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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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六十九 形勢逆転

銀色の鱗が曇天に輝く。
巨大な尾が水面を叩けば、ぱっくりと裂けた水の割れ目から水飛沫が弾け飛んだ。


天を衝くほどの巨大な大蛇。廃墟でとぐろを巻くその様は怖ろしいようで、いっそ神秘的にも見えた。
純白の長い尾を翻すたびに銀色の鱗が曇天に煌めく。
崩壊した塔が沈む湖に真っ白なその身をくねらせている幻想的な光景。


もっとも命の取り合いの真っ最中である彼らにとっては、美しくもなんともなく、ただの戦場に他ならない。



大蛇丸が口寄せした巨大な白蛇。
その尾の上を足場にして走り抜ける。
自分の身体を駆ける不届き者へ蛇が口をカッ、と開けた。裂ける口から垣間見える長い舌先が不届き者を捕らえようと襲い掛かる。

その攻撃から身を捩って回避するも、避けた矢先に蛇の主人がクナイを投擲。
数本一斉に放ったソレらを回避するのは、ペインと名乗る男達。
最初は六人だった彼らの数は、今や三人に減っていた。


ひとりは自来也に斃され。もうひとりは不意打ちで大蛇丸の蛇に喰われ。
三人目は口寄せ動物の透明化を見抜かれ、大蛇丸の【万蛇羅の陣】の数多の蛇が咥えた刃物で串刺しにされる。


雨隠れの里で神と崇められるペイン。されど神は現在、ただの人間に圧されていた。
否、ただの、ではない。あの三忍のひとり───かつて“暁”メンバーだった大蛇丸の参戦で戦況は一変していた。


(…これほど苦戦させられたのはいつぶりだろうな…)


キラキラと輝く蛇の銀色の鱗。その輝きの中に、ナルトの髪の金色が一瞬思い浮かび、常に無表情であるペインの唇が僅かに緩んだ。
それが隙を生んだのか。

動く足場を駆け抜けクナイを避けるも、続け様に大蛇丸から放たれた強烈な突風に吹き飛ばされる。
【風遁・大突破】で空中に放り出された三人のペインは、着地しようとした蛇が突然消えたことで足場を失った。


浮遊。

「「「……ッ、」」」



足場にしていた巨大な蛇の口寄せを、大蛇丸が突然解いたのだ。
新たに口寄せした大蛇の頭上にちゃっかり乗って、落下するペインを大蛇丸は見下ろした。
彼の傍には、ペイン達との戦闘で力尽きた満身創痍の自来也が横たわっている。

足場を失い、当然墜落するペイン三人。
落下中の彼らに向かって大蛇丸は容赦なく追撃する。

「【潜影蛇手】!」


大蛇丸の袖口から飛び出した多数の蛇が落下中のペイン目掛けて牙をむく。
普通ならば空中で身動きできない相手には回避不可能の攻撃。


……───そう、普通ならば。



「な、に…っ!?」


弾かれる。
空中で重力に逆らい、逆に自身に向かって飛んできた蛇達に、大蛇丸は眼を見張った。

完全に当たると狙っていた攻撃を弾き返されるとは予想外で、反応が遅れる。
牙をむいたまま、いきなり弾き返された蛇達はそのまま勢いよく、主である大蛇丸に噛みつこうとした。
が、すぐさま【口寄せの術】を解いた大蛇丸によって事無きを得る。



「ま、そうよね。そう易々と屠らせてはくれないわよね、神様とやらなんだから…」


【神羅天征】で空中からの蛇の攻撃を届く前に弾いたペインのひとり。
彼の機転で他のペイン達も無事に、今や湖と化している地上に降り立っている。

雨隠れの里で神と呼ばれる男達を、高い蛇の頭上から見下ろして、大蛇丸は軽く肩を竦め。
「でも安心してちょうだい」といっそ穏やかに微笑んだ。


「───神狩りの時間はまだ始まったばかりよ…!」


直後、蛇が突撃する。
大蛇丸の乗った蛇の猛攻を避ける為、三人のペインは大地という名の水面を蹴った。

今や湖と化している戦場が高い水飛沫を撒き散らす。廃墟のあちこちでで湧く水柱に、巨大な蛇の鱗が美しく映った。
再び蛇の尾の上を足場にして大蛇丸へ接近戦を仕掛けるペイン達。
意識を失ったらしく、ぐったりしている様子の自来也を視界の端に捉え、ひとりが無表情のまま、大蛇丸を煽った。


