展覧会の絵
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第十六話 最後の審判その十二
その十字にだ。和典は知らないまま述べた。
「悪人っていうからにはね」
「悪だっていうのかな」
「うん、悪いことをするからね」
悪と同じではないかとだ。十字に言うのだった。
「そう考えられるだろうからね」
「ではいいんだね」
「うん、いいと思うよ」
こう十字にまた言った。
「というかね。悪を憎まないと」
「世の中は成り立たないね」
「いいことしないと駄目だからね。それに」
「それに?」
「悪人を何とかすることもやっぱりいいことだよ」
「そのことは確信しているよ」
だからこそ何の容赦もしないのだ。十字の冷徹さと残虐さの根拠にはそれがあった。神、そしてキリスト教に対する絶対の信仰があるからだ。
それ故にだ。彼は和典に答えるのだった。
「正義とはね」
「悪人を懲らしめることでもあるよね」
「懲らしめる。それはないね」
少なくともだ。十字の中にはだった。
「裁きの代行。それをするだけだよ」
「ううん、前に描いていたミケランジェロの絵かな」
「裁きは神が為されその代行」
それこそが十字の務めだった。そうしたことを話してだ。
そのうえで彼は一枚の白いキャンバスの前に座った。そのうえでだ。
和典にだ。こう言ったのである。
「それは素晴しい務めだよ」
「そうなるのかな。それでだけれど」
「何かな」
「今度は何の絵を描くのかな」
和典は絵のことを十字に尋ねた。彼がこれから描く絵について。
「これからは」
「うん。それはね」
和典に対して絵の具や筆を出しながら話していく。彼はまた絵を描く。彼が描く絵はかなり多かった。そしてその絵を描きながら彼は己の務めのことを考えるのだった。
第十六話 完
2012・5・20
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