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エターナルトラベラー

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外典 【NARUTO:RE】 その2

三人とも同じタイミングで中忍に上がったから、任務のレベルが上がったが基本的に班替えする事もなく任務に追われる日々。


……



それはある日の修行場にて。

大きな悲しみを経験したイズミの写輪眼はやはり万華鏡へと進化していた。

「それが万華鏡写輪眼?」

イズミの眼をのぞき込んだハナビが珍しいそうにつぶやいた。

「みたいね…アオが教えないって言ったのは…」

「それは自我を喪失する程の愛の喪失を感じた時に写輪眼から変化するものだから」

「ほんと詳しいわね…、小日向家のくせに」

いいだろうと肩を竦めた。

「万華鏡写輪眼は何かしらの固有能力を備えている。イタチは天照と言う炎遁と月読と言う幻術眼だったな」

「わたしのは?」

「それは使って見みなければ分からない。何か切っ掛けが無いと使えないと言う事も有るだろう」

「切っ掛け…?」

「切羽詰まった状況、とかな。ただこればっかりはなぁ、自分で気づくしかないよ。あ、これだって分かるものが自分の能力かな」

「ますます分からないわ」



中忍に上がったアオだが、結局修行に当てる割合の方が任務よりも大きい。

今日も今日とてチャクラコントロールの修行。

アオ達の修行の大部分はこの部分が占めている。

「空、飛びたいな」

アオが突然突拍子もない事を言いだした。

「はぁ?筋斗雲の術じゃだめなの?」

とイズミ。

仙法・筋斗雲の術とは練り上げた仙術チャクラを質量のある雲のようにして吐き出し、それに乗って空を移動する術の事だ。

金剛の術、筋斗雲の術、緊箍児の術の三つがあの仙境で習った仙術である。

「うーん、アオくんなら突拍子もない事をしそう」

むっふっふ、面白い事になりそうと笑うハナビ。

「そう言う訳じゃ無いけど、違うんだよなぁ」

もともと他の能力で飛んでいたのだが、そのことごとくを使えない今の状態では代案が必要だった。

「忍術として作るのもなぁ…念能力として作っても…いや、そもそも能力として作る必要はあるのか?」

半重力、浮力その他もろもろと考えて、原点に回帰した。

「あ……あー…気が付けば単純だった」

両手を地面に着いて落ち込んでいるアオ。

「どうしたの?一人百面相して」

「百面相って一人でするものじゃない?」

そうイズミとハナビ。

「どうやら頭が固くなってた…そもそもチャクラコントロール、チャクラの放出が出来ればチャクラだけで飛べるんじゃないか?」

チャクラコントロールはイヤと言うほど繰り返してきている。

そのチャクラをコントロールして空を舞う。

「え…」

「ええ?」

驚く二人の目の前で空中へとふわりと浮かび上がるアオ。

それはどんどん高度を上げ、雲を突き抜け蒼天へと至る。

そこは蒼天と青に照り返される彩雲だけの世界。

静寂だけがそこにあった。

「この感覚、久しぶりだ」

フワフワとその浮遊を楽しんでいるアオ。

その幻想をぶち壊したのは二人の人の声だった。

「冷たっ…曇って綿菓子じゃ無かったのね…」

「ちょっとハナビ、待ってってば」

ふよふよとまだ慣れない様子で浮遊しているハナビとイズミ。

「…お前たち、どうやって」

「どうやってって、わたし達はアオくんの修行を受けているんだよ。どうやって飛んだか白眼で見てたし」

「なら出来ないハズは無いわ。写輪眼で見た時にチャクラコントロールだけで飛んでるとは分かったからね」

それはもう本当にイヤと言うほど基礎訓練を課した結果だった。

「綺麗ね」

「うん。この世界のすべてが自分の物と錯覚するほどだわ」

「世界などいつも自分の物だろう。それに気が付くのは結構難しいのだけれど」

その感動の時間はしかし長続きしなかった。

「うっ…」

「うーん、まだ修行が足りないかな…」

イズミとハナビがアオの左右の腕に捕まると一気に脱力。

「うぉおおおおいぃっ!!」

両腕に掛かる二人分の体重。

「重いって言ったら…」

「殺します」

まだ慣れていないのか、ここまで浮遊してきたことがすでに奇跡なのか。限界に達し二人とも浮遊制御が解けたのだ。

二人を抱えたままゆっくりと地上へと降りて行く。

「まぁ、飛行訓練もおいおいかな」

「え、一応できてたじゃない」

とハナビ。

「浮遊と飛行は違うのさ」

しかし浮遊だけとはいえ空を浮ける様になったのは戦うにも逃げるにも便利だ。

「この忍術の名前って?」

「そうだなぁ…」

何かが頭の中で閃き…

「舞空術…で良いんじゃないか?」

「空を舞う術、ね」

「いいかも」

イズミ、ハナビも納得したようだ。

それからは自在に空を飛びまわれるように舞空術の修行にも重点を置きつつ、力を蓄える日々が続いていた。

仙術、舞空術は勿論の事、飛雷神の術を使いこなすには相当の修行が必要だった。

特にハナビとイズミには何としても飛雷神の術は覚えてもらわなければならない。

これが使えるのと使えないのとでは任務帰還率が大分変る。

戦闘で使えなくても良い。だが一瞬で帰還できる方法があるのに覚えないと言う手はないだろう。

とは言え、この術は相当に難しいらしく、時空間忍術に素養が無い者にはまず使えない。

ハナビとイズミもてこずっている。

このペースなら習得しても戦闘で使えるようにはならないだろう。

ならば離脱用と割り切るべきだ。

覚えるマーキングは既に作り出している二つまでに留め、それを目印にした補助の印を組み上げる。

能力を限定する事によってどうにか二人とも飛雷神の術を会得出来たようだ。

「アオに出来てわたしに出来ないのは悔しいわ…」

とイズミ。

「本当ですね」

ハナビも同意。

「離脱用だとしても使えるのなら死ぬ確率はグンと減る。戦闘になんて使えなくても二人は十二分に強いだろ?」

「あなたがそれを言う?さんざん飛雷神の術でいやらしい攻撃をしてきたあなたが。ハナビは良いわよ、白眼の視界なら瞬時に対応出来るかもしれない。死角に転移されていたらこっちは対処が難しいのよ」