「お荷物を抱えたまま我ら神に勝てるとでも思っているのか」
「…やれやれ。仮にも師匠でしょうに。随分と薄情なお弟子さんだこと」


かつて弟子だったにもかかわらず自来也を荷物呼ばわりするペインに、大蛇丸は苦笑を返す。
そうして、やにわに印を結ぼうとした。
いや、術を解こうとしているかのような大蛇丸の指の先を、ペインは先読みする。

再び足場を失わせるつもりか。

【口寄せの術】を解除して蛇を消し、足場を失わせようとしているのだろう、とすぐさま着地できるように三人は身構えた。体勢を整える。


「芸がないな。同じ手を二度も喰らうわけあるまい」
「でしょうね」


ペインの言葉に被せるように大蛇丸は嗤った。
てっきり先ほどと同じように蛇の口寄せの術を解除すると身構えていたペイン達は拍子抜けする。

大蛇丸が乗る大蛇の口がカッ、と大きく開いた。
そこから覗き見えるのは、鋭い牙…ではない。


「使うわけないじゃない」


瞬間、蛇の口から伸びる蛇ではない何かの舌が、ペインひとりを捕らえた。
伸縮性のある舌先が、ペイン一体の身体を絡めとる。
そのまま引き寄せられたペインは、蛇の口の中に潜む別の動物と眼が合った。


「蛇の中に蛙だ、と…!?」


巨大な大蛇の口の中。
其処に隠れ潜んでいた蛙の舌が伸縮自在にペインを引き寄せる。

かと思いきや、蛙の中に更に潜んでいた存在が、外へ躍り出た。
その姿に、ペイン全員の眼が驚きに見張る。

残った三体のペインの視線の先で、大柄な身を軽やかに翻す。
蛙の舌で勢いよく引き寄せたペイン目掛けて、白髪の男はチャクラを圧縮した玉を放った。



「───【螺旋丸】!!」









撃ち込まれる。
腹にクリーンヒットしたペインの顔が歪んだ。

力を振り絞って逃れようとするも「させないわよ」と大蛇丸が指先をピッ、とペインへ向ける。
途端、袖口から放たれた蛇が逃がさんとばかりにペインの身体を縛り付けた。

【潜影蛇手】の蛇で身動きできないペインの身体目掛け、【螺旋丸】が炸裂する。
吹き飛ばされ、再起不能となったペインを見届けた存在は、巨大な大蛇の上で下駄を打ち鳴らした。


「「自来也…ッ!?」」


吹き飛ばされた同胞よりも先に、戦場に復帰したかつての師の名を、残りのペインが驚愕と共に呼ぶ。


完全復活した自来也。
白髪をたなびかせる自来也の背後で、蛇の口の中に潜んでいた蛙が白煙と化す。


「呑み込ませないように苦労したわ~」と軽口を叩いた大蛇丸に、自来也は「わしはいつ喰われるかヒヤヒヤしたぞ…」とげんなりした顔つきで、大蛇の頭上に佇む大蛇丸を振り仰いだ。

不意打ちでペイン一体を蛇に喰わせた後、大蛇丸は【万蛇羅の陣】を発動させた。その蛇の荒波に流されたのは、ペインだけではない。


大蛇丸の本当の目的はふたつ、あった。


ひとつは、蛇の群れに紛れ込ませ、満身創痍である自来也を医療忍術に長けた者のもとへ秘かに送り届けること。
即ち、この戦場付近で気絶したサスケの傍にいる人物───アマルに自来也を治療させることが大蛇丸の狙いだった。

アマルは元部下とは言え、大蛇丸に忠誠を誓っているわけではない。
甘言で無理やり綱手の弟子であったアマルを此方側へ引き摺り込んだだけだ。

けれど暫しカブトの助手をしていたアマルを傍で観察していた大蛇丸には彼女の性格が手に取るようにわかる。
負傷を負ったサスケを蹴り飛ばしたペインの味方を、医者の端くれだと名乗るアマルがするはずもない。
なし崩しにサスケと共に『暁』へ入らざるを得なくなった彼女に、ペインへの思い入れなどなく、むしろ今は憤りだけを感じているだろう。

