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イベリス

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第八十九話 遊ぶことその九

「あの人は」
「それがね」
「残念ですね」
「ええ、ただヘビースモーカーでも」 
 それでもとだ、先輩は話した。
「芥川みたいにね」
「凄い人もいますね」
「人間としても悪人じゃなかったみたいだし」
「あまり気の強い人じゃなかったみたいですね」
「自殺してるしね
 先輩も芥川のこのことを話した。
「少なくともタフではね」
「なかったですね」
「そう思うわ」
 こう言うのだった。
「作品読んでも」
「末期なんかおかしいですよね」
「どう見ても狂ってるからね」
 芥川の末期の作品にあるものはというのだ、事実彼の末期の作品にはそれが見られるとの指摘は多い。
「読んで何これっていうね」
「馬の脚とか」
「咲っちあの作品読んだのね」
「中学生の時に」 
 咲は暗い顔で答えた。
「読みましたら」
「凄かったでしょ」
「今風に言うと異世界転生ですが」
「死んでも蘇るからね」
「何でか馬の脚になって」 
 そうなった経緯がこれまた実に奇怪であるのだ。
「死んで足が何かなくなって」
「馬も一緒に死んでてね」
「馬の脚付けられて蘇って」
「それで苦しむのよね」
「あの作品何なんでしょうか」
 咲はボールを投げつついぶかしむ顔で先輩に問うた。
「一体」
「世の中の不条理さ書いたんじゃないの?」
 先輩はボールを受け取りつつ答えた。
「そういうの書く人多いでしょ」
「不条理ですか」
「ええ、ただ不条理っていうか」
「読んだら狂気感じますよね」
「はっきりとね」 
 そこまでというのだ。
「感じるわ」
「そうですよね」
「もう読んで芥川頭おかしいんじゃないかって」
 その時の彼はというのだ。
「これが自殺する人の作品かって」
「私も思いました」
「実際にそうした作品書いてね」
 狂気を感じさせる作品達をだ。
「芥川自殺してるしね」
「そういう作品書いて何年かして」
「歯車とか書いて」 
 まさに自殺する直前の作品だ、芥川の作品の中でも特に狂気の色合いが強い作品の一つである。
「それでね」
「自殺してますね」
「そうなのよね、しかし煙草って脳にも悪いっていうけれど」
「脳細胞殺すんですよね」
「けれど芥川ってね」
「抜群に頭いいですから」
「東大そうして入って」
 無試験でだ。
「物凄い成績で卒業して」
「海軍で英語教えて」
「作家さんとしても名声得てね」
「教養凄かったんですよね」
 咲は彼のこちらのことを話した。
「古典にも通じていて英語読めて漢文も」
「だから最初の頃はね」
「古典からヒント得た作品多いですね」
 鼻や芋粥、羅生門等である。どれも今昔物語に題材がある。 
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