仮面ライダーBLACK RX〜ネオゴルゴムの陰謀〜
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第六話『トゲトゲの驚異』
その日、一人の男性がキャピトラに入店してきた。
「いらっしゃい。」
男性は光太郎の姿を見るなり近づく。
「南じゃないか!大学をやめて、今までどうしていたんだよ!」
男性は光太郎に話しかける。
「もしかしてその声、白羽根か⁉久しぶりだな。」
「本当、35年もどこいたんだよ。」
「色々あったんだ。それより、ホットで良かったか?」
「ああ、アイスコーヒーが苦手だったこと、覚えていてくれたみたいで良かったよ。」
白羽根はカウンター席に座り、光太郎がコーヒーを淹れるのを待つ。
「あれ、あの人って光太郎さんの知り合いの人?」
響子は克美達に質問する。
「白羽根さん。光太郎さんの大学時代の友人で、今はある昆虫の研究で教授として頑張っている人よ。」
克美は響子に軽く説明する。
「昆虫学者なんて、すごい。」
響子は関心を示す。
「そんなにすごくもないよ。研究している生物の正式名称も、一般的には知れ渡っていないからね。」
白羽根は謙遜した態度を見せる。
「どんな名前の昆虫なんですか?」
「ベニモントゲホソヒラタハムシって名前だよ。」
響子の質問に白羽根は答えるが、響子はピンとこずにいる。その時、テレビのワイドショーの一コーナーが始まる。
『続いてはこちらのコーナー、“あの時流行ったあれは?”今回紹介するのは今から二年ほど前に若者の中で有名になったあの昆虫、トゲアリトゲナシトゲトゲです。』
「変わった名前の昆虫もいるんですね。」
響子がテレビの映像に目をやると、
「そいつがベニモントゲホソヒラタハムシだよ。今から15年くらい昔に書かれたインターネットのデマ情報が独り歩きして、あたかもそっちが正式名称みたいに扱われているけど。学術的にその名前は一度も使われたことはないんだ。」
白羽根は名前の経緯を話す。
「そうなんですね。」
響子は白羽根の話をしっかりと聞く。
「南、久しぶりに話ができてよかったよ。ごちそうさま。」
白羽根は会計を済ませて外へ出る。
「やっぱり学者さんって感じの人でしたね。」
「白羽根は昔からそういう奴だったんだ。研究熱心で、みんながステータスとして大学に通っていた中、学者になるための下地として必要だから大学に通っていたし。」
「一生懸命な人なんですね。」
響子と光太郎が話していると、
「やめろ!来るな!」
外から悲鳴が聞こえ光太郎が駆けつけると、ネオゴルゴムの昆虫型怪人が若い男性を襲っていた。
「ネオゴルゴム、そこまでだ!」
光太郎は怪人を掴んで動きを封じる。
「今のうちに逃げるんだ!」
光太郎はそのまま男性を避難させる。
「シュググ!」
怪人は光太郎を振り解くとボクシングの構えを見せる。
「変身!」
光太郎はRXに変身する。
「シュグ⁉」
怪人はその光景に驚きを見せるが、すぐさまRXに向かって拳を放つ。RXは腕をクロスさせて拳を受け止め、怪人の横腹に回し蹴りを放ち、怯ませる。その攻撃に怪人がよろめき、体勢を立て直すと、そこにエピメルが現れる。
「現れたな、エピメル!」
RXが警戒すると、
「貴様にかまっている暇はない。ヒラタハムシ怪人、お前は戦闘向きの怪人ではないんだ。ここは撤退するぞ!」
エピメルはヒラタハムシ怪人を逃亡させるため、自身がかつて大神官バラオムから貰い受けた火の石から高熱の熱線をRXに放ち、目くらましをさせると、既にエピメルとヒラタハムシ怪人は逃亡していた後だった。取り残されたRXは変身を解除する。
「ヒラタハムシ…まさかとは思うが…」
光太郎は一つの疑念を抱きながらキャピトラに戻った。
ネオゴルゴム神殿、そこに白羽根の姿はあった。
「白羽根教授、なぜあのような人の目に映る場所で暴れたのだ?」
「それより、なんであんな特集をしたんだ!あんなの、俺が惨めに映るだけじゃないか!」
リシュナルの問い詰めに対し、白羽根は強い感情をぶつける。
