英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第146話
2月26日――――――
翌日、ハーケン平原の連合本陣を訪れたアリサ達はリウイに事情を説明してユミル訪問の許可をもらう為にメンフィル帝国軍の本陣へと向かったオリヴァルト皇子、アルゼイド子爵、ミュラー、アガット達遊撃士達と一端別れた後、ヴァイスラント新生軍の本陣へと向かってナイトハルト中佐とフィオナに面会したい旨を伝えると旗艦であるパンダグリュエルのブリーフィングルームで面会する事になり、パンダグリュエルのブリーフィングルームへと案内されて待機しているとナイトハルト中佐とフィオナがブリーフィングルームに部屋に入ってきた。
~ヴァイスラント新生軍旗艦”パンダグリュエル”・ブリーフィングルーム~
「お前達は………」
「エリオット!それにサラさん達もよくご無事で……」
「姉さんこそ、無事でいてくれてよかったよ……」
アリサ達を目にしたナイトハルト中佐が驚いている中フィオナは明るい表情でアリサ達を見つめて声を上げ、エリオットは安堵の表情で呟いた。するとその時ナイトハルト中佐は決意の表情を浮かべた後アリサ達に近づいてその場で土下座をした。
「ナ、ナイトハルト教官!?一体何を……!」
「―――――アルバレア、アルゼイド。”第四”によるクロイツェン州全土の”焦土作戦”………誠に申し訳なかった……!幾ら政府の命令に従ったとはいえ、私達”第四”はお前達の故郷を焦土と化した”大罪人”だ。俺の身はどうなっても構わん。その代わりに、俺と共に投降した”第四”の戦友達へは少しでも構わないから寛大な処遇にしてやってくれ……―――――頼む……ッ!」
「あ…………」
「ナイトハルト教官………」
「……………………」
「ラウラ……ユーシス……」
ナイトハルト中佐の突然の行動に仲間達がそれぞれ血相を変えている中トワが驚きの表情で声をかけるとナイトハルト中佐はクロイツェン州全土の”焦土作戦”の件に関する謝罪を行い、ナイトハルト中佐の謝罪を聞いたアリサは呆けた声を出した後辛そうな表情を浮かべ、ラウラは複雑そうな表情でナイトハルト中佐を見つめ、ユーシスは目を伏せて黙り込み、ガイウスは心配そうな表情でラウラとユーシスへと視線を向けた。
「私の方からも謝罪させて下さい……軍務の為とはいえ、父がクロイツェン州の人々を内戦の時以上の苦境に追いやってしまった事……本当に申し訳ございませんでした……父の犯した大罪の償いになるのならば、私の身もどうなっても構いませんのでせめてエリオットだけは父の大罪の償いに巻き込まないようにお願いします……」
「自分の身はどうなっても構わないって……姉さんまでそんなことを言わないでよ……!?」
「あたし達も第四機甲師団によるクロイツェン州全土の”焦土作戦”はクレイグ将軍達にとって決して本意ではなかった事は知っていますし、親の罪を子供達にまで償わせるような異世界の連中みたいな古臭い事は一切考えていませんから、フィオナさんが責任を感じる必要はありませんよ。」
ナイトハルト中佐に続くようにフィオナは頭を深く下げて謝罪し、フィオナの行動や言動に驚いたエリオットは心配そうな表情で声を上げ、サラは複雑そうな表情でフィオナに指摘した。
「お二人の言う通りです。確かに政府の命令だったとはいえ第四機甲師団による”クロイツェン州全土の焦土作戦”は”大罪”ではありますが、戦後訪れる事になるエレボニアの”冬の時代”を乗り越える為にも今回の戦争に加担したエレボニアの人々の協力も必要なのですから、どうか安易に自分達を犠牲にする未来を選ばないでください。」
「ま、テロリストのリーダーであった俺や皇帝陛下銃撃犯のアッシュもそれぞれが犯した”罪”に向き合う為にも生きて償い続けているんだから、ナイトハルト教官も自らの”死”で自分の”罪”から逃げるなんて筋が通らないぜ?」
