにどうして……」
「……次郎さん?」
「んっ?……おお、すまんな。少し酔ってしまったようじゃ」
私は次郎さんが呟いた『馬鹿』という言葉が示す人物が気になりましたが、それを聞く前に料理を持った節乃さんと姉さまが来たので聞けませんでした。
「ほい、出来たじょ」
「暖かい内に食べちゃおう。白音はコレだね」
「にんにく鳥の親子丼!嬉しいです!」
節乃さんが作ってくれたにんにく鳥の親子丼を見て私はテンションが上がってしまいました。
「うふふ、小猫はあたしゃの作った親子丼が一番好きじゃから作りがいがあるじょ」
「態々申し訳ありません、手間をかけさせてしまって……」
「構わん構わん、グルメ界の食材はイッセー達と一緒に食べたいんじゃろ?」
「はい、初めてグルメ界の食材を食べるときはイッセー先輩やオカルト研究部の仲間、あとイリナさん達とも一緒に食べたいんです」
これは皆で決めた事です。正直グルメ界の食材を食べてみたいと思いますがそれでも私は皆と一緒に食べたいんです。
「ふふっ、ならいつかグルメ界の食材を調理できるようにこの後の修行も頑張らないとね」
「はい、引き続きよろしくお願いいたします!」
姉さまにそう言われた私は強く頷いてにんにく鳥の親子丼にがっつきました。
―――――――――
――――――
―――
side:イッセー
小猫ちゃんが修行に向かってから数日が過ぎた。俺達はルキの工房で彼女の仕事を手伝ったり素材を捕獲しに向かう日々を過ごしていた。
「えっ、ワーナーシャークを捕獲したい?」
「ああ、協力してくれないか」
そんなある日の朝、ルキからワーナーシャークを捕獲したいから協力してくれと相談を受けた。
「ルキ、悪いがお前じゃワーナーシャークを捕獲するのは無理だ。もしかして前に言ったことを気にしてたか?流石に失礼だったよ、ごめん」
「いや別にそう言う訳じゃないんだ。ただオレの実力がどこまで通用するのか試してみたいんだ」
「でもなぁ……」
ルキがワーナーシャークを捕獲するのは無理だろう、だが今のルキには何を言っても駄目みたいだ。
「言っても聞かないな、こりゃ……分かった、力を貸すよ」
「本当か!ありがとう、イッセー」
俺も親父や節乃お婆ちゃん、IGOの皆……色んな人に無茶してきてもらったからな。俺だけイヤイヤ言うのも筋が通らないだろう。
「ただヤバイと判断したら俺が倒す、それでいいか?」
「ああ、その判断はイッセーに任せるよ」
「分かった、それじゃ行こうか」
俺はルキと共にテリーに乗ってワーナーシャークが生息する海域に向かった。メルクマウンテンからそこまで離れていないからラッキーだな。
「この子凄いな、まだ子供なのにオレ達二人を乗せてこんなに早く移動できるなんて!」
「さっき渡した指輪のお蔭だ、あれは体重を軽くする効果があるからな」
「へえ、下界にはこんなアイテムがあるんだな。知らなかったよ」
俺はルキにさっき渡したルフェイが作った対銃を軽くする指輪の説明をする。今はコレがないと俺を乗せたりできないがテリーもいつかもっとでっかくなって皆を乗せてくれるかもしれないな。
「この辺だな。あのあたりの海域では船が沈没する事件が多発している。まるで船の底が鋭利な刃物で切られたみたいに傷がついていたそうだ」
「ワーナーシャークにやられた特徴だね」
「水中戦になるからな、これを付けておけ」
俺はルキに水中でも息が出来るようになる指輪と祐斗から貰った小型の魔剣を取り出した。
「これは?」
「その指輪は付けていれば水中でも息が出来るようになる、剣の方は持っているだけで水中でも地上のように自由自在に動けるようになるんだ。腰にでもさしておけ」
「いろいろとありがとう。でもイッセーは付けないのか?」