「あれは我らの関与するものではない。しかし、白羽根の研究している生物を軽視したことについては目を潰れない。そこはなんとかしよう。我らとて、自身の力の源になる生物を侮辱されれば同じ気持ちを抱いただろう。だが、それとこれとは別だ。南光太郎に見つかることは危険だ。」
ソフィルは白羽根の気持ちを汲み取りつつも警告を促す。
「そうだ、そのことだ。あなた方は、南が仮面ライダーだと知っていたのですか!」
白羽根は光太郎がRXだったことに衝撃を受けていた。
「それがどうした。まさか、友人相手に戦えないとは言わないよな。」
「ああ、まさか南が俺達の仲間を奪っていた仮面ライダーの正体だったなんて、思っていなかっただけだ。でも、これで決心がついた。ゴルゴメスの実をくれ。あいつは、俺が倒す。」
エピメルの言葉を聞き、白羽根は戦う覚悟を見せる。
「よいでしょう。こちらへ。」
リシュナルの案内により、白羽根は別室へ向かった。
その頃、光太郎はキャピトラに戻り、気持ちを落ち着かせていた。
「お義兄ちゃんの話を聞いて調べてみたら、半年くらい前から同様の事件が起きていたみたいで、今回のを含めると15件目みたい。」
杏子は事件の水面下での被害を伝える。
「そんなに前から、ヒラタハムシ怪人は活動していたのか。」
光太郎が状況を整理していると、杏子は更に話を付け加える。
「それから、被害にあった人達にはある共通点があったの。動画投稿アプリで、ある昆虫のことを紹介していたわ。」
「それって、もしかして!」
「トゲアリトゲナシトゲトゲ、正式名称はベニモントゲホソヒラタハムシって昆虫よ。」
杏子の言葉に、光太郎は納得した表情を見せる。
「だとすると、やはりヒラタハムシ怪人の正体は、白羽根なのか…」
「光太郎さん、もし本当に白羽根さんが怪人の正体だとしたら、どうしてそんなことを?」
光太郎の言葉に響子が疑問を投げかけると、
「響子ちゃん、襲われた人達はみんな、ベニモントゲホソヒラタハムシを馬鹿にするような内容の動画を作っていたの。多分、それが理由だと思うわ。」
杏子は更に情報を付け加える。
「そんな…」
響子は悲しい表情に変わるのだった。
「ヒラタハムシの仲間達よ、今こそ外敵である人間を排除する時だ。」
白羽根はヒラタハムシ怪人に変身すると、日本中のヒラタハムシに対してテレパシーを送り、活動を開始する。
「うわっ!虫が邪魔で前が見えない!」
オートバイの運転手のヘルメット一面にヒラタハムシの大群が張り付き、視界を奪われた運転手は横転し、コントロールを失ったバイクは歩道へ激突する。
「駄目だ、ワイパーにまでくっついてやがる!」
各地の主要道路を通行する自動車のフロントガラスにもヒラタハムシは張り付き、追突事故を次々と発生させていく。その光景は数時間後にはニュースとなり光太郎の目にも止まる。
「この事件、きっと白羽根が関わっているに違いない。」
光太郎が杏子達に話していると、一本のメールが届く。
『南、話がしたい。今から黒山岬で会えないか?』
メールの送り主は白羽根であった。
「白羽根から連絡が来た。今から行ってくるよ。」
光太郎は黒山岬へ向かった。
「来てくれたか、南。」
光太郎の到着を見て白羽根は言う。
「今回の事件、やっぱり白羽根が関わっているんだな。」
「ここに来たってことは、もう全部わかっているんだろう、仮面ライダー。」
「ああ。どうしてこんな事をしたんだ!こんな事をして、お前の気は本当に晴れるのか!」
「南、お前は何もわかっていない。文明が発展したこの現代社会、人間は命に対して無関心になった。」
「だからって、ネオゴルゴムに加入する必要はなかったはずだ!」
「俺がネオゴルゴムに加入したのは、もう20年以上前だ。駆け出しの生物学者だった俺には金がなかった。ネオゴルゴムは、それを解決してくれた。そして俺は、教授となり、昆虫の進化と発展学に貢献できた。生物学者にとって大切なのは、名前が有名になることではない。どれだけ学会に貢献し、知識を未来へ繋げられるかが重要なんだ。それが今ではどうだ!取り上げられるのは名前が変だ、見た目が変だ、いつもそんなのばっかりだ!その生き物の生態を調べ、世に広めた先人達の努力も苦労も、全部馬鹿にされる。俺達はそんなことのために時間を、人生をつぎ込んだんじゃないんだ!」
