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境界線上の転生者達

作者:小狗丸
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第二話

 結論から言うと誰もオリオトライ先生に攻撃を当てることは出来なかった。

 いや、俺達も頑張ったんだよ? 仲間と連携をとったり、術式を使った攻撃だけでなく不意討ちや奇襲とかも行ったりして、考えつく限りの手段をとったんだよ?

 でもオリオトライ先生はその全てを簡単に避けて、何回か「いける!」と思った場面もあったけど結局は誰も攻撃を当てるが出来ないままヤクザ事務所にたどり着いてしまったのだ。

 ……オリオトライ先生って絶対、下手なサーヴァントより強いって。もし月の聖杯戦争でサーヴァントとして呼ばれていたら優勝してもおかしくないと俺は思う。

 ヤクザ事務所に着いたときには梅組のほとんどが体力を使い果たして倒れており、なんとか立って動けるのは俺とキャスター、そして……

「コラコラ。後からきて勝手に寝ない。生きているのは北斗とキャスター、それと鈴だけね?」

「はい? あ、いえ、私…運んでもらっていただけですので…はい」

 オリオトライ先生の言葉に三人の「生存者」の一人、向井鈴が自分をここまで運んでくれたバケツヘルムを被ったマッチョな大男、ペルソナ君を扇子であおぎながら答える。

「謙遜しなくていいですよ、鈴さん。鈴さんはこの梅組では激レアな普通よりキャラですからね。そんな子があんなマジ鬼畜レースに参加して無事なだけでも胸を張っていいと私は思いますよ。ハイ」

 キャスターが鈴に声をかけるが、その意見には激しく同意だ。そもそも目が見えない鈴をペルソナ君に乗せて運ぶことはクラス全員で決めたことなので、鈴が気にすることはない。

「それにしても北斗とキャスターはやっぱり優秀ね。私に一番多く攻撃してきたのがあなた達なのに、まだ立っていられるんだもの」

「当然です先生。私とマスターをそこらの軟弱な学生と一緒にしてもらっては困ります」

「キャスター、足が震えてるぞ? あまり無理するな。……買いかぶりですよ、オリオトライ先生。俺達だってなんとか立てるだけで、体力なんてほとんど残っていないんですから」

 俺は生まれたての子馬のような足で胸を張るキャスターにツッコミを入れたあと、オリオトライ先生に苦笑を向ける。

 俺とキャスターが今こうして立っていられのは前世の、聖杯戦争での戦いの経験からスタミナの配分を上手く行い、最低限の体力を残しているからだ。

「そう? あなたとキャスターの連携、先生三回くらい『ちょっとヤバイかな?』と思ったわよ。十分実力あるって。……やっぱりその『朱槍』は伊達じゃないわね?」

 オリオトライ先生が面白そうな目で俺の右手にある赤の短槍を見る。

 戦国時代の日本では朱槍は、武勇を認められた優秀な武士が主君から与えられる名誉ある武器とされていた。つまりオリオトライ先生は、そんな朱槍を自分から持つ俺を「表面では謙遜しているが、内心では自分の実力に自信を持っている生徒」と見ているわけだ。

「え? あ、いや。これはそんなのじゃないですよ?」

 俺はオリオトライ先生の言葉を否定すると前世の聖杯戦争で出会った一人のサーヴァントを思い出す。

 強くて勇敢で、自分のマスターを守るために命を懸けた、赤の槍を操る青のサーヴァント。

 俺はあんな男になりたいと思って、そんな思いを忘れないためにこの赤の短槍を武器としていたのだった。……でもそんなこと恥ずかしくて誰にも言えるはずがない。特にキャスターには。

「誰だてめえら!?」

 野太い声が聞こえてきたのでそちらを見ると、ヤクザ事務所から頭に二本の角を生やした四本腕の魔神族が出てきた。それを見たオリオトライ先生は魔神族に近づいていきながら口を開く。