イズミ若干トラウマになっているようだ。

「もう少し円の修行を重点的にやらないとな。それなら例えどこから奇襲されても感知できる」

「うっ…」

写輪眼と言う武器がある分、広範囲の円は苦手の様だ。

中忍にはなったが修行が忙しく任務をすっぽかしているアオ達三人。

「生活費がヤバい…」

「わ、わたしも…」

「二人とも本当にバカね…」

アオとイズミの言葉にため息を吐いたハナビ。

「それじゃ、任務に…」

と言いかけるハナビの言葉にアオが被せ気味に頓珍漢な事を呟いた。

「農業でもやるか」

「「は?」」



……

木ノ葉の里から一里ほど。

開墾されていない荒れ果てた広大な大地を眼前に見つめているアオ達三人。

アオの手にはスコップが三本だけだ。

「まさか…ここ…?」

嘘だぁとつぶやくハナビ。白眼で先の先まで見渡したのだろう。

見るからに不毛な土地だった。

「ここら辺は未開で強大な猛獣も多く、さらには土壌が耕作に向かないから安かった」

「安いって…」

「そりゃそうでしょ…」

「で…そのスコップでどうするつもりよ」

「勿論、これで先ず整地するんだよ。土壌は俺が木遁で何とかする」

「「はぁ?」」

「これも修行だ、頑張ろうっ!」

とハナビとイズミにスコップを押し付けるとアオはスコップ一本で整地し始めていた。

先ず用水を引くために水路をスコップで堀り、邪魔な木々は伐採し、襲って来た猛獣を倒して食糧を手に入れる。

アオが教えた念法の練や周を常時使わなければいけないでかなりきつい修行だった。

効率を上げる為に仙術チャクラも使わねばならず、今まで身に付けて来たものをすべて使っての開墾だった。

アオが木遁や土遁を使い土壌を改良し、苗植えなどの人手がかかるものは多重影分身を使い、作物の水やりにはハナビが水遁を使い、害鳥駆除にはイズミが雷遁で威嚇していた。

虫害はハナビが適度に薄めた沸遁で害虫駆除を行い、より良い作物を作ろうとイズミがほのかな灼遁で作物にストレスを与える。

果樹なんかはアオが木遁で成長の促進を促したため、初年度からある程度の収穫が見込めそうだ。

あらかた害獣は駆除したがそれでも害獣に作物を荒らされるのを危惧し田畑を巨大な土壁で覆い、念字を刻んで猛獣の侵入を防ぐ。

夏。稲穂が出穂し、トマトが赤々と実る頃には立派な巨大農場が出来上がっていた。

「アオー、こっちのトマトはもう収穫時期だよ」

とイズミ。もう立派な農家だ。

「アオくん、こっちはまた出たよ…」

呆れた声を上げたハナビが持つ縄の先には三人ほどの他国の忍が絡めとられていた。

「もう、ネズミ捕りも楽じゃ無いわ、と言うかここは木ノ葉の里じゃないのだから、向こうに行きなさい、向こうに」

殺すのは死体の処理が面倒と、毎回丸太に括り付けて川に流している。

腐っても忍だ、縄抜けくらいできるだろう。

夏から秋にかけて収穫と出荷の最盛期を迎え、さすがに人手が足りなくなったので木ノ葉の里から人員を募集。

秋になるとようやく暇が見え始め、そこでふと三人は正気に戻った。

「あ、任務こなしてない」

「「あ…」」


三代目火影にアポを取り火影室へ。

「お主たちは…」

はぁとため息を吐く三代目火影ヒルゼン。

「しばらくぶりに会ってみれば、まさか一大農場を作り上げるとはのぅ」

ヒルゼンは口にパイプをくわえ呆れていた。

「「すみません…」」

とイズミとハナビ。

アオに反省の色は見られない。それどころか…

「火影様、これを」

「なんじゃ、これは」

「除隊願いですね。一般的に退職願とも言います」

「アオ…?」

怪訝な顔を浮かべるイズミとハナビ。

「どう言う事じゃ?」

「農場のほうが儲かるので」

と言うと三人の顔が呆れていた。

「その様な事がまかり通るとでも思っておるのか?」

「え、ダメなんですか?」

とアオが言うとハナビとイズミには困惑が浮かんだ。

「確かに…」

「そうよね」

なんだかんだでアオと一緒に居る時間が多かったイズミとハナビはいい意味でも悪い意味でも多大に影響されていた。

イズミが忍者になったのは、うちはと言う一族の問題で、その一族はほぼ滅んだ。ハナビは修行の延長と一般常識を学ぶためにアカデミーに通っていただけだ。

アオは単純に手っ取り早くお金稼ぎが出来るからであって忍者になりたい訳じゃ無かったのだ。

農場の整地を念修行として行い、生産出荷も修行として頑張ってはいたのだが、一年目の収穫が思った以上に多く、忍者の仕事などしなくても十分生きていける土台を手に入れたのだ。ならばわざわざ危険な任務を伴う忍者にしがみつく必要もあるまいと言うのがアオの主張。

とは言え、ヒルゼンにしても自来也お墨付きのこの三人を辞めさせる訳にはいかなかった。

「農場はワシらで買い取ろう」

あそこまで整備された農場を放棄させる訳にもいかず、ヒルゼンはそう提案した。

「別に構わないですけど、その場合、このくらいの金額になりますよ?」

と試算するアオ。

「こんなにかっ!?もう少し安くはならんか」

「いやいや、俺達三人が整地したからこその農地ですよ?今年は試作も多かったですし、来年以降はもっと売り上げが出るはずです。それを買い取ろうと言うのですからね」

「むぅ…分かったその金額で買い取ろう」

「ありがとうございます。さて、それじゃ俺達を雇うに当たっての最低賃金の交渉から」

「む?」

「当り前でしょう。この状態でも普通の忍よりも十分裕福に暮らしていけるのですよ?そこに危険手当が入るのですからね、あの農場が一年で売り上げる金銭以上の収入が無ければわざわざ忍者を続ける必要がありません」

「むぅ…」

ヒルゼンもアオの言っている事は理解できる。

目の前の三人はワシをして教える事も無いと言わしめた逸材。手放すのは惜しい。

先立って農場を高額で買い取る約束をし、その上でその売り上げ以上の金額で三人を雇わなければならない。

完全に赤字じゃのぅ…じゃが…

「あい分かった。その条件をのもう」

「英断ですね」

「じゃから、最初の任務じゃ。今の農場の規模を三倍にする。これが任務じゃ」

なるほど、上手い。

今の売り上げ以上になる様に整地させるのが任務と。考えたな、三代目。

「修行の延長みたいなものですし、了解しました」

「えー…またあの作業をさせる気?」

「さすがにアレは飽きたわ…」

「残念、これは正式な任務なのだ、頑張って働け」

とアオが言うとトホホと二人は息を吐いた。






「この間火影様と相談役との会話をたまたま聞いたのだけれど」

とイズミがいつになく真剣な表情。アオは巨大になってしまった農場のインフラを整備しながら聞いていた。

「なになに?」

とハナビが軽い感じで聞き返した。

「わたし達三人を土木工事専門の特別上忍としてはどうかって話してた…」

「っ…!!」

「ま、…マジで…!?」

ハナビもイズミも顔面が蒼白だ。

「流石にそれは俺も恥ずかしい…な…」

流石にその称号は勘弁してほしい所だ。

「だよねっ!だっかっらっ」

イズミが拳を握り込んで叫んだ。

「任務、するわよっ!」

「おーっ!」

「おー…仕方ないね」

その後、ちゃんとした頑張りで上忍へと昇格できた三人だった。


ある日、火影室へと呼ばれたアオ達三人。

「はぁ、俺達が下忍の担当上忍ですか…もう少し適任が居るのでは?」

「確かにのぅ…実績ならばお主たちよりも適任者がおるかもしれん。じゃが…」

だがと一拍置いて続けるヒルゼン。

「イタチの弟とナルトがのぅ…あとは日向の妹ものぅ」

うちはサスケはうちは殺しの大罪人、うちはイタチの弟だ。その担当となれば普通の上忍では扱いづらいのだろう。

それとうずまきナルト。彼は九尾の人柱力であり、九尾の木ノ葉襲来の所為で一部から憎悪の対象となっている。

日向の妹とはハナビの妹のヒナタの事だ。宗家の直子として適当なことは出来ない。

なるほど、三代目火影はこの三人が適任と考えている訳だ。

「それに、お主らの技量はワシのお墨付きじゃからのぅ」

だが下忍育成中は任務のランクも下がり危険な任務に従事する必要もなくなる。

これは良い事だ。

「技術は伝え行かねばならぬ、頼まれてくれぬか」

と三代目火影に言われては引き受けない訳にもいかなかった。

数日たち、担当下忍の所へと向かうアオ。

待ち合わせの教室の扉には黒板消しが頭上に挟まれていた。

こう言うイタズラって成功しないのだが。

普通にアオは扉を開けた。

次いで自重に引かれて落ちる黒板消しが地面に落ちる。

「はい、こんな幼稚ないたずらを仕掛けたやつは誰だ」

教壇に立って問えば二つの視線が集まる人物。

「オレじゃねーってばよっ」

うそぶく金髪の少年。

イヤお前だろ。

「と言うかな、お前ら忍者だろ?いくらイタズラだと言ってもこうもバレバレな罠を仕掛けて恥ずかしくないのか?もっと高度なものを用意するように」

「うっ…」

「さて、先ず自己紹介から。俺は小日向アオイ。お前たちの担当上忍だな。趣味は…あれ…なんだろう…文化レベルは高めなのにどうしてサブカルチャーの存在が薄いんだ……このままじゃ趣味は修行なんて事に…?それはハナビだけで十分だろう…?」

「なんか落ち込んだってばよ…この先生」

「大丈夫なのかしら」

「ふん…」

担当する事になった下忍のうずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケが好き勝手に言っている。

「まぁいいや、お前らの番な」

と自己紹介と目標を促したアオ。

それにナルトはどの火影も超すすごい忍者になると息巻き、サクラはサスケをチラチラ見ながら消極的アピール。サスケはうちはの復興と復讐と答えた。


「さて、じゃあとりあえず、午後は演習だな。忍具のフル装備を持ってきてくれ」

「な、なんの演習をするんですか?」

とサクラ。

「実はアカデミーの卒業試験を受けた後じゃないと受けれない試験があってね。これに合格しないとアカデミーに戻される。とあるデータだと脱落率66パーセントらしいよ?」

「なんだってっ!?」

「じゃあアカデミーの卒業試験って何だったのよっ」

「そりゃ下忍になれる素質を見るための物だな。と言う訳で解散。演習は23番で行うから現地集合って事で」

「ちょ、まって…いっちゃった…」

サクラの静止を聞かずに教室を後にした。


午後。演習場に集まった三人はアオを前に横一列に並んでいた。

「さて、演習の内容だが…これを俺から奪えたら合格って事で」

と見せるのは小さな鈴だ。

「鈴?」

とサクラ。

「まぁ、一種の伝統だな。一応説明しよう、三人で協力してこの鈴を取れれば下忍と認めてあげる。制限時間は日が落ちるまで、忍具や忍術の類はすべて使用して構わない。むしろ全力で掛かってきた方が成功率は高いぞ?」