「俺は修行も兼ねているからな。さあ行こうぜ」
テリーを近くの岩場に置いて俺達は海の中に潜った。因みにここに来る前にルフェイに水中でも会話が出来る魔法をかけてもらったので水の中でも会話が出来るぞ。
「ワーナーシャークはどこだろう?」
「コイツを使っておびき出す」
俺は懐から動物の血の入った瓶を取り出した。
「鮫は血の匂いに敏感だからな、これで直に来るはずだ」
俺は蓋を外して血を水中に流した。すると向こうから何かが凄い速度でこちらに向かって来ているのを感じ取った。
「フォークシールド!」
俺が防御するとそこに金属が擦れるような音が水中に鳴った。シールドには何か鋭い刃物で引っかいたような傷が出来ていた。
「御出でなすったぜ!」
普通のサメの倍はある体格に口の中にびっしりと敷き詰められた鋭利な歯……間違いねぇ、こいつがワーナーシャークだ。
「素材としては何度も見た事があるけど、生きた姿を見たのは初めてだ……!」
「油断するなよ、ルキ!」
「ああ、もしもの時は頼んだぞ!」
ルキはそう言うと包丁を取り出してワーナーシャークに向かっていった。
「ウロコ切り!」
ルキはウロコ切りでワーナーシャークを攻撃するが血すら出ていなかった。硬いな。
ワーナーシャークは凄い速さでルキを食おうと口を開けて襲い掛かった。ルキは素早く動いて攻撃を回避して再び切りつけたがやはり効果はない。
「ルキも鍛えているだけあって身のこなしは良いな、ただこのままだと決定打が無い」
ルキの攻撃は効かずにワーナーシャークの攻撃を避ける……そんな攻防が続いていたがこのままではまずいな……
「はぁ……はぁ……」
ルキは激しく動いているからか息が切れ始めていた。それに対してワーナーシャークは多少疲れを見せていたがまだまだ元気に動き回れそうだ。
ワーナーシャークは水中深くに潜るとそのあたりをグルグルと回転し始めた。
「なんだ……うわっ!?」
するとワーナーシャークの起こした回転が渦となってルキを閉じ込めてしまった。
「渦の中に閉じ込めて動きを封じる気か?そんなことしたって出てしまえば……」
「ルキ!触ったら駄目だ!」
ルキは水中を自在に動き回れる魔剣を持っているので渦の流れにも影響されない、だからそのまま渦から出ようとしたのだろうが俺はソレを止めた。
「渦の中をよく見て見ろ」
「えっ……これはワーナーシャークの歯!?」
そう。渦の中にはワーナーシャークの折れた歯が大量に含まれていたんだ。あのまま渦に突っ込んでいたら全身をズタズタにされていたぞ。
ワーナーシャークの歯は一瞬で生え変わる、渦を作ってる間に自分で歯を折ってトラップを仕込んでいたのか。賢い奴だ。
「くそっ、これじゃ出られない!」
「ルキ、油断するな!」
「えっ?そういえばワーナーシャークは何処に……」
「上だ!」
ワーナーシャークは渦の中心に上から飛び込んでる気に襲い掛かろうとしていた。恐らくああやって歯の含まれた渦で動きを制限して上から一気に襲い掛かるのがワーナーシャークの狩りの仕方なんだろう。
(ここまでだな……)
ルキではこの状況を打開できないと思った俺はフォークシールドで体を囲って渦の中に飛び込んだ。
「うおおっ!」
そのままワーナーシャークに体当たりをする、大したダメージにはならなかったが奴の意識をこちらに移すことには成功したな。
「イッセー!」
「ルキ、悪いが交代だ。もう限界だろう?」
「……っ」
ルキは悔しそうに顔を歪めたが素直に下がってくれた。彼女も自分の限界に気が付いていたのだろう、悔しいのは分かるがここは飲んでもらうしかない。
ワーナーシャークは俺を警戒して渦から出て様子を伺っている、直ぐに突っ込んでこない辺り賢いな。