「ハッ、政府の犬になった事に後悔しているくらいだったら、俺達もそうだがアンタ達の”これから”の為にも生きて自分達の落とし前をつけろや。」
「皇太子殿下………誠に申し訳ございませんでした……ッ!」
セドリックがナイトハルト中佐に声をかけるとクロウは苦笑しながら、アッシュは鼻を鳴らしてそれぞれナイトハルト中佐に指摘し、セドリック達の指摘に対してナイトハルト中佐は再び謝罪をした。その後気を取り直したナイトハルト中佐はフィオナやアリサ達と共に席につくとアリサ達に自分達を訊ねた用を訊ねた。
「それで………私に訊ねたい事があるとの事だが、何を聞きたいのだ?」
「聞きたい事は二つです。一つ目は学院長が率いたリベール侵攻の為の大軍勢がハーケン平原での”大戦”にて敗戦した後の帝都の状況です。」
「その……もしかして……というよりもやはり敗戦を知った市民達が帝都で暴動を起こしたりしているのでしょうか?」
ナイトハルト中佐の問いかけに対して答えたアンゼリカは質問をし、マキアスは複雑そうな表情で自身の推測を訊ねた。
「いや、ハーケン平原でのヴァンダイク元帥閣下の戦死を含めたリベール侵攻軍の敗戦の報が政府に届いた後は政府は”第四”に対してハーケン平原での敗戦を市民達に決して漏らさないように箝口令が出され、帝都にはトリスタを占領中の連合軍に動きがあった為帝都防衛戦が発生する恐れがあるという名目で”外出禁止令”が出された事で、暴動等は発生していない。」
「それじゃ帝都の人達は”事実上の決戦”であるハーケン平原での”大戦”でエレボニア帝国軍が敗戦した事はまだ知らないんだ。」
「ですがいつまでも隠し通せる事等不可能ですから、帝都の市民達が自国の敗戦を悟るのも時間の問題ではないかと。」
「そもそも四州の中心部である帝都が連合に攻め込まれた時点でエレボニアは相当追い詰められている証拠だから、連合が帝都への攻撃を本格的に行えば自国の敗戦を察する市民達も出ると思うよ~。」
ナイトハルト中佐の話を聞いたフィーは静かな表情で呟き、シャロンは真剣な表情で推測し、ミリアムは疲れた表情で推測を口にした。
「で?”焦土作戦”を行ってまで連合との戦争強行に加担していたアンタ達が敗北寸前の状況に陥ってから投降したのよ?アンタ達のことだから、どれだけ劣勢の状況になろうとも”鉄血宰相”達と共に最後まで抵抗すると想定していたのだけど。」
「セ、セリーヌ。もう少し抑えた言い方で質問してよ……」
「私への気遣いは不要だ。――――――それに彼女の言う通り、将軍閣下の”命令”がなければ私達も将軍閣下達と共に連合による帝都占領の阻止の為に最後まで抵抗するつもりだったからな。」
「ナイトハルトさん………」
「と、父さんの”命令”って………一体父さんはナイトハルト教官達に何の為に”連合への投降の命令”を出したんですか……!?」
セリーヌのナイトハルト中佐への質問の仕方にエマは冷や汗をかいて指摘したがナイトハルト中佐は自分への気遣いは不要である事を口にした後驚愕の事実を答え、ナイトハルト中佐の答えにフィオナが辛そうな表情を浮かべている中エリオットは信じられない表情を浮かべた後ナイトハルト中佐に訊ねた。
「それは――――――」
そしてナイトハルト中佐は当時の出来事を思い返しながら答え始めた。
二日前―――――
~帝都ヘイムダル・帝都防衛隊基地~
「将軍閣下、その話は本当なのですか……!?」
二日前クレイグ将軍に呼び出されクレイグ将軍からある話を聞かされたナイトハルト中佐は信じられない表情で確認した。
「うむ……乾坤一擲となる元帥閣下率いる大軍勢によるリベール侵攻はリベールとメンフィル・クロスベル連合、そしてヴァイスラント新生軍の迎撃によって”敗戦”した事で失敗した。元帥閣下は戦死した上更に半数以上の兵達も戦死し、残りは捕虜になったとの事だ。」
