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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第105話 小猫の修行!メルク包丁を使いこなせ!

 
前書き
 原作に出てきたメルクの堀った温泉ですが、この作品ではアレより大きめに作られているのでお願いします。 

 
side:ルキ


 職人の朝は早い、オレは5時ころに起きて炉に火を付けたり食事の準備をしはじめた。今日はお客さんもいるからいつもより多めに作っておかないとな。


「ふわぁ……おはようございます……」
「おはよう、小猫ちゃん」


 二階から女性たちが下りてきてオレに挨拶をしてくれた。そういえばこうやって人に挨拶を返してもらったのは久しぶりだな。


「あれ?朝食の準備がされていますね。もしかしてルキさんが作ってくださったのですか?」
「うん、そうだよ。小猫ちゃんが昨日作ってくれたモノと比べたらお粗末なものだけど……」
「そんなことありませんよ!メルクさんの料理、楽しみです♪」


 小猫ちゃんはそう言って表情をコロコロと変えていく。可愛いなぁ、なんだか妹が出来たような気持になってくるよ。


 小猫ちゃん達は外にあるテントの中で眠る男性たちを起こしに向かった。この工房は小さいから流石にあの人数が寝るのは無理だったんだ、だから男性たちは外でテントを使ってもらった。


 ただギャスパー君が男の子だったのには驚いたな……オレとは逆のパターンだ。


 その後イッセー達も来て皆で朝食を頂いた。


「美味しい!このスープ、素材の味がしっかりと染み込んでいます!ルキさんって料理も上手なんですね!」
「研ぎ師だけじゃなくて料理人にもなれるんじゃないのか?」
「ははっ、昔は師匠に美味しい物を食べてもらいたくて料理の勉強をしていたんだ。研ぎ師の勉強を始めてからはからっきしだったけど気にいって貰えたのなら良かったよ」


 小猫ちゃんとイッセーがオレの作った料理を褒めてくれた。師匠は何も言わなかったけど残したりしていなかったから少なくとも不満はなかったと思う。


(師匠が戻ってきたらまた……いやそれは無理だろうな)


 イッセー達の話を聞いて師匠は行方不明になったのではなく自身の仕事をしていた事を知った。オレは師匠の許可なく勝手に包丁を研いでお金を貰っている、これは立派な詐欺だろう。


 そのことを師匠が知ればオレを許さないだろう、間違いなく破門だな。


「……」


 オレは取り合えず受けた依頼の仕事をこなすことにした。仕事は仕事だからな。


 昨日と同じようにイッセーに高レベルの素材の捕獲をお願いしてオレは依頼されていた包丁作りに入った。


「ふわぁ……!綺麗な刀身です!」
「見事な腕だ、俺もあんな腕があればもっといい人工神器を作れそうなんだがなぁ……」


 ルフェイさんとアザゼルさんがオレの鍛冶の様子を感心した目で見ていた。聞けば二人も何かしらの道具を作っているらしくオレの腕前を羨ましがっていた。


 オレなんて師匠に比べたら未熟もいい所なのにな、二人にはぜひ師匠の鍛冶を見てもらいたいものだ。オレのを見るよりよっぽど勉強になる。


「ルキさんは包丁を研ぐ以外にもこうやって作っているんですね。これを毎日やってるんですよね?」
「ああ、オレにとっては慣れたものだけどな」


 アーシアさんがいつもこんな事をしているのかと聞いてきたのでそうだよと答える。

 
「でもこんな毎日忙しそうでちゃんと休めているの?無理をしたら駄目よ」
「ありがとう、リアスさん。でも大丈夫だよ、オレも休憩はとってるから。寧ろ無理をしてミスする方が問題だからね」


 リアスさんが身体の心配をしてくれた、優しい人だな。


 オレは彼女にちゃんと休憩はとっていると答える。休むときに休まないのは愚か者のする事だって師匠から教わったんだ。もっとも言われたわけでなく師匠も休むときは休んでいるのを見ていたから覚えたんだ。


 もっとも師匠はオレより多くの仕事をこなしていたからオレなんてまだまだだけど。


「仕事を効率よくこなす人ってきちんと休憩も考えて取るって話を聞いたことがあるけどやっぱりルキさんもそういった人達みたいに計算して仕事をしているんだね」
「こんなの慣れだよ、師匠ならオレより仕事も早いしもっと効率よくやるけどね」
「……あはは、ストイックだね」


 祐斗君はオレに計算して仕事が出来るなんて凄いと言った。それにたいしてオレは師匠の方が効率が良いと返すと彼は苦笑してしまった。


 なにか失礼な事を言ってしまったのだろうか?