「忍具全部って…なめてんのかってばよ」

ナルトが吠える。

「下忍のお前らが全力で来ても傷一つ付かないから大丈夫だ。むしろ傷つけられたら合格にしてあげよう」

「っ…!」

血気盛んなナルトがホルダーに手を入れて抜き放ったクナイを全力で投擲する。

「バカッ!」

思わずでたサスケの静止の声、だが…

キィン

アオが遅れて投げ放ったクナイがナルトが投げたクナイに当たりナルトが投げたクナイはクルクルと空中を回転しながらアオの手元へ落ちてくる。

対してアオが投げたクナイはナルトのクナイの威力を殺いで軌道を変えたにもかかわらず、ナルトの頬を掠めて後ろの樹に突き刺さっていた。

「さて、それじゃあ…全力で掛かって来い」

そうして始まる演習。



とりあえずサスケとサクラは隠れたか。

忍の基本だな。

「いざ尋常に、勝ーーーーーー負っ」

忍ばないのもいるが…

ナルトが五メートルほど離れた所でこちらを挑発している。

「いいぞ、ほれ掛かって来い」

「このやろーっ」

正面から掛かってくるナルトだが、下忍レベルの体術に遅れを取る訳がない。

ふむ、気合は空回りしているがやる気だけはあるようだ。だが…

「当たらなければ意味はないな」

ナルトの腕をつかむと突進してきた勢いをそのままに空中へと投げた。

「うわーーー」

そのまま背後の川へと着水…もとい沈没していった。

ザバッ

勢いよく川から跳ね上がったナルトが投げた手裏剣。何かのけん制だろうか…

まだまだ速度、威力共にそれほどでもない手裏剣の芯の部分を掴み無効化。さて、次は…

ザバッ

再び勢いよく川から上がって来たナルト。しかしその数は10人ほどに増えていた。

そのナルト達が一斉に手裏剣を投げつける。

「多重影分身かぁ…だが、まだまだだね」

アオは先ほどナルトが投げた手裏剣を手に取ると投擲。

手裏剣はキィンキィンと高い金属音を奏でると空中で幾つも反射するように当たり、投げたすべての手裏剣が反射されたようになるとへと返る。

「うわーーーーーーー」

ナルトの影分身は手裏剣が当たった瞬間にたちどころに煙となって消え、本体のナルトは無数の手裏剣で地面に縫い留められていた。

「くっそーーーーー」

「お前らね…俺の最初の言葉を思い出しなよ?」

「最初の言葉ってなんだってばよっ!!」

ヒュン

ナルトの相手が終わった隙を突きに来たのだろう、虚空から無数の短刀がアオを襲う。

アオはそれが見えていたかのように体を最小で動かすと短刀は後ろの樹へと突き刺さった。

わざわざ武器を投げてよこしてくれたのだ。最後の一本を掴むとさらに一歩前に。

今度は無数の手裏剣がアオを襲った。

「死角を移動しながらの投擲攻撃か。まずまずだな」

やはり死角から襲って来るクナイ。

最小の動きでクナイを避けると、トラップだったのだろうか。後ろからクナイが投擲されたと同時に他方向からサスケが飛び出して来た。

印を組み上げると息を大きく吸い込んだ。

うぉっとこれは流石に…

「あーーーーーっ!」

ナルトの絶叫。

「うそ、マジでやっちゃった?」

とサクラ。

突き刺さった無数のクナイ。

だがサスケ本人は悔しそうな表情をしていた。

刺さったのはそこらに落ちていた丸太だ。

それに気が付かないサスケではないが、アオが変わり身を使った為に術を放つタイミングを逸していたのだ。

変わり身を残してバックステップでかわしたアオは素早く印を組み上げた。

「その印はうちは一族の基本忍術…そら、相殺してみせろよ」

「「火遁・豪火球の術」」

ゴウゥとぶつかる火球と火球。

「くそっ」

構成が甘かったのか、アオの放った火球を相殺しきれなかったサスケは焦りながら地面を蹴った。

地面を蹴ったサスケはアオに接近戦を仕掛ける。

だが…

「うんうん、アカデミー卒業したばかりにしては中々動きが良い」

どの攻撃もアオに簡単にあしらわれてしまっていた。

「ここまで違うものなのかっ!…ぐっ」

嘗手でサスケを吹き飛ばす。

「サスケくんっ」

「サスケに近寄る前にやる事があるだろうに…」

「どいてろっ!」

「きゃっ」

サスケは闘志を燃やしサクラを突き飛ばすと再びアオへと向かって来た。



……

日もすでに傾き始めた頃、ナルト、サスケ、サクラの三人は地面に膝を着いて肩で息をしていた。

「さて、そろそろ日も落ちる。不合格まで秒読み開始と言った所だが、まだやる?」

「当然だ」
「当然だってばよっ」

「も、もちろんよ」

「はぁ…それじゃあ心優しい俺様がお前たちに最後のチャンスをやろう。これで出来なければもうお前たちはアカデミー戻り確定だな」

「さ、さいご…?」

ゴクリと唾をのむナルト。

「俺が最初に何と言っていたか思い出してみろ」

「最初…?え、…まさか」

「サクラは気づいたか?だが出来るか?」

「どう言う事だってばよサクラちゃん」

「ナルト、サスケくん、ちょっとこっちに」

とアオに背を向けて作戦会議。

「な、そんな事なのか?」

「そうとしか考えられないのよサスケくん」

「だけどよー、サクラちゃん。コイツと手を組めってのは」

「ナルトはつべこべ言わない。これはそう言う試験なのよ」

何やら話し合って結論が出たらしい。

その後、三人は散らばって茂みに隠れ…

四方八方からクナイが飛んで来る。

木の枝を蹴り上空からクナイをばらまくサクラ。

注意を頭上に引き付けた所に大き目の手裏剣が茂みの中から放たれる。

しかもワイヤーで繋がれているのかそのワイヤーを伝って放たれた火遁がアオの逃げ道を塞いでいた。

とは言え、まだ避けられる範囲だが。

一個目の手裏剣を避けると死角にもう一つの手裏剣が。

「おっと」

それも避けるとポンとその手裏剣が音を立てて変化する。

いや、変化を解いたと言ったほうが正解か。

変化を解いたナルトは持っていた手裏剣を投擲し、アオを攻撃。

すると逃げ場を塞がれたアオ目がけて左右からナルトとサスケ、頭上からはサクラの右手が鈴目がけて伸びて来た。

「まぁ、いいか」

三人の手が鈴に触れた所で…

「あだ」
「ぐぇ」
「きゃっ」

変わり身の丸太にぶつかった三人。

「いたたた…まだまだっ!」

「ナルト、サクラ、次は決めるぞ」

「うん」

今日初めての連携に手ごたえを感じ次こそはと意気込む。

「いや、ここまでだな」

日はとうに沈み、辺りは暗闇に包まれていた。

「時間切れか…」

「そんな…」

「これからだったってばよ…」

「まぁそんな顔をするな。ギリギリで合格としておいてやるよ」

とアオが言うとパァと三人の顔が明るく崩れた。

「だが、今日の事は忘れるなよ。チームワークを乱せば勝てるものも勝てない。任務達成率も下がる。その事をしっかりと肝に銘じるんだ」

「「「はい」」」

「素直な子は好きだよ。さて、今日は解散とする。明日から下忍の任務も始まるからね、余り夜更かしはしないように」

こうしてアオは担当下忍を持つ事になったのだった。



アオが自分の家で食材を刻んでいた。今日は中華にするのだろう調味料が台所に並んでいる。

「二人の班はどうだ?新人たち」

そうアオはちゃぶ台を挟んでくつろいでいた二人に問いかけた。

たまたま任務が早く終わったので夕食を近くの露店で一緒にと誘ったのだが、なぜかイズミとハナビは食材だけ買うとアオの家が良いと言い出したのだ。

そして当然の様にアオが給仕をしているのだから、この女どもは…と言って二人とも料理が出来ないと言う訳では無いのだが。

「得に問題はないわ。…シカマル…ああ、奈良家の子の前で影縛りの術を見せたらすごく変な顔をされたわね」

そりゃそうだろ…自分の家の秘伝忍術をそうも自在に操れればな。

「わたしの所も問題なしね。まぁヒナタはあまり忍には向かないと思っているのだけれど…それでも日向本家の子だし」

「それより、アオの所は?サスケくんがいるんでしょ」

とイズミ。

「流石にイタチの弟だけは有るな。あの年で豪火球の術を使いこなしているぞ」

「へぇ、アオくんは何歳くらいで火遁を使いこなしたの?」

「えっと…まぁ、いいだろ」

「アオは変態だからね」

誰が変態か。

「そのサスケがね、かなり歪んでて心配。あの年で実の兄を殺すと言っているよ」

「兄って…イタチくん?」

とイズミ。

「まぁ、一族郎党の殆どを虐殺し、実の両親もその手に掛けたのだからね。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけれど」

「生き残ったわたしが言うのもなんだけど、うちはは滅ばねばならなかったのよ」

「イズミ…」

ハナビが心配そうな声を上げた。

「クーデターを企んでたからな。実際」

「そうなの?」

「そう言う噂だ」

「え、ちょっとまって、と言う事はうちは一族を虐殺したのって…」

とハナビ。

「里の上役の誰かの策略だったのだろうね。三代目じゃないようだけど」

「それじゃイタチくんは…」

「実行したのはイタチと、あの仮面の男だが、計画したのは里の誰か」

「いまサラっとすごい事言わなかった?」

「おっと失言だった」

「あなた…」

呆れているイズミ。

「俺もイズミも死んでない。つまり結果は最低だけどイタチはうまくやったのさ」

「お母さんを殺されたのよ、わたしはそこまで割り切れないわ」

「そうだろうね。良いんだよ、それで。それが正常だ」

とアオが言うとハナビとイズミが寂しげな表情を浮かべてアオを見ていた。

軽々しく話すアオにはどんな葛藤があったのだろうと。

まぁ、その心配は結構的外れなのだけれど。

「まぁ、担当下忍を持ったと言う事でどう言う指導をしていくかだな」

そうアオが言う。

「しばらくチャクラコントロールで良いんじゃないの?」

「何年やらせる気よっ!」

気の長い話にイズミが突っ込む。

「えー、でもでも、基本をおろそかにしちゃいけないと思うし」

「それはそうだけれども、ねえアオ」

「まぁまて、俺らが下忍になった頃を思い出せ」

あの頃は…

「いや、でも流石に基本が出来ていないのに仙術は教えても覚えきれるものじゃないと思うよ?」

「と言うか仙術の習得はそれこそ危険だぞ。下手な下忍なんて猿岩になってお終だ」

「…そうね」

となれば…

「結局チャクラコントロール?」

とハナビが言った。

「でもどの程度?」

「木登りの行や水上歩行の行なんかが出来ればいいだろ」

「あれ、出来ないの?あの子たち」

ビックリした顔でイズミが言った。

「お前、アカデミーで教えてもらったか?」

「そう言えば…無い、ね」

「アオとの修行でやってたから気付かなかったわ。まぁヒナタは出来るわね。わたしが教えたもの」

イズミとハナビがああそういえば、と答えた。

「まぁ、当面はそんな感じかな」

進捗をすり合わせ明日からの修行内容を考えながら夕食を頂いた。



下忍の任務はお使い程度のものが殆どだ。

忍者と言う職業に夢を持っている忍ほどごねるのが早い。

簡単な任務をいくつか終えた段階でナルトがごねた。

結果、Cランク護衛任務を与えられることになり木ノ葉を出て波の国へと対象を護衛しながら移動し、彼が仕事を終えるまで身辺警護をすると言う長期任務だった。

木ノ葉の里からタズナと言う初老の老人を護衛しながら波の国へと向かう。

その道中、背後から現れた二人の忍。

その忍は護衛対象であるタズナを狙って攻撃。寸前でアオが割り込んで無力化には成功したが逃げられてしまった。

「うーむ。これは任務内容を超えているな」

「何でだってばよ、任務内容はこのオッサンの護衛だろ?」

とナルトが返してきた。

「護衛任務の内容に忍び同士の戦闘は含まれていない。忍に命を狙われている可能性が有るのなら最低Bランクの依頼でなければ困る」

そう問えば、タズナはその可能性は高かったが波の国は大名でも貧しく高額の依頼は出来ないと答えた。

「何、お主らが帰ればワシの孫と娘が一晩中泣くだけじゃ。気にすることなない」

「先生…」

サクラがアオを見上げていた。

「情に訴えかけられてもダメです」

「何でだよアオ先生っ!俺らが弱いからか!?」

「そうだ。もともと任務ランクシステムは忍の実力以上の任務を受けさせないため、忍者の任務達成率、生存率を上げるためのシステムだ。これはね、お前たちを守るシステムなんだよ。だから任務の内容は細かく精査されている。まぁこういう事も有るが…任務内容詐称の場合一方的な破棄が認められているんだ」