「あの元帥閣下が戦死………お待ちください………!リベール侵攻には我が軍の大多数が動員されました!リベール侵攻が失敗した事で半数以上の兵達が戦死し、残りは捕虜になったという事は現状のエレボニアの戦力は帝都に残っている我ら”第四”と鉄道憲兵隊、そしてアルトリザスの後方支援部隊のみではありませんか……!たったこれだけの戦力で連合―――――いえ、リベールと連合、ヴァイスラント相手に形勢を逆転させる等……!」
重々しい口調で答えたクレイグ将軍の説明を聞いて呆然としたナイトハルト中佐はすぐにある事実に気づくと辛そうな表情を浮かべながら答え
「”絶対に不可能だろうな。”――――――例え”騎神”を有している宰相閣下達が戦列に加わった所で焼け石に水なのは火を見るよりも明らかだ。”裏の協力者”である猟兵王の騎神は両腕が破壊された事によって、事実上戦闘可能なのは宰相閣下の騎神のみで、対する連合は騎神を3体保有している上独立国時代のクロスベルの強大な戦力であった”神機”を鹵獲し、その鹵獲した神機も戦力として活用しているとの事だからな。しかもメンフィルには生身で機甲兵や戦車を破壊する使い手達も存在しているのだから、宰相閣下一人ではどう考えても退ける等不可能だ。」
「…………帝国軍人として認めたくはありませんが今回の戦争、もはや”エレボニアの敗戦”である事を認めざるをえませんね………それで宰相閣下達――――――帝国政府はこの状況でどうするつもりなのですか?」
クレイグ将軍の推測を聞いて複雑そうな表情を浮かべながら自国の敗戦が確定した事を口にしたナイトハルト中佐はクレイグ将軍にある事を訊ねた。
「『帝都を侵略者や賊軍から死守せよ』――――――それだけだ。」
「馬鹿な……ッ!?国土の大半を奪われ、戦力の大半も失った今の状況で戦争の続行はおろか、帝都の防衛すら不可能です!エレボニアを存続させる為にも連合やヴァイスラントもそうですが、リベールに停戦・和解の交渉をしなければならない状況だと理解していてなお、戦争を続行するつもりなのですか、帝国政府――――――いえ、オズボーン宰相は!?」
クレイグ将軍の答えを聞いたナイトハルト中佐は信じられない表情で声を上げた後厳しい表情を浮かべて疑問を口にした。
「……今の宰相閣下の考えはわからんが……それが政府の命令ならば従うまでだ。」
「将軍閣下………」
「―――――だが、勝ち目のない戦いに戦意なき者達や未来ある若者達まで巻き込むつもりはない。ナイトハルト、お前は戦況を知って帝都からの離脱を希望する者達、10代~20代の者達、負傷者、家族や恋人がいる者達、そしてフィオナを連れて帝都から脱出し、ハーケン平原で陣を築いているメンフィル・クロスベル連合に投降せよ。…………”焦土作戦”の件があるとはいえ、連合も戦争初期からハーケン平原での大戦まで協力し続けたヴァイスラントに一定の配慮を図ると考えられる為、投降したお主達を処刑する可能性はない上フィオナはヴァイスラントが保護してくれるだろう。」
「なっ……!?将軍閣下はどうされるおつもりですか……!?」
クレイグ将軍の信じ難い指示に一瞬絶句したナイトハルト中佐は真剣な表情で訊ねた。
「わしは帝都防衛戦を”死に場所”と決めた者達と共に帝都に残り、連合とヴァイスラントによる帝都侵略に対して迎撃し、最後の一兵になってもこの命が続く限り戦い続け、そして果てる事になるだろう。……それが自らの手で国土を焦土と化させてでも連合との戦争に勝利する事を決めた政府――――――いやオズボーン宰相閣下に従ったわしなりの責任の取り方だ。」
「将軍閣下……!でしたら私が残りますから、どうか将軍閣下がフィオナ嬢達と共に帝都を脱出してください!私の家族は既に全員死別した上私自身も将来を共に歩むと決めた女性等いませんから、私よりもご家族がいる将軍閣下が生きるべきです!エリオットもそうですが、フィオナ嬢も将軍閣下が生き延びる事を望んでいるはずです!」
クレイグ将軍の悲壮な決意を知ったナイトハルト中佐は辛そうな表情を浮かべた後必死の表情を浮かべてクレイグ将軍を説得しようとしたが