「だが悠長なことはさせねえぞ、まずは邪魔な渦から消してやる!」
俺は両手をナイフの構えにして体を大きくねじった、そして渦と逆の向きに回転を加えた一撃を放つ。
「ミキサーナイフ!」
俺の放った回転を加えたナイフは奴のばら撒いた歯ごと渦を吹っ飛ばした。
ワーナーシャークは渦による拘束が効かないと判断すると高速で泳いで襲い掛かってきた。俺は回避しようとするが奴の狙いがルキだと気が付き彼女の前に出る。
「ナイフ!」
俺のナイフと奴の歯がぶつかり大きな衝撃が走る。俺の腕と奴の胴体に切傷が出来るが俺の方が大きいダメージを受けた。
「やろう、歯を盾にして俺の攻撃を抑えやがった。しかもその折れた歯を俺に刺していくという無駄の無さ……強いな」
奴の歯は直に生え変わる、それを利用して俺の攻撃を歯で受けて攻撃を軽減させたんだ。折れても支障は無いからな。
しかも折れた歯が俺に刺さるようにしやがった、猛獣ながらやるな。
(避けた方がいいんだが奴は俺がルキをカバーすることを分かってる、だから受けざるを得ない)
避ければいいだけなのだがルキを狙ってくるので俺が受けざるを得ない。さてどうするか……
「はっ!真っ向勝負と行こうかぁ!!」
なに、難しく考える必要はない。圧倒的な攻撃で奴の攻撃ごと叩き潰せばいいだけだ。
ワーナーシャークは再び俺達に向かって突っ込んできた。俺は両手を合わせて体を垂直に伸ばす、そして回転しながら奴に突っ込んでいった。
「ミキサーフォーク!」
そのまま奴の口の中に突っ込んで歯ごとワーナーシャークを貫いた。俺の体もあちこちに切傷が出来てしまったがこのくらいはなんてことないさ。
「よっしゃあ、ワーナーシャーク捕獲完了だ!」
俺はワーナーシャークの死体を回収してルキと共に海面に向かった。そして岩場にいたテリーと合流して近くの浜場に向かった。
「うーん、不味いな……肉はゴムみたいに硬いしアンモニア臭も強い。フカヒレは小猫ちゃんに料理してもらうか」
俺はダメージを回復するためにワーナーシャークの肉を食ってるがお世辞にも美味くはない。
不味い不味いなんて言って食べたら食材に失礼だって?しょうがねぇだろう、不味いんだから。
俺は命を奪ったのなら出来る限り食う主義だが不味い物は不味いって言うからな、寧ろ素直な感想を言わない方が失礼だと思ってる。
「……イッセーはどうやってそんなに強くなったんだ?」
「ん?俺が強くなったのは過酷な修行をしたからだな、それとグルメ細胞を持ってるからだ。ルキはグルメ細胞を持ってないのか?」
「ああ、オレは持っていない。最初はそれを使おうかと思ったんだけどリスクが大きいって聞いたから止めたんだ」
「まあ確かにリスクは大きいな、最悪死ぬし」
「死ぬのも怖いけどどちらかと言うと体に異常が起きてしまう方が怖いな。この手がもし違う形になってしまったら今までみたいな仕事をできなくなるかもしれないから」
「ああ、確かに職人にとってはそっちの方が怖いか。100%適合できないと化け物みたいな見た目になっちまうからな」
ルキにどうやって強くなったのか来れたので俺は理由を答えた。その中でグルメ細胞の話になったがルキはやはり持っていなかったようだ。
ルキもグルメ細胞を体に入れるか迷ったみたいだがリスクを考えて止めたようだ。俺は死ぬ可能性もあると言ったが、彼女はどちらかと言うと100%適合できずに体に異常が起こることを恐れているみたいだ。
職人にとって手は命だからな、もし手に異常が出たら大変だ。
「なあルキ、どうしてお前はそんなに強さに拘るんだ?お前は研ぎ師として一流の腕を持ってるじゃないか」
「オレは師匠と比べたら……」
