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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第143話:双頭の蛇

 ハンスの相手をガルドに任せたマリア達は、チフォージュ・シャトーの中枢区画へ向けて駆けていた。ガルドにどんな隠し玉があるかを知らない3人にとって、ハンスはこれ以上ない程の強敵。一刻も早く目的を達成し、彼の援護に戻ろうと突き進む。

 しかしその道中、彼女達の前に厄介な相手が立ち塞がった。メデューサ率いるジェネシスの魔法使い達である。

「お前は、メデューサッ!」
「これ以上、お前達の好きにはさせないッ! 行けッ!」

 メデューサの命令に部下のメイジ達が一斉に3人に襲い掛かる。迫るメイジ達にマリア達は武器を構えた。

 数はこちらが3人であちらがメデューサを除いて9人。倍以上の人数差だ。しかも仮面の色は全員が白。最下級の琥珀メイジでは足止めにもならないとメデューサ達も学んだのだろう。最初から強敵をぶつけてきた事に、マリアは苦戦は免れない事を察した。

「ハァッ!」
「くっ!?」

 白メイジの1人がマリアにライドスクレイパーを振り下ろしてくる。細身の槍による一撃は、使用しているメイジのパワーが物を言っているのか見た目以上に重く受け止めたマリアはその圧力に歯を食い縛って堪えた。
 そこに左右から別の白メイジが迫る。迫るメイジ達は左腕のスクラッチネイルでマリアを切り裂こうとしている。

「チィッ、はっ!!」

 このままではマズイと、マリアは眼前の白メイジの槍を無理矢理左に軸をズラすことで対処。込めていた力を受け流され、床を切り裂いた槍はそのまま床に突き刺さり抜けなくなった。
 琥珀メイジであればその槍を抜こうとして悪戦苦闘している間にマリアに倒されていたであろうが、琥珀メイジ以上に自我を持っている白メイジはそんな間抜けな倒され方はしない。即座に槍から手を放すと、スクラッチネイルによる攻撃に切り替えた。

 同時にマリアの左右から迫る白メイジ。3方向からの同時攻撃に、マリアは一瞬険しい顔をするが後方に転がる様にして攻撃を回避。白メイジ達の攻撃をやり過ごすと、アームドギアの短剣を蛇腹剣に変え薙ぎ払った。

「ハァッ!!」
「ぐぁっ?!」

 不規則な動きで迫る蛇腹剣に、白メイジの1人が切り裂かれて倒れる。だが残りの2人はその攻撃をやり過ごし、蛇腹剣の取り回しの悪さに着目し一気に接近してきた。蛇腹剣は広範囲に攻撃できる反面、至近距離での取り回しは下手をすると槍以上に悪い。この状況判断力は流石幹部候補と言ったところか。

 それでもマリアは負けていない。彼女は最初から蛇腹剣の薙ぎ払いでメイジ3人を同時に倒そうなどとは考えておらず、1人を切り裂いた時点で既にアームドギアを蛇腹剣から短剣に戻す動作に移っていた。

 メイジ2人がマリアに迫った時、その時点で彼女の手の中にあるのは近距離での対応に弱い蛇腹剣ではなく短剣に戻っていた。迫るメイジをマリアは手の中にある短剣で見事に捌く。

「ふぅ……」

 最初の危機を何とかやり過ごせたことにマリアは小さく息を吐き、チラリと切歌・調の2人を心配して視線をそちらに向ける。あの2人が最も力を発揮できるのは力を合わせた時。逆に言えば分断されてしまえば各個撃破と言う憂き目に遭いかねない。

 そこはあの2人も分かっているようで、分断される事無く互いに背中合わせになって同時に6人のメイジを相手にしていた。3倍の人数を相手にしている都合上まだ誰1人倒せてはいないが、それでも何とか持ち堪えてはいるようだ。
 その事にマリアは小さく笑みを浮かべると、気を引き締めて残りのメイジと、何よりも後ろの方でこちらの様子を窺っているメデューサに警戒した。特にメデューサは狡猾だ、何をしてくるか分かったものではない。

 だが警戒してメデューサをよくよく見てみれば、何やら周囲を見渡して落ち着かない様子だ。まるで何かを待っているかのようである。

「おかしい……どういう事?」
――何? メデューサは何を待っているの?――

 疑問を抱かずにはいられないマリアだったが、白メイジ達が彼女に長々と考える時間を与えない。ライドスクレイパーを手に向かってきた白メイジに、マリアは気持ちを切り替え迎え撃った。

 その時突如やってきた衝撃が切歌達の相手をしていた白メイジを吹き飛ばした。何事かとマリアがそちらを見れば、そこには黒い仮面に白い鎧のキャスターの姿があった。

「ガルドッ!」
「すまない、待たせたな3人共!」
「ガルド、その格好なんデスかッ!」
「修行の成果って奴だ。切歌、調、倍以上の人数相手に頑張ったじゃないか」
「切ちゃんと一緒なら、これくらい何ともない」