「二人は帝国軍人たるわしの子供だ。戦争になればわしが戦死する事もそうだが、”焦土作戦”の指揮を執ったわしは戦後軍法会議にかけられて処刑される事による覚悟はできているはずだ。………フィオナの花嫁姿や成人して立派な大人に成長したエリオットをこの目にすることが叶わなくなったのは心残りではあるが……宰相閣下のかつての直属の副官として宰相閣下の暴走を止める事ができず、国民達を苦しめた挙句国土を焦土と化させてまでエレボニアに戦争を強要した結果祖国を敗戦へと追いやってしまったわしにはそのような事を望む”資格”等ない。」
「閣下……」
クレイグ将軍の決意は固く、説得は不可能である事を悟ると悲痛そうな表情を浮かべた。
「それと連合に投降した後は連合にお前達が帝都で迎撃態勢を取っているわし達を討つ為の出撃の嘆願をし、もしその希望に応じてもらえば”わし達を討て。”」
「な――――――何故私達の手で将軍閣下達を討たなければならないのですか……!?」
「戦後のエレボニアの民達の感情も考えれば連合もそうだがヴァイスラントも、お前達を処刑する事はなくても”焦土作戦”の責任を取らせる為に”処罰”を与える可能性は高い。その”処罰”を少しでも軽くする為にも、かつての同胞であったわし達を自らの手で討つ事で連合やヴァイスラントへの貢献をする事で連合やヴァイスラントのお主達の印象を少しでも回復せよ。――――――これはわしの”最後の命令”でもある。よいな、ナイトハルト。」
「将軍閣下……ッ!」
クレイグ将軍の説明と命令にナイトハルト中佐は辛そうな表情を浮かべてクレイグ将軍を見つめた。
~現在~
「という事はやはり将軍閣下はナイトハルト教官達の為にそのような命令を………」
「………父さん………」
「概ねミュゼ君が想定していた通りの理由だったね。」
「うん………あの、ナイトハルト教官。現在帝都に残っている戦力はどのくらいかわかりますか?」
ナイトハルト中佐から事情を聞き終えたガイウスは複雑そうな表情を浮かべ、エリオットは辛そうな表情でクレイグ将軍を思い浮かべ、重々しい様子を纏って呟いたアンゼリカの言葉に頷いたトワはナイトハルト中佐にある質問をした。
「……”第四”全体で言えば2割に当たる約4000だ。加えて”第四”に配備されていた軍用飛行艇は全て将軍閣下の指示で負傷者達をハーケン平原まで運ぶ為に運用した為、今の帝都防衛隊は飛行艇1機すら保有していない状況だ。」
「連合とヴァイスラントの総兵力は数十万なのに、それに対してたったの4000の上、飛行艇すらも保有していないなんて……」
「ハッキリ言って連合やヴァイスラントどころか、”先鋒戦”を担当する事になったノルティア領邦軍の連中だけでも過剰戦力なんじゃないの?」
ナイトハルト中佐の答えを聞いたエマは信じられない表情を浮かべ、セリーヌは呆れた表情で推測を口にした。
「……私の方からも聞きたい事がある。リベール侵攻の為にエレボニア帝国軍の大半を投入したハーケン平原での”大戦”でエレボニア帝国軍が敗戦した事でもはやエレボニアの”敗戦”は避けられないが………連合は敗戦後のエレボニアに対してどのような処遇を下すつもりなのかお前達は知っているのか?」
「ええ。実は大戦の後リベールの要請によって――――――」
ナイトハルト中佐の問いかけに頷いたサラはトワ達と共に戦後のエレボニアの処遇について説明した。
「まさかエリオット達のクラスメイトがお父さんと同じ”将軍”に昇進した上、戦後のエレボニアにとっては皇帝陛下よりも上位の存在になる”総督”に就任するなんて………」
「……シュバルツァー達もそうだが、ヴァイスラントに合流したゼクス中将閣下達の判断が正しかった事が証明されてしまうとはな……お前達は幾らエレボニアを救う為とはいえシュバルツァー達が元帥閣下を討った事に対して思う所はないのか?」
戦後のエレボニアの処遇を聞き終えたフィオナは目を丸くしてリィンを思い浮かべ、複雑そうな表情で呟いたナイトハルト中佐はアリサ達にある事を訊ねた。
