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イベリス

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第八十話 夏祭りが近付きその六

「けれどね」
「それでもね」
 これがというのだ。
「本当にね」
「泥棒じゃないわね」
「その前に派手にやろうとしているけれど」
 呉服屋に対してだ、ここで弁天小僧の出生の秘密もわかる。
「まあ泥棒には見えないわね」
「そうよね」
「けれどそこをね」
 何と言ってもというのだ。
「派手に格好良く見せる作品よ」
「白波五人男は」
「そうよ、それでその五人男でね」
「人間二十五でなのね」
「はじまりよ、あんたはまだ夜明け前かしら」
「それ位なの」
「結構大人になってきてもね」
 それでもというのだ。
「まだよ」
「はじまってもいないのね」
「だから今はね」
「経験を積むことね」
「人生のね、それで二十五になっても」
 白波五人男の論理でははじまってもというのだ。
「長いわよ」
「人生は」
「そうよ、八十年だから」
 今はというのだ。
「そこから簡単に計算してもね」
「五十五年ね」
「昔は人間五十年と言ったけれど」
 敦盛の言葉だ、織田信長が好みこれを舞っていたことでも知られている。彼の人生観の一つを表しているとも言われている。
「その五十年よりもね」
「五年多いわね」
「それだけ長いから」
 二十五歳になってもというのだ。
「本当にね」
「長いのね」
「その長い人生の中で」
 母は咲にさらに言った。
「色々な経験をね」
「積めるのね」
「二十五年以降もね」
 暁を迎えるそれまでだけでなくというのだ。
「そうなのよ」
「そうなのね」
「それで成長していくのよ」
 人間はというのだ。
「そこで遠慮と水臭いの違いもね」
「わかっていくのね」
「それで図々しいとは何かも」
「私それも言ったわね」
「咲はそれはわかったわね」
 図々しさについてはというのだ。
「それは何よりよ」
「そうなのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「図々しいのはお母さんも嫌いで」
 それでというのだ。
「水臭い方がね」
「まだましね」
「そうよ、咲が話した子なんてね」
「嫌い?」
「絶対に嫌われてたでしょ」
「何でか皆表面上は付き合っていたけれど」
 それでもとだ、咲は母の言葉に答えた。
「それでもね」
「やっぱりね、嫌われない方がね」
「不思議なのね」
「そうした子はね」
「陰口言われてたわ」
 そうだったというのだ。 
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