 ハンスを下して合流してきたガルドに、マリア達の心に余裕が生まれた。今の一撃で白メイジの大半が脱落した事も大きい。これで残るはマリアの相手をしている2人に、後ろの方で何かを待っていたメデューサだけ。

 そのメデューサは、ハンスがガルドにやられた事を察し遂に苛立ちを抑えきれなくなった様子で近くの壁を殴った。

「くっ!? あの小僧、口ほどにもないッ!? 大体どうなっているのッ!? シャトーの防衛機構は何時になったら……」

 どうやらメデューサが後ろで待っていたのは、シャトーに備わっていた防衛機構が動く事だったらしい。巻き込まれないようにする為か、それともその防衛機構とやらで隙を見せたマリア達を始末する気でいたのかは定かではないが。

「このポンコツ、使い物になりゃしない……!?」

「それは言わないであげてください。彼女は何も悪くは無いんですから」

 憤るメデューサに、何者かが声を掛ける。全員がそちらを見れば、そこに居たのは予想外の人物であった。

「貴様、ウェルッ!?」
「デデデッ!? あの野郎、こんな所にッ!?」
「キャロルについて行っていたとは聞いていたが……」

 ふらりとやって来たのはウェル博士。危うくキャロルとハンスにより始末されそうになっていた彼だが、どう言う訳か上手い事逃げ出しこうしてこの場に姿を現した。その顔には何処から湧いてくるのか、自信が溢れている。

「クヒヒヒッ! やはりここぞと言うところで活躍するのはこの僕、英雄たるドクター・ウェルしかいないッ!!」
「貴様、何をしたッ!?」

 今のウェル博士の物言いで、メデューサだけでなくマリア達も彼が何かをしたのだと気付いた。今にも飛び掛からんとするメデューサからの問いに対し、ウェル博士はもったいぶる様に眼鏡を指で押し上げながら答えた。

「んっふふ~、何簡単な事です。さっきこの城の制御にアクセスした時、防衛機構を切っておいたんですよ。彼女らが入ってきた時の為にね」
「何故そんな事を……」
「ウェル博士ッ! 何故お前が俺達の味方をする? お前はキャロル達に協力するつもりだったんじゃないのか?」

 ガルド達はそれが分からなかった。深淵の竜宮でのキャロルとのやり取りを見る限り、ウェル博士はキャロルに対して協力的だった筈だ。よしんばここに来てから考えの違いで協力関係が切れたのだとしても、それにしては準備が良すぎると思わずにはいられない。

「単純な話です。あの時点で僕は既に、あのウィザードと密約を交わしていたんですよ」
「何だとッ!?」
「ハヤト……あいつ、時々何かコソコソしていたと思ったが……」

 思えばここ最近、颯人は姿が見当たらないと言うか1人でコソコソしている雰囲気があった。だがまさか、ウェル博士と密約を交わしていたとは思わなかった。
 切っ掛けは恐らく、透が偶然深淵の竜宮に収められている聖遺物のリストの中にウェル博士を見つけた時だろう。

 だがそれにしたって不可解なのは、ウェル博士がいやにこちらに協力的だという事だ。彼の事だからもっと反発するかと思うのだが…………

「それにしたって、物分かりが良すぎる。ドクター、颯人さんとどんな話をしたの?」
「どんな? そんなの決まってます。僕の英雄としての活躍に変な脚色をされない為ですッ!!」

「「「「……はぁ?」」」」

 ウェル博士の言葉に、ガルド・マリア・切歌・調の4人は思わず素っ頓狂な声を上げて首を傾げてしまった。メデューサと白メイジ2人ですら、意味が分からず互いに顔を見合わせる。

「何を、言っているの?」
「どうもこうもありませんッ!? ここで彼に協力しないと、後の世に伝えられる僕の英雄としての活躍が面白おかしく脚色されるんですよッ!?」

 仲間達に黙ってこっそりウェル博士と再会した颯人は、彼にこう告げていた。

 曰く、英雄の活躍なんてものは後でいくらでも脚色できる。ここで協力してくれれば、盛に盛った武勇伝を残す事も出来るぞ、と。
 逆に協力してくれなけりゃ、あらゆる手を使って武勇伝を面白おかしくコミカルで情けない感じに脚色してやると。

 それはある意味でウェル博士にとって死ぬよりも辛く、そして屈辱的な話であった。英雄となる為であれば死ぬ事も辞さない彼だが、その英雄としての武勇伝を後の世の笑い物の種にされるなど想像するだけでゾッとする。

「ま、そう言う訳だから、仕方なく君らに手を貸してやるって言ってるんです。泣いて喜んでくれても良いんですよ? 何しろこの英雄が君らの味方をするって言うんですからッ!」
「誰がするかデスッ!」
「だがまぁ彼のお陰で助かったのは事実だ。そこは感謝しよう」