「だからって、人間自体を恨むのは間違っている!」
「お前に何がわかるんだ!仮面ライダーとして、誰もが憧れ、必要とされるお前に!インターネットの中では俺はおもしろ虫博士だぞ。」
「俺だって、インターネットが普及して間もない頃なんて酷いことを書かれたさ。RXがいれば他のライダーなんていらない、あいつだけチートだ、他のライダーなんて雑魚。そんな風に書かれて、先輩達や後輩にどれだけ申し訳ない気持ちになったと思っている。」
「ならどうして、そんな奴らを守るんだ!」
「それが仮面ライダーになった、俺達の使命だからだ。人々が悪に怯えることなく平和に暮らせる世界を実現する。なあ白羽根、引き返す気はないのか?」
「無いな。人間を滅ぼして、ネオゴルゴムの理想世界を作るのが、今の俺の使命だからな。」
「それなら俺は、仮面ライダーBLACK RXとして、ネオゴルゴム怪人であるお前を倒さなければならない。」
「元よりそのために俺は呼んだんだ。お前には、同胞であるカブトムシ怪人の仇討ちもしたかったからな。」
白羽根はヒラタハムシ怪人に姿を変える。
「そうか、わかった。変身!」
光太郎はRXに変身する。
「シュグ!シュグ!」
ヒラタハムシ怪人はボクシングのように拳を突き出す攻撃を放つが、RXはそれらを避け、ヒラタハムシ怪人の右腕を掴み投げ飛ばす。
「シュググ…」
ヒラタハムシ怪人はよろよろと立ち上がるが、RXは既にジャンプし、
「RXキック!」
必殺のキックをヒラタハムシ怪人に放ち、ヒラタハムシ怪人は白羽根の姿に戻る。
「白羽根!」
光太郎は変身を解除し、白羽根に近寄る。
「これで良かったんだ。これで、俺の愛した虫達がこれ以上侮辱されるさまを見なくて済むんだ。」
白羽根は笑顔を見せる。
「白羽根…」
「最後に、一つだけ伝言をいいか?」
「なんでも言ってくれ。」
「的場響子といったか。彼女に、ヒラタハムシに興味を持ってもらえたこと、嬉しかったと伝えてくれ…」
白羽根はそう言い残すと、蒸発して消滅する。
「白羽根、お前の思い、ちゃんと受け止めたからな。」
光太郎は戦いを終え、キャピトラへ戻った。
「…私が話を聞いて、白羽根さんの気持ちは少しは晴れたのでしょうか?」
光太郎から伝言を聞いた響子は複雑な気持ちになる。
「きっとそうだ。いや、そう思いたいな。」
光太郎は希望を持つ。ふとニュースを見ると、
『本日の話題はこちら、昨晩から昆虫学者の白羽根教授が行方不明となった事件、自宅からは自殺を仄めかす遺書らしきものが見つかり、警察は計画性のもと失踪したと判断して操作を続けています。』
ニュースは白羽根の失踪について取り上げていた。
「お義兄ちゃん、ベニモントゲホソヒラタハムシのこと、ちょっとブログで取り上げてみるよ。」
杏子は今回の件で白羽根の思いを汲み取る努力を見せた。一寸の虫にも五分の魂、どれだけ脆弱な生き物にも、我々人間と同じく命は宿っている。安易に笑えば、第二第三のヒラタハムシ怪人は生まれるだろう。光太郎は今一度、命のあり方について深く考えるのだった。
続く
次回予告
相次ぐ火災に垂れる精油。ユーカリ怪人の魔の手が都内を震撼させる。『死を呼ぶ葉擦れ』ぶっちぎるぜ!
後書き
怪人図鑑
ヒラタハムシ怪人
身長:185cm
体重:90kg
能力:同族へのテレパシー、ヒラタハムシ拳
光太郎の大学時代の友人である昆虫学者、白羽根教授が改造されて再誕したベニモントゲホソヒラタハムシの性質を持つネオゴルゴム怪人。学生時代にボクシングクラブに通っていた経験から戦闘スタイルにボクシングを組み込んでおり、指の根本に生えたスパイク状の棘を拳で突き出すヒラタハムシ拳を得意技とし、ゴルゴメスの実を摂取したことで同族へのテレパシー能力を会得し、その力で主要国道で事故を発生させて混乱を招いた。
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