機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第79話:戦い終わって
「・・・はないわね。だけど・・・から、しばらくは・・・よ」
ぼんやりと近くで誰かが話しているのが聞こえた。
「・・・とう。ここ・・・ていい?」
声を聞く限り何人かが話をしているようだ。
「・・・わよ。でも、・・・てね」
目を開けようとするが、まぶたがものすごく重く感じられ、
俺は再び眠りに落ちていった。
「・・・まぶしっ!」
目を開けると、正面に白い天井が目に入った。
しばらく目を細めていると、目が光に慣れてきたのか
眩しさを感じることはなくなってくる。
目を左右に走らせると、使途不明の機械が定期的に電子音を立てている。。
次に目を下に向ける。
俺は病院の入院衣のようなものを着せられていた。
両腕には点滴のチューブが刺さっていて、身体のあちこちに電極のようなものが
取り付けられている。
(病院・・・か?)
首を横に向けて部屋の様子を確認しようとするが、
俺の寝ているベッドの周りにはカーテンがかかっていて、
周囲の様子を覗うことはできない。
(俺・・・どうしたんだっけ・・・。って、戦闘中・・・っ)
慌てて身を起こそうとした俺は、胸の痛みに襲われて身を起こすことが
できなかった。
身を起こすことは諦め、何があったかを思い起こす。
(確か、俺はアースラの指揮をとってたんだよな。
で、なのは達がゆりかごに突入して、空中戦もはやてのおかげで一息つける
くらいには落ち着いてきたから、トイレに行ったんだよ。
で、戦闘機人と戦闘を・・・っ)
そこで俺は自分が斬り殺した戦闘機人の最期の姿を思い出し、
吐き気を催した。幸い、胃の中には何も入っていないのか、
なにも戻さずに済んだが。
そして、思わず自分の手を見る。
真っ赤に染まっていた俺の手は、誰かが洗ってくれたのか
すっかり綺麗になっていた。
(・・・殺したんだよな。俺が)
目の前の景色が滲んでくる。
その時、空気の抜けるような音がして、誰かが部屋に入ってくる気配がした。
足音が近づいて来る。そして俺のベッドの側で止まると、カーテンが開かれた。
現れたのはシャマルだった。
「・・・シャマル?」
俺が声を上げると、シャマルは驚いたように俺の顔を見る。
目が合うとシャマルは俺に向かって微笑んだ。
「目が覚めたのね。よかったわ」
「・・・ここは?」
「アースラの医務室よ」
「・・・お前は何でここにいるんだ?」
「だって、私。6課の軍医だもの」
「そうじゃない。お前は・・・」
外で索敵にあたってるはずだ。と続けようとしたが、
シャマルが俺の頭を撫でたのでその先を言うことができなかった。
「いいの。もう全部終わったから」
「全部・・・終わった?」
俺の言葉にシャマルはゆっくりと頷く。
「そう。だから安心して今は眠りなさい、ゲオルグくん。
あなたはよく頑張った。だから、今はゆっくり休みなさい」
シャマルは微笑んで俺の頭を撫で続ける。
俺はその心地よいリズムに誘われるように再び眠りに落ちた。
次に目を覚ますと、部屋はオレンジ色の光に包まれていた。
俺の身体には相変わらず、チューブや電極が刺さっていたが、
ベッドの周りにはカーテンがなく、部屋のブライドの隙間から
オレンジ色の光が差し込んできていた。
身体を起こすとどうせ痛いだろうと思いそれは諦め、
首だけ動かして部屋の中を見回す。
どうやら俺はアースラの医務室から移送されたようで、
部屋の様子がずいぶん変わっていた。
しばらくそうしていると、部屋のドアが開き白衣を着た男性が入ってくる。
「おや、目を覚まされたようですね。気分はどうですか?」
医師らしき男が俺の顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「悪くないです」
「吐き気とかめまいは?」
「ないです」
「痛みはありますか?」
「体を起こそうとすると胸の下あたりが痛みます」
