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エターナルトラベラー

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外典 【NARUTO:RE】

…なんで…どうして…

と、この地上で生きているだろう最後の女性は月を見上げていた。

満身創痍で地面に転がってはいるが、見ればかなりの美人だろう.

しかしあちこち傷だらけで、また体の部位欠損も目立つ。

体はとうに動かせず、流れる血は止まる事を覚えない。

彼女達は負けたのだ。

この星の外から来た何者かに。ただ刈り取られる稲穂の如く搾取された。ただそれだけの事。

「どこで間違えたのかな…」

呟いてみても誰からの返事は無い。

「あの人がいれば…」

突然いなくなったあの人。幼かったわたしの初恋。あの人がいればこんな事態も何とかしてくれたのかな…


地上に残った最後の人の子よ。

「だ…れ…?」

声が聞こえた。空耳かもしれないが、いまわの際の声にしては妙に年より臭い声で、どこにもときめく所がない。

この結末を受け入れるか?

「そんな…わけ…ないでしょ…」

こんな結末、受け入れられるわけがない。

ならばどうする?

どう?そんなのわたしに分かる訳がない。

皆を生き返らせて?

生き返った所で勝てない相手だ。

敵を倒して?

今更だ。もう遅い。

だったら…

「時間…時間をもどして…」

時間を戻しても結果は大きく変わらないかもしれないぞ。

「あの人…あの人がいればきっと…」

ふむ、そこまで信じられるのか。ならば試してみるが良い。

「え……っ」

夜空に浮かぶ月が真っ赤に染まり、そこに同心円の波紋と勾玉が浮かんでいた。

聞くが、お主の言うあの人とはどうして居なくなったのだ?死か?

「死んだ…訳じゃ…ないわ…この世界からいなく…なったの…よ」

息も絶え絶えに答える女性。

ふむ、それはちと厄介じゃの…居なくなったとは…なるほど、この世界からか。

「時間を戻してもあの人が居なければ…意味はない…わ」

なるほどのぉ…ワシとも多少の縁もあるようだ。これなら魂の一部の口寄せも出来よう。

紅い月が輝きを増すと、辺りの景色が歪んでいく。

これが出来るのは一度じゃぞ。

二度目はないと老人の声が言う。

「たった一度でも…もう…一度…チャンスが…あるのなら…」

ならば行くが良い。

辺りの景色が巻き戻っていくようにその女性は感じた。

だが、その女性は知らぬ事だがそれは時間を巻き戻した訳では無かった。

月を利用して地球そのものへと幻術を掛けたのだ。

結果を否定し、都合の良い結果を選び取り、すべての者にそうと気づかせない幻術を。

それは地球が見る夢。一瞬の幻想なのかもしれない。

女性の意識はそこで途絶えた。


女性には見えなかったがそこには二人の人影が存在していた。

「ワシは異世界から口寄せせねばならぬ故、お主も力を貸せ、弟よ」

「分かりました。それと兄者、わたしはこの娘に己のチャクラを託そうと思います」

「なんと己のチャクラを…」

「はい…大筒木とは本来そう言う一族でしょう」

「じゃが、これが失敗すればどうなるか…」

「大丈夫でしょう。これだけこの娘にその者が信じる何かが有るならきっとやり遂げる」

「なるほど、ではもう一人はワシの番かのう…輪廻眼と転生眼がそろえばこの難事もどうにかなろう」

「では兄者、先に行きます」

「うむ、すぐにワシも追う」

二人はコクリと頷くと次の瞬間にはそこには誰も居なくなっていた。



……

………

「ここは…どこだ?」

古風な鎧を着た男が瀑布を臨む岩肌の上に立っている。

その左眼は紫に光っているようだ。

「ここは…」

………

……



目が覚める。

なんか夢の中に変な爺さんが現れて何かを頼まれたような…

そう世界を救ってくれ、大筒木を倒してくれと頼まれたのだが…

「いったいどう言う状況?」

まず、見渡した視線を覆いつくすのは瓦礫の山だろうか。

木や土の建造物が何か巨大なもので叩き潰されたかのように木っ端微塵に崩れ去っていた。

嗅覚にはおびたただしい血の匂い。

耳には阿鼻叫喚の怒号が飛び交っていた。

更に遠くからはズシンズシンとなにか巨大なものが蠢く音と獣のいななき。

「なんだ…?」

それは九本の尻尾を持つ狐の化生だった。

キーーン…

空気が甲高い音を響かせると、九尾の口元に集まる黒い塊。

「やばっ!?」

恐らくあれがこのあたり一帯の建造物を吹き飛ばしたのだろう。

放たれた黒い塊は射線上の建造物を破壊しつくし、しかり途中で何かに飲み込まれるようにして消え去った。

「いつまでもここに居る訳にもいかないか」

周りの建造物はいつ倒れてきてもおかしくない様相だった。

どうやら自分も奇跡的に助かってはいたみたいだが体あちこちを怪我をしていて移動速度を上げられない。

自然と周りの人々の惨劇も目に入ってくる。

「おとうさんっ!おとうさん、死んじゃヤダっ…」

その下半身は瓦礫に挟まり身動きが取れない男性をどうにか助け出そうとしている女の子が見える。

「イズミ、良いか…避難所に行きなさい。そして母さんを探すんだ」

「お父さんも一緒に…」

「お父さんは後で行くから、お前は速く…」

「イヤだ、お父さんも一緒に…」

「お願いだよ、イズミ。お前は生きてくれ…」

その時アオは瓦礫が崩れる音を聞いた。

マズイ…

と思った時には自然と体が動いていた。

痛む体を気力でねじ伏せ、女の子の手を引いて掛ける。

「だ、誰…やめて、お父さんがっ!」

アオが振り返った次の瞬間、瓦礫が崩れ去り男性を飲み込んでいく。

男性と一瞬合った視線はありがとうと言っているような気がした。

「おとうさんっ!おとうさーんっ…」

「…行くよ、ここは危ない」

「イヤだ…イヤ…イヤ…」

現実はどこまでも非情で、今のアオの体力では女の子の手を引いて案内される避難所に連れて行くのが精いっぱいであった。

避難所には大勢の人がひしめき合っていた。

少女は心細いのかまたは現実を受け入れられないのかずっとアオの手を握りうつむいていたが、事態が収拾した夜明け頃に探しに来た母親と再会。母親はお礼を言うと少女と一緒に避難所を出て行った。

