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イベリス

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第八十話 夏祭りが近付きその三

「あるから」
「またそこで言うの?」
「いや、ティーバックがライン出ないのは事実だしね」
「お尻丸出しで」
「それで面白いから」
「それで言うのね」
「そうよ、持ってなくてもね」
 それでもというのだ。
「言うわよ」
「お姉ちゃん変にからかうところあるから」
「昔からそうでしょ」
「ええ、けれどティーバックはね」
 咲も乗って応えた。
「持ってないし買うつもりもないから」
「それでよね」
「これからもね」
「普通のショーツね」
「それでいくわ」
「私と一緒ね」
「そうよね、じゃあ半ズボンも穿いて」
 咲はあらためて言った。
「それでね」
「浴衣着るわね」
「そうするわ」
 愛に笑顔で答えた、そうしてだった。
 二人で約束した、その後で。
 咲はパートから帰った母に夏祭りの話をしてだった、こうも言った。
「それで浴衣着たいけれど」
「ああ、着付けね」
 母は自分から言ってきた。
「それをして欲しいのね」
「駄目かしら」
「毎年してるじゃない」 
 母は娘に笑って返した。
「だったらね」
「いいのね」
「それ位何でもないわ」
 これが母の返事だった。
「もうね」
「そうなのね」
「本当にそれ位よ」
 またこう言うのだった。
「遠慮は無用よ」
「じゃあお願いね、ただね」
 ここで咲はこうも言った。
「やっぱり浴衣も一人で着られる様になった方がいいわよね」
「とは言っても帯がね」
「あれがなのね」
「そりゃ旅館の浴衣ならね」
 こちらならとだ、母は言った。
「別にね」
「一人でも着られるわね」
「あれは羽織ってね」
「帯が細くて短くてね」
「結びやすいからね」
 それでとだ、母も答えた。
「何でもないわよ」
「一人で着られるわね」
「ええ、けれど夏の浴衣はね」
 あらためてこちらの浴衣の話をした。
「帯が大きいから」
「帯が問題ね」
「けれど帯がないとよ」
「着物は止められないから」
「そう、絶対に必要だからね」
 それでというのだ。
「これをどう結ぶかで」
「難しいのね」
「そうよ」 
 実際にとだ、母は答えた。
「これがね」
「そうなのね」
「けれど結べたら」
「やっぱりいいわよね」
「そうよ、ただ夏の浴衣も振袖も」
 そのどちらもというのだ。
「女の人の着物は一人だとね」
「着るのが難しいのね」
「そうしたものなのは仕方ないのよ」
 このことはというのだ。
「だから着付けしてあげるから」
「これからもなの」
「こうした時は言いなさい、やってあげるから」
「悪いわね」
「悪くないわよ」
 母は申し訳なさそうな様子を見せた咲に笑って話した。 
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