 因みに始末されそうだったウェル博士がまんまと逃げられたのは、深淵の竜宮で颯人と取引した際にもしもと言う時の事を考えて逃走用のアイテムを渡されていたからだ。アルド特性の煙幕で姿をくらまし、同時に安全な場所まで退避できるアイテムで上手く逃げ隠れする事が出来た。

 何だかんだでウェル博士に助けられた事に一応の納得を見せるマリア達だったが、一方で面白くないのがメデューサ達だった。予定ではここでガルド達を始末し、そのまま外の颯人達も始末して最後には邪魔になるキャロルも始末する予定だったのにそれが完全に狂ってしまった。
 メデューサは湧き上がる怒りに拳を強く握りしめる。

「貴様ら……どいつもこいつも私達の邪魔をして……!?」
「それはそうと、一つ聞きたいんですが……あなた誰です?」
「は?」

 唐突なウェル博士からの質問に、メデューサが仮面の奥で怪訝な顔をする。それに構わず、ウェル博士はそれまで感じていた疑問を口にした。

「声とかはメデューサさんによく似てますが、あなた僕の知ってるメデューサさんじゃないでしょう?」
「どういう意味だ、ウェル博士?」
「どうもこうも、そのままの意味です。よく見れば、咄嗟の反応その他諸々が以前行動を共にしていたメデューサさんと違います。彼女は別人です。一体何処の何方ですか?」

 ウェル博士の指摘にガルド達の視線がメデューサに集中する。対するメデューサは、ウェル博士からの指摘に大きく溜め息を吐くと何かを観念した様子で肩を竦めた。

「全く、こんな簡単に……それもこんな男に見破られるとは思ってもみなかったわ」
「お褒めの言葉と受け取っておきましょう。それで?」
「えぇ、お前の言う通りよ。私はお前達が知ってるメデューサじゃない。あれは私の双子の姉、ミサよ」
「双子ッ!? マジデスかッ!?」
「本当に双子だったなんて……」

 クリス達が再びメデューサが現れた事を言った時、誰かが冗談めかして双子だったのではと宣っていたがそれがまさか正解だとは思ってもみなかった。

 そんな話をしていると、メデューサの傍にマリアの相手をしていた白メイジ2人が近付いていく。2人は共にメデューサを背に庇う様にしてマリア達と対峙し、何時でも攻撃できるようにと構えた。
 どうやらそろそろお喋りの時間は終わりらしい。

「ま、私が双子だった事等どうでもいい。そろそろお前達を始末して、外の連中も片付けに行かないと……」

 メデューサから放たれる殺気が増した。それを直接向けられたマリア達は何が来ても良いようにと身構え、反対に直接殺気を向けられた訳ではないウェル博士はビビッて腰を抜かしている。

 両者の間に一触即発の空気が流れたその時、突如メデューサの傍に窓の様な物が出現しそこからワイズマンの声が響いた。

「もういい、十分だメデューサ」
「ワイズマン様?」
「これ以上やっても何にもならない。つまらん事に時間を費やすのもアホらしいからさっさと戻ってこい」

 それだけ言うとワイズマンは窓を閉じた。端的に言えば、もう飽きたから戻って来いという事らしい。あまりにも身勝手、且つ気分屋なワイズマンに2人の会話を聞いていたガルド達は顔を顰めた。

 ワイズマンの身勝手さにガルド達が言いようのない不快感を露わにしていると、メデューサはマリア達とウェル博士を一瞥し小さく鼻を鳴らした。

「ふん、命拾いしたわね」
「そりゃどっちがだ?」

 あえて挑発するようなガルドのセリフに、メデューサは一瞬睨むように彼に視線を向ける。だがワイズマンからの命令が最優先なのか、感情に任せて動くようなことはせず動ける部下2人と共にその場を後にした。

「お前達はいつか必ず始末するわ。その時まで首を洗って待ってなさい」
〈テレポート、ナーウ〉

 そうしてメデューサ達はマリア達の前から去っていった。後に残されたのはマリア達4人に、未だ腰を抜かしてへたり込んでいるウェル博士のみ。

 一先ずメデューサが去り重圧が消えたことで一息つく余裕が出来た。マリア達は安堵の溜め息を吐く。

「はぁ~、帰ってくれたみたいね」
「デス。正直生きた心地がしなかったデスよ」
「前のメデューサとは、似てるけど確かに違う」
「もしかすると、前のメデューサよりも強さでは上かもしれないな」

 今後は何かあればあのメデューサが立ち塞がる事になる。その事実を考えると不安が過る4人だったが、とりま今はその脅威が消えたことで目的であったシャトーの完全無力化に動く事が出来る。

 改めてシャトーの中枢区画に向けて急ぐのだった。

「あっ!? ちょっ、僕を置いてかないでッ!?」

 ウェル博士をその場に残して………… 
 

 
後書き
読んでいただきありがとうございました!

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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