 オレは彼にその疑問を聞いてみたが祐斗君は大丈夫だと答えた。


 人と話すのは久しぶりだからオレも気を付けないとな……


「さて、こんなものかな……」


 焼き入れの作業を終えたオレは刃の確認をする。うん、いい出来だ。


「わぁ……刀身が輝いてますねぇ!」
「包丁はこの焼き入れの作業がとても大事なんだ」
「こんな綺麗で素晴らしい包丁を作れるなんてルキさんはやっぱり凄いですよ!」
「そうかな、でもありがとう」


 小猫ちゃんは興味深そうにオレの仕事を見ていた。そうだ、良いことを思いついた。


「小猫ちゃん、もしよかったら包丁の研ぎ方を教えようか?」
「えっ、いいんですか?忙しいのでは……」
「大丈夫だよ。オレも休憩しようと思っていたし正しい研ぎ方を知っておけば包丁をもっと長持ちさせられるからね」
「ありがとうございます!ルキさんの技術を学ばせてもらいますね!」


 オレは小猫ちゃんに包丁の研ぎ方を教えることにした。あんなにも同じ包丁を長く愛情をもって手入れをしておいた彼女にはぜひ正しい研ぎ方を学んでほしいと思ったからだ。


「それじゃそっちにある失敗した包丁を使って」
「コレですか?失敗作には見えないですけど……」
「見た目は綺麗でも刃が粗んでしまってるからね。素材によっては非常にデリケートに扱わないといけないものも多いんだ、イッセーが素材を持ってきてくれて助かるよ」


 オレは作る中で失敗してしまった包丁を小猫ちゃんに渡した。


「小猫ちゃんは砥石には種類がある事は知ってるかな?」
「えっと……確か『荒砥』と『中砥』、『仕上砥』ですよね」
「うん、流石だね。でもオレが研ぐ際に使ってるのはこの『グラデ砥石』なんだ」


 オレは小猫ちゃんに包丁を研ぐ際に使うと石の種類を聞くと彼女はしっかりと答えた。流石大事に包丁を扱ってるだけあって手入れも気を付けているんだね。


「グラデ砥石?初めて見ました」
「この砥石は一つの石でキメの荒い「荒砥」からキメの細かい「仕上砥」までの全ての役割をこなすことが出来るんだ。正に研ぎ師にとって重要な石だね」


 オレはグラデ砥石の説明を皆にした。コレ一つで時間が大きく短縮できるからオレにとっては基本の道具だね。小猫ちゃんにもぜひ使いこなしてほしい物だ。


「へぇ……凄く便利ですね。そんな石が天然にあったなんて思いもしませんでした」
「まあこのグラデ砥石を発見したのは師匠なんだけどね、オレはその恩恵を受けてるだけさ」
「で、でも!それでもグラデ砥石を使いこなせているのはルキさんの実力ですよ!どんなに道具が優秀でも使う人の腕が足りていなければ意味は無いですから!」
「いやぁ、オレなんてまだまださ。師匠ならもっと早く正確に作業をするよ」


 そもそもオレでは高レベルの素材の確保は出来ない。その時点でオレが半人前なのは確定している。


「そんなことより研ぎ方を教えるよ。まずは……」


 オレは小猫ちゃんに包丁の研ぎ方を教えた。彼女は最初の数十回は失敗してしまったけどその後は中々に筋の良い研ぎ方になってきていた。


 やはり普段から包丁を大事に手入れしているから感覚を掴むのが早いんだな。


「どうでしょうか?」
「うん、筋が良くなってきたね。この調子なら数日もあればオレみたいな研ぎ方が出来るようになるよ」
「本当ですか!ルキさんにそう言って貰えるなんて嬉しいです!……因みにルキさんはコレを覚えるのに何日かかったのですか?」
「オレは一回やったらできたよ」
「あ、あはは……流石ルキさん、規格外ですね……でもますます尊敬しちゃいます!」


 小猫ちゃんは目を輝かせてそう言った。


 しかし小猫ちゃんも含めて皆やたらとオレを褒めてくれるな、もしかして他の人はコレが出来ないのか?