「そうでしょうね。あなたは肋骨を3本骨折したんですよ。
ほかにも全身に打撲もありますし、頭も強く打ったようですからね。
ですが、吐き気やめまいがないなら脳障害の心配はなさそうですね」
医師はそう言いながら手に持った端末に何やら入力していく。
そして、ベッドの脇にある機械を操作すると、再び俺の顔を見た。
「お見舞いの方が見えてますが、お通ししますか?」
「誰です?」
「機動6課の・・・八神二佐ですね」
「通してください。話したいことが山ほどある」
「判りました。では少々お待ちください」
医師はそう言って、部屋から出て行く。
しばらくブラインド越しに見えるオレンジ色の空を眺めていると
ドアの開く音がした。
見ると、はやてが俺の方を見て立っていた。
が、入口のところで立ち止まってなかなか近づいてこない。
「そんなところでつっ立ってないで、こっち来て座れよ」
「え・・・うん」
はやてはゆっくりと近づいてくると、近くにあった椅子を持ってきて、
俺のベッドのそばに座る。
「悪いけどこのままでいいか?あちこちまだ痛いんだ」
「えうん・・・ええよ。気にせんといて」
「でさ、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
俺の言葉にはやては無言で頷く。
「じゃあ、ゆりかごはどうなった?」
「作戦は無事成功。ゆりかごは破壊されたよ」
「そっか。悪かったな、途中から役に立てなくて」
「ううん、ええねん。ゲオルグくんが戦闘機人と戦ってるころには
なのはちゃんもヴィータも無事にゆりかごから脱出してきたし、
フェイトちゃんらもスカリエッティの身柄を確保できたから」
「そっか。じゃあ、なにもかもうまくいったんだな」
「ま、そうやね」
「ヴィヴィオは?」
「なのはちゃんが無事救出してくれたよ。
今はなのはちゃんやゲオルグくんと一緒でこの病院に入院中」
「入院?怪我でもしたのか?」
「あ・・・うん。そのへんはおいおい話すわ。ゲオルグくんが
退院したあとにでも」
「そんな悠長な・・・って、もう機動6課の設立目的は達成できたのか。
焦ることもないんだな・・・」
「うん。時間ならたっぷりあるから」
「そうだな・・・。なら今までの分も含めてゆっくり休ませてもらうよ」
「うん、そうして。後始末は私らでうまくやっとくし」
「後始末?」
「あー、ごめん。そこも、おいおいってことでええかな?」
「了解。それでいいよ」
「ありがとう。それよりどうなん?ゲオルグくんは」
「俺?」
「うん、その・・・いろいろあったやんか・・・」
「ああ。まあ、そうだな。心の整理はあの場でつけたつもりだから」
「・・・強いんやね」
「そんなんじゃないよ。慣れの問題じゃないかな」
「慣れか・・・。ゴメン、なんて言ったらええんかわからんわ」
「そっか。あと一つ聞いていいか?」
「なに?」
「あの戦闘機人はどうなった?」
「今、ラボで解析中」
「そっか。あの戦闘機人って・・・」
「今わかってんのは、ゲオルグくんのお姉さんの遺伝情報を利用した
クローン体をベースにしてるっちゅうことだけ。それ以外はこれから」
「クローンか。じゃあ、姉ちゃんそのものじゃないんだな」
「うん・・・。なんて言ったらええんかわからんけど・・・」
「いいよ。クローンって聞いてちょっと安心した。
もしかしたら姉ちゃんを殺したのかもって思ってたから」
「・・・ゴメン」
「はやてが気に病むことは何一つないだろ。俺はあの時自分で決断して
ああした。その責任は俺自身で負わなくちゃならないんだよ」
「そっか・・・。ゴメン、もう時間やわ。行かな」
「悪い・・・長々と引き止めちゃって」
「ううん。ゲオルグくんと話せてよかったわ。また来るね」
「ああ、待ってる」
「うん」
そしてはやては俺の病室を出ていった。
俺は少し長い間話して疲れたのかそのまま眠りに落ちていった。
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