「ありません。リィン達だって学院長を討つ事は本意でない事は私達も知っていますし、学院長が討たれるのを阻止できなかったのは私達の力不足だったんですから。」
「それに俺達やエレボニアの為に今までメンフィル帝国軍側として活躍し続け、辛い思いを抱えながら学院長を討って実際にエレボニアを救う事ができたリィン達を恨む等”筋違い”で、むしろ感謝すべきだと俺達も理解している。俺達Ⅶ組の”絆”を見損なわないでもらおうか。」
「……そうか………」
それぞれ真剣な表情で答えたアリサとユーシスの答えを聞いたナイトハルト中佐は静かな表情を浮かべて呟いた。
「ねえねえ~、それよりもナイトハルト教官はクレア達――――――”鉄道憲兵隊”の事について何か知らない?」
「私もそうだが将軍閣下も詳しい事は知らないが、”鉄道憲兵隊”には帝都防衛とは別の任務の命令が下っているという話は聞いている。」
「”帝都防衛とは別の任務”って十中八九、”裏の最後の決戦の地”でオズボーン宰相達を守る為にリィン達を迎撃する任務だろうね。」
「ええ、今まで手に入れた情報や現在の戦況を考えれば恐らくそうでしょうね。」
ミリアムの疑問に答えたナイトハルト中佐の話を聞いてある事を察したフィーの推測にサラは真剣な表情で同意し
「幾ら氷の乙女が直々に指揮をする鉄道憲兵隊が迎撃した所で、相手が悪すぎだろ……リィン達”灰獅子隊”だけでも精鋭や化物揃いなのに、そこにクロスベル、教会、ギルド、更に異世界の”化物”や”英雄”の連中が加わるんだから、足止めすらできないんじゃねぇのか?」
「それは………」
「何にしても”最終決戦”の時は紅き翼は二手に分かれて行動すべきだろうな。」
「片方はクレイグ将軍達を止めるメンバーで、もう片方は”裏の最終決戦の地”で待ち受けていると思われるクレア少佐達やジョルジュ先輩を救うメンバーか。」
「ええ。……それにフィー様もそうですが、お嬢様やわたくしもそれぞれの身内としてせめてフランツ様達の”最後”は見届けたいですから、できればわたくし達は”裏の最終決戦の地”に突入すべきですし……」
「あ………そうか……状況も考えたらアルベリヒもそうだが猟兵王も………」
「「……………………」」
疲れた表情で呟いたクロウの推測を聞いたラウラは複雑そうな表情で答えを濁し、ユーシスの提案を聞いたガイウスは静かな表情で呟き、シャロンの言葉を聞いてある事に気づいたマキアスは気まずそうな表情を浮かべてそれぞれ辛そうな表情を浮かべて黙っているアリサとフィーへと視線を向けた。
「つーか帝都一帯やその周辺は連合によって”転位”が封じられたそうだから、地上のメンバーが”裏の最終決戦の地”に向かうメンバーに合流できる事は考えない方がいいだろうな。」
「そうですね……それに二手に分かれて行動するのですから、”裏の最終決戦の地”に乗り込むのはカレイジャスでいいとしても、地上のメンバーの作戦行動時に必要な飛行艇を一機確保しなければならない問題もありますね……」
ある事に気づいたアッシュの言葉に頷いたセドリックは考え込みながらある問題を口にした。
「――――――ナイトハルト教官。わたし達は”紅き翼”として”身内の保護”の為に……………そしてこれ以上戦争の犠牲者を出さない為にも命を捨てようとするクレイグ将軍閣下達を止めたいと考えています。クレイグ将軍閣下達を救う為にも、ナイトハルト教官達”第四”もわたし達に力を貸して下さらないでしょうか?」
「幸いにも帝都奪還戦の”先鋒”はノルティア領邦軍と教官達連合に投降した”第四”が担当する事になったお陰で、私達が考えるエリオット君達の父君達を救う為の軍事作戦を行う事ができます。ノルティア領邦軍は父上からログナー侯爵家の当主の座を簒奪した私の命令で好きに動かせますから、後は教官達”第四”の協力を取り付けるだけなんです。」
「お前達……………わかった。将軍閣下達の為に、そして将軍閣下達と共に生きてクロイツェン州の人々に償う為にも、私達”第四”はお前達が考えた作戦に従おう。」
「皆さん、本当にありがとうございます……どうか、父の事、よろしくお願いします……!」