「んじゃ皆、これから実技ね? 魔神族ってのは体内に流体炉みたいなのを持っているから内燃拝気の獲得速度がハンパないの。肌も重装甲並だし、筋力も軽量級武神とサシでいけるくらいよね」

「一体何だてめえら! ウチの前で遠足か!?」

「ねぇ、先日の高尾での地上げ、おぼえてる?」

「ああ? そんなんいつものことでおぼえてねえなあ!」

「……そう。理由も分からずにぶっ飛ばされるのも大変ね?」

 オリオトライ先生の言葉に魔神族が顔を真っ赤にしているのを見ていると、何故かオリオトライ先生が俺の手を引っ張って魔神族の前につきだした。

「じゃ、北斗。あんた、この魔神族をぶっ飛ばしなさい」

「はいぃ!?」

 いきなり何を言い出すの、この人!?

「む、無理ですよ! 今の説明だと魔神族って、人間サイズの軽量級武神ってことでしょ!」

「大丈夫だって、魔神族といってもただのチンピラだから。あんたなら出来る」

「だから無理ですって! キャスター、お前からも何か言って……」

「マスター! ファイト! オー!」

「お、おー……」

 キャスターの方を見ると、チアリーダーみたいに応援してくる彼女の姿があった。ああっ! 鈴まで!?

「へっ! 可愛い彼女の前でいい格好をさせてやるぜ、色男!」

「う、うわっ!」

 魔神族がいきなり殴りかかってきたが、それをなんとか避ける。くっ! 軌道が読みやすくて避けるのは難しくないけど、当たったら一発でアウトだぞ?

「いい? 生物には頭蓋があり、脳があるの。頭部を揺らせば脳震盪が起きる」

 オリオトライ先生の声が聞こえてくる。

「そして魔神族の頭蓋を揺らす効果的な方法は……北斗! そいつの角を叩く!」

「じゃっ! Jud.!」

 オリオトライ先生の声に反射的に返事をして槍で魔神族の角を叩く。その途端、

「あ? アァ?」

 魔神族が動きを止めて体をふらつかせる。効いている?

「次に素早く角の対角線上にある顎を……叩く!」

「Jud.!」

 次に槍の石突きで魔神族の顎を叩くと、魔神族は白目をむいて仰向けに倒れた。え? 倒せた? こんなに簡単に?

「さっすがマスター! 魔神族を二発で沈めるなんて、もうイケメン!」

「うわっ!?」

 キャスターがいきなり背後から抱きついてきたかと思ったら、梅組の方を指差す。

「ほら、そこのあなた達! ボーっとしてないで魔神族を倒したイケメンのマスターを褒め称えなさい! さあ!」

 キャスターに指差された梅組のクラスメイト達はスクラムを組むと小声で話始める。

「確かに北斗の実力は認めるが、キャスターはウザすぎであるな……」

「書記補佐って、強くて優しいから単品だと人気はあるのですけど、いつも第七特務と一緒にいるから全体的な人気は低いんですよね」

「ナイちゃん思うに、それってホーくんに女性を近づけないキャーちゃんの作戦だと思うな?」

「でもその作戦って北斗が優しくなかったらウザがられて嫌われる諸刃の剣だよね?」

「ハイ! ハイそこ! マスターを褒め称えながら私を否定しない!」

 キャスターが抗議するが全員が無視した。

 ……それにしてもキャスターって完全に梅組に溶け込んでいるな? 聖杯戦争では彼女のノリに付き合える人なんて数えるほどしかいなかったのに……。

「あれ? おいおいおいおい、皆、何やってんの?」

 そんなことを考えてると聞き覚えがある声が聞こえてきた。そちらを見るとそこには、紙袋を抱えた一人の男子生徒がこちらに歩いてきていた。

「トーリ」

 男子生徒の名は葵トーリ。

『不可能男』の字名を持つ、この武蔵アリアダスト教導院の総長兼生徒会長だ。 
 

 
後書き
キャスターって、梅組の外道達と似たような空気を吸っていると思いませんか?
そのこともこの作品を書こうと思った理由の一つです。 
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