アオはと言えば、服に刻まれた家紋と、記憶をなくす前のアオを知る人によって現状を確認。

名前は「小日向アオイ」と言うらしい。

背中に背負う様に刺繍された家紋は鯉マークのように見える。

年齢は六歳で来年度に忍術アカデミーに入学予定だったらしい。

両親はと言えばここ、木ノ葉隠れの里を襲った九尾によって死亡。天涯孤独の身の上となった様だ。

戦災孤児となった訳だが、そう言った子供にはまず忍者への道が示される。

再建された木ノ葉の里の外周部に再建され部落の片隅に一部屋設けられ春から忍術アカデミーに通う事になったようだ。


現状を確認しよう。

恐らく今の自分は影分身か分霊の様なものが実体を持った状態だろう。

年齢は六歳。性別は男。

ここは以前に生まれた事のある忍者の居る世界のはずだが、記憶には霞が掛かっていて良く思い出せない。

能力の確認をしてみよう。

リンカーコアを持っていないためか魔導は使えず、魔法も使えない。

持ち込めた道具は何もなく、ソルが居ないのが一番厳しい。

エクリプスウィルスやエネルギー分断能力はどうやら無いらしく、相手のチャクラ攻撃を無効にしてのカウンター等は出来ないと言う事だ。

神具は勿論、権能もほぼ失っている。

これは本当に困るのだが、写輪眼、万華鏡写輪眼共に失ってしまったようだ。

これには困ったが、仕方がないと諦める。

「この眼って…あとこの額の蒼い菱形の模様はなんだ?」

鏡で見れば蒼銀の髪の毛に薄紫の瞳孔。

「白眼…?」

そのワードだけどうにか記憶の底から引っ張りだした。

権能も無くしているが辛うじて自身の念能力に付随する権能は幾らか残っているのは救いだ。

その他、後発的に覚えられる技術はこれから覚えていく他はない。

とりあえず食没は早く覚えるべきではあろうか…

肝心の忍術についてはほぼ以前のまま使えている。

木遁が使えるのが一番助かる。あの術は大概便利だからなぁ…

とは言え、まだ子供の体。生成できるチャクラが少なく、大技は使えない。

まずはチャクラ量を増やす修行だろうか。


アカデミー入学初日。

皆、親と共に入学式を迎える中、一人で登校。

周りの子供達の視線は奇異なるものを見たと言った感じで、アオに両親が居ないと言う事を認識すらしていないのではないだろうか。

今年のアカデミーの入学生には名門の子供が複数入学しているらしい。

うちは一族や日向一族もその一つで、三人もの同世代が集う事は珍しいのだろう。

その一人、うちはイズミと言う少女がアオの目の前までおどおどと歩み寄って来た。

「あ、あの…」

どうやら自分に声を掛けたらしい。

アオはのそりと視線を向ける。

「わたし、うちはイズミ…よ、よろしく」

「あ、ああ。小日向アオイだ」

「アオイ…アオくんだね」

まぁいいか…

二人が会うのはあの時以来だ。

「それで、ね。お礼が言いたくて」

「お礼…?」

「そう。あの、あの時はありがとう。何もかも吹っ切れた訳じゃ無いけど、今はお母さんと一緒に何とか生活している。…だから、助けてくれてありがとう」

それが言いたかったの、と赤面するイズミ。

「ふぅん…小日向アオイくん…ね」

イズミと向かい合っていた俺に横から話しかけてきたのは長い髪を後ろで二つに括っている薄紫の虹彩をした少女だ。

「その眼…日向家の…」

「初めまして、わたし日向ハナビって言うの。とりあえず、お近づきの印に…」

なんだ…?