「納得いかねーってばよ。俺はぜってー任務を続けるってばよっ!」

「ナルト、ダダを捏ねるな」

「サスケはこのままでいいって言うのかっ!」

「そうは言ってないだろ。だが任務内容がおかしいのも事実だ」

「そんなのは知らねーってばよ」

「結果お前が死ぬ事になってもか?お前の選択で仲間の誰かが死ぬ事になってもそう言えるのか?」

「オレは自分の忍道はまげねぇ、そして仲間は絶対に死なせねぇってばよ」

このうすらトンカチがっ!…はぁ…しょうがないなぁ

「タズナさん。もう1小隊下忍を雇う事は出来ますか?」

「む、…それくらいなら…ギリギリかのう」

「アオ先生、それじゃぁ」

「まぁ良いだろう。この任務はお前たちに多くの事を教えてあげられそうだ」

さて、すぐさま木ノ葉の里へと引き返しもう1小隊を迎えての再スタート。

来たのはハナビ率いる第8班だった。

犬塚の嗅覚、油女の蟲、日向の白眼とむしろ護衛任務にはこちらの小隊の方が目も鼻も利くので守りやすいだろう。

「で、任務を破棄しないでどうしてわたし達を呼んだの?」

とハナビ。

「ぶっちゃければ俺達が下忍と任務に出かければ里はもともと大損している。それでも依頼を受けるのはこいつらの指導の為だ。俺一人じゃこいつらを守り切るのは不安だが下忍が増えてもハナビかイズミが一緒ならなんとかなるだろ」

「はぁ、まあいいわ。彼らにもいい経験になりそうだしね」

それからそれぞれの班員の紹介…まぁ同じアカデミーの同期だし殆ど必要ないか。むしろ俺とハナビの紹介になってしまっただけだ。

その後トトトと近づいて来る黒髪の少女。

「アオ兄様、お久しぶりです」

「ヒナタか。確かにヒナタが下忍担当になってからは忙しくて、中々会えなかったな」

「今回は同じ任務で嬉しいです、よろしくお願いしますね」

「おやぁ、ヒナタちょっと見ない内に色気付いちゃって」

とハナビがヒナタをからかう。

「ち、違うから。姉様これは違うの…それにわたしは…」

と言ってチラリと遠慮がちに視線が動く。

「むっふっふ~なるほどなるほど」

「もう、姉様からかわないでよ」

引っ込み思案んなヒナタだが、姉だけにはそれなりに反撃も出来るようだ。

「さて、準備も出来た所で行きますか」

と言うアオの声に勢いよく応と言う声が返って来たのだった。

そろそろ波の国と言う所でヒリと絡みつくような殺気を感じる。

「四人かな、人の匂いがするぜ」

「「白眼」」

ハナビとヒナタが白眼を使って遠視すればこちらを警戒する忍が四人居るのが見えた。

「他国の忍が見えます…四人…」

とヒナタ。

「一人は巨大な大剣を持っているわね。二人が腕に鍵爪の様な忍具をしていてもう一人は結構な美少女ね」

ハナビ…美少女って…

「鍵爪のやつらは俺が逃がしたやつだな。他の二人の力量は?」

「うーん、一人は上忍クラス。もう一人も普通の中忍以上って所ね額の鉢金から霧隠れの抜け忍みたい」

「なるほど。じゃあタズナさんの護衛はヒナタ達に任せるよ。この選択はうちらの班の責任だから、あいつらの相手は俺らがやる」

「オッケー。ヒナタ、キバ、シノ、卍の陣よ。タズナさんの護衛。守りなさい」

「はい」「了解した」「くそ、良い所はあいつらにくれてやるのかよ」

「今回のわたし達の任務は第七班の援護だからね」

とハナビ。

こちらが軽々した事で襲撃に気が付かれている事を悟った相手の忍がアオ達から20メートルほど先まで距離を詰めて来た。

「まさかあの距離で襲撃が察知されるとはな」

と大きな剣を持った男が言葉を発した。

「木ノ葉には優秀な忍が多いからな」

アオもそう言ってヒナタ達を褒める。

「よっしゃーーーっ!」

汚名返上と勇み足で突っかかるナルトの襟首を持って静止させた。

「ぐえ…何するんだってばよぉ…」

「相手をよく見ろ。もう二歩進んでいたら恐らくお前の首は繋がっていない」

「どう言う事だってばよ」

「上忍と下忍になりたての忍者では天と地ほどの差がある。あの大剣、霧隠の里の忍刀が一刀、首切り包丁…相手は鬼人再不斬だ」

「有名な奴なのか?」

「各国のビンゴブックに載っている超大物だな…はぁ、仕方ない、再不斬の相手は俺がやろう」

面倒だけれどとアオ。

「大きく出たな、ビンゴブックにも載ってないザコが」

「ビンゴブックなんて載るものじゃないな」

そんな事で粋がるなとアオ。

「なるほど、しかしその眼、もし有名な白眼ならば相手に不足はない。お前は俺様がぶっ殺す。白やお前らは手を出すなよ」

「再不斬さんの楽しみは奪いませんよ」

と美少女が再不斬に答えていた。

「俺は楽しくは無いがな」

そう言ったアオの両目から経絡系が盛り上がった。

「ほう、それが有名な白眼か」

再不斬が声を上げる。

「な、白眼だとっ!?」

え、なんでサスケが驚くよ?