綱手から離れたとは言え、彼女の医者としての誇りを十分理解している大蛇丸は、だからこそ自来也を治せるのはこの場においてはアマルしかいないと思っていた。
息も絶え絶えの患者をいきなり目の前に放り出されては、医者としては治すしかあるまい。
更には見覚えのある相手だ。

かつて綱手を捜索する旅に訪れた波風ナルと友達になったアマルは当然、自来也とも面識がある。
今すぐに治療しないといけない相手、しかも面識ある存在を治さないという選択はアマルには無かった。


案の定治療を施してくれたアマルのおかげで意識を取り戻した自来也は、すぐさま蛙を口寄せした。
口寄せした蛙の口の中に潜み、大蛇丸のもとへ向かう。
そうして足場を失い、ペイン達が落下している隙に、新たに口寄せしていた大蛇丸の蛇の口の中へ蛙ごと隠れ潜んでいたのである。

【螺旋丸】で退場したペインが身動ぎしないのを確認して、自来也と大蛇丸は口を揃えた。





「「これで…!残り二人…ッ」」






大蛇丸の傍らで気絶していた自来也の身体がぼうんっと白煙となって消える。
影分身を変化させて自来也が戦闘不可であるように見せかけていたのだとようやく気づいて、最初は六人だったペインは、ふたり、苦虫を嚙み潰したように三忍ふたりを仰いだ。


「これでようやく…」
「五分と五分…じゃのうっ!」


蛇の尾を滑るように駆け抜ける。
口寄せした蛇を従えてペイン一体を追い込む大蛇丸と、長い白髪を術で自在に操り、もう一体のペインを追い詰める自来也。

双方は注意を敵に向けながらも、考えることは今、この時、一緒だった。


(何年ぶりかのう…コイツと一緒に闘えるのは)
(癪だけど、私と肩を並べられるのはコイツしかいないわね)


互いに互いの弱点を補い、長点を活かし、阿吽の呼吸で共闘する。
それは長年インターバルがあったようにはとても思えないほど息が合っていた。

ペインと攻防戦を繰り広げていた自来也と大蛇丸は、隙を見て背中合わせになる。
周囲を警戒しながら大蛇丸は「死体をよく扱っていたからわかるのよ」と小声で囁いた。


「あれは生きてる人間じゃないわ」
「お前も気づいたか」


ペインに潰された喉がアマルのおかげで治った自来也もまた、大蛇丸の意見に同意する。
だがその返事が思いもよらないものだったのか、大蛇丸は「あら。気づいてたの」と無遠慮に驚いてみせた。


「綱手ならまだしも、鈍感なアンタのことだから全く気づけてないと思ったわ」
「わしを馬鹿にしすぎだのう!……大体、綱手とてわからんぞ。ああ見えてアイツも抜けてるところがあるからのう」

鈍感呼ばわりされ、唇を尖らせる自来也に、大蛇丸は呆れたように頭を振った。


「アンタそれ、綱手に言ったら昔みたいに腹パン喰らうわよ」
「…綱手には黙っておいてくれ。またアバラ折られるのは勘弁だのう」
「また、って最近もアバラ折られてるわけ?いつか胴体に穴開くわよ」
「……その前に上半身と下半身が分断されるかもしれんな」
「………………綱手ならありえるから怖いわね」


背中合わせで軽口を叩き合う。
ペインからの攻撃を避けながら、自来也と大蛇丸は「とにかく」と血の気の通っていないペインの残りの面々に視線を奔らせた。



「本物は」
「此処にはいない」



同じ結論に辿り着く。

ならば本物の“輪廻眼”の所有者は別にいるはず。
遺体を遠隔操作できるならば本人は安全地帯にいる。だがそう遠くにはいないだろう。
この里内部には必ずいると踏んで、だからこそ大蛇丸は【万蛇羅の陣】を仕掛けた。