少女の顔がだんだんと近づいて…

「なっ!?」

その驚きの声は誰だったか。

むちゅー

幼女に唇を奪われたアオ。

「な、…何を!?」

「なんかやっておかないといけない気がして」

猫の様にした口に片手を添えてごめんごめんと笑うハナビ。

「あ…あなた…な、なんて事を…」

わなわなと赤面しながら震えているイズミがハナビを指さす。

「こういう事は先手必勝、早めに唾つけとかないと」

むっふっふーとハナビ。

「初めまして、わたしがあなた達の担任となる…」

一触即発の事態はしかし、教室に入って来たアカデミーの先生によって中断され、イズミもハナビもそれぞれの席に着席していた。

アカデミーの授業でアオが覚える事は何もないと言っていい。

影分身を置いてアオ本人はいつもアカデミーの裏山で昼寝をしていた。

丁度午前の授業の終業のチャイムが聞こえている。

「こんな所で授業をサボってたのねっ!」

茂みをかき分けて現れたイズミはアオを睨んでいるようだ。

「授業は今も受けていたはずだが、何故バレた?」

「わたしはうちは一族だもの」

そう言って閉じた瞳が再び開くと虹彩が真っ赤に染まり左右に一対の勾玉が浮かんでいた。

「写輪眼、か」

「そうよ。どう言う分身かはまでは分からなかったけれど、本体じゃないのは分かったわ」

「写輪眼は影分身を見切るか、厄介だなうちは一族」

「あなたも日向の分家でしょうに…」

ため息を吐いているイズミ。

アオ自身は知らなかったが小日向家は遠い昔に日向家から分かれた家系らしい。

「それで、もう一人のお客さまは?」

視線を木の上に向ければ照れたように飛び降りて来た少女。

「あら、バレちゃってた?」

「つけられたな」

「う、うそっ!どうやって…?」

驚くイズミ。

「そりゃわたしは日向一族だし?」

眼前で印を組むと眼の近くの血管が浮き上がり目力が増した。

「白眼、ね」

「そ、裏山の方へと歩いて行くイズミが見えたからね」

それよりも、とハナビ。

「アオくんはなんでこんな所に居るの?」

「うーん、サボリ?」

「「この眼にその嘘は通用しないわ」」

あ、ハモった。

なぜかバチバチとイズミとハナビがにらみ合っているが…

イズミは写輪眼で、ハナビは白眼でアオが微細なチャクラを纏っているのが見えているのだろう。

「…ぶっちゃけアカデミーの授業で覚える事は座学くらいしか無いからチャクラコントールの修行だな」

「チャクラコントロール…」

「アカデミーで覚える事が無いって…」

実際今の段階では精密なチャクラコントロールは教えられていない。

「わたしもアカデミーの授業にはレベルの低さを感じてたのよね。みんなレベル低いし」

流石に日向宗家のお嬢様はレベルが違うらしい。宗主の英才教育が伺える。

「だから、わたしもここで修行する」

「は?」

「ね、良いでしょう?」

「ちょっと待ちなさいよハナビ、授業はどうするのよっ!」

イズミがハナビを止めに入る。優等生のようだ。

「それはアオくんが使っている忍術を覚えれば良いんじゃないかな?」

「あの変な分身?」

「そう。たしか影分身、だっけ?」

「確かに、そうかもだけども…でも」

「わたしはイズミを誘ってないしー」

「む…わたしも、ここで修行するわっ!」

「え~」

「するのっ!」

「まてまて、俺は教えるなんて言ってないぞ」

その言葉にむくれたハナビはとんでもない事を言ってのける。

「む、教えてくれないとお父様にアオくんにキスされたって言うもん」

おい…

「まて、それは俺の命の危険なんじゃないか?日向宗家の娘さんにそんな事…ガクガク…」

「それと、その眼」

ハナビがビシっと指を指す。

「眼?」

「白眼を使えない日向家なんて恥しかないわ。訓練を見てあげる」

「とは言っても日向家の本家ではないのだが。それに本当に白眼か?いくら分家筋とは言っても小日向家はもう何代も白眼を発現出来ていないって聞いたぞ」

「要修行ね」

そう言う事では無いと思うぞ、とアオ。

「そう言う事で、よろしく、二人とも」

そうハナビがニコリと笑った。

「はぁ、仕方ないわね」

とイズミ。

笑ったハナビの髪が揺れるとその額に現れる菱形の模様。

「それって」

イズミがマジマジとのぞき込む。

「あ、これ。分かんないけど生まれた時から有ったんだ」

「アオにも有るわね」

イズミの視線がアオへと向いた。

「わからん。気が付いたら有ったな」

「これはもう運命ね」

「こら、ハナビ離れなさい、はしたない」

「だが、何なんだろうな、これ」

そう言ったアオは不思議そうにその菱形の模様を手でなぞった。


そんなこんなでまずは放課後にここで二人と修行をする事に。

アオの修行は先ず念法に基づいたもののためイズミは戸惑いてこずっていたが、ハナビは柔拳の修行が似たものなのかそれとも才能なのか、わりとすぐに会得したようだ。

その後ライバル意識を刺激されたのかイズミは根性で覚えたらしい。

その後影分身を覚えた二人はアオ同様、ほとんどの時間をこの裏山で過ごしている。

修行の内容はチャクラコントロールと体術が基本だ。

アカデミーで一年ほどたった頃、同じうちは一族で同い年であるうちはイタチがアカデミーを飛び級で卒業したと言う噂を耳にした。

「飛び級って言ったって一年は早すぎじゃないか?」

とアオ。

「そうね。でもそれだけイタチくんが優秀って事でしょう」

そうイズミが堅をしながら答えた。

「卒業の理由は高等忍術…禁術に指定されているような忍術…影分身を使っていたからだって言う噂よ」

噂と言うか、実際あれは影分身だっただろ。

「俺らはバレないようにしないとな」

「アオくんは卒業したくないの?」

とハナビが問いかけた。

「別に」

「別にって…」

「一族的な理由でアカデミーに通っているようなものだしな」

「忍者になりたいって訳じゃ無いんだ?」

「…どうなんだろうな。ただ、今すぐ卒業して忍者をやれと言われてもね。二人の修行を見ている手前ね」

影分身をしてアオはハナビと組手をしつつそう答えた。

「どうしてアオはそんなに多芸なのよっ!」

木刀でアオと切り結んでいるイズミが吠える。

「写輪眼を使って太刀筋を見切るのがやっとってどう言う事なのよっ!」

「写輪眼ねぇ、イズミのそれはまだまだだな」

「どう言う意味よ」

「基本巴にもなっていないって事。だがそれは悪い事じゃない」

イズミの木刀をいなしながら答えた。

「どう言う事…?」

「写輪眼の瞳力が強まるのは自己の喪失によるストレスが原因だ。つまり、写輪眼の動力が強い奴はより不幸な奴だと言う事だね」

「アオっ日向家分家のくせにやけに写輪眼に詳しいわね…恥ずかしくないの?」

「白眼は使える」

あの後、ハナビとの訓練で比較的容易に使えるようになった白眼。

写輪眼を失ったアオには心強い瞳術だった。

「バカにしてっ!」

「あ…増えてる…」

「何よっ!」

イズミの写輪眼の勾玉が一対増えていた。

「な、何でもない…」

まさか俺に敵わないストレスで写輪眼の瞳力が増すとか…普通考えないだろう?