「さっきからビャクガンビャクガンって何なんだってばよっ」

訳の分からないナルトは大声を上げた。

「白眼は日向家に伝わる血継限界でその観察眼は写輪眼以上よ」

「説明どうも。ハナビ」

「へえ、面白い…」

再不斬の殺気が膨れ上がり一気に臨戦態勢へと移行したようだ。

「水遁…」

アオは再不斬の印を見切り、予測し、風遁の印を組み上げる。

「霧隠れの術」

「風遁・大突破」

スウゥと立ち込める霧を風遁で吹き飛ばすアオ。

「ぐぅぬぅ…」

風遁の圧に押された再不斬に忍者刀を抜き放ち接近戦へと持ち込むアオ。

「なめるなっ!」

再不斬は首切り包丁を振るいアオの胴体を薙ぐ。

それを最小の動きで避けると再不斬に接近。

首切り包丁の様な重量のある武器ではアオに敵わないと見るや振りぬいた力のまま首切り包丁を手放しアオの攻撃をかわした再不斬。

首切り包丁は回転しながら奥の樹にぶつかり叩き割り土煙を巻き上げてようやく止まった。

一瞬土煙が互いの視界を塞ぐ。

その土煙を割いて両者が再び激突。

「ふっ!」

忍者刀を振りぬくアオ。

「やったのかっ」

だがしかし、再不斬の体はバシャリと水になって崩れ落ちた。

「残念だったな、水分身だ」

どこからか現れた再不斬がザクリとアオの首筋をクナイで切り裂いた。

「先生っ!」「アオ先生っ!」「くっ…」

驚くナルト達。しかしアオの体もボワンと崩れた。

「影分身だと…お前、あの一瞬で…」

アオが距離を取り、両者振出しに戻る。

さて、ここからは再不斬に白と呼ばれた忍と、この前襲撃してきた二人の忍も動き出す。

「すみませんが、これも戦いですので」

秘術・魔鏡氷晶

白と呼ばれた敵の忍が片手で印を組むと辺りの水分が氷結し、ナルト達三人を包み込んだ。

それを見ていた二人の霧隠れの中忍はタズナを直接狙おうと駆ける。

ハナビ達の班に緊張が走った。

…あの程度、ハナビが居れば問題ないな。

むしろ問題はこの氷遁。

「血継限界か…」

「ああ、何も血継限界は日向一族だけじゃないんだぜ?」

知ってる。とは言え、血継限界はそのほとんどが凶悪だ。

白と呼ばれた彼は氷でできた鏡の中に入り込み、その中を自由に移動できるようだった。

「早く俺を倒さないとあいつら皆死んでしまうぜ、まぁ俺を殺す事なんて無理だろうがな」

「これで死ぬようなら彼らは所詮ここまでだと言う事だ。だからお前は俺にもう少し付き合ってもらう」

再不斬の力量は大かた見切った。

再不斬は強い。だがそれはスタンダードな忍の強さだ。その程度に負けるほどアオは柔な鍛え方をしていない。

問題はあいつらだ。

再不斬と斬り結びつつ確認すれば鏡の中を高速で移動する白の攻撃に翻弄されていた。

む、あれは写輪眼か…

どうやらこの極限の状態でサスケは写輪眼を開眼したようだ。

いや、違うな。その程度で写輪眼は開眼しない。サスケは気づいていなかっただけだ。

恐らくあの赤い月の夜。あの日サスケは写輪眼に開眼したのだろう。

相手の攻撃が殺傷能力の低い千本である事も彼らが生き残っている幸運の1つだろうが、相手の移動速度は速いが写輪眼で見切れない程では無い。

三人が協力すれば勝ち目は十二分にある戦いだった。

三人がかりで白の攻撃を限定させ、逃げ道を塞ぎ、三人ともかなりの出血を伴っていたが善戦していた。

しかし、実戦経験の差か、うまく連携を取っていてもまだ白の方が強かった。

これは流石にマズイか…

「どうした、気もそぞろじゃないか」

再不斬がアオを追い詰める。

「…そうだな。そろそろマズイな…だから…ちょっと寝ててくれ」

「なんだとっ!?」

アオの白眼は点穴すら見抜く。

アオの貫を使った一打は再不斬の休止の点穴を正確に打ち抜いた。

「がっ!?」

吹き飛ばされ意識を失った再不斬はしばらく目覚める事は無いだろう。

アイツらは…



善戦していたナルト達三人はしかし実戦経験の差からかやはり相手が一枚も二枚も上手だった。

「うっ…」

全身擦り傷でボロボロになったサクラがまず地面に臥せった。

「サクラちゃんっ!」

「バカっ!今駆け寄るな、罠だっ!」

サスケの静止も聞かずにサクラに駆け寄ろうとして白の必殺の一撃がナルトを襲う。

「な、何でだってばよっ」

「知らねーよ、体が勝手に動いたんだ」

その攻撃を庇ったサスケは致命傷は外したが攻撃をモロに食らい脱落。

茫然としてナルトに非情な攻撃が迫る。

ナルトはその攻撃に気が付いていたが体は動いてはくれなかった。

「はい、そこまで。よく頑張ったわね」

投げられた千本を手で掴みおもちゃの様にクルクルと掌で回すハナビがそこには居た。

「ハナビのねーちゃんっ!」

「っ…!」

白はどうした事かと一瞬タズナの方を見れば、そこにはボロボロだが確かにこちらの忍を取り押さえている下忍の姿があった。

「この鏡邪魔ね」

と言うや否やハナビの周りに巨大なチャクラが渦を巻いた。

「八卦掌・回天」

微細にコントロールされたチャクラがハナビの周りで渦を巻き、サスケの火遁ですら解けなかった氷の鏡をすべて砕き壊していた。

「なっ!?」

ズザザーと地面を転がる白。その表情は信じられないと言った表情だった。

「助かったよ、ハナビ」

「どういたしまして。でもアオも行けたでしょ」

と言うハナビの言葉にアオは肩を竦めた。

「それよりアオくん、あなた休止の点穴視えてるの?」

「あはは…」

「後で詳しく聞くわ」

誤魔化されてはくれないらしい。

「くそ…俺達があれだけ手も足も出なかった相手を一撃かよ…これが上忍の実力…」

サスケが悔しそうに立ち上がった。

「サスケェっ!」

「わめくなウスラトンカチ…傷に響く」

「あ、ごめんだってばよ」

「もう、うるさいわよナルトっ」

「サクラちゃんっ!う…うぅ…良かったってばよ」

サクラもどうやらギリギリで致命傷は避けていたようだった。

「さて、どうする?」

と一人だけ意識の残っている白にアオが問いかけた。

「再不斬の打ち抜いた休止の点穴から大量のチャクラを流した為に経絡系はズタズタだ。もう二度とチャクラは練れない位のダメージだし、もうまともに忍術は使えないだろう」

「あなた達を襲ったボク達を見逃してくれると?」

「もともと俺達の任務はタズナさんの護衛だ」

「今見逃せば再不斬さんはまた襲いに来るかもしれなませんよ?」

「その時はこいつらも強くなっている。チャクラの練れなくなった再不斬では勝てない位にな」

白は何やら諦めた顔をして立ち上がった。

「分かりました。ボク達は波の国から手を引きます」

そう言うと白は再不斬と、手下の忍二人を連れて波の国を出て行った。

「良いの?」

ハナビがアオに寄り問いかけた。

「あいつらの授業料変わりだ。別に良いだろう」

「そうね。わたし達の班もいい経験になったわ」

「だろ?」

タズナさんの護衛任務は後は簡単だった。

波の国をい裏から牛耳るガトーカンパニーはタズナさんが架けようとしている橋をゴロツキを雇ってやめさせようとしてきたのだが、それは下忍でも簡単にあしらわれる程度の者達で、橋が架かってしまえばガトーカンパニーも手だしは出来ない。

無事任務を終えてるまでの間は警護と自主練に当てていた。

護衛任務をハナビの班と交代し、暇をしているとサスケがアオの傍にやって来た。

「お前、血継限界に詳しいらしいな。俺に写輪眼の使い方を教えろ」

ハナビから聞いたのだろうか。

「…………ふむ」

アオは右手を伸ばすとサスケの頭を掴み上げた。

「お前にはまず言葉遣いから教えるべきか?」

「あだっあだだ…い、痛いっ」

キリキリと締まるアオの右手。

「やり直しだ」

そっと地面にサスケを下ろす。

「馬鹿力かよっ!つっ…」

「で?」

アオが促すとしぶしぶと気まずいのか視線を横に外しながら小さな声で頼み込むサスケ。

「俺に…写輪眼の使い方を教えてください…」

「ふむ。まぁ三代目の目論見通りで癪だが、まぁ確かに他の奴には聞けないだろう」

うちは一族はもう殆どいないのだしね。

イズミとは…会わない方が正解だ。

サスケを連れて雑木林へと移動する。

「さて、それじゃまず写輪眼を使ってみ」

「ああ」

サスケが目の前で印を組むとチャクラを両目に送り写輪眼を発動させた。

サスケの眼は真っ赤に染まり両の眼に一つずつ勾玉模様が浮かんでいた。

「ほれ」

「……?」

その状態で手鏡をサスケに渡す。

「お前の写輪眼はまだ開眼したばかりだ。その状態で教えられる事は少ない」

「なんだと!?」

「こればかりは修行でどうこう出来るものでもない。時が来れば自然と瞳力は増していく」

その切っ掛けは愛の喪失やストレスなど負の感情に帰依する事はまだ教えなくても良いだろう。

「だがまぁ、その状態でも写輪眼を使う事に慣れる事だ。写輪眼は発動すればチャクラを使い、疲労する。当然写輪眼を使いながらの戦闘ではさらに消耗が激しい。チャクラ量を増やすか写輪眼に慣れるしかないな」

「どうすれば良い?」

「チャクラコントロールの修行を今以上に真剣にするんだな。あとは写輪眼の訓練は俺が模擬戦形式で訓練する。その程度だ」

「くそ…せっかく写輪眼を手に入れたのに」

「写輪眼一つで誰もかれも倒せる訳じゃ無いな。すごく便利で強いけど」

「なぁ、お前はあの写輪眼を知っているのか?」

あの…?

「ああ、万華鏡写輪眼か。それこそ今俺に聞いても意味は無いぞ。まずは基本巴まで瞳力を高めないとな」

そもそも万華鏡に至る切っ掛けは悲しいものだ。教えない方が良いだろう。特に力に貪欲な今は…


無事、波の国での任務を終え帰国。

里の帰ると中忍試験の準備が始まっていた。

「ああ、もうそんな時期か」

イズミ、ハナビと一緒に火影室へと移動中の会話だ。

「そうよ。そしてわたし達が呼ばれた理由ね」

とイズミ。なるほど。

「で、どうするの?中忍試験への推薦は」

そうハナビが言う。

「さっさと俺の手を離れてくれると嬉しいねぇ」

「何、推薦する気?」

イズミがヤレヤレと言った風に返した。

「お前らは」

「うーん、アオの班が出るって言うのなら負けられないわ」

勝ち負けじゃないのだが…

「そうね。別にいいんじゃないかな。潰れるのなら早いうちが良いだろうし」

ハナビもとんでもない事を言うものだ…



「「「中忍試験?」」」

「そ、推薦しておいたから」

火影室から戻ったアオは要項をまとめたプリントを三人に渡す。

「どうするかは三人で決めると良い。ただ、中忍試験は安全なものじゃない。当然死人も出る危険なものだ。…まぁ波の国の任務をこなしたお前たちなら分かっているとは思っているが…」