トワとアンゼリカの話を聞いたナイトハルト中佐は驚いた後静かな表情で答え、フィオナは頭を深く下げて命を捨てようとする父の事をエリオット達に託した。
その後ユミル訪問の許可を取ってきたオリヴァルト皇子達と合流したアリサ達はカレイジャスに乗り込み、ユミルへと向かい始めた。
~カレイジャス・ブリッジ~
「……そうか。ナイトハルト君もそうだが、クレイグ将軍もクロイツェン州の”焦土作戦”の件についてそこまで責任を感じていたのか。」
「ったく、そこまで責任に感じるくらいなら”焦土作戦”なんてふざけた命令をされた時点でヴァイスラントに合流した正規軍の連中のように”鉄血宰相”達に逆らう事ができなかったのかよ……」
「まあ、軍は”自分達への命令が絶対”という考えなんだから逆らえなかったのも無理はないし、こんなことを言うのもなんだけど”焦土作戦”の件がなければゼクス将軍達を始めとしたヴァイスラントに合流する正規軍は現れなかったのじゃないかしら?」
「そうだな……叔父上達がオズボーン宰相達に反逆する事を決めたのは”焦土作戦”を行ったオズボーン宰相達旧帝国政府の卑劣さに我慢の限界が来た所に皇女殿下の説得があったとの事だから、”第四”が政府の指示によって”焦土作戦”を行わなければ幾ら皇女殿下のお言葉があろうとも叔父上達は政府に反逆し、ヴァイスラントに合流する事は無かっただろうな。」
アリサ達から事情を聞き終えたオリヴァルト皇子は静かな表情で呟き、呆れた表情で呟いたアガットに疲れた表情で指摘したシェラザードは複雑そうな表情である推測をし、シェラザードの推測にミュラーは重々しい様子を纏って肯定した。
「そういう意味で考えればリィン君やアルフィン達がゼクス先生達と敵対関係にならなくなったのは不幸中の幸いだったね。」
「リィン君で思い出しましたけど、リウイ陛下から教えてもらったあの情報にはリィン君の”姉弟子”としてショックでしたよ……」
「へ……リィン関連の情報でアネラスさんがショックを受けたって……」
「”姉弟子”としてという言い方からして恐らく”八葉一刀流”関連と思われますが……」
静かな表情で呟いたオリヴァルト皇子に続くように苦笑しながら答えたアネラスのある言葉が気になったアリサは呆け、シャロンは考え込みながら推測を口にした。
「リウイ陛下の話によると昨夜ミスルギ嬢の立ち合いの元、リィンはユン殿の手配によってカシウス卿から”八葉”の”奥義伝承の試し”を受け、その結果見事”至り”、”剣聖”の名乗りを許されたとの事だ。」
「なっ!?という事はリィンは”剣聖”に至ったのですか……!」
「おいおい、マジかよ……ったく、”将軍”かつ”総督”で、更に”剣聖”とか一体10代で肩書をどれだけ増やすつもりなんだよ、あのハーレムシスコン剣士は……」
「少し残念だったな……リィンの仲間としてリィンが”剣聖”になった瞬間に立ち会えなかったのだからな。」
「ん。どうせエリゼ達もそうだけど、黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)の人達も立ち会ったと思うから、出し抜かれた気分。」
「なるほどね……アネラスがショックだったのは弟弟子に八葉一刀流の剣士として完全に追い抜かれてしまった事だったのね。」
「あれ?そもそもアネラスにとっては”仮”とはいえ”妹弟子”の”白銀の剣聖”もアネラスよりも年下なのに既に”剣聖”だったんだから、別にリィンが”剣聖”になった所で”今更”なんだから、ショックを受ける必要もないんじゃないの~?」
「ミ、ミリアムちゃん、もう少し言葉を選んだ方がいいですよ。」
アルゼイド子爵の話を聞いたラウラは驚きの表情で声を上げ、クロウは疲れた表情で呟き、残念そうな表情で呟いたガイウスの言葉に頷いたフィーはジト目になり、溜息を吐いたサラは苦笑し、首を傾げてある疑問を口にしたミリアムの言葉を聞いたエマは冷や汗をかいて指摘し