 でも己惚れてはいけない、オレの目指すのは師匠のような職人だ。こんなものじゃまだまだだ。


 小猫ちゃん以外の人たちもやってみたいと言ってきたので彼らにも包丁を貸した。


 リアスさんと朱乃さんは苦戦していたけどアザゼルさんとルフェイさんは中々様になっていた。


 次いで祐斗君も良い研ぎ方をしていた。オレが彼の剣を研いだ時も包丁じゃないのに強い想いを感じ取ったのできっと彼はあの剣を心から大事にしているのだろうと思ったよ。


 ギャスパー君は怖くて触れられなかったようでティナさんは……まあ頑張ってとしか言えなかった。


 ただ一番酷かったのが……


「あぁ~!折れちゃった!」
「ぐっ、砥石の方が切れてしまったぞ!脆すぎないか!?」
「貴方達は研ぎ師の才能はなさそうですね」
「二人とも包丁を折り過ぎですよ!ルキさんが許していたから我慢していたけどもう限界です!包丁に触らないでください!」


 イリナさんとゼノヴィアさんは二人合わせてもう10本ほど包丁を折っていた。酷い時には砥石まで斬ってしまってるし……失敗作とはいえあんなに折られるのを見てると流石に心に来るな……


 そんな二人を見てルフェイさんが溜息を吐いて小猫ちゃんが怒ってしまった。


「あはは、グラデ砥石の補充に行かないとな」
「それなら私達も同行させてくれ。流石にこのままでは只の役立たずだからな」
「汚名を返上するわよ!」


 グラデ砥石が無くなりそうだったので確保しに行こうとするとゼノヴィアさんやイリナさんも協力すると言ってきた。危険な場所にあるけどまあ問題は無いだろう。


 他のメンバーも付いてくると言ったのでオレは大人数でグラデ砥石が取れる渓谷に向かった。そこに鉱山があるんだ。


「はぁっ!」
「やあっ!」


 道中ロックウルフやファーニップに襲われたがイリナさんとゼノヴィアさんが対処していた。


 ゼノヴィアさんは峰打ちでロックウルフを殴り飛ばしてイリナさんは黒色の靴を履くとまるで鳥のように宙を舞い風を起こしてファーニップを吹き飛ばしていく。


 そしてアーシアさんが不思議な光で猛獣を回復していくという謎の行動をとっていた。


 何故そんな事をするのかと聞くとアーシアさんは食べないときは出来るだけ猛獣の命は奪いたくないと答えた。これは彼女達の信念のようなものだとオレは思った。


 だが同時に彼女達の強さを羨ましく思った。


 オレはある理由があって強さを求めていた、でもどんなに鍛えてもある程度までしか強くなれなかった。


 捕獲レベル22のスケイルコングを追い返した時もアレは奴がイッセー達に意識を向けていたからうまくいっただけでオレ一人で真正面から挑んだらもっと苦戦していただろう。


 だからオレはいつも猛獣達に見つからないように行動してグラデ砥石を持って帰っていた。でも今日は小猫ちゃん達が一緒だったのでいつも以上に多くのグラデ砥石を持って帰ることが出来た。


「ただいまー、今日はクリスタルパンサーの牙と悪魔熊の爪を取ってきたぞ」


 そこに丁度イッセーとテリーが帰ってきた。彼は捕獲レベル46のクリスタルパンサーと捕獲レベル43の悪魔熊の爪を持ってきてくれた。これで注文されていた包丁が作れるぞ。


「ありがとう、イッセー。これで包丁が作れるよ」
「いいさ、このくらい。それに俺も良い思いが出来たしな。ストライクカマキリは不味かったけどクリスタルパンサーと悪魔熊は美味いからな。小猫ちゃんの料理に期待だぜ!」