アオ達が行っている修行の殆どはチャクラコントロールに割かれている。

「地味っ!」

そんな修行を続けていたイズミが爆発した。

「地味って…子供の内にあまり派手な術の修行をするより地味でもチャクラコントロールの修行をした方が将来役に立つよ」

「あなたも子供でしょうよ」

「でもでも、確かにアオが教えてくれた忍術って影分身と何故アオくんが知っているのか分からない奈良一族の影真似の術くらいだしね」

とハナビが言う。

ハナビは今手前に並んだ植木鉢にチャクラを送って花を咲かせる修行をしていた。

「この修行も意味が分からないし」

「意味が分からなくても意味はある。頑張れ」

「「えー…」」

イズミは足元の影を伸ばしたり縮めたりだ。

アオは二人に五大性質変化は教えずに、そうと知られないように陰陽遁の修行をさせているのだ。

陰陽遁の扱いはとうが立ってしまっては覚えるのに苦労する。それならば多感な子供の内に覚えさせてしまおうと思ったのだが、二人には理解してもらえないらしい。

だが、文句を言いつつも二人は真面目に修行をこなしていった。

アオはアカデミーの六年間をすべて地力の向上についあてていた。

イズミとハナビの二人が食没を覚えられたのは大きい。食費が家計に大ダメージを負わせる事にはなったが、チャクラ量を大幅に伸ばす事に成功した。


木ノ葉の里の火影室にで頭を悩ます老体がキセルを吹かして考えている。

「今期のアカデミーの卒業者の担当上忍のう…特にこの三人よ」

彼の机の前に三枚のプロフィールが並べられている。

「うちはに…日向の跡取りか…これは下手な担当は付けられぬな」

困ったと頭を悩ます三代目火影。

「そうじゃ」

ひらめいた、とヒルゼン。

「ワシの技術は自来也達をしてもすべてを教えられた訳じゃ無い。これはワシの最後の仕事になるかのう」



アカデミー卒業試験を無事に卒業し、班分けをされるとそれぞれ待ち合わせの教室に移動する決まりのようだ。

「アカデミーの卒業試験って分身の術だったんだ…」

と、何かやるせないため息を付くイズミ。

「と言うかまさかわたし達が一緒の班とはね」

いったいどう言う理由でこの組み合わせになったのか分からないが、下忍になってもどうやら二人との縁は続くらしい。

「わたしはアオくんと一緒で嬉しいな」

と言いつつ自然体でアオの腕をとるハナビ。

「こら、やめなさいハナビ、はしたない」

「え~羨ましいなら羨ましいって言えばいいじゃん」

「そう言う事じゃなくてっ!」

アオの意思は介在する余地もなくイズミとハナビのケンカに左右から挟み込まれてしまったアオ。

「青春しとるのぉ」

「だ、誰っ!?」

いきなり後ろから声を掛けられて声を荒げるイズミ。

「三代目様っ!」

振り向けばキセルを咥えたこの里の誰もが知る三代目火影、猿飛ヒルゼンの姿が有った。

「お主らの面倒はワシが見る事になった」

「「「…………」」」

余りの出来事に言葉を失う三忍。

「えっと、つまり…」

「どう言う事…?」

イズミ、ハナビ、今日が何の日か考えれば分かるだろ…?頭が痛いがようするに…

「察しの悪い奴らだのぅ。つまりワシがお前らの担当上忍という事じゃ」

「「えーーーーーーーーっ!?」」

なんかすごい人が担当上忍になったものだ…



まさかの三代目火影が担当上忍となったアオ達。

しかし…

「お前ら…教える事がほとんどないのぅ…」

アカデミーを卒業して最初にやる事は精密なチャクラコントロールの修行だったのだが…

「アカデミーに入ってからずっと寝てる間ですらチャクラコントロールに費やしてましたし」

とイズミ。

「アカデミーに入ってからずっと…のぅ…お前らのチャクラコントロールはそこらの中忍…いや、上忍でもそこまで上手くはないかもしれんのう」

はぁ…とため息を吐く三代目火影ヒルゼン。

「普通そこまでの力が有ったら火遁の修行とか水遁の修行とかのう…じゃが」

何かを思いついたのか一旦そこで言葉を切るとヒルゼンは言葉を続けた。

「チャクラコントロールの腕前は超一流、チャクラ量も多い上にその上何にも染まっていないのは好都合」

チャクラ量が多いのは食没を覚えているからだが。

「お主ら仙術を覚えてみる気は無いかのう?」

「「「仙術?」」」

三代目が腰に下げていた大巻物を広げると、そこに自身の血で名前を記す。

「口寄せの術っ!」

ヒルゼンが一匹の小山程の魔猿を口寄せすると伝言を頼むと煙となって戻った。

そしてしばらくすると何かに引っ張られる間隔と共に時空を跳躍。

「な、なに…ここ…」

「ど、どこよー!?」

戸惑いの声を上げるハナビとイズミ。

「ここは水簾洞、魔猿たちが集う仙境じゃ」

「仙境…?」

「ヒルゼンちゃん、良く来なすったのぅ」

「ヒルゼン…」

「………ちゃん?」

声の発生源を探して左右を見渡したが発見できず。

「ちゃん付けはよしてくだされとあれほど言っております」

ヒルゼンの視線を追えば地面にほど近い所にいる人間の子供ほどの猿がヒルゼンを子ども扱いで迎えていた。

「尊主さまはどこですかいのう?今日は少し頼み事がありまして」

「ヒルゼンちゃんはいつもそうじゃ。せっかちでいかん」

「すみませんのう…」

頭を後ろ手にして平謝り。

「何じゃ…」

振り返ったヒルゼンはほんのり頬に朱が入っていた。自分自身もやはり恥ずかしかったのだろう。

「「「…べつに」」」

余りにも衝撃にそう答えるのがやっとの三人だった。

案内された先に居たの赤子サイズの魔猿だった。

「尊主さま、ご無沙汰しております」

「ヒルゼンちゃんか。今日は何しにきたんじゃ?」

「ワシも久方ぶりに弟子を取りまして…しかし、この三人ちょっとばかり特殊でしてのう」

「なるほど、その齢で強大なチャクラを感じるのう」

この魔猿、アオ達が食没を使える事を見抜いたようだ。いや、ただ単純に内包する巨大なチャクラを感じ取っただけかもしれないが。

「ワシは下地は十分ではないかと思っとるのですが…なんせアカデミーに入って六年ずっとチャクラコントロールの修行ばかりをしていたようでして」

「ヒルゼンちゃんがそこまで言うのなら見てやらんでもないわい」

「ありがとうございます、尊主さま」

さて、仙術と言うのは体内のチャクラと大気や大地にある自然エネルギーを合一したエネルギーの事を言うらしい。

微細なチャクラコントロールが必要になる上に強大な自然エネルギーに負けないだけのチャクラ量が無ければ会得は難しいらしい。

石の上にあぐらをかき、自身を無の境地に置いて自然エネルギーを感じ取り吸引し合一する。

何の補助もない場合、普通は自然エネルギーを感じる所で躓くのだと言う。

だが…

「こりゃ驚いたわい…秘薬の補助もなしに」

「ワシもこれには驚いております」

スッと両目を覆う様に現れた朱色の隈取。

「完璧に練れている上、魔猿化もしておりませんのう…猿飛一族の誰もが成し得なかった仙人化をこうも容易く」

自然エネルギーとは魔素とほぼ同義で、仙術チャクラとはつまり輝力のような物だ。

リンカーコアを失って以来輝力は使えなかったが、種が分かれば難しくない。

これは嬉しい誤算だった。

アオには難しくないのだが…

「この…変態…」

「ふ…不公平…よ…」

イズミとハナビには難しいのか腕が紅い体毛で覆われている。

二人とも、油断していると顔が大変な事になっているぞ…

「とは言え、課題は多いな…仙術チャクラが切れるまでおよそ五分。これは修行で伸ばすにしても、自然エネルギーを集めるためには動けない」

動けないなんて倒してくださいと言っているような物だろう。

「まぁ、その為の金剛の術よ」

と尊主さま。

金剛術と言うのは自身の体を金剛の様に硬くしてあらゆる物質的干渉を弾く術で、その間に仙術チャクラを練り上げるのが基本のようだ。

しかしやはり基本的に動けないのは変わらないので。それでは困る。

仙術を使うにはもう少し考える必要があるな。

「ほんにお主は可愛げのない…もう少し苦労しろ、バカ弟子が」

「そんな事言われてもねぇ」

ハナビとイズミが仙術修行でてこずっている間、ヒルゼンには他の修行を見てもらっているのだが…

「これは四代目火影が残した術で螺旋丸と言う。チャクラコントロールに長けたお主なら出来るじゃろうて」

と言って見せてくれたのは右手の上で乱回転するチャクラの塊。

ごめん、それ既に出来ます…

やって見せるとさらにため息を吐かれた。

と言う事で四代目火影が残した術で彼を有名にした禁術を記した巻物を渡され放っておかれているアオ。

「もうお主など見てられん。これを渡すからあとは自力で会得して見せよ」

四代目以降誰も習得できていない飛雷神の術のようだ。

恐らくヒルゼンとしては出来ない事も有ると言う教えのつもりだったのだろうが…

「なるほど、逆口寄せの要領で自身を時空間忍術で飛ばす術か」

時空間移動の研究はせざるを得ない状況に居たアオにしてみれば術式が分かれば容易だった。

火影様の前でやって見せたら苦虫を潰したような表情をされた。なぜだ…

イズミとハナビが仙術を会得出来るまでには時間が掛かりそうだ。

だが、忍術、体術とも大幅に向上するこの仙術。…もしハナビが仙人モードになった上で柔拳で相手にチャクラを流し込めば相手は流されたチャクラをいなせずに爆発、もしくは猿化したのち石化する…なんて事になるのじゃないか?

日向は木ノ葉にて最強と言われているのも頷けると言うものか…



月が赤い夜だった。


アオ達も任務は簡単なもで、自主的に訓練場に集まって修行していた。

「やっはっ!」

影分身て組手をするハナビとイズミ。

イズミは一族の用事があると影分身を置いて帰宅していた。

「はっ!…ってあれ?」

その影分身がハナビの攻撃が当たる直前、突如煙となって消えた。

「っ!」

影分身での訓練もなれたもので、耐久地を見誤るほどではないハナビの攻撃前にイズミの影分身は消えてしまった。

「イズミっ!」

異変を感じたアオはすぐに飛雷神の術で飛んだ。


「結局集会には間に合わなかったか」

アオに呼び止められ時間を食った結果、集会はもう終わっていた。

速く帰ろうと急ぎ足で家へと向かう。

空を見上げれば月が真っ赤に染まっていた。

「いやな月…」

誰の気配も感じないその道に、誰かが動くかすかな気配。

イヤな予感にとっさに写輪眼を発動したイズミは音もなく着地したその誰かを発見した。

「イタチ…くん?」

イタチの顔は鬼気迫るものがあり、衣服は所々真っ赤に染まっていた。

「もう、お前で最後だ…」

「なに…を?」

「すまない」

「…え?どうして…」

自分に刃を向けるのか。

次の瞬間、イズミの目の前は真っ赤に染まる。

血が大量に噴き出していた。

しかし、それはイズミの血ではなく…

「…アオ…?」

「よう、イズミ…ちょっと飛雷神の術で飛ぶ場所を間違えちまった…ぜ」

イズミの目の前にはイタチの忍刀が胸に深々と刺さったアオの姿がそこにあった。



……

………

アオはイヤな予感がしてうちはの部落に居るはずのイズミに会うべく木ノ葉の里を駆けた。

そしてようやく見つけたイズミ。だがアオの目の前で彼女はイタチの凶刃に倒れそうになっていた。

そこからはもう何をやったのか、自分でも分かっていない。いや、本当は分かっている。飛雷神の術でイズミの目の前に飛んだのだ。

イタチの凶刃からイズミを守るために。

術式は幾度もやった模擬戦の際にイズミに気づかれないように写してあった。

「よう、ぶじ…か?」

「アオ…いや…いやぁ…何よ、これ…」

アオは背後に引き抜かれる忍刀を胸の手前で右手で握りしめると、抜けぬと悟ったイタチは忍刀を手放して距離を取る。

「どうしてだ」

間に入ればそうなると分かっていただろう?