「あ、あはは………ミリアムちゃんの言っている事は事実だから私の事はあまり気にしなくていいよ。それに姉弟子としての面目躍如の為にすぐにリィン君やシズナちゃんに追いつくつもりだもの。」
アネラスは苦笑しながら答えた。
「それよりも”決戦”時地上のメンツに必要な飛行艇はどうするんだ?」
「それに関してだが俺達に協力してくれそうな飛行艇を保有している人物に心当たりがあってな。”決戦”時の地上のメンバーの移送の為にその人物に頼る事を考えている。」
「え……その人は一体……」
「まさかジンさん……ジョゼットさんに頼むつもりですか?」
アッシュの疑問に答えたジンの答えが気になったエリオットが呆けている中心当たりがあるエレインは驚きの表情で訊ねた。
「ふえっ!?ジョ、ジョゼットさんって……!」
「あの元空賊娘か。確かに連中は飛行艇を保有している上、空中戦も結社の連中とやり合える程飛行艇の扱いに長けているから決戦時の地上のメンバーの移送に適任だが……」
「そのジョゼットさんという人物は一体何者なんだ?」
エレインの言葉を聞いたティータが驚いている中アガットは考え込み、ある疑問を抱いたガイウスが質問をした。
「ジョゼット君は元エレボニア貴族であった”カプア男爵家”の三兄妹の末妹でね。”カプア男爵家”は詐欺師に騙された事で没落し、領土もそうだが爵位を失った後は”空賊”として活動していてリベールに拘束された後クーデター騒ぎのどさくさに紛れて脱走したのだが………その後縁あって私やエステル君達と共に”リベールの異変”を解決し、その功績によってリベールから恩赦が出て晴れて自由の身になった彼らは空賊としてリベールに迷惑をかけた件の償いもそうだが、自分達を釈放した上飛行船を使った運送業の開業に必要な資金まで貸してくれたアリシア女王陛下達―――――アウスレーゼ王家への恩返しの為にリベールで飛行艇を使った運送業の会社を経営しているのさ。」
「元エレボニアの貴族が………」
「い、一体何があって殿下達と”リベールの異変”を解決する事になったんだ……?」
「それに幾らリベールを襲った国難の解決に貢献したとはいえ釈放した上、開業資金の融資までするとは……今回の戦争の件といい、アリシア女王陛下の慈悲深さには感嘆の言葉しかないな……」
オリヴァルト皇子の説明を聞いたラウラは驚き、マキアスは困惑し、ユーシスは静かな表情で呟いた。
「ふふっ、それにジョゼットさん達、とても義理堅い人達なんですよ。さっきリウイ陛下達から教えてもらった話によりますと、先日の”大戦”時ジョゼットさん達は王国軍によるボース地方の人達の避難誘導の協力を自ら申し出たそうなんですよ。」
「王国軍の飛行艇は大戦への投入の為にほとんど出払っていた事で、実際彼らの協力がなければボースの人達の避難誘導にはもっと時間がかかっていたでしょうから、王国軍もそうだけどボースの人達にとっても彼らの協力の申し出は本当にありがたかったと思うわよ。」
「帝国貴族の中でそのような義理堅い性格をしている方達は稀だったでしょうね……エーデルガルトさん達”フレスベルグ伯爵家”もそうですが、”カプア男爵家”のような得難い人達まで見捨てていた事を知ると改めてエレボニアは変わる必要がある事を思い知らされますね……」
「殿下……」
「”フレスベルグ伯爵家”の件はともかく、”カプア男爵家”の件は皇太子殿下が御気に病む必要はないかと。連中の没落は自業自得な部分が大きいのですから。」
ティータとシェラザードの話を聞いて辛そうな表情を浮かべて呟いたセドリックの様子をユーシスは心配そうな表情で見つめ、ミュラーは静かな表情で指摘した。
「話を戻すけど……そのジョゼットって人物はあたし達に協力してくれそうな人物なんですか?”カプア一家”の件はあたしも遊撃士時代に耳にしましたけど、今までの経緯から察するに彼らは自分達を見捨てたエレボニアの事をあまりよく思っていない風に感じるのですが。」
