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イベリス

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第八十八話 合宿を過ごしてその九

「それだけじゃね」
「駄目で」
「馬鹿はね」
 そう呼ばれる者はというのだ。
「また別でしょ」
「学校の勉強云々ね」
「もっと人間としてね」
 この立場でというのだ。
「どうかでしょ」
「人間ね」
「常識がわかってるとか思慮分別があるとか」
「そういうことね」
「頭の回転やキレもかも知れないけれど」
 そちらを見てのというのだ。
「けれど学校の成績はね」
「それで頭がいいか」
「そうはね」 
「言えないってことね、そういえば」
「そういえば?」
「思想家でも馬鹿は馬鹿ね」
 吉本隆明のことを思い出して言った。
「正直言って」
「そうでしょ」
「ええ、戦後最大の思想家って言われても」
「その人もいい大学だったりするでしょ」
「東京工業大学よ」
 このことは本当のことである、実は吉本は理系の名門と言われるこの大学の出身なのである。そうして働きつつ思想家として知られる様になったのだ。
「あちらよ」
「かなりいい大学よね」
「そうよね」
 咲もそれはと答えた。
「まさに」
「けれどね」
「それでも馬鹿かって言うと」
「馬鹿でしょ」
「ええ、本当にね」
「いい大学を出てもそうなのよ」
「そうね、それで思想家として持て囃されても」
 吉本がそうされていたことは事実である。
「それでもね」
「思想家って頭いいか」
「いや、馬鹿な人はね」
「やっぱり馬鹿でしょ」
「馬鹿過ぎて」
 それでというのだ。
「どうしようもないね」
「そうした位よね」
「ええ、思想家でもね」
「馬鹿は馬鹿ね、もう常識とか分別がないとね」
 そうであるならというのだ。
「馬鹿でしょ」
「そうなるのね」
「だから東大法学部出てね」
 同級生はまたこの大学のこの学部の話をした。
「弁護士になって政治家になっても」
「常識がないなら」
「それで思慮分別がないならね」
「馬鹿なのね」
「思想家もね」
 こちらもというのだ。
「そうしたものがないとよ」
「馬鹿なのね」
「どれだけ持て囃されていても」
 知識人達にだ、吉本はそうした立場の者達に支持されていた。そうして戦後最大の思想家と言われる様になったのだ。
「それでもね」
「馬鹿なのね」
「そうしたものだと思うわ」
「そういうことね」
「私それがわかったのは」
 それがどうしてかというと。 
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