「さて、な…そもそもそれは俺の言葉…なのだが…どうしてイズミを…?」

「イズミだけじゃない。うちは一族は滅びねばならない」

意味が分からない…

「逃げるぞ、イズミ…」

「アオ、その傷でどうやって…」

「逃がさないお前はここで死ぬ」

「しまっ…」

天照か、月読か。イタチの万華鏡写輪眼はどちらだとしても凶悪だ。

アオは再びイズミの前に割り込んだ。

「ぐぅあああああっ!!」

突如大声を上げた後地面に倒れ込み意識を失うアオ。

「イタチくん、アオに何をしたのっ!」

イズミの見上げた先に居たイタチの写輪眼は基本巴でなくなっていた。

「幻術、月読。この幻術は体感時間さえ操る。もうそいつが起き上がる事は無い」

アオの表情は虚ろになり、もはや生気が感じられなかった。

「アオ…アオっ…」

「無駄だ。最初の一撃がすでに致命傷。そこに月読で精神を殺した。もうそいつは死んでいる。お前の母親ももう俺が殺した」

無情なイタチの宣言。

「そんな…アオ…?おかあさん…っ」

「お前も二人と同じ所へ送ってやろう」

茫然とするイズミにあらがう術はなく…今度こそイタチはアオから引き抜いた忍刀で止めとばかりに振り下ろした。

キィン

忍刀とクナイのぶつかりあい火花が散った。

「お前、どうして」

イタチの驚愕。

「…っアオ?」

「精神は完全に死んでいたはずだ」

「さてな、そんな事は知らん」

「それになんだ…その呪印はっ」

アオの額にある菱形の模様から銀色のチャクラが体へと幾何学模様のように伸びていた。

「俺にも分からんが…好都合」

どう言う訳か調子がいい。

ついでに木遁…陽遁で活性化させた細胞が傷口をすでに塞いでいた。

「ふん」

「きゃあ」

しかしイタチは冷静にアオと刃を交えている為に使えない両手の代わりにイズミを蹴り飛ばし、ゴムボールのように弾かれたイズミはそこで気絶する。

「これでうかつに瞬身の術も使えまい」

瞬身の術がどこに現れるかさえ分かっていればイタチなそのタイミングで次こそアオを必殺するだろう。ゆえにイズミの所へは飛べない。

「これは…お前を倒すしかなくなったのか」

「ああ、だがお前に俺が倒せるか?」

手練れのうちは一族を皆殺しにしてきたイタチだ。下忍など本来相手にもならないだろう。

「俺は別にお前と敵対したい訳じゃない。イタチが何をどうしようと勝手だ。うちはの一族がどうなっても俺はどうとも思わない」

「なら」

「だが、イズミはダメだ。もう知り合っちまった、関わっちまった。だから…」

「そんな事でお前は命を捨てるのか?」

「まさか、だから引いてほしい。俺はまだ死にたくないしな」

「…それは無理だ」

「お前の肉親はどうした…両親は、弟はっ!」

「………」

「どうなんだっ!」

「サスケはこの里で生きていても問題ない。だがそいつは…イズミは無理だ」

「何か裏取引があったようだな。…だったら俺がイズミを守るだけだ」

「出来るのか、お前にっ!」

「かっこ悪く火影にすがってでも守って見せるっ」

「ならばまずこの俺からイズミを守って見せろっ」

「言われなくともっ!」

アオは思いっきりクナイを振りぬくと互いに距離を取りアオは印を組み始める。

「写輪眼に忍術は無駄だっ」

どんな忍術も即座にコピーして真似てしまう。

「だが、コピーできない忍術もあるだろう?」

陰陽遁のコピーは写輪眼でも難しい。だから…

「木遁・樹界降誕」

「なにっ!」

写輪眼でコピーした印を組んでも不発し、なおかつアオが発動した木遁により地面から巨木が乱立し、またしなるようにうねりイタチを襲う。

「木遁だとっ!」

さらに気絶するイズミをその根が完全に覆い地面の下へと姿をくらました。


「白眼っ」

そこへ白眼による透視と、仙術による感知でこの常人には見つけられないイタチの場所を探り当てる。

さあ、どうするよイタチ?こう離れていれば月読は効かない。

うねる根を操るとアオはイタチを拘束しようと操った。

だが…

斬ッ

巨木が何か巨大な剣で切られたかのように根元から伐採されてしまった。

「まさか…」

視線を向ければそこには巨大な剣を持った益荒男の姿が…

「須佐能乎…もう使えるのか…」

「ほう、これを知っていたか。なら…」

斬ッ

再び振るわれた十拳剣。草薙の剣の異名を持つだけはある。

再び振るった一振りで一重の巨木が薙ぎ倒された。

だが、相手の視界は塞ぎ、こちらは動かずとも時間が稼げた。

アオは両手を目の前で合掌させると隙を逃すまいと自然エネルギーを貯めていたのだ。

相手はうちはイタチ。今のアオの全力でも倒せるか分からない相手だ。油断はできない。

だが、この状態ならまだ須佐能乎は弱点があるっ!

アオは印を組み上げると再び地面に手を付いた。

「木遁・木人の術」

現れる巨大な木製の人型。大きさはイタチの須佐能乎と遜色がない。

形は須佐能乎を意識しまくった結果修験者のような形だが、これは仕方のない事だろう。

巨木にいびつな感じの修験者の上半身が巨木に彫られている感じだ。

須佐能乎と木人が組み合う。互いにその力量は譲らない。

「まさか、須佐能乎すら互角に封じ込めるとはな、だが…天照」

「炎遁だとっ!?」

悲しいかな木人は木で出来ている。生木は燃えにくいとは言え、相手の炎遁は特異であった。

燃え上がりその体積を減らしていっているが、まだすぐに力負けはしないだろう。だから…

イタチの足元から突如弦が伸びあがり、イタチの足に絡みつくと勢いよくしなり放り投げた。

「なっ!?」

放り投げられたイタチは須佐能乎から引きはがされて驚いている。

ヒュンと虚空に空気を割く音が響く。

クナイだ。

しかしイタチはその写輪眼の動体視力で見切り体をよじる。

それは陽動であったようで、クナイの影から現れる人影。そう、アオだ。

アオはここぞとばかりに駆けだし必殺の一撃を喰らわせるべく食らいつく。

アオの右手にはグルグルと乱回転するチャクラの塊。そう、螺旋丸だ。

「だが、甘い」

イタチも万華鏡写輪眼のピントが合った瞬間飛雷神の術で飛ぶよりも速くアオが燃え上がる。

「ぐあああああっ!」

「終わりだ」

「お前がなっ!」

カンッと真後ろの木に突き刺さったクナイには術式がマーキングされていて、それをめがけて飛雷神の術で飛んだアオの螺旋丸が迫る。

「何っどうして、本物だったはずっ」

飛雷神の術・二の段。

「そっちは木分身だ。それは写輪眼でも見切れねぇ」

「ぐはっ…」

そして螺旋丸に吹き飛ばされるイタチの体は何本かの細い幹をなぎ倒して巨木にぶつかりようやく止まった。

「ぐはっ…」

さらさらと巨木が枯れて散っていく。

「油断したね、まさか君がやられちゃうとは」

「誰だ…」

イタチのそばに現れた面の男に驚愕する。

「俺か…ふむ…俺は…」

「マダラ…何しに来た」

イタチが呼びかける。

「君の帰りが遅いから心配で見に来たんだよ。そしたら案の定ってね」

「…そうか」

「それで、目的は達したのかい?」

と言うマダラと呼ばれた男。

「ああ、だが最後にあいつに見られてな…」

イタチ…?

「なるほど。使えるやつが居る事には驚いたが、まぁ木遁使いが相手では仕方ないよ。だけど目的は達したのだろう?じゃあアイツは俺が処理しておこう」

「ヤバッ…!」

グンと幻術に掛けられた後に悠々と近づいて来たその男は何かの瞳術を発動したようでそのグルグルのお面に吸い込むようにアオの体は消え去った。

「さて、用事は済んだ。行くか」

「…ああ」

そうして木ノ葉を去っていくイタチとマダラ。

この日、うちはの一族はうちはイタチによる皆殺しで木ノ葉の里の歴史から幕を閉じる事になった。

二人が立ち去ってしばらくして地中から現れる蓮の花。それは花開いたかと思うと中から二人の人物が姿を現す。

気を失っているうちはイズミとさきほど吸い込まれて消えたはずの小日向アオだ。

「あぶな…木分身で良かった…じゃないと死んでる…絶対死んでる…」

吸い込まれて殺されたアオは精巧に出来た分身。木分身だったのだ。

「なんだ、あれは…瞳術か…?」

さて、と。

「とりあえずイズミを家に運ぼう。…ここに居ると面倒なことになりそうだ」

まぁいなくても面倒な事にはなるのだろうが。

だがその前に…

イズミの家に飛雷神で飛ぶ。

イズミが気を失っていて良かった。この目の前の惨殺死体を見なくて良いのだから。

「小母さん…ごめん。きっとイズミが必要になるだろうから…」

その真っ赤な瞳をくり抜いた。

「さて、後は…」

瞳の処理を終えるとアオは飛雷神の術で飛んだ。



うちは地区を見下ろせる塔の上に男が一人うちはの部落を見下ろしていた。

「くそ、間に合わなかったか…」

その男は何かを悔いているよう。

「だが、まだこれからどうなるか…」



……

………

「はぁ…はぁ…はぁ…」

今になって螺旋丸のダメージがじわりじわりとイタチの体を襲う。

実際、立っているのもやっとの状況だ。

「ふん、手痛い反撃を受けたと見える。まさかうちはの鬼をここまで追い込むものが居ようとはの」

「…ダンゾウ」

写輪眼で片方にだけ包帯を巻いた老人を睨みつける。

やはり自分の行動は根の者に監視されていたのだ。

それは良い。もともとダンゾウの計画に乗ったのは自分だ。

「まぁ、うちは一族の力は削がれた。これで里は事もなく進むだろう」

さて、とゆっくりとダンゾウはイタチに近づいた。

「じゃが、里を守るためにはうちはの写輪眼は有用だった。お前の万華鏡もワシが有効に使ってやろう」

「くっ…」

こいつに万華鏡は渡してはならない。

シスイの様にはなってはならない。

だが体が動かなかった。

「シスイと同じ毒で死ねることを幸運に思うが良い」

ダンゾウの後ろに居る虫使いが放った虫が遅効性の毒としてイタチの体を苛んでいた。

絶体絶命のイタチだがその時、空気が揺れた。

イタチの背後に突然現れたその男は状況を確認するや否や持っていたクナイでダンゾウの首を薙いだのだ。

「ダンゾウ様っ!?」

「天照…」

一瞬の隙をついてイタチは虫使いを焼いた。

「ぎゃぁあ…熱い…なぜ消えない…」

シスイの仇とイタチは動かぬ体でチャクラを練ると背後に控えた虫使いを天照の炎で焼いた。

「お前ら…」

二人目の護衛もイタチの背後に現れた男(アオ)によって絶命するまで一秒も掛からなかった。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