あの術最後の目的であり、最大の狙い。
それは…───。



【万蛇羅の陣】は数多の蛇を口寄せする術。夥しい数だが、蛇単体の強さはそうでもない。
要するに数の暴力だ。だが、大小種類を問わず様々な蛇は数だけは多い。

当然、小柄な蛇は建物内への潜入捜査などお手の物だ。
崩壊した塔だけでなく周囲の建物へ侵入し、内部を探り、主である大蛇丸へ情報を伝える。

そしてあわよくば───。




「本物の神とやらを焙り出してやろうじゃないの」


大蛇丸が薄く嗤う。
同時に、戦場から遠く離れた塔の上で、【万蛇羅の陣】で呼び出した中でも最も小さな存在が、静かに主に従っていた。
























暗い塔。
人っ子ひとりおらず、人の気配もない。
外で降り続ける雨音だけが、まるで水琴窟のように、深く深く響き渡る。


その雨音に雑じって、シュルシュル、音もなく、ソレは床を這った。
足音も立てないソレは、目的の存在を見つけると、静かに身を捩らせて登り始める。


そうして、対象の首筋へ音もなく牙を突き立てようと、鎌首をもたげた。
毒が滴るその牙を。







ペイン六道を操る“輪廻眼”の所有者───即ち本物の…長門へと。


















































「おい、シカマル」


奈良一族しか出入りを許されぬ森。
そこで焦土と化した土を掘り返していた奈良シカクは己の息子を手招いた。

怪訝な顔をしつつも「なんだよ」と父のもとへ向かったシカマルは、シカクの今更ながらの質問に、ただでさえ目つきの悪い双眸を更に鋭くさせる。

「おまえ、あの『暁』の連中には逃げられたんだよな?」



今でこそ生きているとわかったが、当時死んだとされた師であるアスマの敵討ちをする為に、シカマルは『暁』の不死身コンビの片割れを、此処、奈良一族のみが出入りできる森へ追い込んだ。
そこで生き埋めにした飛段は、得体の知れないフードの人物に救い出され、結局は取り逃がしてしまう。
アスマが生きているとわかった今になっても思い出したくない失態だ。

現在はその苦々しい思いを噛み殺して、森の後始末をしている最中である。


地中深く埋めた飛段を助ける際、フードの存在が森の一部を焦土と化したからだ。奇跡的に森に棲まう鹿は一匹たりとも死んではいない。
むしろ、奈良一族にしか心を開かないはずの鹿達が警戒心を抱かずに焦土と化した森の一部へ足を運ぶ奇妙な光景が広がっている。

普通は警戒して近づかない場所なのに、まるで誰かがいた名残を惜しむかのような鹿の行動には、奈良一族全員が首を傾げていた。


とにかくも、飛段を生き埋めにした戦闘の痕跡をいつまでも森に残しておくのも忍びない。
そこで現在、奈良一族総出で後始末をしている真っ最中なのだ。


そんな時にシカクに呼ばれたシカマルは、父に促され、掘り返された地面を見下ろす。
そうして、顔色を変えた。


「じゃあこの奴さんは…」


飛段を埋めていた地面だけでなく、どうせなら周囲の土も掘り返そうとした結果、見つけたソレに絶句する。
険しい表情を浮かべるシカクの視線の先を追って見つけた───見つけてしまった。


思いもかけないソレに、シカマルは言葉を失う。
困惑する息子に代わり、シカクが冷静に、当然の疑問を言葉に紡いだ。



「───どこの仏さんだ?」















ソレは、死体だった。

飛段でもなく『暁』の誰かでもない。
その証を抱いて、物言わぬソレは地中に横たわっていた。

額にかけられていたのだろう。
すっかり汚れて錆びた木ノ葉マークの額当てが、むなしく死者の身体に纏わりついている。





粉うことなき───木ノ葉の忍びの遺体だった。
 
 

 
後書き

大変お待たせしました…!!二月って短い…(泣)
本当は最後の場面は前回追加しようかと思っていたのですが、新年早々不穏な終わりもな~と思ったので、今回の話にしたところ、どちらの場面でも不穏な感じに終わってしまいました(汗)

最後の木ノ葉勢の場面は、今までずっと張っていた伏線をようやく回収する序章になります。
三忍ふたりVSペイン戦と同時進行で申し訳ないですが、どうかご容赦くださいませ。
戦闘描写が上手く書けなくて本当すみません…未だに下手ですん(涙)

これからもどうぞよろしくお願いいたします!! 
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