ナルトは歓喜に震えサスケは武者震いしていた。

サクラもそんな二人に影響されてか緊張しているようだ。

「中忍になれば中隊長も任せられる一人前の忍だ。さっさと俺の手を離れてくれるようにガンバレよお前ら」

「アオ先生…そっちが本音だってばよ、ぜったい…」

「ああ」「そうね…」

ナルト、サスケ、サクラの三人の微妙な表情が印象的だった。


担当上忍は中忍試験に関われない。

喫茶店で何となく時間を潰しているアオ達三人。

送り出してしまえば特にする事は無かった。

「暇だ」

「暇だね」

「ひまー」

最近下忍の面倒をずっと見て来たのだ。いきなり居なくなってそれが日常になっていたのだとあらためて気づいたのだ。

「お?」

バサバサと鳩が一羽アオ達が居る所に飛んできた。足元を見ると何やら文が巻き付けられていた。

その文を広げてみれば…

「どうやら全員二次試験を合格したらしいぞ」


招集命令を受け取ったアオ達は二次試験の試験会場へと向かう。

「数が多いな」

アオの呟き通り、今回の中忍試験は皆実力が高いのか二次試験を終わってもかなりの数が残っていた。

そして始まるのは一対一で戦う三次試験の予選。

これで数を減らそうと言う事だろう。

まず最初に戦う事になったのはサスケだ。

サスケの戦いはどうにか辛勝と言った所だったが問題はそこではない。

「視た?」

とイズミ。

「ああ、何か変なものを刻まれたな」

「自然エネルギーを吸収しているように見えたけれど…」

そうハナビが言う。

「だろうな。蝦蟇の油や俺らの背中に有るヤツと似たような効果なのだろう」

「危険は無いの?」

「上手く制御されている内は大丈夫だろうが…どうしようか。解呪するにはデータが足りない」

「封印術で呪印事封印しちゃえば?」

そうイズミが言った。

「そうは言ってもな。それを誰がやるよ」

と言えば二人の視線がアオに集中する。

「俺ね…はぁ分かったよ。でもお前らも手伝ってくれると助かるね」


呪印に浸食されて倒れるサスケを連れて奥の部屋へと移動する。

「何をするんだ、俺に」

「呪印を封印する」

「なっ!?」

「今のお前じゃ呪印に取り込まれて自滅する未来しか視えない。それでもいいならこのままにしておくが、良いのか?復讐も果たせずに死ぬ事になって」

「力が手に入るなら死ぬ事なんて恐れない」

ダメだコイツ…どうしよう…

「大体ね、そんなものを頼ったってわたし達にすら到底勝てないわよ?忍の道に近道なんて無いわ。修行しなさい、修行」

修行馬鹿のハナビが言うと妙に説得力が有るな…

それとわたし達にすらとか言ってるけど、お前たち並の上忍より強いから…

「さて、さっさとやってしまおう。ハナビ、周りに誰か居るか?」

「白眼で見た範囲にはわたし達以外は居ないわね」

そか。サスケに呪印を刻んだ誰かが仕掛けてくると思っていたが、白眼の前にわざわざ出てくる愚は犯さないか。

ささっと封印術を行使してサスケの呪印を縛る。

「ぐぅ…」

「この呪印はお前の意思の力を利用している。お前の意思が弱まれば再び呪印の浸食は始まるだろう」

「うぅ…」

「今は休め」

「そうは…いか…ない…」

なるほど、ライバルの存在が気になるか。

「しょうがない、肩かしてやるから。何だったらおんぶが良いか?」

「自分で歩けるわっ!」

恥ずかしかったのか自力で立ち上がったようだ。

その後は色々有ったが三次試験の予備試験は終了。

七班からはナルトとサスケが勝ち上がり八班からはシノが、十班からはシカマルが勝ち上がった。

これはルーキーとしては中々の成果ではないだろうか。

本戦は一か月後になり準備期間が与えられた。


「よう、久しいのぅ弟弟子よ」

「自来也さん?どうして木ノ葉に?」

喫茶店で一人、団子を頂いているとその内の一本を奪い口に運ばれた先をみるとそこにはしばらくぶりに会う自来也がそこに居た。

自来也の事は三代目火影から兄弟子として紹介されている。

「ちょっと用があってのぅしばらく木ノ葉に居る事になりそうだわい」

ああ、そう言えば大蛇丸が木ノ葉にちょっかいを掛けていると三代目火影が言っていたし、同じ三忍としてずっと大蛇丸を追っていた自来也だ、木ノ葉に戻らない訳はない。

「お主達も下忍を取ったと言う事だからのぅ、様子見じゃ」

「ああ…そうですか。しかもよりにもよってと言う感じで困ってますよ」

「なんじゃ、お主でも困る事があるのじゃのぅ」

そりゃね…

「うちはフガクの息子と四代目の息子を両方預けられましたからね」

「そりゃぁお主…大変だのぅ…」

「しかも中忍試験の二次を合格してしまいやがってね、反目しあっている二人ですからどちらに修行を付けてやればいいのかと」

「なるほどのぅ…あい分かった。ナルトの事はワシに任せとけのぅ」

「よろしいので?」

「これもワシの役目よ」

何か分からないが自来也にも自来也の都合が有るらしい。

そう言って自来也は立ち去って行った。どうやってナルトを見つけるのだろうか。

実は知り合いとか?


「よう」

次に訪れたのはサスケだ。当然の様に俺の団子を口にしている。

「俺に修行を付けてくれ」

ガッと伸ばされた右手。

俺の右手がサスケの頭をかち割るのとサスケが言葉使いを改めるのとどちらが早いだろうか…



演習場に移動するアオとサスケの二人。

どうやら頭がかち割られるより先に言葉を言い直したらしいサスケが頭をまださすっていた。

「さて、なんの修行を付けて欲しいんだ?」

「力だ、相手を倒せるだけの力が欲しい」

それは願望であって修行内容じゃないのだが。

「つまりは忍術の修行がしたい、新しい技を覚えたいと言った所か」

うーん…

「少し早いけれど性質変化と形態変化の修行に入るか…性質変化は使えているな」

「火遁がそうか?」

「そうだな。豪火球の術なんかはチャクラを炎に性質変化させた上で球形になる様に形態を変化させている。…ぶっちゃけ基本忍術などでは無いのだけれど…それが曲がりなりにも出来ているのだから他の技も覚えられるだろう」

とりあえずサスケのチャクラ性質を調べてみると炎と雷の二属性。

「どうする?火遁を増やすか雷遁を覚えるか。期間から見てどちらかしか無理だろうな」

「どちらの方が強い?」

その基準ですか…

「広範囲の物を攻撃するには火遁、小規模…特に対人戦には雷遁の方が向いているな」

とはいえサスケはうちはだ、当然…

「雷遁で頼む」

「あ、そう…」

「どうかしたのか?」

「いや、うちはだから火遁を好むのかと思ってね」

「俺の目標の為には雷遁の方が良いと思っただけだ」

なるほど、イタチを殺すことをまだ諦めていないのだな。

「はぁ、しょうがない。雷遁の修行を見てやろう。そうだなぁ、写輪眼を持っているとすれば千鳥なんか都合がいいかな」

「それは強いのか?」

「普通の人には不便だが、写輪眼を持つお前ならばすごく有用な技だ」

そう聞いてサスケのテンションが上がっていくのを感じながら修行を始めた。




修行を始めて幾日かたった頃。二人でいる時間が多くなったためかサスケが過去を切り出した。

「なぁ、お前はイタチが憎くないのか?お前も襲撃されたって聞いた」

なかなかデリケートな問題をサラっと聞いて来たな。

「うちは一族の中で親しかったのはイズミとその母親くらいだ。イズミは出戻りでうちは一族の中では浮いていたし、イズミだけは守れたからな」

「そうか…あんたは守れたのか…」

何も出来なかった自分と比べたらしい。

「イタチが凶行に走った時お前はまだほんの6歳だ。止められないよ」

「お前ならば同じ年でも同じ結果だったような気がするな…」

それは…ほら。

サスケの言葉に肩を竦めた。

「ほら、まだチャクラの練り込みに無駄が多い。集中しろ集中」

「くそっ」

それきり無駄話は終わりにして雷遁の修行を続けた。


「千鳥っ!」

バリバリと音を立てて帯電するサスケの左手。

「この術の本当にすごい所はその刺突による破壊力もさるものながら雷遁のチャクラが肉体を活性化させて超スピードで動けるところだ。基本的に超高速で突撃して相手に食らわせる訳だが当然カウンターが怖い。故に相手の攻撃を確実に見切れる写輪眼があって初めて完成された術だな」

ほら、掛かって来いとアオがサスケを挑発。

チッチッチッチと帯電させた電気が放電するいななきを置き、サスケが突撃して来る。

そのスピードはすさまじいものが有った。

突き出される左手をアオはひょいと避けその足を払った。

ズザザーとサスケは地面を転がり、左手のふれた地面は抉れていた。

「くそ、ならばなぜ写輪眼を持ってもいないお前に通用しないっ!」

「それが下忍と上忍の差だな。お前はまだまだ動きが直線的すぎる分読みやすい。いくら速かろうが攻撃のタイミングが分かれば避けるのも容易いさ。とは言え、並の下忍では今のお前に敵うやつはいないだろうがな」