か細い息使い。イタチは仰向けに倒れ込み息をするのがやっとの様だ。

「…毒か」

「俺はもう死ぬ…なんならお前に殺されてやってもいい」

うちは一族を虐殺した自分の最後としてはお似合いだろうと。

アオは白眼でイタチの容態を見ていた。

毒の侵入経路、原因、etc

「良かったな、まだ死んでなくて」

アオは痛みもなく毒を注入されたであろう箇所に手を当てると念能力を行使。瞬間、イタチの時間が巻き戻る。

ついでに折れたあばら骨も綺麗に治っていた。

今のアオでもこれくらいの事は出来ていた。

「なぜ…」

一族を虐殺した俺なんかを助けたのか。

「俺は大切な物が結構狭くてね。うちは一族はどうでも良いさ」

「なら…」

「イズミは守れた。お前のやった事は許されない事かも知れないが、罰するのは俺じゃない」

「それはお前が強かったからだ」

「そうかもな」

「ダンゾウは死んだか…」

「一族虐殺に失敗したお前を追えば今回の黒幕に会えるかも知れないと思ったが、当たりか?」

そこで首を切り離されて絶命している男を見る

「ああ…うちは一族は里にとって脅威となっていた…そこで一計を案じたのがそのダンゾウだった」

うちはの手で一族を滅亡させる。それがダンゾウが計画した内は滅亡のシナリオで、里の他の忍に不信感を与えない方法だったのだろう。うちはの若い忍が一族に憤りを感じて虐殺した、と。