「ハハ、そのくらいの事で協力を断るような心の狭い性格をしていないから心配無用だ。現に俺とエレインが皇子達と共に活動しているお前さん達の加勢する為にオルディスまで送ってくれたからな。」
「え……じゃあジンさん達はジョゼットちゃん達の飛行艇でオルディスまで送ってもらったんですか。」
「ええ。それに彼女自身、帝国貴族時代の知り合いの故郷がオルディスだったから戦争に巻き込まれていないか心配していたくらいだから、皇家や政府に恨みはあってもエレボニアという国自体に対してはそんなに思う所はないと思うわよ。」
「いや、それはそれで問題なんですが………ちなみに帝国貴族時代のオルディス出身の知り合いというのはやはり帝国貴族の関係者ですか?」
サラの疑問に苦笑しながら答えたジンの話を聞いたアネラスは目を丸くし、アネラスの言葉に頷いた後話を続けたエレインの推測にジト目で指摘したマキアスはある事を訊ねた。
「ああ。確か”フロラルド伯爵家”という貴族の令嬢だと聞いている。」
「へっ!?”フロラルド伯爵家の令嬢”という事はフェリスの事ですよね……!?」
「意外な接点ですわね……」
「ま、何にせよ説得に有効な人物が紅き翼の中にいたのは良かったじゃねぇか。」
「ん。……そういえば説得に有効な人物の件で気になったけど、空の女神を説得する為に何で”空の女神”の”子孫”の”ブレイサーオブブレイサー”達についてきてもらわなかったの?」
ジンの答えを聞いたアリサとシャロンはそれぞれ驚き、クロウの言葉に頷いたフィーはある疑問を口にしてオリヴァルト皇子に視線を向けた。
「エイドス様の血縁者である彼女達に仲介してもらったら、”ハーメル”の件で印象が悪いエレボニアの印象を更に悪化させる恐れが考えられたからね。まずは彼女達の力を借りず私達だけでエイドス様と交渉をすべきと考えたのさ。」
「……確かに元々”ハーメル”の件でエレボニアに対して悪印象を抱いているのに、”ハーメル”の件の”償い”にも納得していない状況で自分の血縁者に仲介させたら、空の女神のエレボニアへの印象が更に悪化する事も考えられるわね。」
オリヴァルト皇子の答えを聞いたセリーヌは静かな表情で同意し
「空の女神の件で気になっている事があるのですけど………そんなに気難しい方なのでしょうか、”空の女神”は。今回の私達の空の女神への嘆願は戦争関連ではなく、”未来のゼムリア大陸の恒久的な平和”の為なのですから女神としてその考えには賛成してくださると思うのですが……」
「”気難しい”っつーよりも、”子孫”のエステル以上の天然かつハチャメチャな女なんだよ、あの”自称ただの新妻”は。」
「そもそも本人曰く”女神業”は引退した上”空の女神”呼ばわりされる事自体も心底嫌がっていますものねぇ。」
「ホント、両親のアドルさんとフィーナさんは真面目な性格なのに、何であんな突然変異としか思えない性格の娘になったのかが未だに理解できないわ………」
「え、えとえと……でもエステルお姉ちゃんみたいに親しみやすい性格ですから、ちゃんと話をすればわかってくれると思いますよ。」
エレインの疑問に対してアガットは呆れた表情で、アネラスは苦笑しながら、シェラザードは疲れた表情でそれぞれ答え、アガット達の答えにその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティータは必死にエイドスに対するフォローをした。
「ハハ、なるほどな。あのエステル以上となると、一筋縄ではいかない事は確実だろうな。」
「ハ、ハア……?(増々どんな人物像なのかわからなくなってきたわ、空の女神は……)」
苦笑しながら答えたジンの推測を聞いたエレインは戸惑いの表情を浮かべた。
その後カレイジャスがユミルの上空に到着するとアリサ達はエマとセリーヌの転位術によってユミルに転位した後エイドス達が宿泊している旅館である鳳翼館へと向かった――――――
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