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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第80話:病室ではおとなしくしましょう


聖王のゆりかごをめぐる戦いから1週間、
俺の回復は順調なようで、これまで身体のあちこちにつけられていた
チューブや電極の類からは解放され、病院内を出歩くことも許された。

この1週間の間に、はやてが3回、フェイトが2回見舞いに訪れ、
あの戦いの顛末についての大体のところは聞かされていた。
スバルとティアナは戦闘機人3体と互角に渡り合って勝利を収め、
エリオとキャロは地下水道でも戦った召喚師の少女と戦いこちらも勝った。

ゆりかごに突入したなのはは玉座の間でどうやらヴィヴィオと戦ったらしく、
そこでいつものように無茶をしたためにヴィヴィオと揃って入院と
相成ったらしい。
そこに至った経緯はまだ聞けていないが、いずれじっくりと
聞かせてもらうとしよう。

ゆりかご戦に先んじてスカリエッティのアジトに突入した、フェイト達も
どうやらいろいろあったらしいが、スカリエッティの身柄を確保した。
これについても、”いろいろ”については聞かせてもらいたいものだ。

とにもかくにも、俺たちにとっては上々の結果に終わったということで
またしても戦闘中に意識を失うという失態を演じた俺としては、
多少はその自責の念も軽くなろうというものである。

そして、病院内だけとはいえ晴れて自由の身となった俺は、
同じく入院生活を送っているなのはの部屋を訪れることにした。

はやてから聞き出した病室に向かい、俺は扉をノックする。

「どうぞ」

中からなのはの声で返事があり、俺は扉を開けた。
病室にはベッドが1台置かれており、その上でなのはがベッドの
背を起こして座っていた。

「ゲオルグくん!?あんな怪我してたのに、もう大丈夫なの?」

「一応、病院内なら動いてもい言って先生がな・・・って知ってたのか?」

「うん。ゲオルグくんがアースラの医務室にいたときにも
 お見舞いに行ったし」

「そうなのか。で、なのはは元気にしてるのか?」

「ゲオルグくん。それ、入院してる人に言う言葉じゃないよ・・・」

なのははそう言って苦笑する。

「ははっ・・・それもそうだな。で、実際どうなんだよ、調子は?」

なのはが座るベッドの脇にあった椅子に腰かけながら尋ねると、
なのはの表情が曇る。

「うん。別に怪我をしてるわけじゃないんだけどね。ちょっと無理が祟った
 みたいで・・・」

「どうせお前のことだからちょっとどころじゃない無理をしたんだろ。
 まあでも、その無理がなければヴィヴィオを無事に連れ帰ることが
 できなかったって聞いてるしな」

俺はそこまで言うと、椅子から腰を上げてベッドの上のなのはを抱きしめる。

「ゲオルグ・・・くん?」

俺の突然の行動に驚いたのか、なのはは弱々しく声を上げる。

「よく頑張ったな、なのは」

俺がなのはの耳元でささやくと、なのははそれまで浮かべていた笑顔を
クシャっと崩してしまう。やがて、その瞳からは涙があふれた。

「うん、わたし頑張ったの。一生懸命頑張ったんだよ」

なのはは俺の胸に顔をうずめると、両腕を俺の腰にまわす。

「判ってる。ヴィヴィオと一緒に帰ってきてくれてありがとな」

感情が溢れて止まらなくなったのか、なのは声を上げて泣き始めた。
俺は、黙ってなのはの背中をさすり続けることしかできなかった。
しばらくして、少し落ち着いたなのはは、俺から身を離すと、
俺の顔を見つめた。

「ゲオルグくん・・・」

「なのは・・・」

見つめあってお互いの名前を呼び合った俺達はそっと目を閉じて、唇を重ねた。
お互いの舌を絡め合わせながらより深くつながろうと俺は顔を少し傾ける。
一度離れて、お互いの顔をじっと見つめ合う。
上気した頬と半開きの唇が普段は凛々しいなのはを扇情的に見せていた。

「ゲオルグくん・・・」

「ん?」

「大好き・・・」

「知ってるよ・・・」

「そうだね・・・」

そして俺たちはまた唇を重ねる。
俺の背中にまわされたなのはの手に力がこもる。
俺は、舌でなのはの口内を蹂躙しながら、なのはの背中にまわしていた手を
なのはの胸にそっと当てた。