 イッセーはそう言うと涎を垂らしていた。本当に食いしん坊なんだな。


 その後夕食にクリスタルパンサーのローストと悪魔熊の手を煮込んだシチューが出てきたので皆で美味しくいただいた。


 クリスタルパンサーのローストは肉汁が溢れるジューシィな味わいだった。悪魔熊の手にはエサである『金色蜂』の蜂蜜がしみ込んでいたから柔らかくて美味しかったよ。


 その後オレは他の女性メンバーと一緒に昔師匠が掘り起こしたという温泉に入っていた。


「まさかこんな人里離れた険しい山で温泉を楽しめるなんて思ってもいなかったわ~♪」
「うふふ、リアスったらご機嫌ね」
「そりゃそうよ。あんな危ない場所に行ったんだから体の疲れも相当溜まっていたわ。だからこの温泉が体の芯まで染み渡るのよ~」
「あらあら、リアスったら蕩けてしまっていますわね」


 リアスさんと朱乃さんが温泉を堪能しているがその大きな胸が湯に浮かび上がるのを見てオレは驚いた。あんなに大きくて動きにくくないのか?


「あ~あ、イッセー君と一緒に入りたかったなア~」
「流石に無理だろう。ルキ殿もいるんだぞ」
「そりゃそうだけどさぁ……」


 イリナさんはイッセーと一緒に温泉に入りたいと言っていたがゼノヴィアさんが無理だろうと答えた。もしかしてイッセーとイリナさんは付き合ってるのか?


「私もイッセーさんのお背中を流してあげたかったです」
「なら今度のイッセー君とのデートは温泉巡りにしよっか。私とアーシア、ついでにゼノヴィアも一緒に行こうよ」
「わぁ、それいいですね!」
「な、なぜ私まで……」
「そろそろ素直になったら?ゼノヴィアだってイッセー君の事……」
「うわ―――っ!!言うなぁ!!」


 取っ組み合いになるイリナさんとゼノヴィアさん、それをアーシアさんがオロオロしながら止めていた。


「師匠は人気者ですね。この調子だとゼノヴィアさんもハーレム入りするのも近いんじゃないんですか、小猫ちゃん?」
「そういうルフェイさんはどうなんですか?前から思っていたけどイッセー先輩とかなり距離が近いですよね?」
「ふふん、さあどうでしょうね~」
「もう!胡麻化さないでください!」


 近くにいたルフェイさんと小猫ちゃんがそんな会話をしていた。


「ねえティナさん、もしかしてイッセーって女性メンバー全員と付き合ってるの?」
「私とリアスさんは違うけど他のメンバーは大体そうね。ゼノヴィアさんとルフェイちゃんも怪しいとは思ってるけどね」
「ティナさんは違うのか?」
「うん、あたしは祐斗君と付き合ってるわ」
「そうなんだ……」


 横にいたティナさんにさりげなくイッセーと女性陣の関係を聞くとリアスさんとティナさん、怪しい段階のゼノヴィアさんとルフェイさん以外は付き合ってるらしく、ティナさんも祐斗君と付き合ってるらしい。


「やっぱりルキさんも女の子だから恋の話に興味あるの?」
「別にそう言うのじゃないよ」


 そもそもオレは出来れば男に生まれたかったんだ。恋とかなんて想像もしたことが無いよ。


「もったいないわねぇ、こんなに綺麗な肌をしてるのに」
「ティナさん!?」


 ティナさんが急にオレの肌を触ってきたので大きな声を出してしまった。


「な、なにを……!」
「いいじゃない、女同士なんだから。あんな激務をしてるのにあたしよりも肌綺麗じゃない。なにかいい化粧品でも使ってるの?」
「そ、そういうのは何も……!ひゃんっ!」
「じゃあ天然って事!?あたしなんて手入れを怠ったらすぐに荒れてくるのに……羨ましいわ」
「ちょ、触り過ぎだって……あはは!」


 背中や二の腕を触られてくすぐったい。変な声が出てしまったじゃないか……


「あー!ティナさんがルキさんを襲っています!」
「ずるいわ!私達にも触らせなさい!」
「えっ、うわっ!?」


 そこに小猫ちゃんやリアスさん達も乱入してきてオレは皆に揉みくちゃにされてしまった。は、恥ずかしい……!