「はぁ…はぁ…くぅ」

練ったチャクラが霧散したようで肩で息をしているサスケ。

「チャクラ量的に一日二発が限界だな。今のお前では文字通りこの技は必殺技だ。相手を必ず殺せるタイミングで使う方が良い」

「三発目はどうなる…?」

「発動しないか…チャクラの使い過ぎで最悪死ぬな」

「そうか…」

「おまえ、俺の言ったチャクラコントロールの修行をサボっているだろう」

「そ、そんな訳ねーよ…」

「まぁ良いけどね。だけどいくら地味だと言っても近道など無いのだから基本は毎日しっかり欠かさずにこなしておけ」

「………」

焦っているサスケは聞く耳を持たず。

はぁ、まあしょうがないわな。


千鳥は一応の完成を見た為に三次試験本戦に新たな武器を手に入れて臨むことになったサスケ。

ナルトは自来也と言う伝説の三忍の一人が見ているし問題な無いかな。

ふぅ、ようやく肩の荷が少し降りたか。


そして三次試験が始まる。

ナルトと日向ネジの戦いはドタバタの末なんとナルトが勝を拾った。

試合は順調に経過し、サスケと我愛羅の戦いが始まる。

「何かイヤな感じね」

とイズミが我愛羅を見て言った。

「何か体の中にいるみたいね」

ハナビは白眼で覗いたのだろう。

「ありゃ人柱力だ。砂には昔から一尾を封印されている」

「人柱力?…それじゃあ」

「イズミ。お前の復讐は尾獣なのか?九尾か?それともそれをけしかけた誰かか?」

「それは…分かったわ」

「しかし、これはサスケもヤバいか。尾獣はチャクラの塊。もし我愛羅がその力を十分にコントロール出来ていたら…」

「サスケが負けるって事?」

ハナビの言葉に肩を竦める。

「木ノ葉の里が無くなるな」

「やっぱりダメじゃないっ!」

憤るイズミ。

とは言え今は試験中。うかつな事は出来ない。

一尾の力か本人の力か、我愛羅は砂を巧みに操って攻防一体でサスケを追い詰める。

サスケはたまらずと、動かずに砂の防御の裏で何かをし始めた我愛羅の隙を突いて千鳥の準備に入った。

「あれは…千鳥?教えたの、あの技を」

とイズミが呆れたように言った。

「あいつはうちはだ。それに写輪眼も開眼している。素養は十分だろう」

「確かにそうね」

サスケの千鳥は我愛羅の砂の防御を突き破り…

「何、これ幻術…」

ふわりふわりと会場に羽が舞う。

「「「解っ!」」」

アオ達三人はすかさず幻術を打ち破り戦闘態勢に。

「この会場は結構な数の忍に囲まれてるわね」

白眼で辺りを見渡したハナビがそう分析した。

「これは…解っ」

近くに居たサクラも幻術を返した。

「ああ…サクラは寝ていた方が安全だったのだけど…」

「え、先生…?」

アオもイズミもハナビもこの状況では本気モードだ。

既に仙術チャクラを練れるだけ練っていた。

その莫大なチャクラにおののいたのだろうサクラの顔が引きつっていた。

「マズイな…サスケが我愛羅を追って会場を出て行ったぞ」

「サスケくんがっ!?」

サクラの悲鳴。

「この期に血継現界の忍者を攫いたいヤツらも居るだろう…面倒な」

それと人柱力もだ。

先ほどのナルトの暴走でナルトが九尾の人柱力だとバレただろう。

「…サクラ、ナルトを起こしてサスケを追って連れ戻せ」

ここに居るよりはまだマシだろう。

最悪生きていればどうとでもなる。

「う、うん…でも」

「ここに居る方が危険だ」

ヒナタはハナビの父親が近くに居る。みすみす渡しはしないだろう。

「シノとキバを起こしなさい。彼らならサスケを追える」

「わ、わかった」

ハナビに言われてサクラはフォーマンセルを組むとサスケを追って会場を出て行った。

「さてそれじゃぁ」

「うん」「ええ」

「いっちょ暴れますか」

散っ

会場内を駆け、この騒動の発起者達であろう砂と音の忍達を無力化していく。


サクラは会場の淵に足を掛けた時、一瞬振り返りアオ達三人を探した。

そして目にする。

「…すごい」

「知らなかったのか?ハナビ先生なんて怒らせたらスゲーこえーんだぞ」

とキバ。

「あの三人が実力が高いのは当然だ。なぜなら三代目火影最後の弟子なのだから」

そう遠回しな言葉を発したのはシノだ。

「え、三代目のジーちゃんてそんなにすごいヤツなのか?」

「ナルト、おめーはもう一度アカデミーの教科書を読みなおせ」

キバが呆れたようにナルトに言った。

普段は余りやる気の感じられないアオを見ていたサクラは、本気のアオを見て忍者として生きていく道の遠さを感じていた。だが今は…

「行きましょう…サスケくんを追いかけないと」

「おう」

それきり会場を飛び出すとサスケを追いかけるのだった。


次々と会場内に入り込んだ他国の忍を排除していくアオ達三人。

ハナビの白眼に死角は無く、仙術による柔拳は一撃でも当たれば相手は石化する一撃必殺。

イズミも写輪眼に加え灼遁チャクラモードは居るだけで相手を干からびさせる攻防一体の技だ。

アオの飛雷神の術に付いていける忍が居るはずも無く、瞬く間に殲滅されて行った。

「問題は…」

スっとハナビとイズミの二人がアオの背を守る様に周囲を警戒するように背中合わせに集まった。

「火影様は…」

「結界の中だ。あの結界を壊す手段が難しい」

張られた直後に暗部がその結界に触れ炎上しているのを見ていた。

結界を張っている忍は結界の内側に居るし、その内側でさらに自分を守る様に同種の結界を張っている。

つまり中からも外からもこの結界を破壊する事は難しいと言う事だ。

「あれは木遁よね。それになんだろ、あの口寄せされた人、初代様に似ている気がする」

とハナビ。

「冥府から魂を口寄せして操る術がある。おそらく穢土転生(それ)だろう」


「わたしが」

イズミが灼遁チャクラモードになるとその手で結界に触れた。

「ぐ…」

突如燃え移る様に接触者を燃やそうとする炎を灼遁チャクラで強引に遮断し、さらに力業で結界にクナイ一本分通るか通らないかの穴を開ける事に成功する。

「アオっ!」

その隙間からクナイを投げ入れ…

「イズミ、ハナビっ」

「「うん」」

二人の手がアオを掴むとアオはその投げ入れたクナイ目がけて飛雷神の術で飛んだ。

「ってなにこれ木遁っ!?まっずっ!」

出たタイミングが悪いのか、叫んだハナビが全ての心境を代弁した一言だった。

三代目火影だ出したであろう土壁から生えるようにうねる様に成長する巨木。

「三代目っ!」

「お主達はっ」

イズミがヒルゼンを捕らえようとしていた巨木を切り裂き救出。

距離を取った。

「あら、あなた達どうやって」

と結界内に居た忍が問いかけて来た。

「誰?」

「大蛇丸。かつて三忍と謳われたワシの弟子じゃ」

とヒルゼンが説明。

「残りの二人は?」

「穢土転生で口寄せされた初代様と二代目さまじゃ。この口寄せはちと特殊で術者が死んでも術は解けん。利用されないためには封印するしかない」

なるほど。とは言えマーキングは結界外にも有る。いつでも抜けられるが…

「おぬし、先ほどのは飛雷神か?」

こくりと頷くアオ。

「一旦引く事も出来ますが…」

「いや、やつはここで仕留める。それが師であったワシの役目じゃ」

「初代と二代目を封印する手段は?」

「それはワシが持っておる。少しばかり時間を稼いでくれぬか」

「だってさ、イズミ、行ける?」

「当然」

「ハナビは?」

「わたし達を誰だと思っているの?こんなやつら余裕よ、余裕」

二人からの力強い返答。であるなら…

「なら、いっちょ暴れますか」

「「ええ」」

「ネズミが何匹が侵入したわね」

と大蛇丸が言う。

今の初代様たちはそれこそ大蛇丸に操られる傀儡。自立行動は命令が有るまでしない屍だ。

「その眼、白眼に写輪眼…日向にうちはね…欲しいわぁ…」

ゾゾゾ…

「それに仙術まで…」

お姉言葉のヤローに嘗め回すように見られた…しかも伸びた舌で舌なめずりされた…イヤーっ!

「木遁・挿し木の術」

様子見と初代様の木遁が飛んで来る。

「木遁・木錠壁」

眼前に現れるシェルター状の防御壁。

「木遁っ!?日向のあなたが…?サルトビ先生、まさか初代の細胞を日向の子に…あなたもワタシを責められないわねぇ」


「まて、ワシは知らんぞ…まさか根が」

「いや、三代目も暗部の根も関係ない。俺の努力だ」

「努力で血継限界を…?何というセンス。…仙術だけでも驚きだと言うのに」

散!

木錠壁から飛びだしたハナビとイズミはそれぞれの初代と二代目相手に向かう。

「さて、数を増やすとしましょう」

ポポンと二代目火影の影が生み出された。

「ちっ…」

悪態を吐きながら十字を組む二代目火影。


「影分身、それは二代目火影が生み出した禁術なのよね」

と大蛇丸。

「面倒な…」

ハナビは沸遁で上げた怪力のまま屋根に掌を叩き付けた。

ブシューと蒸気と共に飛散する礫。

「なんてバカ力っ!」

驚いている大蛇丸。

そのまま蒸気が一面を覆い視界を奪う。

「はっ!」

その中でチャクラ感知に優れた白眼を持つハナビは独壇場だ。

次々に二代目の影分身を倒していく。


「「木遁・木分身」」

ゾゾっと体か出穂(しゅっすい)するように木で出来た分身が現れる。

それぞれ二体出して相対する。

それぞれ取っ組み合う。

「ほう、木遁を使うのかっ面白いのう。木遁が使えるのはワシだけでちと寂しい思いをしたものよ」

ちぃ…体術ではまだ初代が俺の上を行くかっ…いや、当たり前かもしれないけど。

更に面倒な木遁には木遁を当て相殺せざるを得ない。

「ははは、楽しいのう」

楽しむなよっ!

「だが、まだまだ木遁の制御があまい」

そりゃあ俺は木遁だけに時間を使えてないからなっ!

初代の攻撃あ体に当たると言う瞬間、木分身とすべてで飛雷神の術を使い飛雷神の術で飛雷神の術を回す。

「ほう、これは扉間の飛雷神かっ!やりおるのうっ」

「この技は知らないだろうっ!」

飛雷神を回しながら螺旋丸を使い初代を攻撃。

「やりおるっ…だが、あまいのう」

ズズっと体から木が生えてきて俺を刺し貫くように攻撃する初代。

くぅっ…写輪眼が有ればっ!