「んんっ!」

驚いたなのはが顔を離そうとするが、俺はそうはさせじと
なのはをベッドに押し付ける。
なのはが身をよじって抵抗しようとするので、俺は一度身体を起こして
なのはの顔を見る。

「ゴメン、嫌だったか?」

ベッドの上で肩を上下させながら息をつくなのはは首を横に振る。

「ちょっと・・・びっくりしちゃって」

「続き・・・してもいい?」

俺がそう訊くとなのははもう一度ふるふると小さく首を振った。

「ちょっと怖いかも・・・」

「そっか。じゃあまた今度だな」

俺はそのまま椅子に腰を下ろそうとする。

「あっ・・・」

すると、なのはは声を上げて名残惜しそうな顔で俺の入院服を掴む。

「もう一回・・・キス・・・しよ?」

「わがままな奴め」

俺はそういうと、降ろしかけた腰を上げてなのはのに顔を寄せた。

「あー、ごほん。病院でそういうことするんはちょっと
 控えてくれませんかねぇ、ご両人」

突然病室に響いた声に、俺達は慌てて身を離すと病室のドアの方を見る。
そこには、ジト目のはやてと顔を赤くしたフェイトが立っていた。

「どどどどのへんから見てたの?はやてちゃん!?」

「”続き・・・してもいい?”らへんからやね」

「うぅ・・・恥ずかしい・・・」

小声でそう言ったなのはは耳まで真っ赤になっていた。

「2人とも入院患者やねんから、そういうことはちょっと控えなさい。
 特にゲオルグくん!病室で何迫ってんねん!」

「あー、いや。あまりになのはが魅力的なもので・・・つい☆」

舌を出しておどけて見せるが、それがはやての怒りの炎に
油を注ぐ結果となってしまったようだ。

「あーん?何が ”つい☆”やねん。フェイトちゃんも何か言うたってーや!」

はやてがフェイトに話を振る。

「・・・いいなぁ、なのは・・・」

「・・・はぁ!?」

虚空を見つめてぼそっと呟いたフェイトに、はやてはあんぐりと口をあける。
それは怒られるであろうと想像していた俺やなのはも同じで、
唖然としてフェイトの顔を見つめる。

「・・・私だって・・・はっ!」

俺達3人の視線に気づいたのか、フェイトはふっと我に返る。

「けっ、どいつもこいつも色づきよって!」

やさぐれた口調ではやてが言う。

「フェイトちゃん!わたしは応援するよ!頑張って!」

グッと両手を握りしめ、目をキラキラと輝かせながらなのはが言う。

「で?いったい誰がフェイトのハートを射止めたんだ?」

ベッド脇の椅子に腰かけた俺が言う。

「わ、私のことは今はいいじゃない。それよりはやて!
 なのはに話があったんでしょ!」

フェイトの言葉にはやてが真顔に戻ってぽんと手を叩く。

「おっと、そうやった。なのはちゃん」

「なあに?」

「入院はとりあえず1か月くらいになりそうやって」

はやての言葉になのははさみしそうな表情を浮かべる。

「そっか・・・。まあ、しょうがないよね」

「今回の戦闘では相当無理がかかったみたいやしね。
 まあ、なのはちゃんはこれまでスバルらを鍛えるのに一生懸命
 頑張ってくれてたんやし、ご褒美やと思ってゆっくり休んで」

「うん・・・ありがと、はやてちゃん」

そう言ってはやてに笑いかけるなのはの顔は、やっぱりどこかさみしげだった。

「ところで、ゲオルグくん」

「あ?なんだ?」

「ちょっと話があるんやけどええかな」

はやてはそう言って病室の外を指さす。

「いいけど・・・ここじゃできない話なのか?」

「うーん、そういうわけやないねんけど・・・」

はやては困ったような顔で言い淀む。

「ねえゲオルグくん。わたしちょっと眠いの。悪いけど寝かせてくれない?」

なのはが眠そうに目をこすりながら言う。

「そっか。じゃあ、また来るよ」

「うん。またね」

そして、俺はなのはに軽く触れるだけのキスをすると、
はやてとフェイトについてなのはの病室を後にした。

 
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