―――――――――

――――――

―――


side:小猫


 あれから数日が立ちましたがルキさんは一向に自信を付けてくれません。私は先輩と二人で相談することにしました。


 全員一緒だとルキさんが変に思うかもしれないから二人だけです。皆の意見は既に聞いていますので私達でまとめていきます。


「先輩はどう思いますか?」
「ありゃ筋金入りだな。メルクさんは基準になってるからルキの中での『凄い』のハードルが高すぎる、あれじゃいくら褒めても全く効果が無いぞ」
「そうですね、ルキさんは何かあるとメルクさんと比べて自分を下にしますからね」
「競い合える相手がいなかったのも不運かもな。ルキの話じゃメルクさんに弟子入りをしに来た人達は皆すぐに諦めてしまったと言っていた」
「はい、それで他人と比べる機会が無かったから自分が凄いって事が分からないんでしょうね」


 ルキさんの自己評価の低さはメルクさんの声が小さくて褒められている事に気が付かなかっただけではなく、自分とメルクさん以外の人間の力量を比べる機会もなかったことも原因だと思います。


「一体どうしたらいいんでしょうか?」
「う~ん……」


 私がそう考えていると不意にイッセー先輩のお腹が鳴りました。


「もう先輩ったら……さっきご飯食べたばかりでしょう?」
「ごめんごめん、小猫ちゃんの作った料理が最近更に美味しくなっていたからつい……」
「まったく……私だって貴方ほどお腹は空かなくなってきたんですよ?」


 最近は作る方に意識が向いてきた私はそんな食いしん坊な先輩にため息をつきました。


「悪かったって……そうだ!ルキも小猫ちゃんの料理が好きだって言っていたぞ。最近の楽しみになってるみたいだぜ」
「あっ、誤魔化した」
「いやいや本当だって!ルキも小猫ちゃんの料理のファンになったみたいだな」
「そんな風に煽てても駄目ですよ」
「えっ、顔が滅茶苦茶ニヤケ顔になってるけど……」
「わわっ!見ないでください!」


 うぅ、先輩に恥をかかされちゃいました……でもルキさんが私の料理を褒めてくれるのは嬉しいですね。憧れの人に実際に料理の感想を言って貰えるほど自信が付くことはないです。


 実際に食べてもらう……?ああっ!!


「それです!」
「うおっ!?」


 私は咄嗟に大きな声で叫んでしまいました。でも仕方ないです、何故ならルキさんに自信を付けてもらえるかもしれない方法を思いついたからです!


「ルキさんの作った包丁を使って難しい料理をすれば良いんですよ!それならルキさんだって自分の腕を認められるはずです!」
「確かに自分が作った包丁でしか作れない料理を作っている所を実際に見せれば自信につながるかもしれないな。だってその包丁じゃなければさばけない食材もあるからな」


 メルク包丁を使わなければ斬れない食材もあります、その包丁で料理を作れればルキさんの腕が本物だって証明になるはずです。


「ただ小猫ちゃんはメルク包丁は……」
「はい、使えません……」


 しかし肝心のメルク包丁を私が扱えないんです。メルク包丁の中には資格が必要なものもあって何よりこればかりは才能ではカバーできないです。


「そうなると黒歌に頼るってのも手だな」
「そうですね、姉さまならメルク包丁を扱えると思います。でも……」


 先輩は姉さまに力を貸してもらうかと言いますが、私は首を横に振りました。


「私は……出来れば自分の力でルキさんの力になりたいです!我儘だと分かっていますがそれでも……」
「分かってるよ。俺のコンビが妥協するような子だとは思っていないからな」
「イッセー先輩……!」

 
 私は何も言わずに私の事を理解してくれているイッセー先輩に感謝しました。


「しかしあまり時間はないぞ。数日修業した位じゃメルク包丁は扱えるようにはなれない」
「はい、でも私に考えがあるんです。先輩、私をグルメタウンに連れて行ってくれませんか?」
「グルメタウンに?……分かった、ルフェイを読んでくるよ」