「そりゃメルクさんと比べたら下かも知れないけど素人の俺からすりゃどっちも雲の上の存在だよ」
「ありがとう。でもオレは師匠みたいになりたいんだ」
「メルクさんに?」
俺はルキに何故強さを求めるのか聞いてみることにした。どうも彼女はやたらと強さに拘っている傾向があるように思えたんだ。
研ぎ師としては超一流の腕前を持つルキに正直強さはいらないと思うんだけど……
するとルキはメルクさんみたいになりたいと語り始めた。
「オレはずっと師匠に憧れてきた、だからこそ師匠のような職人になりたいと思ったんだ。その為に必要なのは技術だけでなく強さもいる、だって師匠は自分で素材の捕獲もしてくるから。それが出来なければ師匠のような職人にはなれないだろう?」
「だから今回ワーナーシャークの捕獲を俺じゃなくて自分でしたいと言ったのか」
「ああ、イッセーのサポート有りならオレでもイけるんじゃないかって思ったんだ。結果は己惚れもいい所だったけどな……」
自身の強さを試したいからワーナーシャークの捕獲を自分でしようとしたのか。
「でもどうして急にそんな事を?前は自分じゃ捕獲できないって理解していたじゃないか」
「……オレは小猫ちゃん達の強さが羨ましいんだ」
「えっ?」
「オレが弱いのはオレが女だからだと思っていた。でも違ったんだ、強さに男女なんて関係ない。オレは自分が弱いのを性別のせいにしていた。だから……」
「なるほどな……」
ルキが今回俺にこんな依頼をしたのは小猫ちゃん達の強さを見て焦ったからか。
今までは『女』だからと強くなれないと思っていたのに女の子でも自分より強い娘達を見て焦ってしまったんだろう。
だって自分が弱いと思っていた理由を根本から否定されたようなものだからな、そりゃ焦りもするか。
俺だって初めてココ兄達と会った時彼らの強さや能力を見て焦ってしまった、その結果死にかけたんだ。
「オレは怖いんだ、前は師匠の後を継いでくれる人が現れるのを待っているなんて言ったけど本当は唯の強がりさ。もし本当にそんな人が現れて師匠がオレを見捨てたら……そう思うと怖くて仕方ないんだ」
「ルキ……」
「できればオレが師匠の後を継ぎたいって思ってるんだ。でもオレは弱いから師匠の後を継ぐ事なんて出来ない……」
ルキはメルクさんに見捨てられないか心配でたまらないんだろうな。実際にメルクさんがそんな事をする人かと言われたらあり得ないと俺は言えるがルキはそれを知らない。
それに俺も彼女の気持ちは分かる、俺が焦ったのも親父に必要とされたかったからだ。だから俺も親父のような強さが欲しかった。
でも修行を続けていくうちに分かってしまったんだ、俺では親父にはなれないと……仮に親父の生きた軌跡を俺が辿ってもあの強さは得られないと分かってしまった。
俺はもうこれ以上強くなれないんじゃないかと密かに思っていた。そんな俺の不安をぬぐい去ってくれたのは小猫ちゃんや皆だった。
俺がスカイプラントの積乱雲で諦めかけた時、俺より弱い皆は決して諦めなかった。そんな姿に俺は勇気を貰えた。
今なら言える。俺は親父になれなくてもいい、俺は俺らしく強くなって皆と一緒に親父を超えてやるってな。
だからこそルキにも自分の道を選んでほしい、メルクさんに拘らず自分なりに研ぎ師として成長していってほしいと思っている。
だがルキは俺と違ってここまでずっと一人でやってきた。今更言葉で自信を付けさせるには遅すぎる。
(やはり鍵は小猫ちゃんだな、後は彼女に任せるしかない……)
ルキに自信を付けさせるには自分の技術が世界に通用していると見せつけるしかない、そしてそれが出来るのは『包丁』を扱う『料理人』だけだ。
(俺じゃメルク包丁は使えない、頼んだぜ小猫ちゃん!)