アオがイタチを最初に殴ったときにつけたマーキングへと飛雷神で飛んだ瞬間に見えた景色は、いかにもな男がイタチの眼をくり抜こうとしている所だった。

イタチを助けてやる義理は無いと言えば無いのだが、恐らくイタチを陰で操ったヤツがこの男であろうと瞬間的にクナイで薙いだ。

まぁ、違っても別に構いはしなかったのだが、その後イタチに聞けばビンゴのようだった。

イタチの体を巻き戻し、話を聞いてから再びダンゾウを見れば、その包帯に覆われた右目に巨大なオーラを感じた。

気になったアオはその死体の包帯を解きその右目を露出させる。

生気の失ったその右目。

「写輪眼か…それも万華鏡を開眼しているな」

「それはシスイの眼だ…ダンゾウに奪われてしまったな…」

「なるほど…どうする?」

「それはシスイの形見だ…俺にくれないか?」

「別に構わないが」

ダンゾウの右目をくり抜いたイタチは慚愧の念を漏らす。

「シスイ…俺は…」

「それで、イタチ、お前はこれからどうするんだ?」

「俺は三代目に念を押して里を抜ける」

これだけの事をしては里には居られないだろう。

「そうか…」

「見逃すのか?」

「殺す理由もない。だが、お前の人生はこれから辛いものになるな…」

「覚悟の上だ」

「ならば止める事はしないよ」



……

………

その帰り道、ひと際大きい屋敷に感知に掛かる生きている気配が一つ。

「弟は殺せなかったか…」

うちはイタチの弟、うちはサスケ。今は自失状態で倒れているが生きてはいるようだ。

イズミを連れて三代目火影を尋ねうちは一族が襲われたと伝え、出向いた暗部が凄惨な状況を三代目に報告。夜が明けるとうちは一族の虐殺は里人すべてが知る事となった。

このうちは一族の虐殺の首謀者であるうちはイタチは里抜けし、うちはの集落は解体、再開発されることになった。

クーデターが未遂に終わり、一族の殆どが殺害され生き残ったのは下忍一人とアカデミーに通うほどの子供が一人。

うちは一族はその殆どが一夜にして殺害され、警務部は解散、結果として里内の自由居住が認められた。


「ほら、こういう時は男の子の仕事でしょう」

とお見舞いに来たハナビがアオの背中を押す。

「苦手なんだよなぁ…俺」

「四の五の言わない」

ハナビに背を押されイズミの横へ。

「アオ…?」

「ああ…」

それからしばらく沈黙があって…

「お母さん、死んじゃった…」

「ああ」

「お父さんもいないのに、お母さんまで」

「ああ」

「うぅ…」

目元に涙をいっぱい貯めしかしそれでも泣くまいと上を見ているイズミ。

「俺は人をなぐさめる事は苦手だからさ、何かうまい事も言ってやれない。だけど…」

と一拍置いて続ける。

「イズミよりも長生きしてみせるよ」

「うぅ…ああ…ああああああああっ」

約束だと言えばイズミは振り返りアオを抱きしめるとわんわん泣いた。

泣いてすっきりしたイズミはようやく少しだけ前を見れるようになるだろう。



うちはの集落を出て環境を一変させたのも良い影響になっているのだろう。

新居は今はアオのアパートの隣の部屋だった。

その事もあってイズミは少しづつ立ち直って行った。

両親ともいないアオの存在を前に自分だけ不幸と嘆く事が出来なかったからだ。

「すまんかった。ワシの力不足じゃ…まさかこんな事になるとはのう…」

イズミを見舞った帰り、そう三代目火影は謝った。

「しかし、お主は余り気にしてないようじゃのぅ」

とヒルゼン。

「大切なものは守れたからね…でハナビはどうした」

なにやら少し剥れているよう。

「むぅ…落ち込んだアオくんを慰めてあげよう思ったのに」

「それは残念だったな」

「むぅ」

それより、と話題を変えたハナビ。

「イズミは大丈夫なの?」

「もう少しかな。外傷と違って心の傷は時間が掛かるからね」

感受性の高い子供の時分にあの虐殺をどう感じただろうか。

それでもふた月もすれば表面上は元通りになった。


「さて、順番がいろいろ逆になってしまったがそろそろ性質変化について教えようかのぅ」

とヒルゼン。

アオ、イズミ、ハナビは演習場でヒルゼンの言葉を聞いていた。

「やっと性質変化の修行…長かったわね」

イズミがようやくね、と言った。

アオにお預けを喰らって何年たったのか。

性質変化とは、自分のチャクラを火や水に変化させる忍術だ。

人にはそれぞれ得意な系統が一つは有るとされ、系統に沿った忍術の習得が望まれる。

チャクラ性質は特殊な紙にチャクラを流せば割と簡単に判明するため、自身のチャクラ系統を知らない忍者は少ない。

アオの場合得意なのは火と雷、それと風と言った感じだ。

「アオくんって三つも持っているのね」

そうハナビが言う。

「でも、アオって水遁使ってたよね?」

とイズミ。

「ぶっちゃければ俺はどの系統もそれなりに使えるからね」

「なんと、ズルい奴よのぅ」

ヒルゼンがため息を吐いた。五大性質変化のすべてを使えるヒルゼンが言っても説得力は無いが。

当然、うちは一族であるイズミは火の系統が得意で次点で風、ハナビは火と水のようだ。

「あれ、それじゃ初代様の木遁って?」

とハナビが首を傾げた。

「それは初代様の血継限界で水と土の複合属性と言われておるが、実際の所は分かっておらん」

血継限界はわかるな?とヒルゼン。

「えっと、補足すると木遁は水と土と陽の三種混合。ある意味血継淘汰に分類される」

「…なんでお主がそんな事を知っとるかのぉ…まさか…いや、お主ならもしかして…お主、木遁を使えるな?」

ふぃっとヒルゼンの言葉に視線をそらしたがそれで誤魔化されてくれる人間はここには居なかった。

「まぁ…出来ますね。木遁の術」

印を組むと地面から木々乱立した。

それを見た三人はため息を深くした。なんでだ…

「それで、忍術における印は補助装置であって、一種の自己暗示でもある」

そう言って組み上げたのは火遁・豪火球の術の印。

ボゥと口から火球を飛ばす。

「これがうちはの基本忍術、火遁・豪火球の術だ」

「なんであなたがうちはの基本忍術を知っているのかしらね」

イズミが写輪眼で印を見切り真似をする。

「火遁・豪火球の術」

だが、その火力は乏しく見るからに失敗だ。

「で、この印を増やす」

「増やすじゃと?」

増やすと言ったアオの言葉に流石のヒルゼンも驚いたようだ。

ゆっくりやっているのも有るが、それでも印の数が多すぎる。

まるまる二分ほどかけて数百の印を組んだアオは再び大きく息を吸い込んだ。

「火遁・豪火球の術」

ゴウッ

「同じ術…?」

「それにしては印が多いのぅ」

「覚えられた?」

「バカにしないで」

イズミに問えば出来ると答えがあった。

ゆっくり二分ほどかけて印を組み上げるイズミ。

「火遁・豪火球の術」

ゴウゥ

今度はきちんと大きな火球が飛び出した。

「え?」

「なんと」

驚きの声を上げたのはハナビとヒルゼン。イズミは声こそ出せなかったが驚いている。

「系統や素質と呼ばれるものに肩代わりさせているのを印で補っただけ。逆に言えば」

印を減らして息を吸い込むと再びアオは火を吹き出す。

「印の代わりを意思の力で代用すれば印も減らせる。まぁこっちは増やすよりも難しいのだけれどね」

「本当にかわいげの無い弟子だのぅ…」

ヒルゼンがついに遠い眼をして現実逃避している。

それからイズミは火遁を、ハナビは…柔拳使いとしては要らないと思うが水遁を練習している。

「ねぇ…」

「なんだ、イズミ」

「ううん、何でもないわ」

「そうか」

「あ、そう言えば」

と話題を変えたイズミ。

「あの時イタチくんが使ったあの写輪眼は…」

「あれか…うーん、知らない方が良い事もあるよ」

はぐらかすアオ。

「…今ははぐらかされてあげるわ。アオが言わない事ってきっとわたしの為だと思うから」

そう言う訳でも無いのだが。使える事が不幸なのだ、写輪眼は。


しばらく性質変化の修行をしていたのだが、ある日ハナビが何かに気が付く。

「あれ…もしかして自分のチャクラの性質を変化出来るなら纏ったチャクラに性質変化って乗せられる…?」

「出来るよ。すごく難しいけれど、出来ればかなり強い」

「アオは出来るの?」

とイズミ。

「得意って程じゃないけどね」

アオは印を組むと水と土と陽を練り合わせ纏わせる。

キラキラと緑に輝くチャクラを纏ったアオからは朝露に濡れる草木の匂いがしたような気がした。

「この木遁チャクラモードなら、どんな傷も一瞬で治るし相手の生命力の減衰何てことも出来るな。そもそも性質変化させた分防御力も上がっている訳で」

踏みしめた地面からは草木が成長しては枯れていた。

「ただ、結構チャクラを使うしコントロールが難しいんだよね。それと他の系統の術を使うのが難しくなる」

一度木遁用に合成しているのだから、再変換しなければならずロスも大きい。まぁ出来なくはないが。

その為アオ自身は余り好まなかった。無色な纏で十分なのだろう。

「もしかしてわたし達にチャクラコントロールの修行ばかりさせていたのってこれを覚えさせるため?」

「そう言う訳では無いが、出来れば良いな程度には思っているよ」

「お主の非常識はどこまで行くのかのぅ」

ヒルゼンはしばらく立ち直れそうになかった。




「アオの木遁は水と土、じゃあ私たちのは?」

「わたしは水と火だから…なんだろ」

イズミとハナビがチャクラモードの修行をしながら首を傾げた。

「火と風で灼遁、水と火で沸遁かな」

「灼遁?」

「沸遁?」

聞いた事ないと二人は更に首を傾げた。

「二属性の合一はそもそも血継限界と考えられている。まぁ、肉体の補助が無いと難しいと言うだけで絶対にできないと言う事じゃないけど…不可能なくらい難しい。だが…二人ならもしかしたら印の補助が有ればいけるか?」

散々、それのみを修行してきた二人だ。

「「やるわっ!」」

なぜか気合十分の返事が返って来た。

補助印を教えると二人はチャクラモードの修行に戻った。

「で、お主は何をやっておるのかのぅ」

とヒルゼン。

アオは紙を目の前にして筆を執り何かを描きながら試行錯誤していた。

「金剛の術に頼らずに自然エネルギーを動きながら集める術式を考えてる」

「はぁ?そんな事考えとったんかお主…で、出来そうか?」

「まぁ…要するに自然エネルギーを誘引、貯蔵が出来れば後はそこから引っ張り出して混ぜれば良いのだろう」

つまり常時自然エネルギーを貯めておくことで戦闘になってから集めると言う過程を省こうと言うのだ。

「理屈はそうかもしれないがのぅ…」

つまりアオは魔力を常時貯めておけるリンカーコアの様な物を作ろうと考えたのだ。

死門である心臓に陰遁で作ったチャクラプールを埋め込みそこへ常時自然エネルギーを取り込む。

取り込み過ぎては死んでしまうので、一定値以上は循環させつつ発散させなければならない。

「術式自体は完成しているんだ。だがこの世界…おっと、このままじゃ大きな呪印を背中にでも刻まなければならない。それだと俺はともかくハナビやイズミはかわいそうだろ?だから今は術式印の小型化を考えている所」

「…術式自体は出来ておるのか?」

「まぁ試した訳じゃ無いけど大体は」

「ほんに面白みのない弟子じゃのう…」

とは言え自然エネルギーの誘引を肩代わりさせる術式であり自然エネルギーその物を貯めておけるわけではないのでその都度合成しなければならないが、練り上げるスピードは格段に上がった。