 先輩の言う通り数日修業した位ではメルク包丁を扱えるようにはなれません。でも私には考えがありました。


 その為にまずグルメタウンに行かないといけません。私は先輩とルフェイさんと一緒にグルメタウンの節乃さんのお店にフロルの風でワープしました。


「こんにちは!」
「おお、小猫にイッセー、ルフェイもよう来たのう」
「俺達が来ることを知っていたのか?」
「なにやら食材たちが騒ぎだしたんでな、もしかしたらと思っとったんじゃよ」


 節乃さんのお店は普段は閉まっていますが今日は運よく開いていました。どうやら節乃さんは私達が来ることを見抜いていたようですね。


「それで今日はどうしたんじゃ?暫くはイッセーとの修行に集中するからこっちには来れんと聞いとったが?」
「実は……」


 私はここに来た事情を節乃さんに話しました。


「なるほど、メルク包丁を扱えるようになりたいのじゃな。じゃが小猫、お主の才能であっても数日であれらを使いこなすことはできんぞ」
「はい、ですので節乃さんの力をお借りしたいんです」


 節乃さんは数日ではメルク包丁を扱えるようにはならないと言いました。なので節乃さんのある力を借りようと思ってここに来たんです。


「イッセー先輩、以前祐斗先輩と朱乃先輩がグルメ細胞を移植する手術の際、姉さまがライトニングフェニックスのスープを作ってくれましたが、明らかに煮込む時間が無かったのに凄く美味しいスープを作ったのを覚えていますか?」
「ああ、覚えているよ。そういえばあのスープは驚くほど速くできたのに素材の味がしっかりとにじみ出るくらいに煮込まれていたな」
「はい、もしかしたら節乃さんには何か時間を短縮する技を持っているんじゃないかと思っていたんです」


 私は以前姉さまがライトニングフェニックスのスープを作った際の事を思い出しました。


 仕込みに1週間ほどかかるはずなのに短時間であんな美味しいスープを作れたのは時間を操ることが出来る技を節乃さんが持ってるからなんじゃないかと思ったのです。


「ほう、小猫はよう見とるのう。確かに何とか出来んこともないが……まあええわ。黒歌、ちょっと来なしゃい」
「はーい……って白音にイッセー?どうしたの?」
「黒歌姉さま!」


 厨房の地下にある仕込み場から上に上がってきた姉さまが私達を見て笑みを浮かべました。


「実はな……ということなんじゃ」
「ええっ?まさか節乃さん、アレをするの?」
「そうじゃよ」
「危険よ!前は短時間だったから何とかなったけど、流石に何日も使うのは……!」
「じゃがここまでしないと数日でメルク包丁を扱えるようになれん」
「だからって……いくら白音のためとはいえ……」


 なんでしょうか?小声だからこっちまでは聞こえてこないんですが、二人の様子を見てると唯事には見えませんね。


「どうしたんだ、何か不味いことでもあるのか?」
「あのね、イッセー……」
「なんでもないじょ、イッセー。これは企業秘密じゃからお主らには見せてやれんのじゃ。すまんが今日は小猫だけにしてくれんか?」
「……分かった、節乃お婆ちゃんがそう言うなら俺が知るにはまだ早いことなんだろうな。小猫ちゃん、後の事は君に任せるぜ」
「帰る時になったらいつでも連絡してください、迎えに来ますので」
「分かりました、お二人もルキさんをお願いします」


 私だけと聞いたイッセー先輩とルフェイさんは何かを察したのかそれ以上何も言わずに帰っていきました。


「姉さま、そんなに血相を変えてどうしたんですか?もしかしてその技は危険なんですか?」
「危険なんてものじゃないよ!節乃さんだから何とかなるだけで普通なら死んじゃうのに!」
「えっ……!?」


 姉さまの死ぬという言葉に私は絶句してしまいました。


「節乃さん、どういうことですか!?」
「あたしゃが使おうとしているのは『ワープキッチン』と呼ばれる技でな、時間の流れを遅くする空間を生み出すんじゃ」
「時間の流れを……!?じゃあその中なら……」
「外の時間より遅くなるのじゃから何倍も特訓することが出来る。本来は調理用に使う技なんじゃがこういった使い方もできるんじゃよ」


 私は節乃さんからワープキッチンの説明を受けて凄く驚きました。ギャー君でさえ数秒時を止める事しかできないのに時間の流れをコントロールできるなんて凄すぎです!