俺は心の中でそう思っていると携帯が鳴り始めた。
「はい、もしもし」
『あっ、イッセー。わたくしよ』
「朱乃か、どうしたんだ?」
電話をかけてきたのは朱乃だった。
『実は今工房にお客様が来ているの。しかもあの『ユダ』さんが……』
「ユ、ユダ!?あのグルメタワー最上階にある十星レストラン『膳王』のオーナーでランキング5位のユダさんが!?」
朱乃の話を聞いて俺はつい叫んでしまった。でもしょうがねえじゃねえか、あの『1ミリのユダ』が来ているなんて聞いたら誰だって叫んじまうって!
「ルキ、どうも工房にユダさんが来ているらしいんだがそういう予定があったのか?」
「膳王ユダ!?いや、そんな予定はなかったはずだが……」
「じゃあ俺達と同じか?とにかく急いで戻るぞ」
「あ、ああ……」
俺は朱乃との通話を終えてルキに確認を取るが彼女は覚えが無いらしい。とにかく一度戻らないとな。
俺達はフロルの風を使ってメルクさんの工房に戻った。
工房に着いた俺達は急いで中に入るとそこには髪と髭が非常に長い背の高い男性が立っていた。
「ん?イッセーか、久しぶりじゃな」
「うわ、本当にユダさんだ!お久しぶりです!」
そこにいたのは間違いなくユダさんだった。
「お主も来ていたのか。まさかここで再会するとは思ってもいなかったよ」
「俺もですよ。ユダさん忙しいのに大丈夫なんですか?」
「ふふっ、優秀なスタッフがいるから数日なら大丈夫じゃよ」
「ははっ、なるほど……それにユダさんならここからグルメタウンに戻るのも数分で行けるでしょうしね」
「いやいや、それは買いかぶり過ぎだ。ワシも年だからそんなに早くは動けんよ」
「またまた、もう100年以上は生きていて俺より早いんですよ?謙虚にもほどがありますって」
「謙虚ではないよ、どんな時でも冷静に物事を見る……それが1ミリのミスをしないコツじゃ」
俺は久しぶりにお会いしたユダさんに敬語で話す。
彼はランキング5位なだけでなく四年に一度行われる『クッキングフェス』で2回優勝した経験があるスーパーコックだ。実力も俺以上ある尊敬する人物だ。
「イッセー、お前ユダさんと知り合いだったのか?」
「ああ、過去にお会いしたことがあるんだ」
隣にいたルキが驚いた様子でそう聞いてきた。俺は四天王の中でも交友関係が広いからユダさんとも知り合いなんだ。まあ滅多に会えないけど……
「おや、お主は?メルク殿ではなさそうじゃが……」
「は、初めまして!オレはルキと言います!研ぎ師メルクの弟子です!」
「ほう、メルク殿に弟子がいたのか。なるほど、良い腕を持っているのぅ」
「あ、ありがとうございます!」
ユダさんに話しかけられたルキは緊張した様子で彼に挨拶をした。まあユダさんほどの人が来れば誰だってああなってしまうよな。
「イッセーと一緒にいるということはそちらのお嬢さんや少年たちは『超新星』のメンバーか?才能のある若い芽がこんなにもいるとは……お主は良い仲間を持ったな」
「わわっ、僕達ユダさんに褒められちゃったよ……!」
「こ、こんな名誉なことはありませんわ!」
ユダさんが俺の仲間を褒めると祐斗や朱乃さんが嬉しそうにしていた。なにせちょっと調べただけでも超有名人だって分かるような人に褒められたらそりゃ嬉しいだろう。
(ルキもこれくらい素直ならな……)
皆の様子を見てルキもこれで自信を付けてくれたらよかったが、流石にそうは上手くいかなかった。
「なあ、俺は新入りだから分かりにくいんだけどあの爺さん、そんなにすげぇ人物なのか?めっちゃ強いってことは分かるんだけどよ」
「そうね、悪魔でいうならレーティングゲームのトップクラスみたいなものかしら?実力はそれ以上だと思うけど」
「なるほどな、そりゃすげえ奴だって分かるな」
この世界に来て日が浅いアザゼル先生がリアスさんにユダさんの凄さを聞いて驚いていた。実際はもっと凄い人なんだけどそれは自分で調べてもらった方が良いだろう。
「髪の白い少女はいないのか?節乃様にも認められた才能を持つ少女を見て見たかったのだが……」
「小猫ちゃんの事ですか?生憎彼女は今節乃さんの元に修行しに行ってまして……」
「そうか、なら次に会えるのを楽しみにしておこう」
すっげぇ、小猫ちゃんユダさんにも注目されてるじゃないか!?コンビとしてマジで誇らしいぜ!
