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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  プロローグ

 ―――『極東の島国日本は、魔界である』―――

 最初にこの言葉を言ったのが一体誰なのかは分からないが、既に各国にとってこの言葉は純然たる事実であった。ただし、一般人にとってはそんなことはない。最近は不景気だと言われたり、一年間の自殺人数が三万人を超えたりと暗い話題ばかりが続く国だが、それでも、理不尽に命を奪われることも少なく、スラムのような場所で子供たちが飢えて死んでいくなどということもない、基本的には平和な国なのだ。・・・そう、一般人である、表の住人にとっては。

 だが、裏の住人にとってはこの国ほど住みにくい国は無いと言っても過言ではない国へと変わってしまった。今では、古来から日本に住んでいた術者の家系でも、海外に逃げ出す者たちが出てきた程だ。・・・たったの一年で、ここまで変化してしまった。

 ―――カンピオーネ―――

 そう呼ばれる存在が、この世には存在する。人の世に災いをもたらす『まつろわぬ神』を虐殺し、その権能を簒奪した、人間を超越せし『魔王』である。『まつろわぬ神』も、『カンピオーネ』も、その力は天を震わせ地を揺らす程に強大で、決して人間に太刀打ち出来る存在ではない。

 人の世に混乱を巻き起こす『まつろわぬ神』を退治するために存在する『カンピオーネ』だが、その力が余りにも強大なため、どんなに横暴な振る舞いをしても誰にも口出し出来ないという現状にある。

 だが、彼らの庇護下にあるということは様々な利点を得るため、『カンピオーネ』の傘下に入りたがる魔術結社は多い。その為、新しい魔王が誕生すると、どの組織がカンピオーネの寵愛を受けるかで、魔術結社同士の戦闘や、愛人候補を送り込む競争になることも珍しい話では無かった。

 ・・・が、カンピオーネとは絶対者だ。人を超越した魔王がそうポンポン誕生するはずもなく、今までは一国に一人、世界中に合計で六人しかいなかったために、そこまで大きな混乱には陥って居なかった。一説には、カンピオーネが一人も存在しない時代もあったそうだ。 

 ・・・・・・そう、今までは。

 さて、今までカンピオーネは全部で六人だった。先ずは、現存する中でも最古参の一人であるサーシャ・デヤンスタール・ヴォバン、通称ヴォバン公爵である。正直、カンピオーネが魔王と呼ばれ恐れられているのは、七割がたこのカンピオーネのせいであると言っても過言ではあるまい。闘争本能を満たす事を至福としており、自らが戦いを楽しむためにまつろわぬ神を召喚しようとしたりするという、はた迷惑な老人だ。『カンピオーネはまつろわぬ神の被害を抑える為に存在する』筈なのに、自分でその元凶を呼び込むとは本末転倒な気がするが、彼に真っ向から意見出来る者など存在するはずもない。既に何柱ものまつろわぬ神を殺しており、多数の権能を所持しているため、最近ではまつろわぬ神すらも戦いを避けるほどだという。

 二人目は羅濠教主(らごうきょうしゅ)と呼ばれる女性だ。この人物も最古参の一人で、年齢は二百歳を超えるという。だが、自身の領域から殆ど出てこない引きこもり生活をしているため、あまり情報はない。だが、この人物もヴォバン公爵と同じく魔王的な性格であるため、自分が認めた者以外の者に姿を見られたり声を聞かれたりした場合、その目や耳を壊すという恐ろしい噂まである人物だ。

 三人目はアイーシャ夫人と呼ばれる女性。この人物は一世紀以上引きこもり生活をしているので、ほぼ情報なし。

 四人目はアレクサンドル・ガスコインと呼ばれる男性だ。16歳でカンピオーネとなった存在で、現在は28歳。周囲からは黒王子(ブラックプリンス)とも呼ばれる。自分は他のカンピオーネとは違いまともだと思っているようだが、自分の興味のあるものは例え盗んででも手に入れるという自己中心的な性格なので、迷惑度で言えばあまり違いはなかったりする。

 五人目はジョン・プルートー・スミスと呼ばれる、性別や本名など一切不明の人物だ。常に仮面を被り、マントを付けて街を守っており、周囲にはヒーローのようにも映っているようである。戦闘で被害は出すが、他のカンピオーネと比べれば比較的マトモな性格であるとされる。

 六人目。サルバトーレ・ドニ。欧州最強の剣士とも呼ばれる人物で、魔術が使えない体質であったため、ただの剣術のみでまつろわぬ神を殺した、人類最強クラスの剣術家である。強い相手と戦うためなら周囲の被害など全く考えない性質であるところなどは、ヴォバン公爵などと若干似ている。

 


 さて、今までは各国がカンピオーネに振り回されるのを大変だなと思いながら人ごとのように眺めていた日本であったが、一年前、そんな余裕面出来なくなる大事件が起こった。

 カンピオーネが4人、爆誕したのである。同時に。

 長谷部翔希(はせべしょうき)白井沙穂(しらいさほ)名護屋河睡蓮(なごやかわすいれん)名護屋河鈴蘭(なごやかわすずらん)の四名が、ほぼ同時にカンピオーネとして生まれ変わった。

 何十年、何百年かに一人、生まれるか生まれないかの存在が、たったの一日で四人も誕生すれば、そりゃあ誰だって混乱する。しかも、全員同じ国に所属しているのだ。

 ・・・更に大きな問題は、この四人はどうやら仲間、もしくはそれに近い関係のようで、よく行動を共にしているということだ。強い相手との戦いに人生を掛けている一部の戦闘狂のカンピオーネが日本に突撃してきそうになったのだが、流石にこの人数を相手にするのは厳しいと判断したらしく、機会を伺っている状況だ。しかし、いつその我慢の限界にきて特攻してくるとも限らない。日本は、いつ戦場になってもおかしくはないのだ。

 更に、これは未確認情報なのだが、自らを『アウター』と呼ぶ神々を、何柱も配下にしているという情報が入っている。もしこれが事実なら、彼らは前代未聞の戦力を有しているということになる。

 ・・・・・・そして、これらの調査で正史編纂委員会も賢人議会も手が一杯だったというのに、つい先日、新たなカンピオーネが生まれてしまった。それも、また日本人である。しかも、既にミラノの名門魔術結社《赤銅黒十字(しゃくどうくろじゅうじ)》の紅き悪魔(ディアヴォロ・ロッソ)としても有名なエリカ・ブランデッリが愛人として名乗りを上げている。このカンピオーネの人物像などは未だ不明なのだが、既に複数の愛人を囲っているという情報も入ってきており、好色な人物のようだ。これに対して、カンピオーネの名護屋河睡蓮が不快感を示しているとの情報もあり、一触即発の様相を呈している。




「・・・つまりですね、何が言いたいかといいますと。・・・・・・この仕事を辞めさせていただきたい。」

 ここ一年ほどのストレスで、遂に胃に穴が空いて入院までしてしまった甘粕 冬馬が、自身の上司である沙耶宮 馨に対して頭を下げているのも、しょうがない光景だと言えるだろう。
 
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