「何やっているのよ、アオっ!」

背後からイズミがチャクラ刀を投げた。

不死身の体故か、避けなかった初代だが、灼遁のチャクラを受けたそのチャクラ刀の傷口から初代の水分を蒸発させた。

「影首縛りの術」

イズミから伸びた影が初代火影の動きを止める。

「おお、これは中々の攻撃よのう。体が動かぬわ」

「水遁・大瀑布」

すぐさま二代目火影が初代ごと水遁で押し流そうと大量の水を吐き出した。

「させないっ!」

イズミの右目の写輪眼がぐるりと回ったかと思うとその大量に吐き出された水遁がどこかに消失していた。

「ぐ、はぁ…」

「万華鏡写輪眼かっ!」

初めての発動で息を上げるイズミ。

「万華鏡写輪眼を開眼するうちはがまだ居るとは…」

そう二代目火影はどこか悲しそうだ。

イズミの万華鏡写輪眼は天鈿女命(アメノウズメ)と言う。

正確には封印術の宮比神(ミヤビノカミ)と解術の大宮売神(オオミヤノメノカミ)の二つなのだが、二つはセット能力の為今後は天鈿女命で統一しよう。

イズミは万華鏡写輪眼で視認した遁術を三つまで封印吸収し、好きな時に取り出せる破格の瞳術だった。


「よそ見している場合じゃ無いわよっ!」

ハナビの柔拳が二代目を捉えた。

「ぬ…」

仙術を込めたハナビの柔拳。当たれば必殺で流された仙術チャクラは二代目火影を石化させていた。

後ろの三代目を見れば影分身を使い何やら印を組んでいた。

「屍鬼封尽…先生…」

「ぐぅ…」

死神に初代と二代目の火影が封印される。

アオ達が初代と二代目を足止めし、封印している間に本体のヒルゼンは大蛇丸へと駆ける。

三代目と大蛇丸の決戦は流石に火影と伝説の三忍、どちらもその術のキレは凄まじい。

だが影分身をしているヒルゼンに加え、既に現役を退いてからの年月の方が長く、老いには勝てず…


「三代目はっ!」

振り返れば大蛇丸に屍鬼封尽を施していた。

このまま大蛇丸を封印してしまえば…だが、やはり三代目火影の残りのチャクラでは大蛇丸を封印する事は叶わず。

両腕だけの封印で大蛇丸を逃がしてしまった。

「三代目っ」
「火影様っ」
「三代目様っ」

駆け寄るとまだ息が有るようだ。

「すぐに回復を…」

「無駄じゃ…屍鬼封尽を使った術者は死神にくわれて死ぬ…ワシの命はもう尽きる」

「そんなっ!?」

「何…最後に弟子と一緒に戦って、里を守れた…嬉しい事じゃ…」

もう瞳は閉じようとしている。

「何とかならないのっ!」

「何とかと言っても…っ!封印術の代償では…」

アオでも手の施しようがない。

「どいてっ!」

「ハナビ?」

見ればいつもは隠している額から伸びた青白いチャクラがいつかのアオの様に幾何学模様に伸びていた。

「なっ…?」

その眼は青白く光っているよう。

ハナビはヒルゼンの胸に手を当てると何かを吹き込み、そして力尽きたように倒れた。

「ハナビっ!」

急いで抱きとめるアオ。

「ねえ、なんだったの、アオ。ハナビは」

「分からん…だが…」

白眼でヒルゼンを見るとか細いがチャクラが全身を回っている。

「これならしばらくは延命出来るかもしれない」

大蛇丸が去った事で一応この騒動は集束を見た。



三代目は生きてはいたが、この事件でいつまでも火影でいるには弱い。

そこでやはり新しい火影を選出する事になった。

候補は三忍の一人である自来也。しかしやはり自来也は固辞し、同じ三忍の一人である綱手を探してくると言う。

木ノ葉を襲った大蛇丸の策略は様々な傷跡を残し、しかし皆忍び堪えて復興へと向かう。


「この光景を見るのも二回目だな」

と木ノ葉の里の外延部の城壁に座って里を眺めながら独り言のように言う。

俺が記憶している一度目は九尾襲来での事だ。

「そう思うだろう?イタチ」

「バレていたか」

すっと俺の背後に音もなく忍び寄ったイタチが言葉を発した。

「お前のチャクラは覚えているよ。忍ぶつもりなら写輪眼くらい閉じておくんだな」

白眼の感知能力で警戒すれば来ていたのは分かっていた。

「お前ほどの相手にそれは油断だ」

「そうか?」

「イタチさん、この方は?」

と大刀を背負った魚のような眼をした大男が問いかけた。

「鬼鮫か…昔ちょっとな」

「あ、でもこんな所で見つかっちゃって目的が達成できなくなってもつまりませんし、私がやっちゃいましょうか?」

と言って大刀を握る鬼鮫。

「やめておけ。俺が殺しきれなかった男だ」

「イタチさんほどの人がですか?」

「ああ、それにコイツをやっても意味は無い。こいつは分身だ」

そう言うとイタチの写輪眼が鋭く光った。

「あらら、その眼…ますます冴えているね。まさか木分身(こいつ)を見破るとは」

「白眼のお前に褒められるとはな」

「だから、白眼を持ち上げないでくれる…?白眼は睨んだだけで相手を幻術に掛ける事も、視界を媒体にして炎を操る事もできねーって」

「この人、イタチさんの万華鏡写輪眼の事に詳しいみたいですけど、大丈夫なんですか?」

「……用心しておけ。分身と言えどコイツは油断ならん。使う忍術もどこかおかしなものばかりだ。邪道とはまさにコイツの為にある言葉だ」

「あらら、イタチさんがそこまで褒めるなんてね」

褒めてたのか…

「…イズミは元気か?」

「元気にしているぞ、それもスゲー美人になった。まぁ絶対に会わせないがな、さすがにお前に会ったら殺し合いになりそうだ」

「ふっ…そうか…」

イタチにどんな理由があったとしても、一族の…母親の仇である事実は変わらないのだから。

「このまま…」

とつぶやくイタチ。

「なんだい?」

「このままうちは一族の勇名を知る世代が居なくなれば、うちはは穏やかに生きられるだろうか」

と。

「サスケの子供辺りの時代には本気でうちは最初の火影となる時代も来るかもな」

「そうか…それは」

楽しみだ、と目を細めるイタチ。

「通すのか?」

「ん、ああ…きっとイタチは失敗する、と思っているよ」

木ノ葉に潜入しようとしているイタチを止めない俺に対しての言葉だ。

「…そうか」

「なぁ、もし…」

「なんだ」

さっきと立場が逆だな。

「俺がもし、もっとちゃんとお前と一緒に居てやれたら…他の選択枝があったと思うか?」

と言う問いにイタチはゆっくりと目を閉じて黙考。

「……いや、結果は変わらない。うちはは滅びる」

「…そうか」

と言う会話の後、木分身は鬼鮫の鮫肌にチャクラを削り取られて木偶へと変じた。


と木分身がイタチと会話している頃、本体の俺とイズミ、ハナビと共に三代目火影ヒルゼンの横たわる病室に呼ばれていた。

「久しぶりじゃな」

「先生、ちっちゃくなって」

「こら。アオっ!」

ボカとイズミがアオを叩く。

「ははは、よいんじゃ。ワシはもう引退を決めたし、自分の事は自分が一番良く分かっている」

生きている方が奇跡だと自分が一番よく知っていた。

「今日はお前達三人にこれを託したい」

と言って渡されるのは一本の巻物。

「巻物、ですか?」

とハナビ。

「ワシの火の意思は里の皆に確かに芽吹いておる…そっちは何の心配もしておらん。じゃからお主たちにはワシの術を託したい」

「術?」

とイズミ。

「ワシが生涯を掛けて研究してきた術の数々じゃ。3つもの血継限界を己で開発したお主たちならワシが集めた術も使えるじゃろうて」

ああ、バレてるよね…あの大蛇丸との戦いで灼遁と沸遁、木遁も披露している。

巻物を見る。

「これは…口寄せ契約の巻物?」

「猿飛一族の秘伝では?」

フルフルと首を振るヒルゼン。何か葛藤が有ったらしいがもう決めた事なのだろう。


「そこにワシの集めた術を残してある」

そこ、とは仙猿の隠れ里の事なのだろう。

「それを俺達にどうしろと?」

「伝え、継承していくことも先人の務め。ワシが集めた術をお前たちに託す。お前たちはいつかその弟子たちに託せ。良いな」

と言うヒルゼンの言葉に俺達三人は言葉は無く、ただ深く頭を下げるだけだった。

契約猿の逆口寄せで仙猿の隠れ里へと移動すると、飛雷神の術の術式を刻んだので後は好きな時に来れる。

この仙境は自然エネルギーで満ちていて周りには多種多様な猿が暮らしている。

姿かたちが猿と言うだけでその暮らしぶりはむしろ人間と遜色ない。

「ヒルゼンの頼みじゃから口寄せ契約自体は認めるがな、じゃからと言って皆が口寄せに応じる訳じゃないぞ」

と老猿の猿魔が言う。

「こっちじゃ」

そう案内された先には岩で出来た猿の形をした屋敷があり、その中に数多くの巻物が乱雑に置いてあった。

「…これ?」

とイズミ。

「わたし達の最初の仕事はお片付けと言う事ですか?」

ハナビも呆れたように言う。

「まぁ、そうなるだろうね…とほほ」

とりあえず、影分身で掃除をした後、巻物の中身を確認し分類する作業。あまりにも多い蔵書に終わるまでに一週間以上かかってしまった。

で、途中襲い来る猿共をちぎっては投げちぎっては投げと舎弟に下していく。

ぶっ飛ばすのは俺のなのだが、その俺がイズミとハナビに殴り飛ばされる光景で力関係を悟ったらしい。

イズミとハナビには最初から従順な態度を取る猿共だった。

「はぁ…はぁ…まさか仙術まで身に着けているとはのう」

とは最後に戦った猿魔の言葉。

「力は認めた。いつでも呼ぶが良い」

猿山のボスを降せばあとは楽だ。

 
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