この呪印は仙術を扱えることが前提だが、扱えれば効率よく自然エネルギーを集めてくれる。

ただし、呪印を回すのに一定の印を組まなければならないと言う安全装置とリミッターは組み込まざるを得なくなった。

しかも、呪印が外傷などで損傷すれば当然誘引は困難になり、無理をすればとんでもない事になってしまうだろう。

小型化した上で一番怪我をしない所へと刻むべきだ。

「お主のやる事は本当にとんでもないのぅ」

自然エネルギーの吸収を呪印に任せつつ仙人化したアオを見ていたヒルゼンが言う。

「まぁこんなもんでしょう」


さて呪印が色々な失敗を踏まえて小型化に成功したころ、イズミとハナビがチャクラモードを習得したようだ。

「灼遁チャクラモード、沸遁チャクラモードとでも呼ぼうか…と言うか、その状態卑怯じゃない?」

「そう?」

「かもしれないわね…」

イズミはツンとして、ハナビは困った顔をしていた。

イズミの灼遁チャクラモードに触れれば相手は水分を抜かれ死亡するし、そもそも鉄製の忍具などは体に当たってもダメージになる前に溶けてしまう始末。

ハナビの沸遁チャクラモードは蒸気による怪力無双の側面が付随され、しかもやはり触れれば蒸気に焼かれる。

柔拳と組み合わせれば相手は酷い事になる事間違いないだろう。柔拳で突けば肌が焼け、骨を砕き、ついでに内部まで破壊されるのだ。

正に二人とも攻防一体の戦闘形態だった。

「はぁ…くぅ…」

「ただ、まだやはり時間が続かないか」

「はぁはぁはぁ…」

二人とも肩で息をしている。

何もしていない状態で五分。戦闘しながらだともっと短いだろう。

まぁ、小型化も成功した呪印を刻み仙人モードになった上でチャクラモードになれば多少は伸びるだろうが、ここぞと言う時以外は使えそうにない。

カラータイマーの付いたウルトラマンのようだ。



今日も簡単な任務と修行に明け暮れたある日。

ピラリとヒルゼンから渡されたプリントに掛かれていた内容を音読する。

「「「中忍試験参加申込書?」」」

「もうお前たちに教える事は何もないからのぅ。さっさと中忍に上がってしまえ。…実力だけならそこらの中忍より確実に上じゃしのぅお前ら」

中忍試験の参加はスリーマンセルが基本だ。

俺だけ出ないって事はできないよなぁ…


今度の中忍試験は水の国、霧隠れの里で行われる。

あまり良い噂を聞かない忍里だが、外交的な折衝があったのだろう。

水の国に移動したアオ達三人。

「とりあえず、中忍試験で使う忍術を決めよう」

「はぁ?何を言っているの」

とイズミ。

「どう言う事よ」

そうハナビも問いかけた。

「中忍になるためには三次試験でのアピールが重要になる。だが、目立てば良いと言う訳じゃ無い。切り札を使ってしまえば俺達の技術は衆目にさらされいらない注目も集めてしまうだろう?」

「つまり、奥の手は隠したまま十分にアピールしろって事?」

「そう言う事だハナビ。そもそも中忍になるのに上忍クラスの忍術は必要ない。火遁・水遁・手裏剣術とハナビは柔拳で乗り切れば十分だろう」

「写輪眼は」

「写輪眼も白眼も有名すぎる。使っても問題ないな」

うちはと日向の瞳術は有名過ぎるくらい有名だ。

その家名を預かるのなら当然使えると思われているだろうし、使っても不思議ではない。

一次試験はカンニング前提のペーパーテスト。

二次試験はサバイバル演習場でのバトルロワイヤルのようだ。

少し広めの演習場内で互いを食いつぶさせる。

三日後に再び扉が開いた時に通過出来た者が通達人数以下なら合格。一人でも多ければすべての忍者が失格となる。

合格人数が決まっている為に隠れているだけでは合格できず、潰し合う事が前提のイヤな試験だ。

「何でわたし達の班狙いで他のチームが囲んでいるのよ」

と密林を逃げつつ白眼の索敵で相手の動向を探っているハナビが愚痴る。

「そりゃ中忍試験は生死不問。この試験の最中はどんなアクシデントがあろうとも許容される。つまり…」

「写輪眼の使い手が一人、白眼の使い手が二人、三人固まっているのだから殺して奪ってしまえば良いって事?」

「眼は六つ有るのだからね。分配も楽だろうよ」

六班18人に囲まれているアオ達三人。

所属里もバラバラだが、それでもと言う事なのだろう。

木々を揺らしながら逃げてはいるが…ハナビの白眼をもってしても逃げるには辛い。

「こうなったら仕方ない」

「どうするの?」

「ヤるしかないだろ…はぁ」

演習場の巨大な外壁を背に三人で三方向を警戒する。

「来るよ」

白眼での警鐘。

「とりあえず、俺がけん制がてら一発デカイのを入れるからその混乱に乗じて一気に畳みかける」

「わかった」

「おっけー」

ノリが軽いな、ハナビ…まぁいい。

印を組み上げ大きく息を吸い込んだ。

「その印教えてもらってないんだけど…」

そんな事を言っているイズミの横で巨大な火の玉が飛び出した。

「火遁・豪火滅却」

ボウッと吐かれる炎弾。その威力はすさまじく辺り一面を焦土に変えてしまうほどだ。

後ろは巨大な策で遮られ敵は前方のみに集中している。これほど効果的な場面も少ないだろう。

「「ぽかーん」」

「アオ…あなた…」

「やりすぎじゃないかな?」

「いいだろ…たぶん、それよりハナビ」

「うん。1、2、…残ったのは6人ね」

白眼ですぐさま状況を確認するハナビ。

水遁で威力の軽減が出来た者、土遁で地面に潜って助かった者、様々だがこれだけ数が減らせれば後は個々で何とかなるだろう。

まずは一番近くに居た下忍をハナビの柔拳が襲う。

「八卦四掌」

「ぐあっ!」

的確に点穴を封じられ、しばらくはチャクラをまともに練れないだろう。

「写輪眼」

イズミは写輪眼を発動しての手裏剣術で敵を遠距離のまま仕留めて行く。

アオは地面に潜っている敵を感知すると、右手にありったけのチャクラを集めて叩きつける。

「はっ!」

ドゴンッ

「がぁあっ!?」

ひび割れ隆起した地面に挟まれ相手の忍者はリタイア。

地面に潜っているから有利とは限らない。

これで三人、残った三人もハナビの八卦空壁掌で吹き飛ばし、イズミの火遁・豪龍火の術でリタイア。

残った一人は既に戦意を無くしていたが、アオが遠当てで意識を刈り取っておいた。

一応全員ギリギリで死んではいない様だが、殺しに来た相手を介抱してあげる義理は無い。野生の動物に食われてしまうかもしれないが、それも中忍試験だ。

その後、やはり何チームかで纏まっての襲撃を撃退し、三日後。

「つかれたー」

「何でわたし達ばかりこんなに狙われなければならなかったのよ」

「ま、有名税って事ね」

開かれた門を潜れたのはアオ達1チームのみだった。

アオ達の眼の強奪を命令したであろう他里の上忍の視線が痛かったが、逆にアオ達の実力を示したことでこれ以上の暴挙には出られない様だ。

この結果にアオ達三人の中忍試験合格と三次試験の中止が決定された。

木ノ葉の里の忍しか居ない三次試験でどうやって里の威信を背負えと言うのだろうと言う事だろう。


「中忍昇格おめでとう」

三代目火影のおごりで焼肉となった昇任祝い。

値段は張るが今木ノ葉の里で一番おいしいと評判の店だ。

入荷する牛の飼料にまで気を使っている酪農家と専売契約しているらしい。

「ありがとうございます」

肉の焼け具合を確かめつつそぞろに返答するアオ。

「それでのぅ…」

「まて、ハナビ。それは俺が育てた肉だぞっ」

「所詮この世は弱肉強食なのよ」

「ご飯を片手にお前のは焼肉定食だろうがっ!」

「何やっているんだか…この二人は」

「はぁ、お主らはもう少しワシのありがたい話を聞く気は無いのか」

と言う言葉で三人の視線がヒルゼンに向いた。

「まぁ良いかのう。とりあえず、お前たち三人はめでたくワシから卒業したと言う事じゃ。明日からはワシはまた火影室に缶詰めじゃな」

「あ、うん」

「りょうかーい、それよりそっちの肉もういいんじゃない?」

「それはわたしが育てた肉よぉっ!」

既に焼肉による合戦に夢中で聞いてない三人。

「はぁ、真面目な話ワシにはもうお前たちに教える事は何もないからのぅ…自来也達とは違ったこの何とも言えない感じは何とかならんのかのう…」

などと一人お酒片手にしんみりしているヒルゼン。

実際、ヒルゼンは既にこの三人が自分の手を必要としていない事を実感として感じていた。

ヒルゼンが彼らにしてあげれたのは少ない。

仙術を教えられたのは大きい功績とも言えなくはないが、彼らの成長はヒルゼンの想像を超えていた。。

何よりアオだ。これほどの天才は見たことが無い。

「火の意思は芽吹く…きっと大丈夫じゃろうて」

 
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