「それって私達には出来ないんですか!?」
「無理じゃ。というのも才能があるとかないとかではなくこれを使うにはアカシア様が残したフルコースの肉料理『ニュース』を食べないといけないんじゃ」
「えっ!?じゃあ節乃さんはニュースを……!」
「食べた事がある。じゃから使えるんじゃよ」


 凄い!凄いです!まさかこんな身近にアカシアのフルコースを食べた事のある人に出会えるなんて!


「でもね、ワープキッチンを安定して使うには同じアカシアのフルコースの一つであるデザート『アース』を食べないといけないの。ワープキッチンは莫大なエネルギーを使うから普通なら長くは使えないのよ」
「じゃあ姉さまがそんなに慌ててるのは……」
「節乃さんはアースまでは食べていないの。だから長く使えばいくら節乃さんでも危険なんだよ」
「そうだったんですね。私何も知らないのに節乃さんにそんな無茶をさせてしまう所でした」


 姉さまの説明を聞いて私は節乃さんに無茶をさせてしまうと分かりワープキッチンを使ってもらうのを止めたくなりました。


「何をしとる、小猫。早く修行に入るぞ」
「せ、節乃さん!?」


 しかし当の本人である節乃さんは一切のためらいもなくメルク包丁の修行に入ろうとしていました。


「節乃さん!?なにをやってるんですか!」
「そうだよ!前だって少し使っただけで息を切らしていたでしょ!?いくら貴方でもずっと使っていたら本当に死んじゃうにゃん!」
「うふふっ、確かにあたしゃも少し寿命を削ってしまうかもしれん。じゃがこのおいぼれの命が未来ある若者の助けになれるのならなんの後悔もせんよ」


 私と姉さまは節乃さんを止めようとしましたが節乃さんは全く止まる気がありませんでした。


「あたしゃもかつてはフローゼ様に何度も付けられたもんじゃ。あの方は慈愛に満ちたお方で例え悪人であろうとお腹を空かせた人間には施しをしておった」
「節乃さんはフローゼ様に会ったことがあるんですか?」
「あたしゃの師匠じゃよ。料理のイロハはあの方に習ったんじゃ」


 し、知りませんでした……まさか節乃さんの師匠がフローゼ様だったなんて!でも次郎さんとコンビを組んでいたのなら寧ろ納得かもしれません。


「フローゼ様は最後まで誰かのために尽くす人じゃったよ。その死因も大切な存在の命を救うために衰弱しきった体で無茶な調理をしたからじゃ。あの方の最後は今でも目に焼き付いておる……」


 節乃さんは私の目を見ながら笑みを浮かべました。


「小猫、お主もフローゼ様のように誰かのために必死になれる子じゃとあたしゃは思っておる。そんな小猫の力になれるのならあたしゃ命だって使うぞい」
「節乃さん……」


 私は節乃さんからの言葉を聞いて目から涙を流してしまいました。私なんかをフローゼ様と似ているなんて言って貰えて嬉しいです……!


「黒歌、両親を早くに亡くしたお主があたしゃを止めるのもよう分かる。でも可愛い弟子の為にあたしゃに力を貸してくれんか?」
「……そこまで言われたら断れないよ。うん、分かった!私も二人にとことん付き合うにゃ!」

 
 節乃さんの言葉に姉さまも涙を流しながらも笑みを浮かべて私の修行に付き合ってくれると言いました。お二人には感謝しでもしきれません!


「さあ、ビシバシいくじょ!時間は有効じゃからな!」
「白音、今回は甘さ0でいくよ!泣き言を言ったら許さないからね!」
「はい、宜しくお願いします!」


 こうして私はメルク包丁を使いこなすための修行を開始しました。


 ルキさん待っていてください!私が必ず貴方に自信を付けさせて見せます!

 
 

 
後書き
 イッセーだ。小猫ちゃんの修行がスタートしたな、もう彼女に任せるしかない、頼んだぜ小猫ちゃん!


 そんなある日メルクの攻防にある人物が訪ねてきた……ってまさか貴方は!?


 第106話『ルキの失敗!1ミリのユダ登場!』で会おうな。


 次回も美味しくいただきます! 
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