「あの、もし良かったらサイン貰えないでしょうか。小猫ちゃんが貴方のファンでして……」
「いいよ、1ミリのズレのないサインを書いてあげよう」
俺は小猫ちゃんの為にユダさんにサインをお願いすると彼は快く受けてくれた。小猫ちゃん絶対に喜ぶぜ。
ついでに黒歌の分も書いてもらった。もしかしたら黒歌も小猫ちゃんみたいにトップランクの料理人たちのファンかもしれないと思って念のためだ。
まあユダさんのサインが嬉しくない奴なんてG×Gにはいないと思うけどな。
そして他のメンバーたちも彼にサインをお願いしていた。俺達の世界でいうとマ〇ケル・〇ャク〇ンに会ったようなもんだからな。
「所でどうしてユダさんがメルクさんの工房に?もしかしてお知り合いなんですか?」
「いや彼とは会ったことはないよ。ワシが今日ここを訪ねたのはコレを見てもらいたくてな」
俺はユダさんにどうしてメルクマウンテンまで来たのか聞くと彼は懐から大きな剣を取り出した。
「うわぁっ!『万能薬刀』だぁ!生の万能薬刀をこの目で見られるなんてすっげぇ運が良いぞ!」
「あれ包丁なのか!?剣にしか見えねえぞ!?」
俺は生で見る万能薬刀を見て柄にもなく声を荒げてしまった。小猫ちゃんがいたら死んでいたな……
アザゼル先生は包丁とは思えないほど大きく美しい装飾がされた万能薬刀を見て驚いていた。
あれを振るうだけで物体を粉みじんにまで切れるっていうんだからすげぇよな、実際に見て見たいぜ。
「その包丁は以前オ……師匠が研いだモノじゃ……ああっ!?」
ルキは万能薬刀をジッと見ていたが急に大きな声を出した。
「か、欠けている……ここに1ミリの欠けが……!?」
「えっ?」
俺には分からないがどうやら万能薬刀に1ミリの欠けがあるらしい。
「今までメルク殿は一度もミスをしなかった、しかし今回このようなミスがあったのでもしかして彼に何かあったのではないかと思いこうして訪ねたのだ」
「なるほど、だからユダさん自身がメルクさんに会いに……ルキ?」
「う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺はユダさんがここに来た理由を知って納得する。すると包丁をジッと見ていたルキが急に頭を抱えて叫び出した。
「そ、そんな……オレは師匠の名に泥を……あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ル、ルキ!落ち着け!」
「死んで詫びないと!オレは……オレはぁぁぁぁぁぁっ!!」
ルキはそう言って壁にかけてあった包丁を取って自身の胸に刺そうとした。俺は直にそれを取り上げて彼女を気絶させた。
「ルキ、お前……」
俺は涙を流しながら気を失った彼女を抱きかかえて、俺が想像していた以上にルキの闇の深さを思い知ったのだった。
後書き
リアスよ。まさかルキがあんなに錯乱するだなんて……私達が思っていた以上に彼女は追い詰められていたのかもしれないわね。
そんな中ユダさんが自身の過去をルキに話し始めた。あの絶対に1ミリもミスをしないって事で有名なユダさんに失敗があった?一体どんな失敗なのかしら?
次回第107話『失敗を恐れるな!膳王が語る天才の失敗!』で会いましょうね。
次回も美味しくいただきます、ねっ♪
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