境界線上の転生者達
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第一話
「マスター。起きてください、マスター」
「……ん?」
朝、目をさますとピンク色の髪と頭に生えた狐耳が印象的な女の子と目があった。
「ああ、おはよう。……キャスター」
「はい。おはようございます、マスター」
朝の挨拶をすると狐耳の女の子、葛葉キャスターも笑顔を浮かべて挨拶を返してくれる。彼女は前世の俺のサーヴァントで、今世の俺の幼馴染みである。
「キャスター。この世界に転生した日の夢を見たよ」
「そうですか。……思えば早いものですねー。この世界に転生してから十年以上経ちますからねー」
キャスターの言う通り、俺達がこの世界に転生してからもう十七年が経つ。
この世界はある理由で歴史をやり直している遥か遠い未来の地球で、今俺達がいるのは巨大な八隻の飛行船の上にある「武蔵」という国だ。俺達はこの武蔵の一般家庭の家で生まれて、学生として生活している。
「マスター、今日は起きるのが遅かったですね? もうマスターのご両親も仕事に行ってしまいましたよ?」
「うん。新しい小説を書いていたら寝るのが遅くなってね……」
「はあ……。『お仕事』に熱心なのはいいですけど、ちゃんと睡眠はとってくださいよ? ほら、早く朝ごはんを食べないと教導院に遅刻しちゃいますよ?」
「それは困るな。『生徒会』の人間と『総長連合』の人間がそろって遅刻したら周りにしめしがつかないからね」
俺はベッドから起き上がるとハンガーにかけてあった制服を着る。制服の袖には「生徒会・書記補佐」と書かれた腕章があり、キャスターの制服の袖には「総長連合・第七特務」と書かれた腕章があった。
この世界の国の軍事や政治は、その国の学生が司っている。そして学生達の軍事方面の上層部を「総長連合」といい、政治方面の上層部を「生徒会」という。つまり俺達はこの武蔵の幹部ということになる。
「それでしたら早く朝ごはんを食べてください。ちなみに私もまだ朝ごはんを食べていないんですよ。マスターが起きるのをまっていたから」
「Jud.(ジャッジメント)すぐに行くよ」
俺は武蔵共通の了解の言葉を言うと、朝食を食べるためキャスターと一緒に居間へと向かった。
◇
武蔵を構築する八隻の飛行船は左右に三隻、中央に二隻という構成で空を飛んでおり、俺とキャスターが通っている教導院(この世界でいう学校)「武蔵アリアダスト教導院」は中央にある二隻の後ろの飛行船「奥多摩」の上にある。
そして俺達は今、クラスメイトである三年梅組の生徒達と一緒に武蔵アリアダスト教導の正面に集まっていた。
「はい、三年梅組集合ー! これより体育の授業を始めまーす!」
ジャージを着て背中に長剣を背負った三年梅組担任、オリオトライ・真喜子先生が元気のよい声で宣言する。
「ルールは簡単よ。いい? 先生これから品川の先にあるヤクザ事務所に殴り込みに行くから、全員ついてくるように。もし遅れたら早朝の教室掃除だからね」
………………………………え?
一瞬、三年梅組の全員が言葉を失った。今、何て言った? ヤクザの事務所に殴り込みに行くだって?
「教師オリオトライ」
沈黙を破って質問したのはクラスメイトであり生徒会会計のシロジロ・ベルトーニだ。
「体育とチンピラとどのような関係が? ……金、ですか?」
「ほらシロくん。先生最近地上げで最下層行きになって、ビール飲んで暴れて壁割って、教員課にマジ叱られたから」
シロジロの疑問に答えたのは会計補佐のハイディ・オーゲザヴァラー。彼女はシロジロの公私とものパートナーで、キャスターが言うには「自分にかなり近い女」らしい。
「中盤以降は全部自業自得のようだが報復ですか?」
「報復じゃないわよー。ただ腹立つから仕返しするだけ」
『それを報復って言うんだよ!』
シロジロに笑って答えるオリオトライ先生に梅組のほとんどの生徒が異口同音のツッコミをいれる。だがオリオトライ先生はそれを軽く流す。
「まぁ、そんなのどうでもいいのよ。いいからちょっと死んだ気でついてきなさい。……事務所までに攻撃を当てることができたら出席点を五点プラス。意味分かる? 朝の一限を五回サボれるのよ」
『………!』
今のオリオトライ先生の言葉で梅組全員の戦意が一気に上がったのが分かった。
「先生。攻撃を『通す』ではなく『当てる』でいいので御座るな?」
総長連合・第一特務の点蔵・クロスユナイトが質問する。うん、いい質問だ。攻撃をヒットさせてダメージを与える『通す』と、ただ攻撃をヒットさせる『当てる』では難易度が段違いだからな。
「戦闘系は細かいわね。それでいいわよ。手段も構わないわ」
「で、ではどこか触ったり揉んだりしたら減点されることあり申すか?」
オリオトライ先生の「当てる」でOK宣言が出ると、点蔵の奴いきなりセクハラ質問をしだした。……点蔵ってば、腕は良いのに何でそうすぐにエロに走るかな?
「もしくはボーナスポイントが出るような……」
「そこまでにしなよ、点蔵」
俺が点蔵を止めるとオリオトライ先生は額に青筋を浮かべた笑顔で点蔵を睨む。
「あはは……。運が良かったわね、点蔵? 北斗が止めなかったら授業を始める前にぶっ殺してたわよ?」
「ひいっ!?」
オリオトライ先生の殺気を直に受けて点蔵が身をすくませる。全くだから言ったのに……。
そして俺を初めとした梅組の皆が点蔵を見て呆れた表情を浮かべていると……、
「んじゃ」
と、オリオトライ先生が何の予告もなしに駆け出していった。
「……なっ!? しまった! 急いで追うよ!」
こうして俺達は体育の授業、マジ妨害あり障害物競争の出遅れのスタートをきった。
後書き
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